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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの三章 十話  荒鷲の憂鬱

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 相馬は肩で呼吸をしながら、前方の敵をにらんでいる。この機体は、これまで乗りこなしてきたどんな兵器よりもじゃじゃ馬で、相馬の動きを正確に再現してくれた。そのせいか、初めて乗る機体で少し感情が高ぶってしまったようだ。


 戦闘機よりもより複雑なアクションをとる人型兵器ではあるが、その分身体にかかるGは尋常ではない。軍で生体強化手術を受け、常人よりGの耐性がある相馬ですら眉をひそめる程だ。相馬のイメージする戦い方が、並々ならぬ負担の要因の一つではあるが、この機体自体の対G処理が相馬の操縦においついていない。


「万が一にと思って、アクションを追加しておいたのが功を奏したな」


 汗だくになりながらも、笑みを浮かべて相馬は呟いた。ヨトゥンズアーマーは、プログラミングしてある動きを忠実に再現して動く兵器である為、他の兵器に比べ戦闘のバリエーションが豊富である。その点複雑な動きである程、それをデータ化すれば膨大な算式となる。蹴り一つプログラム化するのにも人間の手では半日以上かかってしまう。


 それを短縮化するために開発された支援AIがあって、始めてパイロットの個性を現す動きをインプット出来る。だが、支援AIはパイロットの個性に対応するために様々なタイプが存在する。人間に色んな性格があるように、AIにも一種のアイデンティティーを持たせることでより高次元な戦い方ができるようになる。だが、必ずしも常にパイロットと支援AIの相性が合うわけではない。YA乗りの世界では、技術・判断力に加え、より相性の合う機体とめぐり合えることがエースパイロットとなる必須条件の一つだった。


 その点では相馬は運が良かったのだろう。シェルナーは自分の望む動きを理解し、黙々とその動きを操縦マニュアルの一部に加えた。相馬が奥の手として考えたのが、今の逆手斬りだった。この発想は日本人ならではのものだった。何日か前ににチャンバラ映画の忍者を見ておもいついたということは、自信の胸のうちに秘めておこうと相馬は決めた。


「これで終わり……とまでにはいかないか」


 正直、左腕を切り払えたのは偶然の産物だ。引き抜いた瞬間敵に僅かな隙ができたからあの一撃を見舞うことが出来た。だが、相手は生粋のYA乗り。YA戦において一日の長がある。どんな手を使ってくるのか分かったものではない。ヴェスターナッハは一度銃を構えるが、少ししてその銃を下ろした。


『貴殿の異名は戦場でよく耳にするが、今日改めてその意味を思い知らされたよ』


 それはレーザー通信を介したヴェスターナッハのパイロットからの声と姿だった。その言葉と裏腹に男は楽しそうだった。


『私はリジェネレイト軍『ゾディアック』の一人、飯沼隆弘だ。よろしければ、貴殿の名を教えて頂きたい』


「……ゾディアック?」


 相馬は一瞬あっけに取られた。『ゾディアック』はリジェネレイト軍の中で十三人だけしかいない将軍の総称である。現在地上進攻中の軍を指揮するファントムギアスの力を象徴するものの一つだ。その実力は、各地での新国連軍の相次ぐ敗走や混乱の報を聞けば、容易に察することができる。自分はその一角と戦っていたのかと思うと、自分の生命の危険度がどれほどのものだったかいやでも分かる。その男に自分の名を問われると言うのは悪くは無い。


「草壁相馬、だ」


 名を名乗ると、男は満足げに頷くと言葉を連ねる。


『これから貴殿とは、長い付き合いになりそうだ』


 不敵な笑みを顔に貼り付けたまま、皮肉をいう隆弘に何故か不快な思いにはならない。逆に相馬も獰猛な笑みを浮かべて切り返す。


「安心しろ。つり橋効果の付き合いは続かないって、相場は決まっているからな」


 一瞬にらみ合った後、隆弘は大声で笑った。外見に似合わずなんとも豪快な笑い方だった。


『はははははは! 何故かな。不思議とはったりに聞こえない。では、近いうちにいずこかの空で合間見えよう、草壁!』


 そういい残すと、隆弘のヴェスターナッハが踵を返して母艦に戻っていく。その途中、激戦が繰り広げられている地域の上空に差し掛かると、黄・赤・青の光を発する信号弾を打ち上げた。この配色は国際的に現地域からの撤退を指示するための信号と決まっている。厳密に法で定められているわけではないのだが、いつのまにか全世界通例となっていた。その信号を確認したリジェネレイト軍のYA部隊が次々と撤退していく。


「……俺には、あんたとの再会を喜べる程、心のゆとりは無いさ」


 既に途切れた通信画面を見つめながら、相馬は呟いた。暫くそのままでいたが、ふと思い出したかのようにブルーシンフォニアへと帰艦の途についた。

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