高コストを喜ぶ心理

18時頃、いつものように夕飯を作ろうと帰宅したら、相方がキッチンを占拠していた。
私の「ただいま」に返す「おかえりなさい」の返答もどこか上の空。
儀式忍法「チョコ作成」に一心不乱に取り組んでいる模様。

帰途途上で購入した白菜を入れようと野菜室を開けたところ
悲鳴とともに制止される。

要は「作成途中のブツがあるから見るな」とのことらしい。
仕方なく白菜を自宅で一番涼しい廊下に置くこととした。

私は普段は暑がりだが、腹ペコになると途端に寒さに弱くなる。
夕飯を作れないので仕方なく炬燵に入り込み、将棋の動画を眺めて待つことにした。

2時間が経過した。
気になる動画は一通り見終えてしまい、空腹に耐えかねてキッチンを覗く。

相方は出来上がった2箱のチョコレートを差し出してきた。
相方の疲労困憊の様子はまるで鶴の恩返しであった。

チョコレートはおいしくいただきつつも相方が５時間に及ぶ『儀式忍法』で
体調を崩しかけていたので、それについては叱責した。

私「女子一族に多い勘違いだと思うが。『プレゼントの価値はかけた手間暇や苦労で上昇する』と思ってはいまいか？それって錯覚だぞ？」
相方「なんで？」
私「吉野家の牛丼と３つ星レストランの極上のステーキがあるとしてだな。5時間並んで入手した牛丼が、顔パスで即座に入場して食べるステーキの味を上回るなんてことはないんだ。」
相方「でも喜びもひとしおじゃない？」
私「それは人間心理の代償行為というものでだな。あくまでも待機時間の価値であって、味に変化はない。まあ5時間並ぶくらいならすぐには入れる吉野家のほうが私は好きだがね」

私「手間暇をかけるのは必要な手段にともなうコストだったはずが、いつしか手間暇をかけることが目的化してしまっているならそれは無駄だろう。勘違いしないでほしいのはチョコレートはありがたかったし、5時間もかけてくれたことにある種の感動はしている。でも、そのせいで夕食時間が遅れたり、君が体調を崩すのでは本末転倒ということだ。また、君が私に大いなる犠牲を期待するようになっても二人ともが不幸になるだけだからね」