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2016年04月30日21:09

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お題11『なやみムヨウ』 タイトル『液状の波に乗れ』

 ※18歳未満の方、ご遠慮下さい。きわどい描写が多々あります。今までの作風が好きな方、ごめんなさい。エロが嫌いな方は読まない方がいいかもしれません。
 
 ※この短編小説には四つのお題があります。『双眼鏡』『10円玉』『おつまみ』『液状のり』の言葉がキーワードとして使われます。それではお楽しみ下さい。



「じゃあ自己紹介を始めようか」
 そういったのは目の前の大柄な男だ。ここに集ったメンバーは全員初対面なので、彼のように一言いって貰えるだけで会議が進行できる。
「俺は四谷、フリーライターだ、よろしく」
「よろしくお願いします」
 俺達は皆、頭を下げる。皆気合が入っている顔をしている。そうだろう、俺達には後がないからここに呼ばれているのだ。
「えっと、じゃあ俺も自己紹介させて頂きます」俺は手を上げていった。「鈴木一郎です、一郎で構いません。少年漫画書かせて貰ってます」
「よろしくお願いします」
 皆が俺を見て頭を下げる。男性が一名、女性が二名。全部でこの会議室には4名座っている。
「じゃあ次は私ね」そういってスタイルのいい女性が手を上げた。「私は葵双葉(あおい ふたば)といいます。今回は……私の漫画、皆さんよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
 俺達は自分の漫画を批評して貰うために集まったわけではない。今日は彼女が書くエロ漫画のシナリオを考えるために集まっているのだ。
 最後に清楚な女性が席を立った。
「えっと……私は綾辻三咲貴(あやつじ みさき)といいます」少女が顔を赤らめて続けた。「私は少女漫画を書かせて頂いていて……こういう企画初めてで……正直いって恥ずかしいですけど、頑張ります」
 何も恥じることはない、と俺は思った。俺たちは皆、売れない漫画家なのだ。売れるためにベストを尽くす、そういう名目の元、ここに集まっている。
「じゃあさっそくお題をここに並べるぞ」
 四谷はそういって四つの紙を取り出し机の上に並べた。そこに並べられたのは『双眼鏡』、『10円玉』、『おつまみ』、『液状のり』だった。
「今ここに四つのお題がある。これを全て組み込んでエロ漫画を描く、ということになっている。皆、それは理解しているな?」
 四谷以外の全員が頷く。
 俺たちはジャンルが違えど、一人の創作者だ。例えエロ漫画を描くことができなくても、アイデアを出すことはできる。
 俺達を拾い上げてくれた編集者・なやみムヨウさんの好意を無駄にするわけにはいかないのだ。
「じゃあ、意見のある者がいれば手を上げてくれ」
 始めに手をあげたのは双葉さんだ。やはり自分の漫画だ、俺達よりも気合が入っているの当然だろう。
「『双眼鏡』を使って覗きをするシチュエーションからスタートするっていうのはどうですか?」
「甘いっ」四谷がするどく突っ込んだ。「そんな当たり前のストーリーから始まってエロ漫画を読もう、という奴がいるか?エロを舐めるなよ」
 四谷の顔が真剣になる。彼のいっていることは的を得ているなと俺は思った。エロ漫画なのだから、エロが発生するのは当たり前だ。少年漫画でバトルが発生するように、少女漫画で恋愛がスタートするように各自、雑誌には目的がある。
「……そうだな。俺ならば『10円玉』からスタートするな」四谷は顎に手を載せていった。「まず色んな方法があると思うが、せっかく四人いるんだ。物語は起承転結、お題は四つ、後はわかるな?」
 ……なるほど。
 俺は彼の言葉の意図がわかった。お題となるものを一つずつ、用いて起承転結を作ればいいといってるのだ。要はその組み合わせを各自、話していけばいい。
「だからだ。まずは一つずつ消去法で考えていけばいい。『双眼鏡』が安直なら、『10円玉』だ。『10円玉』で連想されるものは皆が確実に知っていること、金額が少ないこと、コックリさんなどで使う特別の儀式なんかも考えられるな。10円の表には稲穂、裏には平等院鳳凰堂がある」
 彼の説明に下を巻く。反論の余地はない。
「おい、一郎。お前なら『10円玉』で何を連想する?」
「俺ですか……んっと」俺は考える。金属は銅、茶色、1と0、丸い、コイン……。色々あるが、彼のようにイマジネーションに繋がるものは少ない。
「どうした?何も思いつかないか?」彼の目に光が宿る。
「はい、私、思いつきました」少女漫画家の三咲貴がいう。「『10円玉』で乳首を隠しているヒロイン、というのはどうでしょうか」
「それだっ」四郎が唸った。「エロ漫画に置いて重要なのはそういう発想だ。誰が『10円玉』を乳首につけるだろうか、実際にいるやつはいないだろう。だが漫画は創作だ、リアリティを感じれればそれでいい。乳首に『10円玉』をつける、それは面白い。しかしなぜ『10円玉』をつけているのか、ということが重要になる」
 ……確かに、その発想は盲点だ。
「それに対して案があります」俺は手をあげていった。三咲貴にだけいい格好はさせられない。「メインの二人の乳首に『10円玉』をつけて、お金が足りない状況を作ります、その時、ここから払うというのはどうでしょうか?」
 人と人の繋がりはまず自分との共通部分からなのだ。知らない人物と知り合ったとしても、これで共感できるだろう。
「うーん、違うな」四谷は顔をしかめながらいった。「それだとこの世界では皆、乳首に『10円玉』をつけることになる。男か女、今回の場合は男性向けエロ漫画だから、女がつけている方がいいだろう。自分がつけていたら違和感しかないからな。問題はなぜ女が乳首につけているかだ」
 ……その通りだ。
 俺は心の中で自粛した。彼のいう通り、物語、特にエロ漫画のような短編では登場人物が少ない。その主格の二人が乳首に『10円玉』をつけていたらそういう世界なのだ、と認識されてしまう。
「思いつきました」三咲貴が席を立っていう。「彼女はテニスをしていますが、ニプレスを忘れました。だから仕方なく持っていた『10円玉』で隠した。どうでしょうか?」
「それだっ」四谷が再び唸る。「そういうことだ。なぜ『10円玉』ではないといけないのか、そこが一番重要になる。1円と100円なら銀色で肌色にはならないしアクセになってしまう。5円玉は光が強く穴が開いている。500円では大きい、50円では見える。だからこそ10円だという設定が生きる」
 ……あなたの仰る通りです。
 俺は彼の考えに深く同調した。こいつは本物のライターだ。『10円玉』を乳首につける、という設定だけでここまで述べられる人物は少ないだろう。素晴らしい。その理論は理論を越えていく。
 彼はエロ漫画界のガリレオ・ガリレイだと俺の心が呟く。
「とりあえず『10円玉』はこれで決まりだな。次は『おつまみ』だ」
 ……『おつまみ』、これも中々癖のある言葉だぞ。
 俺は再び思考に集中した。おつまみといっても、中々に抽象的な言葉だ。具体例を挙げれば、酒のつまみ、要は手で摘まんで食べられるものだろう。酒が絡むのが一番わかりやすい。
「はい、私に考えがあります」三咲貴が手を上げる。先ほど四谷に評価を貰って彼女にも自信が見える。「『おつまみ』と一緒にあなたをつまみたい、というシチュエーションはどうでしょうか?」
「うーん、薄いな」四谷は渋い顔をした。「お前はまだ少女漫画が抜けていないな、今考えているのは男性エロ漫画だ。そんな言葉、誰でもいえるだろう」
「すいません」
 三咲貴ががっくりとうなだれる。
 ……チャンスだ。
 俺は今こそ、彼に認めて貰うために発言をしなければならないと思った。今度こそ俺がお題を制してみせる。
「はいっ、四谷さん、俺の意見を聞いて下さい」俺は手を上げて丁寧に述べた。すでに彼の方が上だと俺の本能がいっている。
「なんだ、いってみろ」
「『おつまみ』はたくさんあります、酒のつまみが基本ですが、今回はエロ漫画です。女性に合わせたつまみ、つまり女体盛りを連想したつまみはどうでしょうか?」
「それだっ」四谷は右手で銃の形を見せて俺に唸った。「そういうことだ、一郎。『おつまみ』の本来の意味は添えるということだ。今回は目的の女を引き立たせるためのつまみにすればいい。刺身でいえば大根のツマのような存在を探すんだ」
「ありがとうございます」
 俺は歓喜に身を奮わせた。ついに、彼からそれだっ、という言葉を頂いた。こんなに嬉しいことはない。
 しかし『おつまみ』の使い方はわかったが、何を具体的に使えばいいかわからない。俺が悩んでいると、三咲貴が小さく手を上げた。
「すいません、私もそれについて案があるのですが……」
 先ほど、注意を受けたことで彼女は小さくなっていた。だが俺たちは絶対絶命の立場にいるのだ。ここで発言しなければ漫画家としては活動できなくなる。
「『おつまみ』になるかわかりませんが、ヒロインはテニスをしていますよね?でしたら、自分の体を見られることに抵抗があると思うのです。それで女性の体がメインの話であるのならば、使えるものがあるのですが……」
「能書きはいい。具体例をいってみろ」
「……はい。要はですね、ラケットを使って自分の体を隠すのはどうかなと思ったのです。網目タイツのようにラケットで隠しても体は見えてしまいますよね」
「「それだっ」」
 俺と四谷は同時に発言した。お互いに両手を使って彼女をマークする。
「素晴らしい」四谷は満面の笑みでいった。「そうだ、三咲貴。それこそエロなのだ。羞恥心こそエロには必要なんだ。だからといって裸では意味がないし、鉄鎧のようにがっちりと固まっていてもダメだ。要は見えるけど、見えないようにするというシチュエーションが大事だ」
「あ、ありがとうございます」
 彼女は嬉しそうに顔を赤らめた。全員で彼女を称える。彼女は一皮向けたのだ。その小さな胸でも堂々と誇って欲しい。
「では少しまとめさせて下さい」双葉が冷静にいう。「ニプレスを忘れたヒロインが『10円玉』を乳首につけてテニスをしており、途中アクシデントがあって主人公と出会う。そしてヒロインは主人公に恋をして自分を食べてと女体盛りを披露するが、テニスラケットを用いて恥じらう。ここまではいいでしょうか」
「そうだな、流れとしては悪くない」四谷はいった。「だが主人公とヒロインの関係はどうなのか、ということだ。幼馴染なのか、それとも年が離れているのか、好きだったのか、色々なシチュエーションがある。どれが今回のお題に合うかだ」
 ……どれが一番いいだろうか。
 俺は頭を悩ませて真剣に考えた。エロ漫画の設定としては、今まで付き合っておらずハプニングを通してエッチをしてしまい、これからよろしくねと付き合うパターンが多い。だがそれはそれぞれにお題があってそれに合わせているのだ。今回はヒロインがテニス部員だ。なら同じ部活の男子生徒が望ましいのではないだろうか。
「ふむ、そうですね……」双葉が冷静に分析する。彼女は長い髪を掻き分けて続けた。「ここで『双眼鏡』使うというのはどうでしょうか?二人の関係性に『双眼鏡』をくわえるというのは?」
「というと?」
「主人公をコーチなど、彼にしか扱えないものに限定するのです」
「「「それだっ」」」」
 双葉以外の全員で両手の親指を立てる。ズビビっ、という効果音がこの空間を支配する。
「そういうことだ、双葉。何もお題だからといってそれを具体的に使う必要はない。人間関係にあてはめてもいいんだ、コーチの首に双眼鏡を掛けているだけでもいい。それだけで彼は多くの生徒を監督しているという証明になるからな」
「はい、ありがとうございます」
 双葉は大きく彼にお辞儀をする。
「グッドだ、グッド。いいぞ、盛り上がってきた。シチュエーションはすでに出来上がっているぞ」
 四谷の高揚に俺達も同じ思いだった。俺たちが一つの達成感を得るためには最後のお題をクリアしなければならない。
「じゃあ次で最後だな……」四谷が某アニメのように手を組んでひじを机の上に載せた。「……『液状のり』。これが俺達の最後の試練だ」
 俺はごくりと唾を飲んだ。これは……本当に難しいお題だ。これ以上簡単で難しいお題があるのかというくらいに俺の心は焦燥感に襲われてしまう。
 ……『液状のり』、想像できるものが一つしか浮かばない。
 そう、男の最後のフィニッシュだ。女体盛りを見てフィッシュではなくフィニッシュしなくてはいけないものだ。
 ……なんてこった、こいつはお手上げだ。
 俺が絶望し周りを見ると、皆真剣に悩んでいた。双葉は自分の胸を揉みながら、三咲貴は股間を抑えながら、四谷さんは気難しい顔をしながら両手を上下に揺すっていた。
 ……あんたには一体、何本ついてるんだよ。
 そう考えながらも俺は頭を振った。俺だけがこの場を諦めたらダメなのだ。全員でいい結果を残したい。
 俺の気持ちが伝わったのか、四谷さんが叫んだ。
「いいか、皆、今から1分間、黙祷だ。股間を捧げよ」
「はっ」
 俺達、三人は彼に敬礼をした。股間に手を当ててだ。
「セイッ」
 四谷さんが叫ぶと、あたりはシーンと音を立て静止した。
 皆、シセイを正して精神統一に集中する。
 俺は自分の魂を正視した。感じろ、俺の一番のエロはどこにある。様々な想像を施すが、これ以上の代案が浮かばない。であるなら、どこで使うかという用途を考えるしかない。
 俺の頭の中で連想する。
 冒頭で液状のりを使ってはダメだ、エロ漫画のオチが最初にくればただの主人公の性癖が悪質だということになるだけだ。
 中盤でもダメだ、ヒロインと出会った時点で発射している人物が最後まで物語を続けることなどできはしない。
 後半でもダメだ、自分の出すタイミングでなぜ液状のりを使わなければならない? 違和感しか残らない。
 もう一度、頭を悩ませるが変更できない。どこでどう使っても、『液状のり』があれになってしまう。男である俺が憎い、これしか思いつかないなんて安直だ。
「やあ、皆集まっているね」
 俺が苦悩していると、編集者であるなやみムヨウさんが入ってきた。
「遅くなってすまない。お題を持ってくるのに手間取ってね」
「え?」皆で彼を見る。「お題はもうここにありますよ」
「何をいってるんだ、四人で話そうといったじゃないか」彼は笑いながら答えた。「私を含めて四人だよ、私が0で、一郎君が1、双葉さんが2、三咲貴ちゃんが3でしょ」
「じゃあ、この方は……?」
 俺たちは皆で彼を見た。
「ああ、悪かった。自己紹介をきちんとしていなかったな。俺の名前は四谷のりすけだ。ノリノリの助兵衛と覚えて貰って構わない」
「名前じゃないよっ!」俺は突っ込んだ。「あんたの存在に対していってるんだよ」
「俺か、俺は編集長だ」
「す、すいませんでしたっ」
 俺達三人は全員で深く礼をした。
「よしこれでオチが揃ったな」
「え?」
 俺たちの視線が皆、四谷に向かう。
「オチはまだ決まってないじゃないですか」
「何をいってる。ベッタベタな落ちが決まっただろう。のりだけにな」
 彼のいっている意味がわからない。だが俺たちは今、一つになりかけている。『液状のり』をどこで使うかということでだ。
 俺は連想する。彼の言葉の意味を。静止した時の中で、生死の境を彷徨うように、俺は精子の波に乗る。
 チンチン、ポクポク、チンポク、チンポク、チーン!
 ……ポン、そうか、わかったぞ。
 俺は自分の中で確信した。『液状のり』という言葉に囚われていたのだ。別にこれは名詞で使わなくてもいい。動詞で使えばいいのだ、同士と共に!
 俺が再び目を開けた時、二人に目があった。どうやら俺たちは考えが一緒だったらしい。
 ……やっぱりこの場はこれで行くしかない。
 俺たちは皆、股間に手を捧げた。フリーキックでゴールを守るようにだ!
「海の海苔は……ノリがいいねぇ!」
 三咲貴が先陣を切った。ボールが宙に浮く。
「でも仮面ノリダーが噛めん海苔だねぇ!」
 双葉がそれに続く。ナイスパスだ。
「なやみさんもそんな所でロボットみたいにボーット、立ってないでこっちに来てノッて下さいよぉ!」
 俺たちは皆、ムヨウさんに期待を込めて睨んだ。
 後は頼んだぜ、編集者! この液状の波に乗ってくれ!
「どうしたの、皆?」彼は半笑いでこっちに来ながら呟いた。「何だかよくわからないけど、僕も乗るしかなさそうだね。この、ノリがいい波に!」





タイトルへ→http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1952136676&owner_id=64521149


お題が同じで『別の作者』様のリンク、張らせて頂きます。
実は続編です。よければよろしくお願いします。

短編「液状の波に乗れ(おまけ前編)」 作者:なやみムヨウ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1952339246&owner_id=64385308

世間の波に隔離された、白き箱の中に、4人の男女が集まった。
己の人生をかけ、4つの問題を克服した一作を作り出さなければならない。
時にはちきれんばかりの胸を凝視し、時に大胆に突き出た臀部を今生の別れと言わんばかりに見つめ、時に柿の種を食べながら、彼等はついに幻の一作を作り上げた。

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