この作品を讀む時に、この音樂を聞きながら鑑賞して下さい。
これは自作（オリジナル)の
『Motion１(Mirror) ＆(Substance) 曲 高秋 美樹彦』
といふ曲で、YAMAHAの「QY１００」で作りました。
映像は伊丹にある、
『柿衞文庫』
へ出かけた時のものです。
雰圍氣を味はつて戴ければ幸ひですが、ない方が良いといふ讀者は聞かなくても構ひませんので、ご自由にどうぞ。
二十一、『増新 明治玉編大全 全』といふ辭書(じしよ)の『辨似』に就いて 『言苑』より
『増新 明治玉編大全 全』といふ辭書を手に入れたのは、妻の實家の藏を整理した時だつた。
もう三十年以上も前の話である。
妻の實家は變つた名字で「祐延(すけのぶ)」といふが、妻は「幸(みゆき)」だから「祐延幸」と表記すると中國人みたいな名前になつて、誰からも正確に讀んでもらつた事がないといふ。
その妻の祖父は佐市郎といつて村の収入役をしてゐたさうであるから、結構な教養人であつたらうと思はれる。
その證據(しようこ)が先の『増新 明治玉編大全 全』といふ辭書の存在といふ事になる。
恐らくは、木版刷りであらうかと思はれる和綴じの三百二十八頁にも及びそれを大尾とする立派な本である。
表紙は縦書(たてがき)きで、頭に『増新』と横書(よきがき)の下に縦書で、
http://
http://
画引 韻字 平仄
明治玉編大全 全
四聲 音訓 訂正
とある。
この表紙の題名(タイトル)の縦書表記に就いては、ここでは兔も角、現代の表記としては多少の問題があつて、例へば小學校の教科書の場合は算數や理科・社會などは横書だから洋書と同じ左開きで、表紙の題名は縦書でも横書でも左から右へと書いた文字であるが、國語の教科書は縦書だから日本古來からの右開きで、文章は右から左へと讀み書きをし、表紙の題名を横書にすると、寺などにかけてある額と同じやうに右から左へ表記しなければならない。
それを現在の子供は慣れてゐないからと右から左へ書かうとはせず、さりとて左から右へ表記にして日本の傳統を破壊するやうな行爲には躊躇して、その難を逃れる爲(ため)に縦書にするといふ事でお茶を濁してゐる。
決して横書の右から左へ表記する事に慣れさせようとは考へないのである。
その根據(こんきよ)は、國語の教科書だけは横書にせずに縦書して、算数や理科・社會などを縦書にして統一しないで横書にして區分けしてゐる事でも知られるものと思はれる。
もしその意圖がないのならば、總て縦書にするといふ方法もあつた筈なのだから。
さて、扉には、
http://
畫引 韻字 平仄 四聲 音訓 訂正
増新 明治玉編大全
大阪圖書出版會社藏版
とあり、漢文の『序』が續く。
http://
さうして一畫から始まる『畫引』があり、ここにある最大劃數は「五十三劃」の「雷」の字が四つも竝んだ文字で、音讀みは「う」で「なりはためく」と訓讀みするとある。
http://
それが「檢字(けんじ)」の畢(をはんぬ)で、
http://
今囘この辭書を紹介しようと思つた趣旨である『辨似』といふ章に移る。
この『辨似』とは「似て紛らはしいものを區別する」といふ意味があり、その『辨似』の後には、
「筆 畫 近 似 音 義 顕 別 毫
釐 之 �痢〆如＾廖〆� 淆 閲 此
庶 無 魯 魚
亥 豕 之 誤」
といふ漢文があり、『相似(さうじ)』といふよく似てゐるが異なつた文字を網羅してあり、「二字相似」から「五字相似」までが索引出來る。
「二字相似」は異なつた文字が二字づつ竝び、それが三百三十組もある。
http://
例へば、「抜・拔」の文字の「手偏」を拔いた文字が竝んでゐて、｢友｣は音讀みで「う・いう」となり、訓讀みは「とも」となるが、「手偏」を拔いた「拔」は音讀みが「はつ・ばち」で、訓讀みは「はねる」で全くの別字で、現在「抜」といふ字で表記されてゐる文字は、「拔」が正確なものであると教へられる。
さうしてもう一つ擧げれば、果物の「柿(かき)」といふ字があるが、これと「こけら落とし」の「こけら」といふ字は「柿」といふ字と似てゐるが、音は「市(し)」で訓は「いち」であるが、これとは別に「沛・肺」などの旁があり、これは「はい」と讀んで「市(し・いち)」とは全く異なつた文字で、市(し・いち)」は上の點を書いて横棒を書くが、「はい」の方は横棒を書いてその上から眞直ぐ横棒を拔いて書くので、劃數も「九劃」と「八劃」の違ひがあるといふ具合に、こんなのが三百以上もあるのだと驚かされるのである。
次の「三字相似」は、
http://
二十五組でいきなり數は減少するが、有名な處では、
「巳・已・己」
といふ文字が代表として擧げられ、「巳」は「し・み」と讀み、「已」は「い・すでに」と讀んで、「己」は「き・おのれ・つちのと」と讀むが、これには昔から覺え方があり、それは短歌になつてゐて、
「み・シは上(巳)、やむ・イは既に半ばなり(已)、
おのれ・つちのと・コは下につく(己)」
といふものだが、もう一首あつて、
「キ・コの聲おのれ・つちのと(己)下につき、
イ・すでに(已)は中に、シ・み(巳)は皆つく」
といふものである。
次の「四字相似」は九組あつて、
http://
その内の一つを擧げれば、
「戊・戉・戌・戍」
といふもので、「戊」は「ぼう・も・つちのえ」と讀み、「戉」は「ひつ・をち・おの」と讀んで、「戌」は「しゆつ・しゆち・いぬ」、「戍」は「しゆ・ふ・まもる」とある。
これも覺え方があつて、これも二つある。
「土の上(戊)に、犬(戌)一匹で人まもる(戍)、
斧(戉)振り上げりや、ボウ(戊)ジユツ(戌)ジユ(戍)エツ(戉)」
「立てばうち(戉)すわれば守る(戍)人と戈、
土(戊)に一ひく犬(戌)の影かな」
といふものである。
壓卷(あつくわん)は「五字相似」で、
http://
「月」
といふ文字の一組しかない。
この文字を書き分ければ、
「月・丹月・肉月・冒月・朝月」
となるのだが、ここに表記されてある文字は殘念ながら電腦(コンピュウタア)では環境依存文字にもないので、解り易くする爲にこのやうにせざるを得なかつた。
それを説明すれば、
「月」は「日月之月 内畫缺右」とあり、「缺」と「右」の間に「レ點」があつて、月日の月はこんにちでは總(すべ)て同じ一文字あるかのやうに表記するが、左から右に延ばす横線の二本は右側が離れてゐるといふ意味である。
こんな細かい書分けがあるといふだけでも驚きなのだが、この「月」に關してはさらに驚かされる。
次の「丹月」は「即丹字清靖靜 等字从此」とあり、「从」と「此」の間にレ點があつて、「从」は「從ふ」といふ文字の異體字であるから「これに從ふ」といふ意味になる。
さうして、「青」といふ字の下の「月」は正字の場合は「円」が正しく、この中で「靜」だけが普通に使用出來て、後の「清靖」の正字は環境依存文字なので文字化けをしてしまふので使用できない。
さらに「月」は「円」だと説明したが、それは見た目に解り易くする爲で、實際は「円」ではなく「丹」が正しく、井の中からとる染料の「丹」と草色の意と音を示す「生(せい)」とから成り、草色をした染料の「あを」から「青い」を表すやうになつたと『角川 新字源 角川書店』にある。
「紅(くれなゐ)」は呉の國で染めた青(あを)といふ意味で、「くれのあを」から「くれなゐ」となつたと以前なにかに書いた事がある。
因みに、この外に「情・精・鯖・晴・錆・請」といふ新字體と、「倩・蜻・睛・菁」といふ正字がある。
次の「肉月」はよく知られてゐて「肉字旁 内畫連」とあり、「内畫」が「連」なるとあるので、この「月」は月日の「月」のやうに横線の二本は右側が離れてゐず、中の二線は左右が接してゐるといふ事になる。
その理由は、「月」は三日月に雲が二筋かかつてゐる樣から出來、「肉月」は肉の繊維に「人」といふ二つの筋を表したものだからであるといふ。
この「肉月」は體(からだ)に關した文字、「有・腰、脈・胃・膝」などの多くの漢字がある。
次の「冒月」は「冐字旁二 畫居中」とあり、「居」と「中」の間に「レ點」があり、「冐」は冒險などの「冒」の異體字と電子辭書の『漢字源』にあるのだが、二線は眞中にあつて兩方に接しないとある。
ただし、この辭書には下の横線は左右に接してゐるが、上の横線は右側が接してゐない文字になつてゐるので、これは印刷時に誤つたまま刷られたのかはつきりしない。
その上、「冐」が「冒」の異體字であるとは電腦(コンピユウタア)の文字として登録されてゐるものの、『新字源』にも『新漢和辞典 大修館書店』にもその根據(こんきよ)は示されず、掲載もされてゐない。
「冒」は「月」によく似た「冂(けい構へ)」の中に兩方の縱線に接しない横二線が書かれた「ばう」といふ音を表す漢字と、「目」が意符で頭にかぶせる頭巾を意味し、目の上を頭巾で覆ふから目が見えず、それでも進まうとするから危險を犯すといふ意味になつたとある。
但し、電子辭書にも『新字源』にも「冂(けい構へ)」は掲載されてゐないが、『新漢和辞典 大修館書店』には採録されてあつて、流石は『大漢和辞典』の諸橋徹次(1883-1982)博士の編纂だと感じ入る事しきりである。
從つて、異字體の「冐」は「日」と「月」からなるが、「冒」は「日」と「目」といふ差異が生じ、しかも「冒」の「日」が「月」になるのであつて、「冐」のやうに「目」が「月」になるのではないから、意味の上からいつても「冐」と「冒」が同じであるとは俄かに信じ難い。
それに「冒月」の「月」は「冒」以外に用例がなささうなので、「月」の「相似」の中に組入れても良いものかどうかと筆者には疑問に思はれた。
最後の「舟月」は「舟字朝前等 旁勝字从此」とあり、「从」と「此」の間に「レ點」があるのは先と同じである。
この「舟月」の「月」は、横二線が斜めだつたのだが、「当用漢字」になつてこれら總てを「月」の字形にしてしまつた。
已矣哉(やんぬるかな)！
この「舟月」の「月」には、「朝・勝・服」がある。
筆者はこの辭典(じてん)でこの「五字相似」を知つて、戰後になつて不當に書替へられた漢字と正字の重要さに就いて益々考へさせられたのである。
締括(しめくく)りに、奧附には、
http://
「明治二十三年十二月二十四日印刷
明治二十三年十二月二十五日出版」
大阪東區北久太郎町
圖書出版會社
とあり、価格は書かれてゐなかつた。
因みに、「辯字」の「辯」には、
「弁・辯・辦・瓣」
があり、
「弁」は「冠(かんむり)」の意味があり、「冠弁・武弁」などと使ふ。
「辯」は「理窟をわけて述べた議論」といふ意味で、「辯舌・關西辯」などと使ふ。
「辨」は「わける・わきまへる」といふ意味で、「辨別・辨理・辨證・辨償・辨當」などと使ふ。
「瓣」は「はなびら或は管の入口の液體や気體の出入りを開閉して調節するもの」の意で、「花瓣」などと使ふ。
別に「辧」といふ字もあるが、これは「辨」の異體字である。
二〇一二年十月四日午前4時十分店にて
續きをどうぞ
二十二、促音の扱ひに就いて 『言苑』より
http://
始めからどうぞ
『言苑』 1、教育
http://
これは自作（オリジナル)の
『Motion１(Mirror) ＆(Substance) 曲 高秋 美樹彦』
といふ曲で、YAMAHAの「QY１００」で作りました。
映像は伊丹にある、
『柿衞文庫』
へ出かけた時のものです。
雰圍氣を味はつて戴ければ幸ひですが、ない方が良いといふ讀者は聞かなくても構ひませんので、ご自由にどうぞ。
二十一、『増新 明治玉編大全 全』といふ辭書(じしよ)の『辨似』に就いて 『言苑』より
『増新 明治玉編大全 全』といふ辭書を手に入れたのは、妻の實家の藏を整理した時だつた。
もう三十年以上も前の話である。
妻の實家は變つた名字で「祐延(すけのぶ)」といふが、妻は「幸(みゆき)」だから「祐延幸」と表記すると中國人みたいな名前になつて、誰からも正確に讀んでもらつた事がないといふ。
その妻の祖父は佐市郎といつて村の収入役をしてゐたさうであるから、結構な教養人であつたらうと思はれる。
その證據(しようこ)が先の『増新 明治玉編大全 全』といふ辭書の存在といふ事になる。
恐らくは、木版刷りであらうかと思はれる和綴じの三百二十八頁にも及びそれを大尾とする立派な本である。
表紙は縦書(たてがき)きで、頭に『増新』と横書(よきがき)の下に縦書で、
http://
http://
画引 韻字 平仄
明治玉編大全 全
四聲 音訓 訂正
とある。
この表紙の題名(タイトル)の縦書表記に就いては、ここでは兔も角、現代の表記としては多少の問題があつて、例へば小學校の教科書の場合は算數や理科・社會などは横書だから洋書と同じ左開きで、表紙の題名は縦書でも横書でも左から右へと書いた文字であるが、國語の教科書は縦書だから日本古來からの右開きで、文章は右から左へと讀み書きをし、表紙の題名を横書にすると、寺などにかけてある額と同じやうに右から左へ表記しなければならない。
それを現在の子供は慣れてゐないからと右から左へ書かうとはせず、さりとて左から右へ表記にして日本の傳統を破壊するやうな行爲には躊躇して、その難を逃れる爲(ため)に縦書にするといふ事でお茶を濁してゐる。
決して横書の右から左へ表記する事に慣れさせようとは考へないのである。
その根據(こんきよ)は、國語の教科書だけは横書にせずに縦書して、算数や理科・社會などを縦書にして統一しないで横書にして區分けしてゐる事でも知られるものと思はれる。
もしその意圖がないのならば、總て縦書にするといふ方法もあつた筈なのだから。
さて、扉には、
http://
畫引 韻字 平仄 四聲 音訓 訂正
増新 明治玉編大全
大阪圖書出版會社藏版
とあり、漢文の『序』が續く。
http://
さうして一畫から始まる『畫引』があり、ここにある最大劃數は「五十三劃」の「雷」の字が四つも竝んだ文字で、音讀みは「う」で「なりはためく」と訓讀みするとある。
http://
それが「檢字(けんじ)」の畢(をはんぬ)で、
http://
今囘この辭書を紹介しようと思つた趣旨である『辨似』といふ章に移る。
この『辨似』とは「似て紛らはしいものを區別する」といふ意味があり、その『辨似』の後には、
「筆 畫 近 似 音 義 顕 別 毫
釐 之 �痢〆如＾廖〆� 淆 閲 此
庶 無 魯 魚
亥 豕 之 誤」
といふ漢文があり、『相似(さうじ)』といふよく似てゐるが異なつた文字を網羅してあり、「二字相似」から「五字相似」までが索引出來る。
「二字相似」は異なつた文字が二字づつ竝び、それが三百三十組もある。
http://
例へば、「抜・拔」の文字の「手偏」を拔いた文字が竝んでゐて、｢友｣は音讀みで「う・いう」となり、訓讀みは「とも」となるが、「手偏」を拔いた「拔」は音讀みが「はつ・ばち」で、訓讀みは「はねる」で全くの別字で、現在「抜」といふ字で表記されてゐる文字は、「拔」が正確なものであると教へられる。
さうしてもう一つ擧げれば、果物の「柿(かき)」といふ字があるが、これと「こけら落とし」の「こけら」といふ字は「柿」といふ字と似てゐるが、音は「市(し)」で訓は「いち」であるが、これとは別に「沛・肺」などの旁があり、これは「はい」と讀んで「市(し・いち)」とは全く異なつた文字で、市(し・いち)」は上の點を書いて横棒を書くが、「はい」の方は横棒を書いてその上から眞直ぐ横棒を拔いて書くので、劃數も「九劃」と「八劃」の違ひがあるといふ具合に、こんなのが三百以上もあるのだと驚かされるのである。
次の「三字相似」は、
http://
二十五組でいきなり數は減少するが、有名な處では、
「巳・已・己」
といふ文字が代表として擧げられ、「巳」は「し・み」と讀み、「已」は「い・すでに」と讀んで、「己」は「き・おのれ・つちのと」と讀むが、これには昔から覺え方があり、それは短歌になつてゐて、
「み・シは上(巳)、やむ・イは既に半ばなり(已)、
おのれ・つちのと・コは下につく(己)」
といふものだが、もう一首あつて、
「キ・コの聲おのれ・つちのと(己)下につき、
イ・すでに(已)は中に、シ・み(巳)は皆つく」
といふものである。
次の「四字相似」は九組あつて、
http://
その内の一つを擧げれば、
「戊・戉・戌・戍」
といふもので、「戊」は「ぼう・も・つちのえ」と讀み、「戉」は「ひつ・をち・おの」と讀んで、「戌」は「しゆつ・しゆち・いぬ」、「戍」は「しゆ・ふ・まもる」とある。
これも覺え方があつて、これも二つある。
「土の上(戊)に、犬(戌)一匹で人まもる(戍)、
斧(戉)振り上げりや、ボウ(戊)ジユツ(戌)ジユ(戍)エツ(戉)」
「立てばうち(戉)すわれば守る(戍)人と戈、
土(戊)に一ひく犬(戌)の影かな」
といふものである。
壓卷(あつくわん)は「五字相似」で、
http://
「月」
といふ文字の一組しかない。
この文字を書き分ければ、
「月・丹月・肉月・冒月・朝月」
となるのだが、ここに表記されてある文字は殘念ながら電腦(コンピュウタア)では環境依存文字にもないので、解り易くする爲にこのやうにせざるを得なかつた。
それを説明すれば、
「月」は「日月之月 内畫缺右」とあり、「缺」と「右」の間に「レ點」があつて、月日の月はこんにちでは總(すべ)て同じ一文字あるかのやうに表記するが、左から右に延ばす横線の二本は右側が離れてゐるといふ意味である。
こんな細かい書分けがあるといふだけでも驚きなのだが、この「月」に關してはさらに驚かされる。
次の「丹月」は「即丹字清靖靜 等字从此」とあり、「从」と「此」の間にレ點があつて、「从」は「從ふ」といふ文字の異體字であるから「これに從ふ」といふ意味になる。
さうして、「青」といふ字の下の「月」は正字の場合は「円」が正しく、この中で「靜」だけが普通に使用出來て、後の「清靖」の正字は環境依存文字なので文字化けをしてしまふので使用できない。
さらに「月」は「円」だと説明したが、それは見た目に解り易くする爲で、實際は「円」ではなく「丹」が正しく、井の中からとる染料の「丹」と草色の意と音を示す「生(せい)」とから成り、草色をした染料の「あを」から「青い」を表すやうになつたと『角川 新字源 角川書店』にある。
「紅(くれなゐ)」は呉の國で染めた青(あを)といふ意味で、「くれのあを」から「くれなゐ」となつたと以前なにかに書いた事がある。
因みに、この外に「情・精・鯖・晴・錆・請」といふ新字體と、「倩・蜻・睛・菁」といふ正字がある。
次の「肉月」はよく知られてゐて「肉字旁 内畫連」とあり、「内畫」が「連」なるとあるので、この「月」は月日の「月」のやうに横線の二本は右側が離れてゐず、中の二線は左右が接してゐるといふ事になる。
その理由は、「月」は三日月に雲が二筋かかつてゐる樣から出來、「肉月」は肉の繊維に「人」といふ二つの筋を表したものだからであるといふ。
この「肉月」は體(からだ)に關した文字、「有・腰、脈・胃・膝」などの多くの漢字がある。
次の「冒月」は「冐字旁二 畫居中」とあり、「居」と「中」の間に「レ點」があり、「冐」は冒險などの「冒」の異體字と電子辭書の『漢字源』にあるのだが、二線は眞中にあつて兩方に接しないとある。
ただし、この辭書には下の横線は左右に接してゐるが、上の横線は右側が接してゐない文字になつてゐるので、これは印刷時に誤つたまま刷られたのかはつきりしない。
その上、「冐」が「冒」の異體字であるとは電腦(コンピユウタア)の文字として登録されてゐるものの、『新字源』にも『新漢和辞典 大修館書店』にもその根據(こんきよ)は示されず、掲載もされてゐない。
「冒」は「月」によく似た「冂(けい構へ)」の中に兩方の縱線に接しない横二線が書かれた「ばう」といふ音を表す漢字と、「目」が意符で頭にかぶせる頭巾を意味し、目の上を頭巾で覆ふから目が見えず、それでも進まうとするから危險を犯すといふ意味になつたとある。
但し、電子辭書にも『新字源』にも「冂(けい構へ)」は掲載されてゐないが、『新漢和辞典 大修館書店』には採録されてあつて、流石は『大漢和辞典』の諸橋徹次(1883-1982)博士の編纂だと感じ入る事しきりである。
從つて、異字體の「冐」は「日」と「月」からなるが、「冒」は「日」と「目」といふ差異が生じ、しかも「冒」の「日」が「月」になるのであつて、「冐」のやうに「目」が「月」になるのではないから、意味の上からいつても「冐」と「冒」が同じであるとは俄かに信じ難い。
それに「冒月」の「月」は「冒」以外に用例がなささうなので、「月」の「相似」の中に組入れても良いものかどうかと筆者には疑問に思はれた。
最後の「舟月」は「舟字朝前等 旁勝字从此」とあり、「从」と「此」の間に「レ點」があるのは先と同じである。
この「舟月」の「月」は、横二線が斜めだつたのだが、「当用漢字」になつてこれら總てを「月」の字形にしてしまつた。
已矣哉(やんぬるかな)！
この「舟月」の「月」には、「朝・勝・服」がある。
筆者はこの辭典(じてん)でこの「五字相似」を知つて、戰後になつて不當に書替へられた漢字と正字の重要さに就いて益々考へさせられたのである。
締括(しめくく)りに、奧附には、
http://
「明治二十三年十二月二十四日印刷
明治二十三年十二月二十五日出版」
大阪東區北久太郎町
圖書出版會社
とあり、価格は書かれてゐなかつた。
因みに、「辯字」の「辯」には、
「弁・辯・辦・瓣」
があり、
「弁」は「冠(かんむり)」の意味があり、「冠弁・武弁」などと使ふ。
「辯」は「理窟をわけて述べた議論」といふ意味で、「辯舌・關西辯」などと使ふ。
「辨」は「わける・わきまへる」といふ意味で、「辨別・辨理・辨證・辨償・辨當」などと使ふ。
「瓣」は「はなびら或は管の入口の液體や気體の出入りを開閉して調節するもの」の意で、「花瓣」などと使ふ。
別に「辧」といふ字もあるが、これは「辨」の異體字である。
二〇一二年十月四日午前4時十分店にて
續きをどうぞ
二十二、促音の扱ひに就いて 『言苑』より
http://
始めからどうぞ
『言苑』 1、教育
http://
|
|
|
|
|
|
|
|
小説・評論：孤城忍太郎の世界 更新情報
-
最新のイベント
-
まだ何もありません
-
-
最新のアンケート
-
まだ何もありません
-
