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2015年11月29日01:01

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『貝紫の布』

 2015年ロス誕作品の一作目。
 アイオロスが沙織さんとサガから誕生祝いをもらう話。ロスサガほのぼのラブラブ系小話。
 明日から二作目の連載を始めます。

『貝紫の布』

 十一月二十九日。
 教皇アイオロスの誕生日の前日である。
 彼の誕生日は聖域を上げて祝う祝祭日となっており、様々な行事や宴会の準備がなされていた。そして聖域の住民たちが地区ごとに献上した誕生祝いの贈り物や、聖域周辺部の村々、それに海外在住の聖域関係者からも数多くの祝いの品が届き、教皇の間の一室に山積みになっていた。
 そんな中、教皇アイオロスの私室に、首席補佐官のサガが大きな箱を抱えて訪れた。
「アイオロス。アテナからの誕生祝いの品が届いているぞ」
「アテナから?」
「ああ。お前の誕生日当日は仕事で臨席できないからと、祝いの品だけ寄越されたようだ」
「アテナ直々に祝っていただくなどもったいないことだな。開けてみてくれないか?」
「うむ」
 そうして箱を開けたサガは、中身を取り出して讃嘆の息をついた。
「…見てみろ。素晴らしいぞ、アイオロス」
 サガが広げたのは、鮮やかな赤紫色をした綾絹だった。艶やかに光を反射し、美しい地紋を浮かびあがらせている。
「アテナからのお手紙が同封されている。古代の貝紫の技法で染色させた絹だそうだ」
 古代にフェニキア人が発明したのが、ある種の巻貝の分泌物から紫色を染め出す技法だった。この紫色の染物は西洋では大変に珍重され、古代ローマでは皇帝か元老院議員、そして凱旋将軍のみに許される色となったほどだ。Tシャツ一枚分の布を染めるのに、貝が千五百個から一万五千個は必要だという希少で高価な色なのである。
「これだけの分量の生地となればさぞ値段も張るだろうに…アテナのお心づかいには、恐縮するしかないな」
「さっそく礼状を書くよ、サガ」
「うむ」
 サガは美しい赤紫色のその綾絹を抱えてアイオロスに近づき、布地を彼の肩にあててみせた。
「アイオロス、この布で新しい法衣を仕立てさせてはどうかな?」
「法衣を?」
「うむ。儀礼用の法衣にいいのではないかと思う。それにこの紫は英雄のみに許された禁色だ。きっとお前によく似合う」
「はは…おれが英雄など、そう言われると気恥しい限りだよ。だがいい考えだな」
 布地を手に取っていたアイオロスが、ふと言った。
「サガ、お前もこれで何か作ってはどうだ?」
「私も?」
「そろいの衣装なんて、恋人らしくていいじゃないか」
 そう言ってアイオロスがからかうように片目をつぶってみせる。
「アイオロス…」
 サガがわずかに頬を染め、はにかむような笑みを見せた。
「教皇と同じ衣装など…私のような者には畏れ多いことだ。それに法衣二着を仕立てさせるには分量が足りない」
「だったら、お前にはもっと何か小さな物を作らせよう」
「礼拝の時に首にかけるストラはどうだろう?」
「ああ、そうだな。お前の法衣は白だし…この紫色は良く映えるだろうな」
「ではあとで仕立て職人に採寸に来てもらうよう手配する」
「ああ」
「それから…」
 と言って、サガは自分の懐から一通の書類をアイオロスに差し出した。
「これは私たちからの祝いだ、アイオロス」
「え?」
 書類を受け取ったアイオロスが読んでみると、それはアイオロスの誕生日の翌日、十二月一日に教皇代理を獅子座のアイオリアに、首席補佐官代理に山羊座のシュラを一日限りで任じるという辞令だった。
「お前の誕生日当日は色々と行事があって休めないが…、翌日は、アイオリアとシュラが私たちの仕事を代わってくれることになった。一日休みをとるから、二人でアテネ市にでも出かけないか?」
「いいのか、サガ?」
 普段は「教皇らしくしろ」「執務をさぼるな」と口うるさくアイオロスに言っているのが、サガなのである。
「ああ。お前にも息抜きが必要だ。それに私も…お前と二人きりで過ごしたい」
 そして恥ずかしそうに、小さな声でサガが言った。
「二人で…デートしよう、アイオロス。ホテルも予約してあるから…」
「…サガ!」
 喜びに声をあげ、アイオロスはサガを抱きしめた。
「あはは、嬉しいよ、サガ!最高の誕生日プレゼントだ!」
「そ、そんなに嬉しいか?」
「もちろんさ!サガから誘ってくれるなんて、めったにないからね」
 笑うアイオロスの唇に、サガはそっと自分の唇を寄せた。
「アイオロス、愛している…。お前が生まれてきたことを、神に感謝する」
「おれも愛しているよ、サガ」
 そうして口づけをかわしたサガは、アイオロスに釘を刺した。
「だが今日と明日は、執務をしっかりこなすのだぞ」
「こんなご褒美が待っていると思えば、頑張れるさ」
 ちゅっと軽くサガにもう一度キスをすると、アイオロスは執務机にと向かった。
「まずはアテナにお礼のお手紙を書こう。明日の便で発送できるようにしてくれ」
「ああ」
 そうしてアイオロスとサガはその日の休みをアイオロスの私室で二人で過ごした。アイオロスの誕生日の翌日に予定した、二人だけの祝いを楽しみにしながら。

<FIN> 

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