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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの三章 第六話 正子と隆弘

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リジェネレイト航空艦隊旗艦「クーペレント」


 リジェネレイト東方攻略軍統括旗艦「クーペレント」のブリッジクルーは、現在の戦況に誰もが口を出せずにいた。敵の戦線は秋田の頃と比べて幾分か縮小されていたが、そのラインを埋めるには戦力が余りにも少ない。それに対し、こちらは四倍近い兵力が展開している。にも関わらず、市の外円部すら突破できずにこちらの損害は増す一方だった。

「……我が方の損害、三十機を超えました。そのうち大破が七機、戦闘不能は十二機に上っています」

 報告を聞いた正子は唖然としていた。彼女の軍隊にとっては確かに初めての実戦だが、元は自衛軍の関東方面軍に次ぐ精鋭である北部方面軍で構成されていた。その軍が初陣でこれだけの被害を受けるなど、予想だにしていなかった。正子にとっては甚大とも言える被害状況だった。

「クッ! 私がこんな失態を犯すなど……」

 正子の顔は怒りに歪んでいた。その怒りは、自軍に損害を与えた敵にではなく、その敵にいい様にされている自軍の将兵にでもなく、ファントムギアスの期待に応えられない自分に向けられている。リジェネレイト軍にとって、ファントムギアスの計画を歪めることはタブーだった。

 決して本人が言っているのではないが、ゾディアックから末端の兵士に至るまでその理念は共通していた。そう思わせるほど彼には魅力があるのだが、正子の場合それが顕著に現れていた。

「大橋、松原各小隊に通達! 長距離砲撃開始! 敵を外円部ごと吹き飛ばすのよ!」

「お言葉ですが閣下」正子の前に設けられた艦長席に「クーペレント」の艦長権
参謀である野村綾が控えめに声をかけた。

「敵の主戦力は地下です。長距離砲での効果は期待できません。それに、そんなことをすれば、ファントムギアスの意思に反します」

 そう言われて正子は眉をひそめた。ファントムギアスは、市街地への攻撃は極力控えろと正子たちに伝えていた。「可能ならば」と言葉は添えられていたが、ファントムギアスに忠誠を誓う者たちにとってそれは意味を持たない。彼の要望を百パーセント叶えるのが、リジェネレイト軍の本懐だからだ。

 これはファントムギアスが命令したことではないが、彼の信奉者である者達全てが抱く想いだった。それ故に、正子は苛立ちを紛らわせるためにアームレストに自分の拳をたたきつけた。クルーは誰一人として口を開くことができなかった。

「損害を受けた隊を統合し、再突入させよ!」

 先陣を切った榊原小隊を含め、撤退した部隊は現在空母「ベルベナ」に戻り、応急修理を行なっている。損害の大きい機体もあるため、修理が完了しているのは半数にも満たなかった。

『正子将軍。その判断は頂けないな』

 指揮官ラインで通信が入った。画面に映っているのはもう一人の指揮官、飯沼隆弘だった。

『痛手を受けた隊を、また死地に追いやるなど愚の骨頂! ……冷静になれ』

 隆弘が正子に冷静な指摘をされ、言われた正子は眉をひそめた。

『俺が前に出る。お前の隊は一度後方へ退がらせろ』

 正子は反論しようとするが、その言葉が見当たらない。正子が率いるフレーム部隊は三分の一以上が、大なり小なり損害を被っている。無事な戦力は無人兵器だけだが、後々のことを考えれば、迂闊に投入するわけにはいかない。

 リジェネレイト参加国内では新国連軍の特殊部隊による破壊工作が悩みの種だった。その為対人戦闘にも優れた兵器であるドロイドフレームは、リジェネレイト傘下勢力に優先して配備されている。未だ一つの勢力として足並みが揃っていないリジェネレイト軍にとって、無人部隊は幾らあっても困らない貴重な戦力だった。

 それは、ゾディアックに関しても例外ではない。新たな生産ラインが設けられたと言うが、それらは主戦場である戦線に送られていた。日本守備隊指揮官である隆弘と、派遣されたばかりである正子の各部隊には、三十機ずつ程しか配備されていない。前回の作戦に参加したドロイド部隊は、太平洋に展開する国連艦隊を牽制するための部隊で、それを隆弘が自軍の傘下に一時的に吸収したのだ。

「……分かったわ。でも、どうやって突破するつもり?」

 そう問いただすと、隆弘は不敵な笑みを浮かべて言った。

『それは見てのお楽しみさ。現役の戦い方というものをみせてやる』

 通信は唐突に切られた。ブリッジにいた誰もが、正子の放つ怒りのオーラに胃を痛めるばかりだった。


 してやったり……だな。

 隆弘は「ヴェスターナッハ」のコックピット内でほくそ笑んでいた。ファントムギアスは確かにフレームで前線に出ることを快諾したが、その時は正子の指示に従うようにと付け加えてきた。そんな事をされたら、正子が隆弘を亡き者にしようと企む可能性も十二分に有り得た。その事を考えると背筋に感じたくも無い悪寒が走る。正子の自由にさせて、彼女が失態を犯すのを待って正解だった。お陰でこちらには損害は無いし、相手の先方も把握できたのだから。

「各機に『フロートバルト』を換装させろ。後、ドロイドフレームの起動準備もしておけ」

 隆弘は淡々と指示を出す。「フロートバルト」とは、フレームシリーズに搭載するバックパックでエーテルエネルギーを動力とする。エーテルエネルギーは一箇所に大量のエーテル粒子を集約させると、その箇所を中心に無重力空間を発生させるという特性を持つ。

 その特性に気づいたリジェネレイト軍は大容量のエーテルを収束させるエーテルバルト・ジェネレーターを開発した。それを戦艦に搭載することによって、夢物語であるはずだった「空飛ぶ船」がこの世に現実となって蘇ったのである。無論それはフレームシリーズにも応用でき、背部にバックパックを装備することで飛行を可能としている。「フロートバルト」にもフレームシリーズ程のバリエーションが存在していた。

「俺は先行して、隠蔽されているゲートから敵さんをあぶり出す。本隊は、それらを撃破して回れ」

 彼の指揮振りを見たところで、正子がそこから学ぶとは到底思えなかった。軍には二つのパターンを持った人間がいる。一つは戦闘員として一線で活躍する生身の戦争を行なう者と、非戦闘員として後方で机上の戦争をする者の二つである。二人は正に間逆の位置にいる人間であり、電子画面でしか大軍を動かしたことの無い者たちにとっては、兵の個々の性質を知りうることはできない。隆弘はまさしく前線で戦うタイプの人間だった。

『飯沼機、発進シークエンスオールグリーン』

 そのアナウンスと共に、作業用ドロイドが隆弘の「ヴェスターナッハ」から離れていく。

「よし! さっさとここを片付けて、列連大橋に向かうぞ! 飯沼隆弘、『ヴェスターナッハ』出撃する!」

 そう叫ぶと同時に、フットレバーを踏み込む。リニアに電流が流れ、闇に覆われたカタパルトに光が灯る。光のラインが轢かれた先のゲートが開く。まぶしい外光と共に、白い雪に彩られた青森市の町並みが見えた。隆弘の「ヴェスターナッハ」は、その出口に向かって凄まじいスピードで飛び出していく。瞬く間にフォレストカラーの「ヴェスターナッハ」は大空に飛び立っていった。

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