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2017年11月19日02:34

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『教皇様だって苦労してるんです』第2話

『教皇様だって苦労してるんです』第2話

「…という謀議をしている連中がいるようなんだ」
 アイオロスの誕生日の当日、様々な行事の間に教皇の執務室に呼ばれた魚座のアフロディーテは、アイオロスからこのような打ち明け話をされた。
「ははぁ…」
 紅茶を飲みながら、アフロディーテが相づちを打つ。
「あなたも意外に苦労してるんだね。美男美女を侍らされたり、夜伽を差し向けられたり、媚薬まで使われたり…」
 華麗な美貌に反して真面目で潔癖な性格を持つ魚座の黄金聖闘士は、秋波を向けられまくっているアイオロスの状況を羨ましいとは少しも思わなかった。
「…ったく、勘弁して欲しいよ。おれとサガとの仲なんか放っておいてくれたらいいのに…。気を回し過ぎなんだよ。教皇庁内のこんな実情がばれて、おれがサガに嫌われたらどうするんだ、まったく…」
 ため息混じりにアイオロスが愚痴る。
「かといって内容が内容なだけに、サガにも相談しにくくてさぁ。サガのことだ、自分がそんなに教皇庁の人間に嫌われているなら、いっそ身を引いた方がおれのためじゃないかと悩みかねないしね。おれとしては、サガには教皇の間に部屋を用意するから、ここに住み込んでもらって、ずっとおれと一緒に過ごしてもらいたいくらいなのに…」
「いっそそうしたら?サガを双子座と首席補佐官の役から解任して、完全にあなたの私的な愛妾って扱いにしたら、連中の反感も収まるんじゃない?」
「それも魅力的な提案だけど、サガがうんと言わないんだよ。アテナの聖闘士して生きるのが自分の償いであり義務だとサガは思っているからね」
「なら、そのサガに反感を持っている連中を首にして、あなたとサガに忠実な人間に入れ替えるのは?」
「そうしたいのは山々だけど、そうなると、教皇庁の主要な人員の半分は入れ替えないといけなくてね。代わりの人材も簡単には見つからない状況で首を切っても、教皇庁の内部が回らなくなるんだよ。それにその連中も、おれに悪意があってやってることじゃないからね。むしろ忠誠心と誠意が動機なだけにやりにくくて…」
「ふーん…」
 かちゃん、と、アフロディーテはティーカップをソーサーに戻した。
「…で、私を呼んで、こんな打ち明け話をしたわけは?その連中を私に粛清して欲しいとか、脅して欲しいとか言うわけ?」
「そんなことはしない」
「じゃ、私に何をして欲しいの?」
 アイオロスが居ずまいを正して話し出す。
「…おれは考えたんだ。反サガ派の連中がやきもきしてるのは、サガがおれの寵愛を独占していることに一因がある。それで、おれがサガに籠絡されて言いなりになるんじゃないかとな。つまり、おれとサガの間にもうちょっと距離ができれば、あいつらもそれなりに安心すると思うんだ。本心では、サガを遠隔地に流刑にして、そこに監禁でもしたいと思っているにしてもだ」
「つまり?」
「だから、サガ以外におれの寵愛の対象があれば、あいつらもやかましく言わなくなるんじゃないかと思ってな」
「……」
 アフロディーテは嫌な予感に眉をひそめた。
「そこでだ!アフロディーテ、今夜からおれの寝室に泊まりに来てくれ!」
 アイオロスの頼みに、アフロディーテは身動き一つせず黙っていた。
「いやいや、何も本当に夜伽をしろというんじゃないぞ!本当に、ただ寝泊りするだけでいいんだ。何日か続けてお前に泊まってもらって、それで、お前が新しくおれの愛人になったという噂を立てる!そうしたらおれとサガとの間に距離ができたと、反サガ派の連中も安堵するはずだ!」
「……」
「もちろん、サガに誤解されては困るから、サガにはあらかじめ事情を話しておいてだな…。理由を知ったらサガは落ち込むかもしれないが、サガだって教皇庁内の反サガ派の反感を解消することが、自分のため、そしておれのためになると分かるだろう?」
「……」
「おれだって、本心を言うなら、サガには毎晩でも教皇の間のおれの寝所に泊まって欲しいんだぞ!でもあいつは、仕事に差し支えるとか、公私混同はよくないとか、周囲の目がどうこうとか言って、週に一、二回くらいしか泊まってくれないんだよ。だからサガのいない他の夜に、お前に泊まりに来てほしいんだ、アフロディーテ。そうしたら夜伽に押しかけてくる連中も排除できるしな!」
「……」
「アフロディーテ、お前はサガの一番の信奉者だろう!?サガのために、おれに協力してくれるよな!な!?」
「……」

 執務室の前を通りがかったサガは、アフロディーテが部屋から出てくるのを目にした。
「アフロディーテ、アイオロスとの話は終わったか?」
「ああ、サガ」
 アフロディーテは華やかな美貌ににこやから笑みを浮かべて、サガに言った。
「サガ、アイオロスは晩餐会までの間、一人で休憩したいってさ。それまでは誰も入れないでくれって言ってた」
「そうか」
「サガ」
 そしてアフロディーテはサガの両肩をパンと力強く叩いた。
「負けちゃダメだよ、サガ!」
「あ、ああ…」
 意味がよく分からぬままサガはうなずき、アフロディーテと別れたのだった。

 やがて晩餐会の支度をするためにアイオロスを呼びに執務室に入ったサガは、そこでデモンローズに埋もれて瀕死の状態になっている教皇アイオロスを発見することになる。

<FIN>

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