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2016年12月27日17:28

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『秘密の愛』

 いつもの私の話とは別設定です。
 偽教皇時代に殺した側近の遺族から責められたサガが斜め上に思い悩んだあげく、正体を隠して男娼に身を落とす話です。モブ雑兵×サガでリアサガでロスサガです。雑兵やアイオリアやアイオロスを相手にしてあんあん言わされるサガさんを妄想したかったんや!
 ニオイスミレは、詩人ピンダロスが「スミレの花冠をつけた名高いアテナイ」と賛歌で歌ったため、古代アテナイを代表する花になりました。スミレは古代ギリシャ語だと「イオン」、現代ギリシャ語だと「ビオレータ」というらしい。後者の方が源氏名っぽいのでこっちをサガの偽名に採用。タイトルはスミレの花言葉の一つです。

『秘密の愛』

 女神アテナと冥王ハーデスの神話の時代から続く聖戦は、ついにアテナの勝利で終わった。しかし冥界の崩壊という戦いの結末は地上にも大きな影響を与え、魂の循環が滞り、冥界から逃亡した魔物や亡者が地上に出没し、様々な異変が現世に現れるようになった。
 このため、アテナとハーデスは講和を結び、地上での怪異に対処するため黄金聖闘士たちが復活することとなった。
 射手座の黄金聖闘士アイオロスは、二十七歳の青年として蘇り、黄金聖闘士の首座として教皇位に就いた。そしてかつて聖域に内乱を引き起こした双子座のサガは、偽教皇時代の経験と見識を買われて新教皇アイオロスの首席補佐官を務めることとなった。
 こうして新しい時代の体制が整った。
 だがこの状況に、心の奥では不満を抑え込んでいた者たちがいた…。

 教皇の職務に一つに、貧しい村や人々を訪れて慰問することがある。その日も教皇アイオロスは首席補佐官のサガを伴って聖域の周辺にある村の一つを訪ねていた。
「教皇様がいらしゃった」
「教皇様だ」
 敬虔で素朴な村人たちが教皇アイオロスの周りに集まってくる。
「教皇様、先月生まれた息子です。どうか祝福をくださいませ」
「娘が学校で賞をもらった絵です。見ていただけますか?」
「教皇様、お花をどうぞ」
 アイオロスは周囲に寄ってくる人々に笑顔を見せた。赤子を抱いて祝福を与え、子供の描いた絵に目を細め、庭で咲いた花を摘んだものと思われるささやかな花束を受け取る。アテナの愛と神への感謝を説き、平和の尊さを語る。アイオロスと隣に立つサガは、二人の訪れを喜ぶ村人たちによってすっかり取り囲まれた。
 だがその時、二人の背後に忍び寄り、歓迎の人々の輪の中から飛び出した者がいた。
「……!」
 殺気を感じ、とっさにアイオロスとサガが振り返った。ショールで身を包んだ中年女性が、ナイフを両手に持って突き出していた。刃先の狙いの先にいるのは、アイオロスではなくサガのほうだった。
 サガは黄金聖闘士らしい機敏な動きで身をかわした。ナイフの刃先が、わずかに彼の手のひらをかすめて傷をつけた。
「サガ…!」
 アイオロスが叫ぶ。
「ああ、大丈夫だ、アイオロス。大した傷じゃない」
 サガが傷を確認して、わずかに流れる血をハンカチで押さえて止血する。すぐに女性は教皇の警護兵たちによって取り押さえられた。
「この女!」
「どこの手の者だ!?」
 彼女を痛めつけようとする警護兵たちをアイオロスが押しとどめる。女性は顔を上げると、憎悪に燃える瞳でサガを睨みつけた。
「…なぜこんな真似をした?誰かに命じられたのか?」
 アイオロスが彼女の前に進み出て、問いかける。
「…命じられてなどいない…」
 女性がくぐもった声を出す。
「その男は、私の息子のかたきだ!その偽教皇が私の息子を殺したんだ!あの子が死んだのに、なのになぜその男はのうのうと生きているんだ!」
「……!」
 女が叫んだ言葉にサガがはっとする。
「教皇の側近に選ばれたと言って…、光栄だとあんなに誇らしげに喜んでいたのに…あんな無残な姿で…!私のあの子を、そこの男が殺したんだ!」
「……」
 女性の糾弾に、サガは蒼白になった。アイオロスも彼女にかける言葉を失った。
「返せ!返せ!私の息子を…返しておくれぇぇぇーっ!」
 女性はそのまま地面に突っ伏して慟哭し始めた。

 サガの意向で女性はその場で解放された。アイオロスとサガはそのまま聖域に戻り、教皇の間にある執務室に入った。だがサガは顔を真っ青にさせて沈んだまま、仕事に手をつけようとしなかった。
「サガ…」
 アイオロスが座るサガに近寄り、肩に手をかける。
「そんなに思い悩むな、サガ」
「だが、アイオロス…」
 サガは体を震わせ、顔を伏せた。
「私は…私は…」
 やがてサガはぽつりと言った。
「私は…蘇るべきではなかった…」
「サガ!」
 アイオロスが叱責するような声を上げる。彼はその場にしゃがみこみ、サガの顔を見上げた。
「サガ、アテナはお前の罪を許され、復活を認められたんだ。それが神々のご意向なのだ。お前でも、異を唱えることは許されない」
「だが…だが…。私が蘇ったのに、私に殺された者たちは死んだままで…。遺族が怒るのも当然だ。私は彼らにどう償えば…」
 うち沈んだサガにアイオロスは諄々と説いていく。
「サガ、お前が過去の罪にあまりに拘泥することは、アテナのご配慮を無にすることになるぞ。お前は双子座の黄金聖闘士としての責務を果たせ。それがお前に課された償いなのだ」
「…それでも、確かにいるのだ。私によって傷つけられた人々が…。償おうにも償えぬことが…」
 サガは震える声で話し続けた。
「私もそう思っていた…。こうして復活して…今度こそ黄金聖闘士としての責務を全うすることが、私の罪への償いになると…。だが…そうではないのだ。黄金聖闘士だなどと…ましてお前の首席補佐官などと…、そんな日の当たる立場にいてはいけないのだ、私は…。そんな栄光ある地位は私にはふさわしくない…。私は…私にふさわしい罰を受けなければ…、もっと汚され、おとしめられなければ…」
 サガの瞳が焦点を失ってさまよい始めた。彼の考えは暗い迷夢の中に入りこもうとしていた。
「馬鹿を言うな、サガ。そんなこと、おれもアテナも、望んではいない」
 震えるサガの手をアイオロスがぎゅっと握る。
「あの遺族の女性には、おれと聖域からもできる限りの見舞いをしよう。だからお前もそんな風に自分を責めるのはやめてくれ」
「……」
 だがサガの瞳に浮かんだ色は納得からはほど遠く、瞳とともに揺れ動く彼の思考は迷妄の闇の中にと分け入ってしまったのだった。

 「プシュケの館」。それはアテネ市内にある酒場兼売春宿だった。店主はニコラオス・カナリスという男で、若いころは聖域で候補生たちの教官をしていたという経歴の持ち主である。
 聖域の住民たちは、古くから聖域に住みついている人々の末裔のほか、現役の聖闘士や雑兵、文官や神官、侍従や女官、退役した聖闘士が定住した者、聖闘士になるのを断念して農業や牧畜などに従事することにした者、などで構成されている。聖闘士が原則として男性を成員にしていることから、外部から入って来る人々は特に若い男性が中心となり、結果として男性の人口が女性よりかなり多くなっている。そして健康で若い男性が多いとなると、彼らの性欲をどう発散させるか、という問題が出てくる。自慰だけでは不満、同性愛での処理にも人それぞれの好みがあり、候補生や女性を襲うなどもってのほか、というわけで、金銭を対価として性の相手をしてくれる存在の需要が常にあるのだった。
 「プシュケの館」は聖域の公営というわけではないが、「遊ぶなら、出来ればあの店で遊んでくれ」という形で暗黙の認可を聖域から与えられている店である。店主が聖域の関係者であり、秘密が保てる、娼婦の健康状態をチェックして「安全」な相手を提供してくれる、妊娠や性病などのトラブルがあっても店の方で処理してくれる、何か事件が起きても店側が聖域に協力してくれる、というわけで、聖域側から高評価を受けている店だ。
 その「プシュケの館」を、ある日、聖域から一人の男性が訪ねてきた。帽子を深くかぶって顔を隠していたそのスーツ姿の男性が開店前の店に入り、かぶっていた帽子を取った時、店主のニコラオスは驚きで目を見開いた。
「これは…サガ様」
 訪問客は双子座の黄金聖闘士で、教皇の首席補佐官を務める人物だった。
「珍しいですな、サガ様がこんな店に来られるとは…」
「…あ、いや、遊びに来たわけではないんだ。ちょっと頼みがあってね」
 カウンター席に座ったサガが向かいにいる店主に話しかける。
「ここで男娼を一人、働かせて欲しいのだ。ただ、わけありでね…。本人が正体を知られたくないので、身元は伏せて欲しいと言うのだ。名前はもちろん、顔も仮面をかぶって隠して客を取りたいとね」
「男娼ですか…」
 ニコラオスはサガの言葉に渋い顔になった。
「まぁ、男娼もうちにはいますから、そこはいいですが…。しかし身元が分からないのは困りますよ。こっちとしても正体不明の怪しい人間を雇うわけにはいきません。それこそ後でどんな問題が起きるか…」
「身元は私が保証する。健康状態もね。私の知り合いなのだ」
「…それに名前はともかく、顔も仮面で隠してとは…そんなんじゃ客は付きませんよ」
「売値は一番安い値段で良いと言っている。事情があって、どうしても身を売りたいと本人が言っているのだ。私も頼まれて困っているのだが…、断れない筋でね…」
「事情ねぇ…」
 この店で働いている者たちは皆それぞれに事情持ちだが、黄金聖闘士で聖域の教皇の首席補佐官を務めるサガがこんなに困ったような顔で頼んでくるということは、よほど深い事情があるに違いなかった。聖域の住人で、急に手元に現金が、それも秘密裏に必要になった人物でもいるのだろうか。考えても、ニコラオスには分かりようもないことだった。
「…まぁ、いいでしょう。他ならぬサガ様の頼みです。そこまで言われるなら、なんとかしましょう」
「助かったよ。では本人を今夜にでも来させる」
 では、と、サガは再び帽子を目深にかぶり、店を出ていった。

 夕刻になり、サガの紹介した人物が店を訪ねてきた。その男は、ストールをマントのようにすっぽりかぶって、身を隠すようにしてやって来た。背は高く、均整の取れた体つきをしていた。緩やかな癖のある黒髪を首筋のあたりで切りそろえている。顔は、鼻から上の部分を金属製の仮面で覆っていた。女性聖闘士が使う仮面と同じ材質だな、と、聖域にいたこともあるニコラオスは当たりをつけた。ということは、やはり聖域の人間なのだろう。
 顔の部分で見えるのは唇から頬のあたりだけだったが、薄い唇は形も良く、店主はもったいないと感じた。あの仮面の下はなかなかの美形だ、顔を隠さなければ客もたくさん取れるだろうにと考えた。何より、色が白くて、肌が滑らかだ。確かに仮面で顔は見えないが、これは体だけでもかなりの上玉だと思った。
 男はサガからの紹介状と健康状態の診断書をニコラオスに提出した。
「週に何日くらい店に来られるね?」
「他の仕事もあるので…、週末が主になると思います。でも出来るだけ来ます」
「こういう店で働いた経験は?」
「…ありません」
「男と寝たことは?」
「…それも…。女性経験も…」
 男の返答に、ニコラオスは「厄介な奴を引き受けちまったなぁ」と改めて頭を悩ませた。童貞で「処女」!?それで身を売りたいとはどういう心境だろう?きちんと客にサービスが出来るのだろうかと、店主として心配になる。紹介をしてきたのがサガだったことといい、よほどこみいった事情があるに違いなかった。
「偽名でもいいが、登録に名前がいるな。名前は?」
「……」
 男は困ったように口をつぐんだ。ニコラオスは本人の代わりに彼に適当な名前をつけることにした。
「じゃあ、「ビオレータ」(スミレ)にしよう」
 その命名の選択に、男は微かに笑ったようだった。
「…古代アテナイを代表する花ですね」
 若いころは聖域にいただけあって、ニコラオスは古典の知識に乏しいわけではなかった。古代ギリシャの詩人ピンダロスの賛歌から、「スミレの花冠をつけた街」が古代アテナイの代名詞になっているのだ。アテナイの守護女神は、もちろんアテナだ。同じくアテナを守護女神にする聖域出身と思われる男娼には似つかわしい源氏名だと彼は思ったのかもしれない。
「何か問題が?」
「いえ、それでいいです」
「ではこちらの書類にサインを」
 こうして正体不明の男を一人、「プシュケの館」は雇い入れたのだった。
 
 「ビオレータ」は店主に言われた通り、男を受け入れる準備を洗面所でした。鏡の前に立った彼は、誰もいないことを確認して仮面を外した。
 鏡に映った「ビオレータ」の顔は、双子座のサガのものだった。
 偽教皇時代に手にかけた者の遺族に責められたことで、「黄金聖闘士や教皇の首席補佐官などという輝かしい地位は自分にはふさわしくない」「もっと陰で、さげすまれ、おとしめられ、汚れて生きるのが自分にはふさわしいのだ」「だが双子座として生きろというアテナのご意向には逆らえない…」とサガは一人で思い悩んだ。そしてもともと歪みやすかった彼の思考は、己の心の迷路の中をさまよったあげく、「正体を隠して男娼となり、聖域の者たちに奉仕しよう」と突拍子もない結論に至ってしまった。
 自分が「双子座のサガ」だと分かってしまえば、遠慮して誰も手を出そうとしないだろう。だからサガはかつらをかぶり、仮面で顔を隠し、名を偽ることにした。そうして名もない男娼として、聖域の下位の者たちの性の快楽の処理道具となること。それが罪で汚れた自分にふさわしい、汚らわしい罰なのだと、サガは思い込んだのだ。
「早く…私を汚してくれ。汚れた私にふさわしいように…」
 鏡に映る自分に向かってそうつぶやき、サガは再び仮面をつけた。

 「プシュケの館」は一階が酒場兼ロビーになっており、店に登録された娼婦や男娼はそこで客の声がかかるのを待つ。指名されれば、店の外に客と出かけることもあるが、二階は個室が並んでいるので、その個室に入って客と過ごす。時間は二時間と決まっていて、望めば別料金を払って時間延長ができる。客が帰った後は、使用した個室は清掃され、店員は再び一階に戻って別の客の指名を待つ、という形式だ。
 この店の常連客には聖域の男たちが多い。その夜やって来たアギスという男も、聖域での雑兵の部隊長の一人だった。
「新顔がいるな」
 アギスはカウンターでバーボンを飲みながら、顔なじみの店主ニコラオスと話した。アギスが視線を向けたのは「ビオレータ」だった。
「なんだありゃ?仮面?」
「身元を明かしたくないって言って、仮面をつけてるんですよ。でも珍しいですよ。ギリシャ人です」
「へぇ…」
 アギスは半信半疑で相槌を打った。ギリシャで働いている娼婦は東欧やアフリカからの移住者が多く、ギリシャ人はほとんどいない。また男性が性転換した「女」だったりすることも多い。
 さらに店主は声をひそめてアギスにささやいた。
「おまけに『処女』だそうですよ」
「…本当か?」
「自己申告なので、どこまで本当かは。でもギリシャ人なのは確かみたいですよ。綺麗なギリシャ語を話します」
「また処女が何を考えてだか…」
「さあねぇ。よっぽどこみいった事情があるんでしょうねぇ」
 グラスを拭きながら、店主が尋ねる。
「…やめますか?」
「いや、面白そうだ」
 グラスを置いてアギスが席を立った。「ビオレータ」に近づき、声を掛けると、相手はうなずいて席を立った。
「二〇五号室を使ってください」
 フロントで鍵を受け取り、二人は二階の個室に消えた。

(以下はR-18なので割愛)

完全版はこちら。pixiv掲載でR-18
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後編http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7793721
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