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2016年06月06日21:58

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お題32『合コン』 タイトル『キャプテン、結婚するってよ』

「はじめまして、ひーはーといいます」
 俺が頭を下げて挨拶をすると、同志が俺に挨拶を返してくれた。
「よろしく、ひーはー」「よろしくっす」「たっぷり飲みましょう」
「今日は雨の中、来てくれてありがとうね、ひーはー」
 キャプテンが俺の手を握り俺に笑顔を振りまく。愛嬌のある熊にしか見えないその微笑みに俺は自然と頬が緩む。
 キャプテンとは合コン仲間の一人だ。地元は違うがフットサルチームで知り合い、お互いの親睦を深め、いつの間にか彼と時間を共にすることが多くなった。それは俺がアラサーという年代に入り、数多くの友人が結婚というフィールドに出場したからに他ならない。
「キャプテンのためなら台風でも来るよ」
 俺はそう答え親指を突き出した。
 俺達は今、天神の一風堂でラーメンを啜りながら作戦会議を開いている。今から5対5の合コンをする予行練習だ。キャプテン以外知らないメンバーで心細かったが、彼がいるならばとはるばるバスで一時間掛けて都会の街に踊り出たのだ。
「……向こうの幹事がキャプテンの知り合いで、同年代が来るってことだな」
「そういうこと、俺達もキャプテンしか知らない友人同士ってことだね」
「じゃあ今回はキャプテン中心で行くってことでいいかな?」
「そうだね」
「……じゃあこれで作戦は終了だ」
 俺達は店を出て、お互いのビニール傘を繋ぎ合わせた。
「よし、今日はヤってやろうぜ!」
「おお!」「勝ちに行くっす」「一人ずつテイクアウトだ!」「げふ……もうお腹一杯だな」
 俺達は拳をあげるように傘を振り上げる。今ここに義兄弟の契りを交わし戦場へと駆け抜けよう。
 今日こそ彼女をゲットし、独身政権を崩壊させる。
 そう、俺達は今から、夢を叶えるために愛を掴みに行くのだ――。

「おー、中々雰囲気いいね」
 店は四階のビルの中にあり、雰囲気のいいイタリア料理店だった。照明は薄暗くスポットだけで灯りを演出している。
 キャプテンの友人の一人・霧島君がこの店を取ってくれたのだ。
「今日はいいテーブルをテイクしてあるよ」
 イケメンの霧島君が親指をぐっと突き出す。そこには五対五の長テーブルが置いてあった。これなら女子との間でも話がしやすい、テーブルが分かれると話が途切れがちになるからだ。
「さすが霧島君。いいチョイスだね」
「知り合いの店なんだ。貸し切ったから少し高いけど、雰囲気があるからゲットしやすいと思うよ」
 彼はそういって両手を使って金額を表した。確かに相応の額だが、将来の伴侶ができるのなら安いものだ。
「じゃあ真ん中にキャプテンにカムして貰おうかな、トークを振るのうまいし、いいでしょ」
 霧島君の言葉の意味は俺にもわかる。五対五というのは団体戦だ。三対三までならば話題を共通しやすいので、多少マニアックな話をしても楽しめる。だが四対四以上の団体になれば、共通の話題が見つかりにくく、話もうまく繋がらない。そこには浅く広く話題を素早く提供できる人物が必要になるのだ。
「……霧島君。それもいいんだけど、俺は右端に座るよ」キャプテンは申し訳なさそうにいった。「話題を振られた時、オチがいないといけないでしょ。俺が今日ピエロをして皆のフォローにつくよ」
「……キャ、キャプテン」
 俺は目を擦りながら彼を見た。いつもは強欲で食欲・性欲・睡眠欲に溺れる彼が道化師に徹するといっている。わざわざ出張で来た俺達に対して厚意で返すといっているのだ。
「……さすがだな、じゃあ今日はおれが中心に座ろう。げふ」そういって座ったのは自営業を営んでいる食いしん坊の糸島君だ。彼はキャプテンの男子高校時代の友人らしい。
「よろしくね、糸島君」
 キャプテンが右端に座り、俺はその隣に座った。
「じゃあ僕は霧島君と糸島君の間っすね」
 建設業で鍛えている色黒サーファーの赤島君が二番目の席に座った。何でもキャプテンがサーフィンをしていて仲良くなったらしい。
 ……あんた、どんだけ人脈あるんだよ。
 俺は彼に突っ込みながら時計を見た。もうすぐ予定時間だ。
 緊張して待っていること五分、女性達が入ってきた。すでに五人勢揃いだ。
 ……す、すげえ。
 俺は一瞬にして全員を個別判断しデータを取った。中々美人揃いだ。同じ県民でありながらこうも違うのかと驚愕する。
 化粧はもちろん、服装が垢抜けているのだ。都会に馴染んだ格好でイタリア料理店を食べる、まさに彼女達のためにこの店は立てられたようなものだ。
(ひーはー、好きな子がおったらちゃんと合図を取るんよ)
(了解)
 俺は指で合図を出す。今日のメンバーに合わせて指の番号でお気に入りを決めるのだ。見た目でいえば一番が理想だ。すらっとしていてハーフのような顔立ち、魅力的だ。だが俺の四番の席からは遠い。まずは四番、五番の女子を盛り上げて自分をアピールした後に席を移動しよう。
「よし、早速注文しようか」
 一番に座った霧島君が飲み物を注文する。皆、合コンに場慣れしているのか動きが早い。三番の女子が幹事らしく皆の意見を纏め店員に表示する。
「皆様、今日は足元が悪い中、来て頂いてありがとうございます。じゃあかんぱーい」
 グラスがゴングのように鳴り響き、試合開始の合図が始まる。
 団体戦休憩なし一本勝負の始まりだ。
 
(ひーはー、今日は誰が目当て?)
(俺は一番かな)
(了解、じゃあサポートするよ)
 イタリア料理に舌鼓を打ちながらテーブルの下で合図を取る。残り三名はどうなっているのか、これは自己紹介で確認するしかない。
 自己紹介をする時、男性陣は必ずグラスを持つようにしてある。そのグラスを持つ指で決めるのだ。親指は必ず添えなければならないので、人差し指だけなら一番、中指なら二番、そして指だけでなくグラスをきっちり掴んでいれば五番となる。
「じゃあオレからさせて貰います」霧島君がグラスを持つ。そのグラスには人差し指だけだった、彼も一番ということだ。
「僕は赤島っす。サーフィンが趣味っす」「糸島です、近所に住んでます。げふ」
 ここまで全員一番だ。俺も人差し指を使って自己紹介をすると、最後のキャプテンに皆、集中する。
「ボクも一応苗字があるんですけど、ど忘れちゃったんで、キャプテンと呼んで貰えたら嬉しいです」
 そういって彼は親指と中指だけで掴み狐のポーズを作っていた。彼だけ合図をわかっておらず、グラスがプルプルしている。
 ……俺達にぼけてどうするんだよ。
 女性陣の反応を見ると、皆、キャプテンの笑顔に騙され微笑んでいた。何とかこの場は凌げるようだ。
(アホ、そういうボケはいらん。女性陣にばれたらやばいぞ)(ごめんごめん、気をつけるよ)
 女性陣の紹介が始まり、俺達はテンションを上げてフォローした。さしずめ俺達は無理やり飛ぼうとしているペンギンのように滑稽だろう。だがそれでいい、ともかく話しやすい雰囲気を作ることが一番大事なのだ。
 時計回りで巡り、最後に一番の子が自己紹介を始めた。
 席を立つと、夏らしく程よい清潔感のある格好が彼女を一層刺激的に見せていた。
 ……か、かわいい。
 彼女に夢中になりながら回りの反応を見る。皆、彼女にメロメロになり目の前に調理されたイベリコ豚のように鼻を鳴らしていた。
 ……これは強敵揃いだぞ。
 俺は気を入れ直しキャプテンを見た。団体戦といっておきながら皆、一番の子にだけ果たし状を渡そうとしている。場所的にも俺は不利だ。なんとかして彼女と近づきたい。
「自己紹介も終わったし、何か質問がある方いますか?」
「すいません、ひーはーさん」一番の子がそっと手を上げて俺の方を見た。「ダイビングって面白いですか?」
「え、あ、ああ。面白いですよ。慣れるまでが大変ですけど」
 俺が答えると一番の子は歓声を上げた。
「え、凄いですね。私も実は長崎でダイビングしたかったんですよ。もし行きたいっていったら一緒に行ってくれます?」
「あ、ああ、はい。もちろんですよ。俺でよければいつでも」
 ……ああ、神様。
 俺は歓喜に身を震わせていた。彼女がいきなり個別でアピールしてきたのだ。どう考えても俺に興味があるとしか思えない。
 俺が浮かれていると、男性陣がそれぞれ悪意を込めるように呪いを呟いてきた。
「……うん、ダイビングいいよね。でもこの間さ、初体験で潜った人が過呼吸でダイした話、知ってる?」「あ、僕も聞いたっす。やっぱ怖いですよね、エラ呼吸できたらいいっすけどねー」「潜るのならシュノーケリングとかがいいよね。おれの地元に超穴場スポットがあってさ……げふ」
 ……この、クソ野郎どもめ。
 俺は笑顔で頷きながらも彼らを敵とみなすことにした。この年になると、合コンの数も減り焦りが出る。皆、仲間だといいながら平気で裏切る二重スパイなのだ。
「ダイビング、いいよね」キャプテンもビールを飲みながら付け加える。「ボクも一緒に潜りたいけど、この体でしょ? ボンベつけて潜ったら重くて浮上できないよー、その時はひーはー助けてね?」
「やだ、キャプテン、面白ーい」
 彼のボケに女子が小さく微笑んで盛り上がる。
 ……中々いいアシスト決めてくれるじゃないか、キャプテン。
 キャプテンに感謝しながら男共を見ると、皆舌打ちしながら彼を睨んでいた。彼らの瞳には怨念が篭もっている。
 ……え、皆さん、彼の友達ですよね?
 俺の心配を他所に女子達がひそひそ話をして俺の方を再び見た。
「実は私もダイビングしたことあるんですよ」「私もです」「私もありますよ。まだ初心者コースですけど」
「……そ、そうなんですね」
 ……いくら何でも釣れ過ぎだろう。
 女子の脚光を浴び不安になる。この状況で俺がいいことをいっても男共は絶対に落としに掛かってくる。ここはどうしたらいいだろうか。
 キャプテンに助けを求めると、彼は不敵な笑みを見せていた。何か秘策があるのだろうか。
「そうなんだ、じゃあ今度からダイビングに行く時はひーはーに一言いわないといけないねー。なんたって中級のライセンス取ってるし、次に行く所を聞いたらびっくりすると思うよー」
「ひーはーさん、次はどこに行くんですか?」
「えっと……沖縄です」
 俺がそういうと、女性陣は驚きを隠せず声を出した。予想以上の反応に引いてしまう。
「凄いですね、どこの島ですか?」「海底洞窟がある所ですか?」「海亀みたいです」「マンタが見れるのって沖縄だけなんですよね?」
 全員が俺の一言で一挙一動してみせる。これはドッキリなのかと勘ぐってしまうくらいにだ。
 ……おかしい、これは何の前振りだ?
 キャプテンの必要以上な微笑みに不信感を抱く。これだけ持ち上げられるなら落とされて当然だ。このまま上昇することはない。
「聞いてよ、皆。なんとひーはーは来月、富士山を一合目から一人で登りますっ!」
 ……五合目だし、ツアーだよっ!
 俺の心とは裏腹に女性陣の間で歓喜の渦が沸く。ここまで持ち上げられたら発言できない。
「すごいです」「すてきですね」「憧れちゃいます」「かっこいいです」「ストイックですねー」
「そ、そんな対したことないです」俺は今、無職だから時間があるだけなのだ。さすがに合コンでいうわけにもいかず、俺は隣に座っている糸島君に話題を振った。
「それよりも糸島君の方が凄いよ、彼、自分で会社を興したんだって。彼はパティシエなんだよ」
 そういうと、女性陣は全員、彼に食いついた。
「きゃあ、すごーい」「すてきー」「憧れちゃう」「かっこいー」「よ、しゃちょーう」
「いやいや、そんな大したことないよ。げふ」真ん中に座っている糸島君が否定する。だがその口調はとても嬉しそうだ。
「いやー糸島君とは高校時代からの友人なんだけどね、本当ね、もう努力の天才。いつも彼は俺の後ろに座っていたんだけど、テストの答案を集める時、毎回汗まみれになってたよ」
「それ、おれの涎(よだれ)だから。汗まみれじゃなくて寝てただけだから」
「糸島君、おもしろーい」
 女性陣の黄色い歓声が再び上がる。彼の株が上がると同時に俺は何ともいえない焦燥感に駆られた。何か妙な胸騒ぎを覚える。
「いやいや、おれなんかより霧島君の方が凄いよ。彼、ダンス教室やってるんだよ。俺が自営業でせこせこ働きながら、彼は優雅に踊ってるんだから、敵わないよなぁ」
「きゃあ、すごーい」「すてきー」「憧れちゃう」「かっこいー」「よ、しゃちょーう」
「そ、そんなことないよー。店員さん、アナザーカップをもう一つ」恥ずかしいのか、霧島君は顔を隠しながら店員を呼んでいる。
「いやー霧島君とは大学時代に出会ったんですけどね」キャプテンもビールを飲み干した後、続けた。「本当ね、心も男前なのよ。なんでまだ結婚していないのかわからないくらい。ボクが立候補していい? お嫁さんじゃなくていいから、お豚さんとして貰ってくれない?」
「もう、キャプテンったら、面白すぎぃ。私も霧島君のお嫁さん候補にして欲しいかも」
 一番の女の子が霧島君に熱烈にアピールする。これには彼もたまらない表情だ。
 ……合コンは確かに盛り上がってる。しかし何だろう、この不穏な空気は。
 俺は場の空気を客観的に考えた。皆を持ち上げて自分を落とす。まさにキャプテンはピエロを演じている。だが美味しい空気を独り占めしているのも彼だ。何だか釈然としないものを覚えていく。
 俺の心配を他所に霧島君が赤嶋君のフォローに入った。
「俺は内ワークだけど、赤島君は外ワークで現場を任されているんだよ。やっぱ男は外ワークの方がクールだよな」
「すごいです」「すてきですね」「憧れちゃいますね」「かっこいいですね」「九州男児ですね」
「いえいえ、そんな僕には勿体無いっす、はは」
 寡黙だった赤島君まで歯を見せて笑っている。
「僕もサーフィンしてるんだけど、彼は本当に凄いの」キャプテンがダメ押しに付け加える。「ボクなんかこの間、サーフィンボード持って行ったら、全く波がなくてね。海をぼーっと見てたら日に焼けちゃって、危うく黒豚になる所だったよ」
「キャプテン、かわいー」
 女性陣のテンションも鰻登りだ。彼が何をいっても面白いゾーンに入っていく。
 ……こ、こいつ、やはりそういうことか。
 俺は不敵に微笑むキャプテンを見て確信した。彼は三番だけでなく全員を釣るつもりなのだ。女子の注目を独り占めして、誰が来てもいいように算段を整えている。
 ……やばい、やばいぞ。このままいけばキャプテンに全ての女子を奪われてしまう。
 この焦燥感は間違っていなかった。大体彼がフォローに回るといったこと自体がおかしかったのだ。中心に座らなかったのも敢えてボケるためだ。自分が一番美味しいポジションにくるための算段だったのだ。
 俺は食レポで笑いを取る太った芸人を思い出しながら、この状況を他の三人の男子に伝えることにした。しかし彼らは褒められたことで面子を保ち、目の前の女子と会話を精一杯楽しんでいる。
「どうしたんです? ひーはーさん」
「いや、何でもないですよー、あはは」
 四番目の女の子に話し掛けられても俺は馬鹿みたいに笑うしかできず、彼の計画を阻止できずにいた。彼を浮上させることを忘れた俺達は風船を背負ったペンギンだ、もう自分達で地上に降りることはできない。
 五人の女性がいる楽園に戻ることはできないのだ。

 合コン開始から二時間。
 俺の予想通り、ほとんどの女性がキャプテンを囲むように話を聞いていた。いつの間にか席替えで彼は中央の席に座っており、体の貫禄も相まって王様にしか見えない。
 ……くそ、どうしてこうなった。
 俺達はただキャプテンの一挙一動を傍観し、頷くしか他ならない。いくら俺達が彼を褒めて浮上させようとしても、再び彼が持ち前のギャグで落として上がるのは彼の株だけだった。
 もう手の打ちようがない。
「楽しいね、霧島君と糸島君もお酒強いし、凄いね」
 一番の女子だけは席替えをしても彼らにべったりだった。俺と赤島君はもはや人権など存在しないように扱われ空気と化している。
「ねえ、このまま二次会行こっか?」
 一番の女子の発言で俺と赤島君は敗北を認めざるおえなかった。もう俺達に居場所はないのだ、これからカラオケに行こうが、ボーリングに行こうが、俺らにターンが来ることはない。
「ねえ、キャプテン、どうする?」一番の女の子が彼に尋ねる。
「んーちょっと待ってね。ごめん、電話が来たみたい」
 そういってキャプテンは席を立ち携帯電話を片手にトイレに向かった。いつもの彼らしくない。自ら二次会へ持ち込むのが彼の得意技だからだ。
 キャプテンの姿が見えなくなり、俺は赤島君と合図を取った。
(キャプテン、おかしくない?)
(おかしいっす。二次会を渋る人じゃないっす)
(もしかして先約があるのか?)
(先約、それってもしかして……別の女ってことっすか?)
 俺達は互いのスマートフォンでネットワークを駆使し、彼の情報を集めることにした。すると赤島君が衝撃の事実を突き止めてしまった。
 キャプテンにはなんとこの中に同棲している相手がいるのだ。
(名前まではわからなかったっすけど、友人の確かな情報っす)
(この中なら三番目の子が怪しいな。幹事だし。それに彼女は今、いない)
 俺はいつの間にか三番の女の子がテーブルから消えていることに気づいた。空気と化していたため、女性陣の動きを見ていなかったのだ。
(でもいきなり同棲してることを質問するのはおかしいっすよ。それに相手は一人じゃないかもしれないっす)
(というと?)
(一番の子、僕は怪しいと思うっす)
 俺は一番の女子の不可解な言動を思い出した。
(俺はダイビングが好きだといっただけなのに、一番の子は俺が長崎に行くことを知っていた。これは明らかにおかしい)
(仮にこの推理が正しいのなら一番と三番はキャプテンの彼女っすよ。一番と三番、どっちにしても浮気じゃないっすか。たとえ一人だったとしても許せないっすよ)
 俺は再びキャプテンのグラスの持ち方を訝った。彼は自己紹介の時、グラスを親指と中指で掴んでいたのだ。あれはもしかすると、女性陣に合図を出していたのではないか。
(あの合図は……一番と三番が金を持っているという合図じゃないか?)
(多分そうっす。僕とひーはーの反応だけ薄かったっすから。で、その合図は一番の子に出してるっす。三番の子は皆を纏めるのに必死だから、一番の子が誘惑しているんじゃないっすか?)
(その可能性は非常に高い。まずいな)
 正直、霧島君と糸島君が女に夢中なのはいい。彼らのタイプだからだ。だがそれがキャプテンの女だとわかったらどうなるだろうか。
(どうするっすか。この流れだとキャプテンの思惑通りっすよ。付き合っている女で俺らを釣るなんて最低野郎っすよ)
 問題は女性幹事とキャプテンが付き合っていることを女性陣が知っているかだ。この際、女性陣と付き合えるかなどどうでもいい。
 彼を不幸に貶めることが一番優先だ。
(彼らにも協力を仰ごう)
 俺はキャプテンが不在の間に中心に座り、彼らに合図を出した。 
(つまりファーストもサードもグルってことか。あの野郎、ぶっキルしてやる)
(まだ慌てるような時間じゃないっす)
(そう、まだ考える時間がある。きっとキャプテンは今からの流れを彼女と考えているはずです)
(なら俺に考えがある。げふ)
 糸島君の考えを聞き、俺達は歓喜した。確かにこの方法なら確実に誰がキャプテンの彼女かわかるし、この中に他の相手がいたとしてもオッケーだ。
(ミュージックとスポットは任せてくれ。オレの知り合いの店だしな)
(僕はキャプテンを止めて来るっす。三番の彼女が戻ってくるまでに)
(じゃあおれはここにある材料で即席のケーキを作るよ)
(よし、俺が司会を進行しよう)
 俺達はテーブルの下で手を合わせ一致団結し彼を待った。
 ……今度の団結は嘘じゃない。神に誓って。
 俺達は準備を整え敬礼を捧げた。彼の独身政権を守れるのは俺達だけだ。俺達のベルリンの壁は厚いぜ、キャプテン。
 三番の彼女が戻ってきた瞬間、俺らは盛大に拍手をした。
「緊急速報が入りました。非常に嬉しいニュースです」
 俺はスポットを受けた後、立ち上がった。
 キャプテンの席の前には即席でできたアイスケーキがデコレーションしてある。霧島君がスマートフォンでBGMを変える。曲はもちろん安室奈美恵の『Can You Celebrate?』だ。
 俺は全員に聴こえるように、そして内緒話のようにひそひそ声でいった。 
「実はキャプテン、結婚するってよ」
 
  
 
  

  


 タイトル→http://syunkasyuutou104.blog.fc2.com/blog-entry-18.html


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