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インテンションコミュの第15話 「解散」

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初夏

日曜日の昼下り

はい、どうも〜!『ひるパラ』の時間です〜!

関西ローカルのニュースバラエティ番組で、黒髪のボブスタイルがトレードマークの女漫才師が司会を務めて喋っている。


え〜、今日はなんか、ムダに女子のスタッフがワラワラ集まって、スタジオがいつもよりうっとうしい事になってますが…


にわかにスタジオのギャラリーやスタッフ達から、クスクス笑い声がさざめきだす。


はい!本日のゲストは!インテンション!


キャー!という歓声と拍手が沸き上がる。


モニターに映るのは、インテンションの高宮幾佐(たかみやいくさ)と立花威咲(たちばないさき)


『どうも、こんにちは〜!』

ふたりはカメラ前、中央に出て、新作漫才を披露する。

演じきって爆笑と拍手を浴びた後、席に戻りトークに移る。



いやぁ、インテンション復活おめでとう、と、言いたいとこやねんけど、威咲くん、自分?まだ退院してへんねんて?


威咲『はい、僕、今、現住所、病院なんですわ』

自分、テレビ出てる場合ちゃうやん?ホンマに大丈夫なん?


威咲『や、大丈夫ちゃいますけど…今んとこ、緩解期(かんかいき)言うて一時的に病気が治まってる状態なんで、まぁ、一応元気は元気です』


幾佐『今のうちに見納めといて下さい』


威咲、ニッコリ笑顔で幾佐をシバく。


…ええと、何て病気でしたっけ?


威咲『はい、再生不良性貧血いいます』


それは、いわゆる普通の貧血とは、ちゃうんですか?


幾佐『はい、詳しくはこちらのVTRに纏めてますんで…』


幾佐 威咲『VTR、どうぞ!』


VTRには、本人出演による、威咲が倒れて入院から今日に至るまでの再現ドラマと、その病気が骨髄の異常による難病である事、そして骨髄移植が有効な治療である事などを織り混ぜていた。


はい……と、いうわけで…、威咲くん、見かけによらず、えらい深刻そう…ですよね?


威咲『はい。今の僕、パッと見ぃ、全然病人に見えへんと思いますけど、これもいつまでもつか分からんのですわ』


でも、治療の方法は、VTRにもあったけど…

威咲『はい。状態によっては、投薬や輸血で完治する患者さんも、ようけ、いてはりますし、決して不治の病ではないんです。

でも僕の場合は、骨髄移植出来へんと、マジヤバいんですわ』


それは…あの…ちょっと言いにくいですけど…


威咲『はい。たぶん、そのうち僕、死んでまいます』


幾佐『殺しても死ねへんはずなんですけどねぇ』


威咲、再び幾佐をシバき、寄って来たカメラに向き直り


『そういう訳で、ひとりでも多くの方に、骨髄バンクのドナー登録をお願いしたくて、出て来ました。

え〜、これをご覧のみなさん、僕を助けて下さい。

僕だけやない、骨髄移植を必要としてる人々を助けて下さい。


よろしくお願いします!』



このように、インテンションは、漫才やコントでメディアに出演する度に、骨髄バンクへのドナー登録を呼びかけていった。


また、威咲の生活について密着取材が行われ、その記録はドキュメンタリーとして制作され、公共広告機構のCMに起用されたり、毎年夏に24時間放送されるチャリティ番組のプログラムに組み込まれる事になった。


威咲の緩解期をコントロールする為に、最盛期程の無理なスケジュールは避け、また病状の急変も考慮してレギュラーの仕事も避けた。


幾佐は、威咲の主治医からレクチャーを受け、威咲の状態管理を担う。
仕事の合間、楽屋や移動中の車中などで、威咲を診察し、仕舞い込んでいた聴診器を再び持ち出し、威咲の為だけに使った。

ふたりの当面の目標は、24時間テレビの出演を果たす事だった。

そこで彼らはひとつの決着をつけようとしていた。
それまで威咲の緩解期をもたせようと、そのコントロールに注意を払っていた。


けれど、梅雨が明け、酷暑がやってきて、少しずつ威咲の体力が奪われていくのが分かり、幾佐は何かと気を揉むようになった。


少しでも空き時間があると、威咲には休む様に勧めた。

最近の威咲は、逆らう事も余りなく、幾佐に従っていた。


畳部屋の楽屋の隅で、丸まって横になる威咲に、幾佐は毛布を掛け、額や首すじに手を触れて様子を伺う。

『威咲?ちょっと目ぇ、見せてな』

閉じている威咲の瞼を指で開いて、瞼の内側の色を確認して見る。
ピンク色なら心配ない。

けれど、白っぽくなっているから貧血が進んでいる。

あごに手を掛けて上を向かせ『口開けて、ベロ出してみ?』

シャツの袖を捲り『脈拍測るで?血圧計るで?』

仰向かせて、両膝を立たせて、『背中とか、どこか痛くない?』

シャツを開かせて『…はい、息吸って…はい、吐いて…』と、触診してみる。


機嫌が悪い時は、寄るな、触るな、気色悪いと、手がつけれない威咲だったくせに、素直に大人しくしているという事は、それだけ弱っているんだろうか?

この夏をこのまま乗り越えられるだろうか?


以前、安静にしようとしない威咲に幾佐がキレて、威咲のケイタイを折って壊した時、叫んだ威咲の言葉が脳裏に甦る。


『幾佐!お前が俺を治してみせろや!俺を助けてみろや!』


…それが出来るもんなら…、と幾佐は思う。


ふいに威咲がクスクス笑い出した。


『俺は小児科の患者か?』

『………』

『お前がどんな先生やってたか、よぉ分かるわ』


言われてみれば、研修医だった頃のクセが、言葉使いや仕草に残っているのに、幾佐は自分でも少し驚いた。




『……ただいま』

『あ、くーちゃん、おかえりぃ』

幾佐が『ただいま』と言って帰る場所は、すっかり、つつじが暮らす威咲の部屋になっていた。

『今日の威咲は?』

幾佐の顔を見ると、つつじは必ずこう言う。

『大丈夫…やで。元気にしてんで。今日はテレビに出てへんかったっけ?』

幾佐はその度に、微妙に嘘でも本当でもない答えを返す。

けれどそれは、日に日に嘘の方の分が多くなってきて、心苦しさも増してくる。

『つつじさんは、どうなん?』

つつじは嬉し恥ずかしそうに微笑んで、そっとお腹に手を当てて、コクンと頷いた。




24時間テレビ オンエア


威咲の機嫌が悪い。

いつの間にか、またタバコをふかしている。
幾佐が無言で睨みつけると、『シャバにおる時くらい自由にさせろや』と笑う。

『何処におっても、お前は自由やんけ』

もはや幾佐は制止しない。もうすぐ終わるのだから。


幾佐にも威咲の機嫌の悪さが伝わる。

ひとりでも多くのドナーを求め、その先に自分の命の未来を求めて『助けて下さい』と呼びかけて、ここまで来た。

けれど、ここへ来て、威咲の胸に悔しさが募る。

自分は健常者ではないのだ。
可哀想だと思われているのだ。
いっそ死んでしまった方が、もっと美談になって語り継がれるのか?自分と同じ27歳の若さで逝った、あの美人女優のように?


チャリティという建前で健常者たちが夏休みのお祭り気分半分で、騒いでいるだけじゃないのか?


あいつらにこう言ってやったらどうだろう?

お金なんかいらないから、

腕を失ったあの子に、その腕をやってくれないか?

歩けなくなったあの人に、その足をやってくれないか?

その見える目を、聞こえる耳を…


その全身に流れる健康な血を、全部丸ごと交換してくれないか?


『……っ』

一瞬めまいがして、威咲はしゃがみこむ。

鼻の奥から生暖かい物が流れて、パタパタッと音がして、床に小さな赤い斑点が散った。
『威咲?鼻血…?』

威咲は覗き込む幾佐の肩にすがって立ち上がり、番組のトレードマークでもある赤いTシャツの裾で血を拭いた。


『行こうぜ…グランドフィナーレや』


この日、インテンションは番組のラストに、全てのドナー登録者に感謝の言葉を述べて、解散を宣言した。



http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1036659259&owner_id=9223751&org_id=1034109615

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