ギリシャ神話の英雄アルクマイオンとアケローオス河神の娘カリロエの話です。
キャラは『星矢』の二次創作と共通ですが、この話自体は『星矢』の二次創作ではないです。
この二人の話は『ハルモニアの首飾り』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947でもちょっと触れてます。
舞台になっている時代はミケーネ時代をイメージしてます。古代ギリシャの衣装と言うと、一枚布を体に巻いてブローチで留めるキトンを連想しますが、ミケーネ時代の衣装は、男性は幅広のチュニック、女性(宮廷の貴婦人)は体にぴったりと縫製した上衣に、腰をガードルで締めて、パニエを入れた釣鐘型スカートという衣装です。具体的にはこんな感じ
https://lemonodaso.exblog.jp/iv/detail/?s=29644131&i=201807%2F10%2F96%2Fc0010496_20272979.jpg ミノア文明の影響ですね。ついでに建物の内装もミノア的です。
作中でアルクマインが「魚を食べたことがない」と言ってますが、『オデュッセイア』では英雄たちがメインに食べるのは肉で、魚はよほど困窮した時の食事という扱いです。ただし実際のミケーネ社会では魚やタコの絵を描いているので魚介類を食べたんじゃないでしょうか。また『イリアス』『オデュッセイア』では当時は武人が領主として支配する封建社会のような描かれ方をしてますが、出土した粘土板からうかがえるミケーネ社会は、王とその配下の官僚たちが収税と再分配を行うメソポタミア文明に類似した社会でした。
まあ、正確を期すなら、アポロン神はミケーネ時代には存在しないんですけどね…。この頃のアポロンは「ウィルサ(Wilusa)」で「アパリウナス(Apaliunas)」という神をしてたかもしれない。
にしても、古代ギリシャ人も「暗黒時代」の間に、線文字Bの存在とかヒッタイト帝国の存在とか、色々と忘れちゃったんだなぁ…。
『河神の娘の物語』
いまだ神々や妖精(ニンフ)が時に地上に現れていた時代の話。
ギリシャ北西部を流れるアケローオス河の神の娘、河の妖精(ネレイス)の一人であるカリロエは、地上に姿を現して姉妹たちと春の河畔で花摘みをしていた。
スミレにクロッカス、水仙にヒヤシンス、アネモネに早咲きの野薔薇…ニンフたちは色とりどりの花々を摘んで籠に入れ、お互いの花摘みの成果を競った。
白いヒナギクを摘んでいたカリロエは、花を束にして暗緑色の自分の巻き毛に飾ってみた。河面にその姿を映し、にっこりと笑顔を作ってみせる。
その時、短い悲鳴が上がった。
「どうしたの?」
カリロエが声の方向に目を向ける。
「皆、こっちに来て!」
一人のニンフが姉妹たちを手招きする。彼女の足元では灰色に薄汚れた外套が草むらに打ち捨てられて、小さな隆起を作っていた。
隆起に近寄ったカリロエは、おそるおそる、外套の端を引き上げてみた。布の下から、土ぼこりで汚れた若い男の顔が現れた。倒れている男は、意識を失っているようだった。
「人間の、男の人…」
おびえた色を見せるニンフたちの中で、カリロエは黒髪の男のその端正な横顔にじっと見入っていた。
「…あのね、お父様…」
己の河の河畔で釣り糸を垂れていたアケローオス河神に、娘のカリロエが背後から声をかけた。控えめでいて、それでいて甘えのこもった声。
カリロエがこういう声を出すのはどういう時か、父の河神はよく知っていた。傷ついた野兎の仔とか山猫の仔を見つけて、拾って世話をしたい、と、父神におねだりする時の声だ。
「今度は何を拾った、カリロエ?また兎か?」
赤色と黄色で染められたチュニックをまとい、紺青の髪を持つ青年の姿をしたアケローオス河神が、振り向きもせずに娘に問う。
「ううん」
「なら、鴨の雛か?」
脇に置いた皮袋を取り上げて中の葡萄酒を一口飲み、河神が振り向いた。
「違うわ。これ…」
カリロエが示したのは、外套にくるまれた若い人間の男だった。気絶している男を、ニンフたちは外套に包んだまま父の元まで運んできたのだ。
娘たちが見つけて拾ってきたものの正体に、「ぶーっ!」とアケローオス河神は葡萄酒を口から噴き出した。
「ね、お父様…」
上目遣いでカリロエが父神を見る。
「…元いたところに捨ててきなさい」
葡萄酒で汚れた口元をぬぐうと、河神は冷たく言い捨てた。その答えにカリロエは声を荒げた。
「ひどい、お父様!このまま捨てたら、死んじゃうわ!」
「いいから!」
「でも…」
「でもじゃない。そもそも、生き物の営みにおれたちが介入するものじゃない。いつも言ってるだろう」
「だって、可哀想だわ」
カリロエは男の傍らに座り込むと、意識を失っている男の体に手を置いた。
「ね、お父様、お願い。この人のお世話は私がするわ。お父様には迷惑はかけないから…」
「だからだな…」
「お願い、お父様。ね、ね、いいでしょう?」
カリロエは瑠璃色の大きな瞳を潤ませ、父神に嘆願した。
「……」
渋い顔をしたアケローオス河神は倒れている男に近づき、乾いた泥のこびりついた顔を見た。
「…この男は…」
小さく呟いた後、河神は沈黙して何事かを考え始めた。
「お父様、お願いよ。彼を助けてあげて」
嘆願を続ける娘に、河神はやがて小さくため息をついて言った。
「…あちらに漁師たちの使う小屋がある。そこに運んで介抱してやれ」
「お父様、ありがとう!」
笑顔になったカリロエは父神に抱きついて謝意を示した。
「まったく…どうなってもおれは知らんぞ」
甘える娘の背を抱きながら、アケローオス河神は苦々しく言ったのだった。
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