mixiユーザー(id:4632969)

2019年01月12日16:30

201 view

『ヘラクレスの死』第1話

 ギリシャ神話は登場人物の年齢とか世代を軽〜く無視しているものですが、「ヘラクレスの死」まわりの関係者の年齢を考えたらコメディっぽくなったので、話にまとめてみました。
  ヘラクレス関係の話はこちら。『ヘラクレスの冒険』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5185002『ヘーラクレイダイの帰還』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5387474『春は失恋の季節』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9787807
 デーイアネイラが変な誤解をしたのはアケローオス河神のせいという衝撃の新事実(爆)。
 ヘラクレスとネッソスの逸話は、「自分を殺した者を殺した者は誰だ?」という古代ギリシャ語の謎掛けとしてよく使われます。
 ポイアスに与えられたヘラクレスの弓は、彼の息子ピロクテテスに引き継がれ、トロイア戦争で「トロイア落城のために必須のアイテム」の一つになり、トロイアの王子パリスを射殺します。ピロクテテスがトロイア戦争に参戦するまでには紆余曲折があるのですが、割愛。
 参考文献は、ソフォクレス『トラキスの女たち』、エウリピデス『ヘラクレスの子供たち』、高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』


『ヘラクレスの死』第1話

 ギリシャ神話で最大の英雄と呼ばれる大神ゼウスの息子ヘラクレス。
 数々の冒険と遠征をなしとげた彼は、今、トラキス地方の都市オイカリアを攻め落とした。
 かつて「十二功業」と呼ばれる冒険を終えた後、ヘラクレスは自分の弓術の師匠でもあったこの地の王エウリュトスの娘イオレーに求婚した。そして「娘と結婚したければ、自分と息子たちと弓の勝負をしてもらおう。勝てば娘をやる」という父王の要求通りにして勝負に勝ったのだが、イオレーと結婚することは出来なかった。彼女の兄弟たちが「ヘラクレスには発狂して自分の子供たちを殺した前科がある。また同じことが起きたらどうするのか」と反対したからだ。その後、イオレーの兄でヘラクレスの唯一の味方だったイピトスを、発狂したヘラクレスが城壁から投げ落として殺してしまう事件も起き、結局、ヘラクレスは独身のまま、また別の試練の旅へと乗り出したのだ。
 そして今、ヘラクレスはオイカリアを攻略し、エウリュトス王とその息子たちを皆殺しにした。かつてヘラクレスを侮辱してイオレーとの結婚を拒んだことと、イピトスの殺害に対する賠償を断られたせいで自分が奴隷の身になったことへの報復のためである。王女イオレーは城壁から身を投げたが、長衣が風をはらんだため、墜落死を免れて捕虜となった。
 勝者となったヘラクレスは、捕虜となったイオレーが連れてこられるのを天幕で待っていた。いささか浮かれた気持ちで。
 ヘラクレスが求婚した時、イオレーは近隣諸国にその美貌をうたわれた、咲き初めの薔薇のような美しい王女だった。今はどんな成熟した美女になっているか…と、ヘラクレスの期待は高まった。
「ヘラクレス様、イオレーを連れてきました」
「おお!」
 兵士がある女性を連れてくる。ヘラクレスは喜び、上気し、ふりむいた。そして、そのままの姿勢で凍り付いた。
 彼の視線の先には、ヘラクレスの思い出の中の姿に比べて横幅が倍くらいになった、恰幅の良い中年女性が立っていた。
「イ、イオレー…?」
「そうよ!」
 捕虜の女は怒り気味に答えた。
「ふ、老けたな…」
「あれから何年たったと思ってるのよーっ!」
 イオレーが叫ぶ。
 そう、イオレーへの求婚に失敗した後、ヘラクレスはイピトス殺害の罪を贖うためにリュディアの女王オンパレのもとで三年の奴隷奉公をし、その後は、トロイア、エーリス、ピュロス、スパルタと各地を転戦し、それから「あ、そういえばケルベロスを捕まえに冥界に行った時、英雄メレアグロスの霊に『妹を頼む』って言われたわ」と思い出して、メレアグロスの妹でカリュドンを支配するオイネウス王の娘であるデーイアネイラに求婚し、妻として、そして二人の間の長男のヒュロスが今年十五歳になるくらいには、歳月が経過している。かつては十代で結婚適齢期だったイオレーも、今は三十代半ばのおばさんになっていた。
「ヘラクレス、あんたはゼウスの息子だから四十になっても五十になっても若いまんまなのかもしれないけど!こっちは普通の人間なのよ!年を取って当たり前でしょうが!」
「あ、あれから結婚は…」
「しなかったわよ!『あの女、ヘラクレスに目をつけられてるから手を出したらやべーわ』って婿候補がみんな逃げちゃって、結婚できなかったのよ!」
「…そ、それは正直すまんかった…」
「どーしてくれんのよ!あんたのせいで嫁に行き遅れたのよ!あげくに父や兄弟まで皆殺しにして!?これから女一人でどうやって生きろって言うのよ!?責任取りなさいよ!きーっ!」
 イオレーは傍らにあった酒壺やら酒杯やらを手当たり次第にヘラクレスに投げつけ始めた。さらに投げる物がなくなると、ヘラクレスに飛び掛かって彼の顔を掻きむしった。
「わ、わかったーっ!若い夫を用意するから…だから許してくれーっ!」
「若くてお肌ピッチピチの夫よ!いいわね!そうじゃなきゃ許さないからね!」
「わ、わかった!わかったから!」
 こうしてイオレーの爪に引っ掻かれながら、ヘラクレスは内心楽しみにしていた思い人との再会を失望のうちに終えたのだった。

次へhttps://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969974292&owner_id=4632969
目次https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969962785&owner_id=4632969
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する