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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの第三章 第八話 空の道化王

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 青森港から空港に繋がる道路を爆走しながら、早枝は空で迷彩色の「ヴェスターナッハ」と対峙する「ブラッディイーグル」をモニター越しに見ていた。相馬はフレームを見事に乗りこなし、「ヴェスターナッハ」と渡り合っている。元々のスペックの違いもあるだろうが、それを差し引いても相馬の操縦テクニックは相当な技術だった。


「凄い……」


 早枝は呆然と呟いた。早枝とてフレーム操縦の才能はあっただろうが、それはシミュレータ等の訓練を三ヶ月近く重ねて、やっとここまでの腕を磨けて来られたのだ。


《早枝、敵が来るよ。『ヴェスターナッハ』が三機。上空から来る》


 敵の接近を告げるアラームと共に、「シュナイゼル」の個別AI「ヨハネ」が詳細な情報を伝えてきた。


「OK! こっちも本領発揮していくわよ!」


 「シュナイゼル」はライフルを持ち上げ、三機の「ヴェスターナッハ」に向けて連射した。対する三機は一瞬のうちに三方向に散開した。二機は左右に分かれ、真ん中にいた一機は急上昇していく。一瞬早枝はどの機体を撃つか迷った。その一瞬のうちに敵はこちらへ肉迫してきた。「グレン」を引き抜き、「シュナイゼル」に斬りかかってきた。回避しようとも考えたが、もう逃げ切れない程の距離まで迫られていた。仕方なく早枝も「グレン」を抜く。二つの剣は激しくぶつかり合った。


 何度か刃を交えた後、「ヴェスターナッハ」は早々に離脱していった。それを見越していたのか、左側に避けていた「ヴェスターナッハ」がリニアサブマシンガンを連射してきた。


「なっ!?」


 それを左手のE2シールドで防いでいると、上空にいたもう一機がリニアライフルを真上から撃ってきた。左の機体からの射撃は継続されている為、迂闊に機体を下がらせる訳にはいかない。右腕のシールドを頭上に掲げ、間一髪で敵の砲弾を防ぐことに成功した。だが、いつまでもこの状態を維持することは危険だった。


《警告! シールド負荷が増大している。これ以上は危険だ!》


 早枝のレバーを持つ手に汗がにじむ。そんなことは分かっている。だが、相手は三機もいる上に個々の能力も高い。早枝程ではないが、決して油断できない。その上に、三機のチームワークはかなりのものだ。どう対処しようとも、早枝は二機を同時に相手にせねばならない。かといってこちから仕掛けることも出来ないのだ。


「レディ相手に三人がかりなんて卑怯なのよ!」


 早枝は悔し紛れに叫んだ。そもそも、彼らは今戦っている相手が女性であるかなど、知るはずも無い。砲弾倉が空になったのだろう。マガジンを交換しようとする機体に向けて「シュナイゼル」はライフルを連射した。マシンガンを持った機体はあっさりと後退する。だが、先ほどまで下がっていた機体が交代するように再び「グレン」を振りかざす。


「……やってやろうじゃない!」


 このままでは何れやられてしまう。そうなる前にこの連携を崩す。早枝は突進してくる一機に的を絞った。頭上の一機がそれを待っていたかのように急降下してきた。至近距離で狙撃する気だろう。分かっていても剣の切っ先をずらす訳にはいかなかった。


「こうなったら、一か八かよ!」


 そう叫び、前方の「ヴェスターナッハ」に突撃を敢行した。その瞬間を狙って、上空の「ヴェスターナッハ」が射撃する。「シュナイゼル」は狙いにくくするためにジグザグに走行した。移動している分にはこのままでもかまわないが、いざ接近戦を始めれば格好の的だろう。目の前の敵をいかに素早く戦闘不能に出来るかが鍵だった。


《危険です。一対三での勝率、0.六八パーセント》


 ヨハネが警告する。AIとして性格に分析し、はじき出した結果なのだろう。


「仕方ないでしょ! やるしかないんだから!」


 早枝は半ばやけになって叫んだ。逃げることも許されない状況で、戦う以外にどうすればよいと言うのか。AIと言うのは、その点を考えないから嫌いだ。
「シュナイゼル」は手前の「ヴェスターナッハ」に斬りかかった。その間に上空の機体が、ゆっくりとライフルを構える。


「私は、そうやすやすと死んであげる女じゃないのよ!」


 そう叫びながらも、早枝は歯を食いしばった。敵を切り崩せなかった。それはこの場では死に直結している。それでも早枝はあきらめることは無い。目の前のこいつを突破できれば、生存率は格段に高まる。それに、早枝は死ねない理由もある。


 ファントムギアス……今はそう名乗る義兄は、争いを好まない人だった。利益より人を優先する人だった。でも、あの日から兄は変わってしまった。「自分」をあの不気味な仮面で覆い、自らを亡霊の誓約と呼ぶようになってから。日に日にあの頃の面影を失い、変わり果ててゆく兄を見ていくのがとても辛かった。今はもうこの世にいない姉とともに交わした約束。それを果たすため、早枝は心から慕う兄と敵対する道を選んだ。それなのに……そう考えていたとき、あることに気づいた。


 ……撃ってこない?


 そう。今、絶好の好機にもかかわらずその瞬間が未だに来ない。上空を見上げると、ライフルを持っていた機体の右手が無くなっていた。何が起きたのか考えていると、一条の光が機体に向かって放たれた。サブマシンガンを持っていた機体が慌てて回避している。何が起こったのか分からずにいると、レーザー通信機に高笑いと共に声が聞こえてきた。


『はははは! 中々の射撃精度だな! この機体気に入ったよ』


 それは正太の声だった。彼の機体「モンドレッド」は、長距離支援を目的とした期待である。


《主。『モンドレッド』から通信!》


 ヨハネが一拍置いて報告する。確かに、今声を聞いた限りあの近藤正太と言う名の東北同盟軍パイロットのものだった。


『そこであたふたしているお嬢さん。何をぼけっとしているのかね? 上の二機は俺に任せて、お前さんは目の前の敵を仕留めたまえ!』


 軽薄ながらも多少のとげを含んだ檄が飛んできた。上空の「ヴェスターナッハ」は、レーザーの発射された方向に銃口を向けるが、そこには既に「モンドレッド」はいない。ビル群を盾に「モンドレッド」は高速機動を続けている。次の瞬間、先ほどの位置とは全く違う場所から飛び出し、長距離レーザーライフルを撃った。エーテルの莫大なエネルギー量が、実用を可能にした光学兵器であるレーザーライフルは三千メートルを超える射程を誇る。膨大なエネルギーが一点に集約された閃光の道は、まっすぐに敵の「ヴェスターナッハ」の右肩を貫いた。リニアサブマシンガンが握られる腕を吹き飛ばした。


「凄い……あの機体を乗りこなしてる」


 早枝は呆然と「モンドレッド」の動きを見つめている。「モンドレッド」は元々、機動性の高い機体二機のサポート機として開発されている。従来のフレームよりは性能が高いが、圧倒するほどではない。故の長中距離戦闘に対応した武装である。正太はそれを理解した上で、機体の能力をフルに生かした戦い方をしている。とても今日始めてフレームに乗ったとは思えない操縦スキルだ。


 圭馬から三ヶ月間に及ぶ東北同盟軍の戦闘記録を入手し、正太が「空の道化王」という異名を持っていることは知っていた。今の彼を見ていると、とてもそんな通称がついていたとは思えない。戦い方の違う相馬と早枝を完璧にフォローしていた。


『どうした? 俺の見事なヒーローぶりに惚れてしまったか! ……俺はなんと言う罪な男だ。こんないたいけな少女の心まで奪ってしまうとは』


 スクリーンに映る正太はそう言いながら額を押さえる。


「ふん! 私は少女ではないです!」


 早枝は憤然と怒鳴るが正太は笑みを絶やさなかった。なるほど、確かにふざけている姿はピエロに見えなくも無い。だが、一瞬だけ優しい笑みを見せた。普段のようなおちゃらけたものではない、どこかで見覚えのある笑みだった。


『その意気だ……その言葉、行動で証明してみたまえ。俺は後ろで、お前さんの戦いを刮目させてもらうよ』


 そう言うと、正太は通信を切った。一瞬むっとしたが、戦術画面を見て態度を改めた。正太はまた射撃ポイントへ移動し、三十機以上のフレームに牽制射撃を始めた。敵の編隊は「モンドレッド」に機体を向けるが、距離を詰めることができない。青森守備隊の対空射撃が再度開始され、フレーム群に火線が向けられ始めたからだ。


「あの人……守備隊の人たちと連携してる……」


 東北同盟軍の部隊は、正太の援護射撃に呼応して従来の戦術を再開している。そうはさせないとナイトフレームが動き出すが、正太のフレームがそれを阻止する。その隙に同盟側は地下壕へと待避し、無防備なナイトフレームに放火を浴びせる。指揮官らしいフォレストカラーの<ヴェスターナッハ>は相馬の<ブラッディイーグル>と交戦しており、満足な指示を出せずにいる。


 最初は自分のことしか考えていない連中かと思っていたが、今にして思えば、自分の役割を自覚した上での行動だったのかもしれない。旧日本国自衛軍はリジェネレイト軍に敗北し、レジスタンスとなった。恒久平和を目指し、いつの間にか弱体化していたのだろう。それでも自衛軍は自国の理念を貫くために戦い続けた。早枝はその猛者たちの力を目の当たりにしていた。


「これが、絶対の思想を抱く人の力……」


 早枝は数秒間、その光景を唖然と見つめていた。

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