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2016年12月01日04:24

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『呪いのホテル』第1話

 2016年ロス誕作第二作目。『接吻』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1957098928&owner_id=4632969があまりに小品だったのでもうひとつ書きました。
 「たまには実戦がしたい!」というアイオロスの要望に応えて、泊り客が連続して昏睡状態になっているというアテネ市内のホテルの調査を行うことにしたアイオロスとサガだが…。
 相手に実体がないのでサガは童貞のままということで、念のため。


『呪いのホテル』第1話

 十二月一日である。己の誕生日の翌日も、教皇アイオロス様は書類整理に追われていた。
「…だ」
「え?」
 微かに聞こえた声に、首席補佐官のサガがいぶかしげな声を上げる。
「もういやだーっ!」
 突然、アイオロスは席から立ちあがり、「うろたえるな小僧ーっ!」方式で机上の書類を上に投げ飛ばした。はらはらと執務室の中に白い書類が幾枚も舞い散る。
「お、おい、アイオロス…」
「もう書類はうんざりだーっ!おれも他の黄金連中のように、魔物退治とかして派手に暴れたいーっ!」
 聖戦後、冥界の崩壊に伴って地獄に封印されていた魔物や亡者たちが解放され、地上で暴れるようになった。そのために復活した黄金聖闘士たちは彼らの討伐や捕獲で大わらわで世界中を飛び回っているのだが、教皇たるアイオロスはというと、聖域の行政を処理したり、貧しい村々を慰問したり、支援者たちと会合をしたり、と、戦闘とは無縁な日々を送っているのだった。
 好きでもない事務仕事が連日続き、とうとうストレスが頂点に達してしまったアイオロスはやけくそのように叫んだ。
「サガ、おれに体を思いっきり動かせるような仕事をさせてくれ!」
「アイオロス…」
 切れたアイオロスにため息をつき、サガが散らばった書類を拾い上げる。
「それなら、私とお前で模範試合でも開催するか?」
「それも悪くはないけど…。おれは、実戦がしたいんだよ!こう、緊張感?のある戦闘がさぁ!」
 びし!びし!とアイオロスが拳を交互に突き出す。
「しかし…仮にも教皇が…」
「このままじゃ体だってなまる!手近なところで、こう何かないか?日帰りか一泊二日で帰れるような、おれが戦える仕事が!」
「そう言われても…」
 とはいえ誕生日翌日でもあるし、愛するアイオロスのわがままを少しくらいは叶えてやりたいと思い、サガは書類をめくって調べた。聖域に依頼された魔物退治の要望書や、冥界が崩壊してから地上のあちこちで起きている異変について聖域が独自に調査した報告書をまとめたファイルである。
「…ああ、これなどはどうだろう?アテネ市内だから一日か二日で何とかなりそうだ」
 やがてサガは一つの案件をピックアップした。

「こちらです」
 ホテルのオーナーがアイオロスとサガを一つの客室に案内した。
 「実戦がしたい」というアイオロスの要望に応えて、仕事を調整したサガはアイオロスと二人でとある聖域外での任務につくことにした。平服に着替えた彼らが訪ねたのは、アテネ市内にある二十部屋ほどの小さな古びたホテルだ。
「この二〇三号室です。ここに泊まった客が連続して昏睡状態になって救急車で搬送される事件が起きているのです」
 扉を開け、シングル用の小さな客室に二人は入った。
「原因も全く不明でして…。こうなるとこの部屋に客を泊めるわけも行かず…。それにネットでは『呪われたホテル』などという書き込みもされていて、客足が遠のいて困っているのです」
 この怪奇現象に弱ったオーナーが神父に相談し、その神父が聖域関係者だったことから、聖域に調査依頼が来たという次第である。
「これといって異常は感じないが…」
 部屋を見回してサガが呟く。
「よし。じゃあサガ、おれが今夜はここに泊まるよ!」
 張り切ったようにアイオロスが言った。
「馬鹿を言うな!教皇たるお前に何かあったらどうする。私がここに泊まる。お前は隣の部屋に泊まって、異変が起きた時に備えてくれ」
「ええ〜?」
「ダメと言ったら、ダメだ」
 こうしてその日は問題の部屋にはサガが泊まって異変を探り、アイオロスはマスターキーを持って隣室で待機することにした。

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