６月２日（木） 立川シネマシティ
「マクベス」（ジャスティン・ガーゼル）
シェイクスピア没後４００年の映画化だそうだが、凝った映像の割に２１世紀の今、映画化する意義が私にはよくわからなかった。マクベス＝マイケル・ファスベンダー、マクベス夫人＝マリオン・コティヤールというキャスティングにも期待したが、あまりどうということも感じられなかった。「蜘蛛巣城」の山田五十鈴はもっと恐かったよなあ。（あまりよくなかった）
「ヘイル，シーザー！」（ジョエル・コーエン イーサン・コーエン）
１９５０年代、ハリウッド大スタジオの何でも屋が主人公。超大作の主演スターが行方不明になる事件を中心に、スター女優の未婚の母事件とか、ワンマン監督と演技ができない肉体派スターとかの軋轢とか、マスコミのしつこいスッパ抜き狙いとか、脚本家集団の左翼化とか、トラブルのネタはつきない。これをオールスターで、聖書スペクタクル、西部劇、ミュージカルの撮影風景を散りばめ、この映像が結構本格的で懐かしい。虚業の腕利きなんでも屋に、実業のロッキード社からスカウトの手も延びるが、例え「虚」でも夢を売る大切さに回帰するあたり、コーエン兄弟の溢れる映画愛が素晴しい。（まあまあ）
「ヒメアノール」（吉田恵輔）
一人のかわい子ちゃんに二人のストーカーがつきまとい、それが複雑にからみあった果てに、連続殺人にエスカレート。そこには関係した者たちの、高校生時代のイジメのトラウマが潜んでいた。この複雑な作劇は見事で、グイグイ引っ張られる。でも、人間のダークな一面をブローアップするだけのこんな作品は、私は観たくない。どんなに人間の狂気を描こうとも、生に対するポジティブな視点を私は観たい。最後の回想処理はそのつもりなのだろうか？これ、大絶賛する人が続出しそうだけど、どんなに語りが巧みでも、こんなの喜んでちゃ心が荒むだけなんじゃないだろうか。（あまりよくなかった）
６月７日（火）
角川シネマ新宿
「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」（マイケル・ムーア）
お騒がせ男マイケル・ムーアが、世界各国を歴訪して、アメリカに無い社会制度・福祉・慣習を発見し、それを無料でアメリカに反映する権利を得る「侵略」である。アメリカに無いそれらは、当然ながら日本にもない。日本の悪しきアメリカ化を痛感させられる。ただ、それらはアメリカに「無い」ものではなく、全てがかつてあったアメリカ発信のものだった。我々は「拾い物」をしていこう。マイケル・ムーアのポジティブな姿勢が爽やかだった。やっぱり人類社会は、遅々としてではあるが確実に進化しているのだ。（よかった。ベストテン級）
私の生きてきた「高度経済成長」「終身雇用制」「年功序列」「会社家族主義」には、多くの問題はあったにせよ、マイケル・ムーアが指摘したアメリカに無いいくつかの良さが、確実に存在していた。
でも、バブルが崩壊し、小泉改革によるアメリカ型の導入ですべてが無くなった。アメリカの良さは導入されないまま、日本型社会の悪さが増進されている。そして、次に来たのは自公独裁政権の暴走。でも、これも一時の日本の寄り道、マイケル・ムーア同様に、人類社会が進化していくことを信じよう！歴史の歩みはかならず正しき方向に是正されるはずだ。
新宿シネマカリテ
「ひそひそ星」（園子温）
人類は進歩の果てに活力を失い滅亡の道を辿り、ＡＩが支配する世界。宅配便のアンドロイドが主人公だ。ワープ航法を得た時に、人類は意欲を失い、でも記念のささやかな品を宅配に乗せることに、望みを託す。宅配先の星々のロケは、荒涼とした東北の被災地で行われ、活力ある人の営みは巧みな影絵処理で魅惑的に描かれる。ひそひそと話すアンドロイドと宅配先の住民との対話、「雰囲気」はセンス・アブ・ワンダーに溢れている。いや、ここには「雰囲気」しかない。それが味わい深いのも判るが、やっぱり私は園子温のネガティブな視点には乗れない。（まあまあ）
６月８日（水） 立川シネマシティ
「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」（ジュリアン・ジャロルド）
第二次大戦ヨーロッパ戦線終結時の乱痴気騒ぎは、過去の戦争映画でエピソード的に点描されているが、それを史実に基づき、お忍びのマーガレット王女が行方不明になって、エリザベス王女が探す一夜を通じて、ジックリ楽しくエンタテインメントにしてしまったのは、さすがだ。マーガレットのヤンチャなお転婆ぶりと、エリザベスの端正で繊細な美貌の対比も、楽しい。（よかった）
エリザベス王女とマーガレット王女が、ヨーロッパ終戦記念日にお忍びで一夜を過ごしたのは史実だろうが、こんな「ローマの休日」みたいなエピソードまであったかは、眉唾ものだ。でも、イギリスの映画人は「見てきたような嘘を言う」エンタテインメント創りに達者である。「クィーン」だって「ダイアナ」だって、そんなお上のことが下々の者に分かりようがないのに、それなりのリアリティを描いて感じさせてしまうのが見事だ。日本映画では、なかなかできない技である。
昭和天皇が今上天皇に、一般からお后きを迎えること、乳母制度の廃止を許したことの陰には、大変なドラマがあったと推察する。もちろん、下々の我々には知るよしもなく、見てきたような嘘を言うしかないのだが、日本の社会は、そして映画人は、まだそれをエンタメ化する力は持てない。むしろ、ロシアのソクーロフあたりの方が「太陽」で、「見てきたような嘘」を見せてくれた。
明治天皇が堂々と描けたのは、二代後の昭和、とすれば昭和＝今上天皇のドラマを描けるのは、平成の次の次の御代ということになろう。俺は、当然ながら生きていないよなあ。残念の極みである。
６月９日（木） シネマヴェーラ渋谷
シネマヴェーラ渋谷開館１０周年記念特集��
シネマヴェーラ渋谷と愉快な仲間たち 小西康陽セレクション
「ブラック・コメディ ああ！馬鹿」（須川栄三）
上司の不倫隠しの犠牲になってまで尽くす部下という構図は、ビリー・ワイルダーの名作「アパートの鍵貸します」だ。さしずめ、小沢昭一＝ジャック・レモン、高橋紀子＝シャーリー・マクレーン、小林桂樹＝フレッド・マクマレイといったところ。しかし、中盤は死体の始末を巡ってのテンヤワンヤで、ヒッチコックの「ハリーの災難」の如し。そして言わぬが花だが、最後は××オチ？何とも怪作としか形容しようのない奇妙な一編だが、味わいもあった。（まあまあ）
「哀しみのベラドンナ」（山本瑛一）
ジャンヌ・ダルク伝説を、斬新的にアニメ化。当時の村を描く淡い墨絵のような線画。幻想的にジャンヌを襲うエロティシズムは圧巻。圧倒的なイメージの乱舞だ。１９７３年の時点で、虫プロ＝ヘラルドは凄いことをやっていたのに仰天した。（よかった。ベストテン級）
６月１１日（土）
新宿シネマカリテ
「団地」（阪本順治）
一人息子を事故で喪い、漢方薬店を絞めて団地に越してきたネクラの夫婦。その存在が、団地の噂話しのネタとなり、ネクラからくる行動が、妄想を拡大させていく人間喜劇のおかしさ。最後は○○映画になっちゃうなんて…。阪本順治にこんな感覚があるとは意外だった。ただ、ベースはやっぱりネクラ体質で、私の感覚にはもうひとつフィットしきれなかった。（よかった）
江戸東京博物館 映像ホール 企画映像 夏を楽しむ−妖怪・怪談−
「東京のおばけ」
大映の「四谷怪談」や「牡丹燈籠」の紹介などを挟み、都内にあるそれらを中心に都内のおばけのゆかりの地を、三遊亭圓窓師匠が巡り歩く一編。私としては楽しいネタだった。（まあまあ）
「立絵紙芝居 猿飛佐助 化物退治の巻」
街頭紙芝居の前身だった立絵紙芝居の、大正生まれの方が生前に残した貴重な口演記録だ。（まあまあ）
この日は、江戸東京博物館で私の知人が出演する『「落語散歩の会」完結記念 落語会』に足を運んだ。でも、都区内に出るのにそれだけでは交通費がもったいない。そこで、ややロスタイムはあったがシネマカリテで「団地」を観ることにした。そうしたら、江戸東京博物館 映像ホールの企画映像とちょうど時間が合って、ロスタイムも解消された。こういういいこともあるもんだ。
ここまでで、今年のスクリーン初見観賞作品は１３１本。
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