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2017年02月01日04:41

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台本書き途中

孤立が丘

これは戯曲連作「風土と存在」第四十七番目の試みである





時 二〇一七年三月末
所 府中是政
人 ひなた
  智恵子
  裏方





1.二ヶ村緑道

ひなた はい、こちらですねー。こちら、ちょっと一段高くなっておりまして、ずっと細長い公園になってます。えー、地図ご覧になってもらっていいでしょうか。(指し)この、緑になってるところが緑地帯です。府中のこの辺は、こうずーっと競馬場の北に沿って東西に崖が延びておりまして、北側が高くなってます。その崖下、こちら側にですね、ここらではハケ下っていいますけど、ようするに多摩川と同じ標高の広い低地がありまして、水路の跡がいっぱい残ってます。崖から湧いてるのもありますけど、多くは多摩川の少し上流から取水して、使いまして、余ったのは下の方でまた多摩川に戻すと。今は住宅地で生活用水ですけど昔は田んぼですから、野良仕事用の用水路と排水路になりますね。田んぼがなくなってからは――ちょうどオリンピックの頃から東京中のドブに蓋がされまして――水路跡がこの辺ですとだいたい緑道になって保存されてます。この地図ですと公園緑地だけが表示されてますけど、実際は蓋して道路になってるとこの方が多くてですね、複雑です。ここ、現在地から郷土の森公園までのわずかの間でも、歩いてみるとそうですね、5本…?…くらいには、分かれたりくっついたり交叉したり、もしかしたら逆流したりしながら、網の目みたいに小さな流れがありました。こんなです(図を見せる)。網状水路というそうです。ちょっと川にのぼってみましょう。段、気をつけて下さいね。こちらですね。整備されて、夏には水が通って鳥が来たり子どもが遊んだりできるようになってます。あ、でもいま流れるのは本当の川ではなくて、川は――用水は田んぼがないので廃止になりまして――ここの水は地下水を汲み上げてポンプで循環させてるやつです。謂わばイミテーションですね。こういう川の名残りみたいなものって実際の生活に使われてないわけですから川と言えるんだろうかっていう問題がありますけども、府中の場合なぜか割と保存する方針みたいです。まあ「府中」ていうくらいですから歴史ある町を自認してるところがあるんでしょうかね。あと、この地点に限っては、ここ南にまっすぐ行けばすぐに是政の駅ですし、あっちの交番のとこの交叉点渡って北側の人たちがちょうど導線でここ通る関係で、歩道として、割と活用されてるみたいです。散歩道ですけど足早に行く会社員の人とか、あそこのもう住んじゃってるようなおじさんとか(じっさいに蓆かぶって寝てる人もいる)、あと小さい子遊ばせてるお母さんとか、割といるんですよね。ちょっと下るとマンションの敷地と地続きになっててマンションも一部地続きの公園みたいにしてるとこもあります。今日は行きませんけど、もっと下ると競艇場の敷地のまわりをぐるっと沿っていく感じになって、調布の方までもとは続いてたらしいです。――私、育ちがこの上流の日野なんですが、多摩川って南岸はずっと多摩丘陵で幾つもの川が流れ出して合流してます。上から平井川、秋川、谷地川、根川、浅川、程久保川、大栗川、乞田川。でも北側にはご覧のとおり丘がなくて、低い崖から沢がいくつか湧いてるだけで――川らしいのは野川と仙川くらいですね――低いところにこう、ちょろちょろと流れてるっていうのは見慣れないですね。でもここが、ここ全体が、多摩川の本流だったんですよね。今は土手に挟まれて五〇〇メートルくらいですけど堤防ができる前はこのあたりの川幅は二キロにも達しました。雪解けや大雨の頃ともなると水源の笠取山から沢や支流を集めてここは滔々たる大河になりました。網状水路。先ほどお見せしました通り、ここを流れていた二ヶ村緑道は終いの頃こそ常久・押立の二ヶ村を潤す小流れでしたが、元は多摩川の本流でした。まさにここがです。現代は便利で安全で食べるにも困らなくてとても良い時代だと思うんですけど、都市が大きくなるのと反対に、こういう日常の景色がこぢんまりとまとまって、昔の風景が見えづらくなってるのはなんか残念です。大きな物語の終焉ということは私が生まれる前からもう言われてて、今はもう細かく分断された物語のいくつかを渡り歩いて人は生きていくような感じになっちゃってますし、それはそれで小さなものの総合としての世界観っていうものも有効ではありますしそれを信用してやっていくしかないのでもあるんですが、でも、私、演劇人ですしね。演劇は結構古いものですから古い世界観もお芝居では健在なわけで、細分化された現代、価値観の多様化という名前のどこか均質な現代、安全管理の行き届いて過剰管理に文句の言えなくなってる現代に対して、ただ黙っているわけにも職業上、いかないってこともあるんですよね。私まだぎりぎり高校生ですけど二週間後にはプロの末端俳優になります。最初にやるお話は何でしょう。イプセンかチェーホフか分かりませんが、その時代のその人たちと現代とを架け橋する、自分の身と役柄とを馴染ませていく仕事ですから、古いもの、懐古主義とか感傷的とか言ったらネガティブですけど、放っておいたらどんどん過去のものになっていく歴史、物語を、いま生きているものとして生きなおしていくということを、よく考えていきたいと思います。ね、ここの水路、ところどころにお金が落ちてます。お賽銭ですね。古くさいですね。弁天様とかじゃなくて、さすがにここにコイン投げても何の御利益もなさそうなんですけど、投げる人はいるんですねまだ。まだっていうか、この緑道できたの二〇一一年の三月です。たった六年しか経ってないのに。おかしいですよね。作り物の水路に、どこから来たのか分からない庭石みたいなの運び込んで、税金で公園作って、そしてほんとの流れは埋め立てられて、ないわけでしょう。かもめのニーナ。チェーホフの「かもめ」に、撃たれて湖のほとりに落ちて死んだカモメが出てくるんです。ソ連のテレシコワも言いましたね、一九六三年、「征服する」という名の宇宙船から古くさく「私はかもめ…いいえ、そうじゃない…私は飛行士…そうよ。トリゴーリンが来てる? ふん、構やしない。そう、あの人は作家のくせに芝居というものを信用しないで、いつもあたしの夢を冷たく見てた。それで私も次第に信念が失せて、気落ちしてしまったの…。そのうえ恋の苦労だの、嫉妬だの、妊娠だのにしょっちゅうびくびくして、いつしかこせついた、詰まらない女になってしまって、デタラメな演技をしていた。両手の扱いも分からず、満足に立つことも、声もろくに出せずに。ひどい演技をしているなあって自分で感じるときの気持ち、とても人には分からない。私は…かもめ…?…いいえそうじゃない。コースチャ、覚えてる? いつかあなたはカモメを撃ったわね。その通りになったの。あなたと湖畔の仮設ステージでやったお芝居はぼろぼろだったけど最高だった。何もないところから立ち上げるのはほんとに素敵だった。そこへふとやってきた男が、娘を見て、退屈まぎれに口説き落として破滅させてしまう。別荘のステージはいつまであったろうね。やがて革命になって、社会はめまぐるしく変わって、そして百年。二〇一七年か…あの十月から今年でちょうど百年になるわ。私はあの時代のかすかな名残り、カモメの…ニーナ…」。
声 違うだろ。
ひなた はい?
声 おまえ、台本と全然違うんだよっ。(ト、ムシロを撥ねのけて登場)
ひなた すみません!
智恵子 硬いとこ寝てたらもうバキバキだよ、ここ片づけといて。
裏方 あ、はい。
智恵子 あんたね、あたしゃあんたのコーチでもなけりゃプロンプでもないんだ。
ひなた はい!
智恵子 へたくそと思ってんだろ。
ひなた え。
智恵子 プロンプの間、めっちゃ悪いって。
ひなた そんなことありません。
智恵子 そんなことあるんだよ。
ひなた ないです。
智恵子 あるね。
ひなた そんな…ていうかそもそも知恵さんプロンプじゃありませんから。
智恵子 じゃあトチんなよ研修生、プロンプされたくなかったら。
ひなた あー、はい!
智恵子 続きは。
ひなた 続き。
智恵子 台本。脱線したらすぐ戻る!
ひなた 分かりました。あ。
智恵子 あ?
ひなた あの、でも、
智恵子 は?
ひなた ここ住宅地なんでえ、苦情とか来るとあれなんでえ、小屋に戻りません?
智恵子 あんたねえ!
ひなた はい…、
智恵子 いい考えだ(ガク)。じゃ、戻るよ。
ひなた 了解です。
智恵子 でもその前に。あんた気になること言った。この岩がなんだって?
ひなた 岩ですか。
智恵子 さっき、言ったろ。
ひなた なんでしたっけ。
智恵子 庭石がなんとか、
ひなた ああ、どこから来たんだか分からない岩、とか。
智恵子 分からないことあるか。
ひなた え。
智恵子 ちゃんと普請してんだから分かるんだよ、どこのどんな岩だか。なんにでも出自ってもんがあらあね。
ひなた えーと…、
智恵子 早い話が庭石じゃないだろ。見た感じ。
ひなた そういえば。ごつごつして。これ、溶岩ですか。大島で見たかも!
智恵子 溶岩。
ひなた ええ、三原山。調布飛行場からプロペラの、セスナで行きました。(爆音)
智恵子 (見上げ)セスナ…、ドルニエだろ…、
ひなた (見上げ)ドルニエ…、ドルニエってなんですかあ…、
智恵子 (見上げ)ドルニエはそりゃ、セスナより大きいやつさ…、
ひなた (見上げ)ああ、二種類あるんですね…、
智恵子 溶岩じゃないから。
ひなた え、ごつごつなのに。
智恵子 風化さ。
ひなた フーカ。
智恵子 雲母が混じってるんでぼろぼろなのよ。
ひなた 雲母入りの溶岩?
智恵子 溶岩があんな直線に結晶するか。みかげだよ。花崗岩。石英長石黒雲母。
ひなた はあ。
智恵子 鈍感。
ひなた そうですかね。
智恵子 笠取山から運んでんだよ。
ひなた ?
智恵子 水源。多摩川の。
ひなた ああ!
智恵子 水が干れるって書いて水干沢。
ひなた 花崗岩なんですか。
智恵子 古い、ね。秩父古生層の深層風化。ようは、この二ヶ村緑道のルーツを紹介するために、わざわざ運んできたわけさ。
ひなた なるほどー。
智恵子 ひな。人の世に無駄はいっぱいあるし、入札抜きのいんちき普請もいくらもある。あるけど、どんな時にも良心の介入する余地はあんだ。だからそうそう悲観したもんでもない。
ひなた はい!
智恵子 でもまあ、ボンクラな良心が台無しにすることもある。
ひなた ガク。台無しじゃないですか。
智恵子 ハハ。じゃあ小屋に戻るか。そこらへんの、運べる?
裏方 大丈夫です。
智恵子 そうだ。歌があんだよ。この緑道の。
ひなた そうなんですか?
智恵子 行くよ。(歌いながら劇場へ)

♪ママ下の沢に乗って海さ連れで行ってよ
 飼い葉の匂いのシャツは陸軍のお下がりでも
 なして 一万年でも耐えて生きてきた
 我が暮らし楽にならざり
 あよ ほうけたおらに着いてくるなよ
 あよ 頬げたちょっぴし張り飛ばしてやんべか この際よ
 用水の土手に植わってた 干ばつに強いイモ

 御殿峠の砂利はぐずぐず崩れてくる
 とうに掘られて流れて海底の泥だけども
 まして 尾根伝いではどこにも行けねえ
 我が暮らし潰えて消えだ
 あよ ほいでも春にはキスゲや鉄線
 あよ ほーえば忘れてる間にネコヤナギ咲く 悪かねえ
 堂山の南に植えだ 虫害に強いトウモロコシ

智恵子 さってと。寝るぞー。
ひなた えー、
智恵子 二日酔いだから。
ひなた お芝居しないんですか。
智恵子 きのうやった。打ち上げで呑みすぎた。
ひなた 智恵さんいつもじゃないですか。
智恵子 いんだよ。たまのお座敷さ。ここんとこ干され気味だから。お役御免のとこ、ふああ(欠伸)、じりじり引き延ばしてる人生だった。なに笑ってんのさ。
ひなた すみません。二ヶ村緑道と一緒だなって。
智恵子 あん?
ひなた 第二の人生。
智恵子 あんた意外と口悪いよね。
ひなた はい?
智恵子 無自覚かよ。
ひなた あ、すみませ
智恵子 いいよ、天駆けて、天下るわ。(寝る)
ひなた 天下りですか。どぶに。
智恵子 ドブって言うな。ドブに生きるのがアンタ、
ひなた ?
智恵子 浪花節さ。
ひなた 人生は!
智恵子 合いの手要らん。ちょっとあれだ、泥の河読んでみ。
ひなた どろのかわ…。
智恵子 知らんの。台本ある?
裏方 あります。
ひなた 冒頭でいいですか。――「堂島川と土佐堀川がひとつになり、安治川と名を変えて大阪湾の一角に注ぎ込んでいく。その川と川とがまじわる所に三つの橋が架かっていた――
智恵子 待った。訛って。
ひなた 訛る。
智恵子 浪花節な。
ひなた ああ。「堂島川と土佐堀川がひとつになり、安治川と名を変えて大阪湾の一角に注ぎ込んでいく。その川と川とがまじわる所に三つの橋が架かっていた。昭和橋と端建新橋、それに船津橋である。藁や板きれや腐った果実を浮かべてゆるやかに流れるこの黄土色の川を見下ろしながら、古びた市電がのろのろと走っていた――
智恵子 待った。ちょっと。だっさ。
ひなた すみません。
智恵子 なんでそんな試し読みなん。
ひなた え。
智恵子 黄土色ってあるやん、ひらのォーうんがのォどすーぐーろーさァー、泥っどろな感じ出してえな。受験の実技で大阪弁やったやん。
ひなた ご存知ですかあ?
智恵子 審査官や。
ひなた えっ。
智恵子 影薄くて悪うござんした! とにかくイッパツで決めえ。あとないで?
ひなた せやな…。
智恵子 実技のやつやり。「メガシャーク、バーサス、ジャイアントオクトパス!
ひなた 「ちょっと。それ説明いらんから
智恵子 「なんで
ひなた 「聞かんでもハナシ分かるわ。あれやろ、巨大ザメと巨大タコが戦んにゃろ
智恵子 「なんで分かた!
ひなた 「分かるわ!
智恵子 それや。じゃ台本。
ひなた 「堂島川と土佐堀川がひとつになり、安治川と名を変えて大阪湾の一角に注ぎ込んでいく。その川と川とがまじわる所に三つの――
智恵子 なんでやねん。なんでやねん。
ひなた なんですか…、
智恵子 あのな。じゃりン子チエでええねん。なんでできひんねや。
ひなた えー、ネイティブじゃないですし…、
智恵子 薩摩隼人のおいどんごわす弁話せって言っとんちゃうで、第二共通語やで大阪弁は。国語審議会には関西支所があんねんで。
ひなた あるんですか!
智恵子 ねえよ。
ひなた くっ、…
智恵子 生まれは。
ひなた 象潟です。
智恵子 じゃ秋田弁で。
ひなた いえ二歳までしかいなくてえ。
智恵子 いいよその記憶で。
ひなた 二歳じゃ人語しゃべりませんから。
智恵子 じゃ何語がしゃべれんだよ。
ひなた はい?
智恵子 できねーのは分かった。じゃあ何ができんの。
ひなた えー、
智恵子 えー、じゃねーよ。そこ、なんかやんだよ。可愛きゃ許されっと思うなよ。
ひなた まあ追い追い。
智恵子 給料も追い追いって書いといて。
裏方 給料も追い追い。
ひなた 待ってそれは!
智恵子 乞食だって芸くらいするぜ。やれねーなら河原から出て行きな。
ひなた 河原。
智恵子 食い詰めもんの野垂れる先さ。だから是政で芝居してんだ。河原乞食になるのかならねえのか、ああッ、今ここで決めやがれィ。
ひなた なりますなります。
智恵子 ハイは一回ね。
ひなた はい!
智恵子 小汚くね。
ひなた …はい!
智恵子 小汚い川つっても知らねーか。どこの流域。
ひなた 象潟川です。
智恵子 二歳じゃしゃーない。地元だと。
ひなた 浅川…?
智恵子 清流じゃねーか。
ひなた 程久保川…。
智恵子 分かる。あたしも原風景引地川だから、コイがいるくらい汚い川って感覚ね。でもコイいんのむしろ上流だから。なんなら上流階級だから。地元のいっちゃん汚い川は何ですか、そしてそれはどこですか。(何人か客に訊き)あんたは。
裏方 猫実川。
智恵子 コイいる?
裏方 イトメメズしかいないっすねー。
智恵子 イトメメズってどんなん。
裏方 こんなです。(やる)
智恵子 ひな。やれ。
ひなた あたしか。(やる)
智恵子 もっと卑猥に。
ひなた ひわい…、(いちおうやる)
智恵子 そのままセリフ。
ひなた 「堂島川と土佐堀川がひとつになり、安治川と名を変えて大阪湾の一角に注ぎ込んでいく。その川と川とがまじわる所に三つの橋が架かっていた。昭和橋と端建新橋、それに船津橋である。藁や板きれや腐った果実を浮かべてゆるやかに流れるこの黄土色の川を見下ろしながら、古びた市電がのろのろと走っていた――
智恵子 はいオッケー。
ひなた …無茶ぶりでしょ!
智恵子 まぁ良かったよ。
ひなた まじか。
智恵子 いいか、河原乞食の演技の基本は「貧困と豊穣」だ。
ひなた 貧困と豊穣。
智恵子 つまり猥雑さってことだ。あんたに日本三文オペラをやろう。
ひなた ブレヒトですね!
智恵子 日本て言ってんだろ。大阪京橋鶴橋駅下車歩いて一〇分の帰り道を千鳥千鳥の足取りで。アパッチよ。
ひなた ビーチャムじゃなく?
智恵子 台本ある?
裏方 あります。
智恵子 二十七ページ。
ひなた あ、すでに付箋が。
智恵子 ハイ読む。
ひなた 「あいつをいてこますのや
「…いてこます? あんなもんがどないしていけまんのや?
「煉瓦をどけてコンクリ叩き割って、ひっ剥がすのやがな
「…!
「汝はシャベル使え
「シャベル?
「煉瓦を食うとれちゅうのや
「…今晩じゅうだっか?
「あたりき
――なんですか、これ。
智恵子 うちで芝居してく基礎練習本。外郎売りだと思ってやんな。
ひなた (パラパラ見て)どこ見てもエモいわ…、
智恵子 分かって入団したんだろ。
ひなた そうですけど、ストリンドベリは。イプセンは。
智恵子 やかましわ。順序があんだよ。
ひなた チェーホフならやりました。
智恵子 「人もライオンも鷲も雷鳥も角を生やした鹿も鵞鳥も蜘蛛も水に棲む無言の魚も海に棲むヒトデも人の目に見えなかった微生物も
ひなた …。
智恵子 続きは?
ひなた …ごめんなさい。
智恵子 無駄なもんは薦めない、えり好みすんな。
ひなた ハイ。
智恵子 かっこいいのやりたい?
ひなた まあ。
智恵子 モテたいの?
ひなた そういうあれじゃ
智恵子 モテたいのかよ
ひなた モテたいです。
智恵子 ようし素直だ。桑田佳祐は言った。ただの歌詞じゃねえかこんなもん。
ひなた は?
智恵子 あのしゃがれ声は、モテたくて潰したんだ。
ひなた わざと。
智恵子 おう。
ひなた 最高ですね! でもなんか政治的なこと言って炎上してたような。
智恵子 だからこそさ。
ひなた だからこそ。
智恵子 いいか、芸は、媚びだ。
ひなた 言い切った!
智恵子 あたしらは共産党じゃないから正しいもんにはつかないんだ。人間のダメさを描くのが演劇だろ。
ひなた 確かに。
智恵子 はした金で権力に買われながら権力と自分を同時に笑うんだ。
ひなた それモテますか。
智恵子 究めるならば。
ひなた かっこいいですかね。
智恵子 下から上まで知ってこそのダンディズムさ。どっちかだけじゃ詩にならないよ。
ひなた なるほどー。
智恵子 生き急いで野垂れ死ぬんだね。死後評価される。
ひなた できれば生前で。
智恵子 いい方法がある。
ひなた はい。
智恵子 死後評価された人を、真似るんだ。
ひなた ――そっか。すごい!
智恵子 ゴッホは売れなかったがゴッホがいなきゃ今の画家たちはいねえ。
ひなた ですね。
智恵子 そこで宮澤賢治さ。





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