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2018年11月27日17:34

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『月下の誓い』

 2018年のロス誕作品です。
 聖戦後復活設定でロスサガ。アイオロスへの誕生祝いとしてサガがウェディングドレスを着る羽目になる話です。今年のラダ誕(『花婿にウェディングドレスを』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10243602)とネタがかぶってしまいましたが、今年は本当にラダ誕とロス誕のネタが思い浮かばなくて…。
 双子たちのオリジナル子供時代設定は『雪解け』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3484101を参照。
 アケローオス河神については『ハルモニアの首飾り』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947『ドナウの白波 黄金の酒』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4939909『セクアナの泉』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4970379を参照。
 『寝室のドレスコード』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950098945&owner_id=4632969では双子たちに女性用下着を着させてるし、アケローオス河神は結構コステュームプレイが好きなのかもしれないという疑念ががが…。
 アイオロスがサガに結婚指輪を贈った話はこれ。『リング』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8302436
 去年のロス誕はこちら。『不変の愛』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8919492

『月下の誓い』

 それは11月の初めのことであった。
 大洋神オケアノスの長子にしてアテナの母方の伯父であるアケローオス河神が、聖域を突然に訪ねてきた。彼はサガとカノンが幼い頃に二人の養育に関わった過去があり、ひょんなことから双子たちと再会した後は「兄代わり」として彼らとの親交を続けていた。
 そしてこの日、聖域を訪ねたアケローオス河神は十二宮を昇って教皇の間で教皇アイオロスと首席補佐官を務めるサガに面会すると、こう切り出した。
「教皇、11月30日はお前の誕生日だそうだな」
「よくご存じですね、アケローオス様」
 言われたアイオロスは驚いて目を見開いた。サガとカノンの誕生日ならいざ知らず、自分の誕生日まで河神が把握しているとは思わなかったのだ。
「この前、サガと話してな。お前の誕生日に何か贈り物をしたいのだが、何を贈ったらお前が喜ぶのか分からないとサガが悩んでいたのだ」
「ははぁ…」
 どういうシチュエーションで二人がそういう話をしたのかは、アイオロスはあえて考えないことにした。
「で、おれが一肌脱いで『誕生日の贈り物』をプロデュースしてやろうと思ってな」
 そう言ったアケローオス河神は懐から一冊のスケッチブックを取り出すと、アイオロスに渡した。
「娘たちが描いたデザイン画だ。好きな衣装を一着選べ。娘たちに作らせて贈らせるから、それをサガに着せて楽しむがいい」
 スケッチブックを受け取ったアイオロスは、最初のページを開いた。
 そこには、バニーガール姿のサガの鉛筆画が描かれていた。
「……」
 次のページをめくると、そこにはメイド服姿のサガの絵があった。それもきわどいミニスカートと黒いニーハイソックスでぎりぎりの絶対領域を攻めた挑戦的な代物である。
 次のページには、これまた下着が出そうなミニスカートのナース姿のサガがあった。そして次にはミニのタイトスカートに網タイツをはいたスチュワーデスの衣装のサガが、そしてその次のページには腰までスリットが入って股間がチラ見できそうなチャイナドレス姿のサガが…と、スケッチブックに描かれていたのは、いずれも明らかに劣情をそそることを目的としたコスチュームプレイ用の衣装を着たサガの姿であった。
「な、な、な…」
 アイオロスの傍らに立ってスケッチブックを一緒に見ていたサガは、ページがめくられるたびに顔を赤くしたり青くしたりして、せわしなく顔色を交互に点滅させた。
「なんですか、これはーっ!?」
 サガの絶叫にも一向に動じず、アケローオス河神は真面目な顔で答えた。
「いや、マンネリズムを防ぐためにも、たまにはこういうお遊びもいいのではないかと思ってな」
「何を真面目な顔でふざけたことを…!」
 アケローオス河神を怒鳴りつけたサガは、次に身を乗り出してアイオロスに詰め寄り、念を押した。
「アイオロス!こんな馬鹿な提案、受けないよな!な!?」
「……」
 しばらくスケッチブックを黙って見ていたアイオロスだったが、やがて「がたっ!」と勢いよく音を立てて立ち上がると、力強く言った。
「アケローオス様!」
「うむ」
「素晴らしい提案です!あなたは最高の神だ!」
「アイオロスゥゥゥーッ!」
「おお、お前ならそう言ってくれると思ったぞ、教皇!」
 蒼白になったサガの絶叫をよそに、喜色満面のアイオロスは踊り狂わんばかりを興奮を示した。アケローオス河神が親指を上に突き上げて拳を握って「グッド」のジェスチャーを取って見せる。
 お前も根がスケベだからな、とは、あえてアケローオス河神は言葉には出さなかった。もっとも河神だって他人のことがどうこう言えるほど清い生活をしているわけではないが。
「ちなみにおれの推しはこの日本のキモノだ。体の線がいっさい出ないストイックな衣装でありながら、ほのかに露出した首筋などに漂う色香が素晴らしい。それに帯をほどきながらくるくると体を回して衣装を脱がせつつ、『よいではないか、よいではないか』なんて言うお遊びもできるぞ」
「ふんふん」
「アケローオス様!アイオロスに変な知識を吹き込まないでください!!!」
 だがサガの抗議など耳に入らぬ様子で、アイオロスはスケッチブックをのぞき込みながらのアケローオス河神の解説に熱心に聞き入った。
 やめさせようとするサガの制止の声をよそに、スケベな男二人は、数々の衣装のデザイン画を眺めての物色を続けた。やがてあるページを開いた途端、
「あ!」
 と、アイオロスはひときわ大きな声を上げた。
「アケローオス様、おれ、これがいいです!これにしてください!」
 アイオロスが指さしながら熱心に頼み込む。そこに描かれていたのは、ロングドレスに頭からベールを付けてブーケを手にした、つまるところウェディングドレスを着たサガであった。
「ああ、これか…」
 スケッチブックを受け取ってそのページを眺めると、アケローオス河神は了承した。
「いいだろう。お前の誕生日までには作らせて届けさせる。オプションとして女体化はいるか?」
「馬鹿なことを言わないでください、アケローオス様!」
「あ、それはいいです」
 サガの叫びとは無関係に、アイオロスはあっさりとその提案を却下した。アケローオス河神はさらに続けて尋ねた。
「教皇、お前の衣装はどうする?お前のタキシードもついでに作らせようか?」
「え?」
 きょとんとした顔になったアイオロスに、アケローオス河神が言う。
「どうせお前のことだ。『アテナ神像の前でサガと結婚式をあげて永遠の愛を誓うぞー』とか考えているんだろ?」
 バレテーラ。
 頭の中を見透かしているようなアケローオス河神の言に、アイオロスは居心地悪そうに視線を伏せた。
「あ…それはいいです。白い法衣で代用しますから…」
「そうか。じゃあ、届くのを楽しみにしていてくれ」
「はい!首を長くして待ってます!」
「アイオロスーッ!アケローオス様ーッ!」
 こうしてスケベな男二人は嫌がるサガの悲鳴と意見を無視して勝手に話をまとめ、アケローオス河神はアイトリア地方のアへロオス河の河底にある自分の館にと帰っていったのだった。

 そして教皇アイオロスの誕生日当日になった。
 聖域の最高位であるアイオロスの誕生日は、聖域全体を上げて祝う祝祭となっている。
 教皇の生誕を祝う特別な礼拝や、女神アテナに感謝を示す犠牲式や、聖域の住民たちを招いての立食パーティーや、アイオロス自身によるスピーチや、祝いのための競技会や、黄金聖闘士たちが列席しての公式晩餐会や、とにかくアイオロスにとってはしち面倒くさいだけの儀式で朝から晩まで彼の予定は埋まっていた。ゆっくりと誕生日を喜ぶどころではない。
 その多忙な一日を、アイオロスは、
『夜になればサガと結婚式、夜になればサガと結婚式、夜になればサガと結婚式…』
 と、それだけを念じて、数々の儀式を耐え忍んだ。意識がおろそかになってスピーチをとちらなかっただけ、大したものである。
 そして黄金聖闘士たちとの晩餐会も終わり、深夜になってようやく聖域に静寂が戻ってきた。
 私室で白地に金糸の刺繍を施した法衣に着替えたアイオロスに、扉をノックする音が聞こえた。
「アイオロス、私だ」
 サガであった。
「ああ、サガ」
「…着替えてきた。入っていいか?」
「うん!」
 静かにアイオロスの私室の扉が開かれる。そこには、純白のロングドレスをまとったサガの姿があった。
 上衣は百合の意匠をほどこした総レース作りで、レースを重ねた袖が手首までゆったりと腕を覆っている。首はハイネックで、露出の一切ないデザインはサガの清麗な美しさを際立たせるようだった。スカートは模様のないシンプルな白絹で作られ、マーメイドラインのロングスカートは後ろに長く裾を引いた優雅な作りだった。頭には右側に白百合の造花を飾り、それに続く繊細な銀のティアラが輝きながら百合を織り出した長いベールを押さえている。そして腕には白百合を束ねたアームブーケを抱えていた。
 着替えの際に「女官に手伝わせようか?」とアイオロスは申し出たが、「こんな格好を他人に見せられるかーっ!」と、サガは首席補佐官たる自分の控室で四苦八苦しながらも、届けられたこのウェディングドレスに何とか独力で着替えたのだった。
「ああ、サガ…」
 百合の意匠で統一された純白のウェディングドレスをまとったサガは予想以上に美しく、白百合の女神か化身のようで、アイオロスは拳を胸の前で組み合わせて賛嘆の息を吐いた。
「綺麗だよ、サガ。こんな綺麗な花嫁さん、見たことがない」
「……」
 アイオロスの賛辞にも、サガは憮然とした表情を崩さなかった。
「まったく、何で私がこんな姿を…」
 ため息をついて、サガが言う。
「アイオロス、結婚式を挙げるというが…法的には何の意味もないのだぞ?聖闘士は妻帯を禁じられているし、ただの真似事にしか…」
「いいじゃないか、真似事でも。おれがアテナの前でサガに永遠の愛を誓いたいんだよ」
 そしてアイオロスはサガの手を取った。
「さあ、サガ。アテナ神殿に行こう」
「…うん」
 そして二人は人気のない廊下をひっそりと進んでアテナ神殿に昇り、アテナ神像の前に立った。
「ああ…。本当はアテナや黄金聖闘士たちにも列席してもらって、おれとサガの結婚の証人になってもらいたいんだけどなぁ…」
 ため息交じりに言ったアイオロスを、サガが一喝する。
「馬鹿を言うな!こんなふざけた姿をアテナや黄金聖闘士たちに見せてたまるか!」
 「アイオロスへの誕生日の贈り物」と称して女装をさせられたサガは、その不本意な成り行きにぷりぷりと腹を立てているのだった。
「そう言ってサガが嫌がるから〜。だから物足りないけど、二人だけの結婚式にしたんだよ。ほら、機嫌を直して、サガ。アテナの御前だよ?」
 アテナ神像を見上げたアイオロスは、視線を落とすと以前にサガと自分のために購入した結婚指輪を取り出した。
「ここに教皇アイオロスはアテナに誓う。双子座のサガを我が伴侶として、良き時も悪しき時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、いつ何時であれ共に歩み、死が二人を分かつまで、サガを愛することを誓う。永遠に、誓う…」
 そしてアイオロスはサガの右手の薬指に結婚指輪をはめた。
「…私もアテナに誓う。双子座のサガは、射手座のアイオロスだけを永遠に愛し、彼を支え、守り、生涯を共にすると…」
 サガもアイオロスの右の薬指に指輪をはめ、二人は互いを伴侶とし、永遠に愛し合うという、二人だけの誓約を交わしたのだった。
「アテナと、月と、星がおれたちの証人だ。愛してるよ、サガ。おれが愛するのは、お前だけだ」
「私も、お前だけを愛してる、アイオロス。今度こそ、今生こそ、死ぬまでお前と一緒だ…。ずっとお前の側にいる…」
 そうして二人はそっと誓いの口付けを交わした。
 アテナ神像と、月と、星々だけが、静かに二人を見守っていた。

<FIN>

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