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2024年02月10日12:11

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 私の今の心情に感じるところ多々だった一昨年のベストワン候補「土を喰らう十二ヵ月」。スケールの大きさが一枠ちがう山内ピンク「ペッティング・モンスター 快楽喰いまくり」。

 2月1日(水)に令和3年6月公開の日本映画「Bittrersand」を観る。

「Bittrersand」(杉岡知哉)
高校の教室の黒板に一人の女子高生を悪人に仕立てた恋愛相関図が落書きされる。一人の男子高生が何故か親友に「犯人は俺だ」とのデマの噂を流してくれと頼んでいる。それから7年後、その事件は記憶にも留めない者・深く傷ついたまま生きてきた者など、もはや思い出の姿は様々になってしまうが、同窓会の再会で、理由不明なまま退学していった女子高生の真相も含めて、薄皮を剥ぐように明らかになっていくミステリー。この込み入ったストーリーが原作物でなく、本作が長編デビューの新人監督オリジナル脚本であることに感心した。キネ旬の封切映画一覧表の映画専門家レビューでは、「若手俳優たちの集団売り出し作戦の方便」「こんな傷つけあいを許してしまう愚かさやイヤシイ性格」と、辛辣な批判が多いが、仄かな初恋の慕情がベースにあるこの話は私は嫌いじゃない。少なくともこういう映画オリジナル才能は、私は大切にしたい。(まあまあ)

 2月3日(土)に令和3年7月公開のピンク映画「ペッティング・モンスター 快楽喰いまくり」を観る。

「ペッティング・モンスター 快楽喰いまくり」(山内 大輔)
夫が海外単身赴任で一人暮らしとなった人妻の周囲に起こる怪奇現象の数々。一人っ子のはずなのに妹を名乗る女が男を連れて転がり込んできて、何故かその時は妹の存在を信じてしまったり、夫はすでに死んでいると告げられ遺影が部屋にあったり、過去も現在も混沌とした異世界に突き落されていく。そんな中で夫から寂しさをまぎらわせる為と、奇怪なペットが送られてくる。これがオカルトでもSFでもなく、終盤でミステリーとして全て説明が付くのが凄い。芸達者脇役の森羅万象が、大したことない出入りの納豆業者で勿体ない出演をしてるなあと思っていたら、彼の存在がさらなるドンデン返しで、人類存亡の危機に至るとの結末に至り、以前にピンク低予算にめげず大風呂敷を拡げちゃう樫原辰郎なる存在がいたが、それに肩を並べる。いや〜、さすが異形の天才の山内大輔・監督・脚本、騙されました、参りました、脱帽しました、スケールの大きさが一枠違う!土肥良成のキモ可愛い造形ペット「ぺろ」も、作品に楽しく説得力を与えていた。(よかった。ピンク大賞優秀作品賞候補)

 同日3日(土)に昨年2023年1月公開の外国映画「スネークヘッド」を観る。

「スネークヘッド」(エバン・ジャクソン・レオン)
不幸な生い立ちで、実の娘をアメリカに養子に出さざるを得なかった中国の母が、密入国で渡米しその組織内でアメリカンドリームなどはどこ吹く風の強引さでのし上がりつつ、実の娘との再会を願うサクセスストーリー。アメリカでの中国裏社会の色々が曝け出されるハウトゥ的な興味はあるが、残念ながらそれ以上の面白さは出せなかった。(まあまあ)

 2月4日(日)に昨年の令和5年1月公開の日本映画「チョコレートな人々」を観る。

「チョコレートな人々」(鈴木祐司)
日本各地に展開する専門ブランド「久遠チョコレート」にはある特長がある。心身障害者や性的マイノリティを偏見なく世間より高待遇で迎え入れていることだ。その経営者理念の高潔さには、頭が下がると共に、それを支えるスタッフの厚味も感じさせる。こういう物を観せられると、人類は確実に進化していると明るい気分にさせられる。東海テレビらしい過去20年余に及ぶ貴重な取材記録がグンと重みを与えていて素晴らしい。失敗しても熱で溶かし直せば再チャレンジできるのがチョコレートの良さという比喩も良かった。(よかった)

 2月5日(月)に昨年の令和5年5月公開の日本映画「静かなるドン 後編」を観る。

「静かなるドン 後編」(山口健人)
昔ながらの義理と問答無用の利権がせめぎ合う抗争が、跡目争いを巻き込んで壮大に展開する前編を受けての後篇。併せて延々4時間半を飽きずにそれなりに魅せるが、やはり堅気生活に拘る総長の二股人生が、御都合主義的に成立してしまうリアリティ欠如は、弱点として如何ともし難い。それに4時間以上かけるネタとも思えないし、往年の職人芸ならせいぜい2時間に纏めた中味だと思う。(まあまあ)

 2月6日(火)に昨年2023年1月公開の外国映画「カンフースタントマン 龍虎武師」を観る。

「カンフースタントマン 龍虎武師」(ウェイ・ジェンツー)
香港映画に欠かせぬ存在のカンフースタントマンの歴史を、関係者インタビュー・名場面・撮影風景など膨大なアーカイブで編纂された貴重な力作だ。日本軍占領下で虐待された京劇の関係者が香港に逃避したが、そこで生きるために当時隆盛だったカンフースタントに流れて喰うしかなかったとの、歴史的悲劇のスタートから、ブルース・リー登場で世界進出の端緒を掴むも急死により挫折。一拍置いたがサモ・ハンやジャッキー・チェンの活躍で80〜90年代に黄金期を迎える。だが、CG台頭やハリウッドアクションに吸収されたりで、香港カンフーは衰退期を迎え、かつての全盛を極めたゴールデンハーベストやランランショウの大撮影所の痕跡もほとんどない。そんな現在、若い人がスタントマンを志す動きが大きく出てくるが、そこにあるのはかつての「貧しさによる喰うため」から「やりがい」へと変化してきているところも興味深い。それやこれや歴史の重みを貴重な映像で纏め上げた力作である。(よかった)

 同日6日(火)に一昨年の令和4年6月公開キネ旬ベストテン日本映画第6位「PLAN75」を観る。

「PLAN75」(早川千絵)
超高齢化社会対応として75歳以上の高齢者が自死を選べる制度「PLAN75」が法制化された社会の物語だ。ずいぶん大胆な設定と思う人もいるかもしれないが、SFには疑似イベントというジャンルがあり「ソイレント・グリーン」を始めとして安楽死テーマはそれ程ユニークなネタではない。むしろその世界観をどう描くかが肝で、その意味でさもありなんと思わせるリアリティに溢れている。主人公のように78歳で身寄り無しの身にはいかに生き難い社会かの描写は、倍賞千恵子の好演もあって濃密だ。対応する役所の担当窓口の磯村勇斗・河合優美は、死の決意を翻さないように上部から誘導されているようだが、それには人間的感情に反し抵抗も感じている。国の政策は高齢者排除 なのだからそれも当然だろう。そして高齢者を死へと導く医療機関に働く汚れ仕事はフィリビンからの貧しい出稼ぎ労働者だ。これらを淡々とリアルに、変な感情を込めず描いていき、ナンセンス感覚ゼロで描き切ってみせた。(よかった。ベストテン級)

 2月7日(水)に一昨年の令和4年11月公開キネ旬ベストテン日本映画第6位「土を喰らう十二ヵ月」を観る。

「土を喰らう十二ヵ月」(中江裕司)
水上勉をモデルにした長野の山荘で男やもめとなった作家の一年間を、美しい信州の風景の中で自然の作物を用い、子供の頃に禅寺で修行した精進料理を作って自炊する姿の中に淡々と描いた美しく静謐な傑作である。淡々と記したが、事件らしい事件は無いでもない。時折訪ねてくる妻の後輩で担当編集者、今は恋人となった女性とのほのぼのした交情と別れ。偏屈で息子夫婦と疎遠になった近くに住む義母の死。本人も心筋梗塞で一時は死の淵をさまよう。しかし、すべては静謐な生活と風景の中に静かかに溶け込んでいき劇的な物は乏しい。作家・沢田研二、編集者・松たか子、禅寺の恩師の娘・壇ふみ、義母・奈良岡朋子、その息子夫婦・尾美としのりと西田尚美、近所の親しい大工・火野正平といずれも役を得て静かなる好演だ。立春から延々と冬至を経て次の立春まで、季節に区切られた一年間、人間とは人生とはこれが真実なのだろうとシミジミとした感慨に浸らせられる。これも映画の本質の一つであり、その良さを言語化するのは意味ないと思えてくる。(よかった。ベストテン級というかベストワン候補)

 と言いつつ何かと蘊蓄を傾けたくなるのが映画好きの性で、ここで映画とは直接関係ないかもしれないが2点程の思うところを述べてみたい。

 私の一生を振り返り、最も情熱を傾け面白く思ったのは映画である。でも、それは本当のところ嘘で、仕事である首都圏の電力定供給だったと思う。仕事だから情熱を傾けざるしかなく、無理にも面白いと思い込んで生きてるしかなかった。それが絶対の正義であると信じることで自分を納得させていた側面がある。

 しかし、「土を喰らう十二ヵ月」を観るにつけ、それはこの映画の世界と真逆のことをやってきた気がしてきた。電力マンとして絶え間なく人々が安くジャブジャブと電力を使えることができる社会への指向、それはエアコンの普及により人々から季節の寒暖を消滅させることであり、電力による栽培室で農作物の季節感を失くしてしまうことである。こんな世界を造り上げたことの反省として、今はエネルギー環境問題として再考を迫られているのだ。「土を喰らう十二ヵ月」は、私の一生に疑義として立ちはだかる。重い。

「土を喰らう十二ヵ月」の主人公は、ある日から死を決意し眠る前に「みなさん、さようなら」と呟いて床に着く、もちろんそんなに簡単に死ぬ訳もなく、次の日は普通に目覚め日常生活は淡々と続いてゆく。でも、いつかは死を迎える時は来るのであろう。

 私も今は、眠る前には死を意識している点で共通している。現在は、図書館のようにCS放送の膨大な映画群から、病に倒れた令和3年(2021年)以降の公開作品を核に、それ以前の未見で気になる作品を加え、自己鑑賞リストを公開年月別に日々更新している。私が目覚めなくなった時、それは途絶えるだろう。そんな意識を有し、今日も眠りに着く。

 まだまだ想うことは沢山浮かぶ「土を喰らう十二ヵ月」は、今の私に心情にとり大傑作であるが、キリが無いのでここに述べるのはこの2点のみで留めておきたい。

 2月8日(木)に昨年2023年3月公開の外国映画「生きる LIVING」を観る。

「生きる LIVING」(オリヴァー・ハーマナス)
黒澤明の昭和27年の大傑作「生きる」のリメークだ。でも、1953年を時代背景としているから、設定はほぼ同時期である。しかし、日英の国情の違いもあり、カズオ・イシグロ脚本はそのままの引き写しにはならない。日本では癌告知をしない慣習がまだあって、周囲から「軽い胃潰瘍と言われたら癌だよ」と囁かれ、そのとおり告げられガーン!となるブラックユーモア的な描写も、そこは英国版では「残念な結果です」とストレートだ。黒澤版は総じて、公園設置陳情たらい回しシーンでも繰り返しによるユーモアで、語りの工夫を重ねていたが、英国版では陳情夫人団と課の担当が各課を巡回するようなストレートな表現が多い。語りにヒネリが無いせいか、日本版143分の長尺に対し、英国版は103分とコンパクトである。それでいて、黒澤版のエッセンスが巧みに総て叩きこまれているのは、さすがカズオ・イシグロだ。主人公の老いらくの恋のエピソードに重きがかかっているあたりは、お茶漬けサラサラの日本人と西洋肉食人種の差であろうか。(よかった)

 2月に入って9日(金)までに観た映画は次の13本。

「Bittrersand」「ペッティング・モンスター 快楽喰いまくり」
「スネークヘッド」「沈黙の奪還」「チョコレートな人々」
「Alice THE MOVIE 美しき絆」「静かなるドン 後編」
「カンフースタントマン 龍虎武師」「PLAN75」「土を喰らう十二ヵ月」
「生きる LIVING」「ディンゴ」「涙をありがとう」

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