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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの三章 第九話 猛将の油断

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 高熱の刃が火花を散らし、リニアマシンガンの曳光弾が線状に曇り空を彩る。それもかわされた隆弘は、戦闘が開始されて始めて舌打ちをした。


「これも防ぐか……いやはや、始めてにしてはやるではないか……『成田の荒鷲』」


 隆弘は相手の技量を過小評価していた。日本、そして新国連にとっても英雄である草壁相馬の名前は、異名と共に戦闘機乗りの中では伝説的存在だった。彼は、中統連との武力衝突で航空機撃破数一、二を争う記録保持者だった。リジェネレイト戦においても二十機近くのYAを単独で撃墜している。


 だが、それはあくまでも旧世代の戦闘機での話だ。いくら操縦が容易であるヨトゥンズアーマーと言えども、人型兵器の動きは複雑だ。慣れなければ簡単に扱えるものではない。パイロットは時間から考えてまともな訓練も受けていないはずだ。事実少し動きがぎこちない。それを差し引いたとしてもかなりの技量だ。


「勇猛果敢で知られる中統連軍が恐れ戦くだけはある……だが!」


 隆弘は不敵な笑みを浮かべてトリガーを引く。マシンガンから機関砲弾が吐き出され、相馬の機体を狙う。寸前でまたかわされてしまうが、それは予測済みだった。隆弘は機体を旋回させ、回し蹴りを見舞う。予想外だったらしく、蹴りは機体のわき腹部分に命中して相手の機体を大きく揺らした。こちらも同様に衝撃が襲ったが、隆弘にとっては苦痛に感じず逆に彼自身に戦っているという実感を与えていた。即座に体勢を整えてグレンを構えた。


「レスポンスに問題あり、だな。まだまだ動きが緩慢だぞ!」


 上段に構えたグレンが紅く輝き、ヴェスターナッハは勢い良く刃を振り下ろした。ブラッディイーグルは同じくグレンで受け止めようとするが、ワンテンポ分ヴェスターナッハの方が速かった。腕を切り落とすことはできなかったが、グレンを払い飛ばすことはできた。ブラッディイーグルは後退して距離を稼ぎ、腰部に装備されている銃を手にとった。隆弘は一瞬怪訝な表情を見せた。


 ヴェスターナッハと同じサブマシンのようだが、そのフォルムは一般使用とは大きく異なり、銃身から見てどちらかと言えばライフルに近い。新型機専用の新型マシンガンの一種か? 思考をめぐらすうちにその銃口から正視できないほどの光が灯り、隆弘は慌てて機体を上昇させた。だが、その瞬間激しい衝撃とともに機体の異常を知らせるアラームがけたたましくコクピットに響く。攻撃は腰部のグレンを収める鞘に命中したらしい。威力からして直撃ではなく攻撃の余波によるものだと隆弘は直感した。


「……ビーム兵器か!」


 そう叫ぶ間にも光の奔流が連続してヴェスターナッハを襲う。隆弘は急降下しつつ回避する。相手の射撃は精確でヴェスターナッハの軌道を読んで撃ち込んでくる。


「ビームな上に速射性能付きか……ファントムギアスも厄介なYAを敵に与えたものだ」


 隆弘は獰猛な笑みを見せる。人が見たら身を引きそうな表情だが、隆弘がこんな笑みを見せることは滅多に無く、自分の生命が危機に瀕したときぐらいにしかこんな顔つきにはならない。つまり、今がその生命の危機に瀕していると言うことだ。だが、隆弘にはまだ余裕があるらしくその笑みを絶やすことは無い。フットレバーを勢いよく踏み込み、再度の急上昇を行なう。ブラッディイーグルはマシンガンを撃つ。


 しかし、隆弘はそれを大胆な動きでかわしていく。相馬の機体は射撃を行ないつつ上昇していくが、下方のヴェスターナッハに注意を払わなければならないので後退のスピードは上がらない。対するヴェスターナッハは敵の砲口に注視すれば回避は難しくないので速度はぐんぐん上げられる。あっという間にグレンが届く距離まで近づいた。しかし、ブラッディイーグルはマシンガンを撃とうとしない。どうやら、連射にも制限があるらしい。ビーム兵器は確かに強力だが、膨大なエネルギーを一点に集約する分砲身に熱が溜まりやすい。恐らくある定数を超えた射撃を行なうと、数秒間砲身を冷却する必要があるようだ。


「それが強大な力の代償というものだ。さて……これで君は数秒間身を護る術が無い。どんな選択をするのかな」


 先程、ブラッディイーグルは右手に構えたグレンを失っている。右の腰にもう一本備えてあるが左手にはマシンガンが握られている。このタイミングで剣を取ることは不可能だ。シールドで防ぐにしても、こちらには二つの武器がある。どうとでも敵を料理することが出来るのだ。


「これで、君の輝かしい戦歴に幕を下ろそう……『成田の荒鷲』君!」


 その言葉に呼応して、ヴェスターナッハは剣を振り上げる。だが、次の瞬間隆弘の目が驚愕に見開かれる。ブラッディイーグルが右手で右腰に装着されていたグレンの柄を握り、抜き払った。そしてブースターを全開にして突っ込んできたのだ。


「何っ!?」


 隆弘は慌てて左へ逸らそうとするが、動揺が機体に伝わったのか一瞬反応が遅れた。ブラッディイーグルがその隙を見逃すはずもなく、ヴェスターナッハの左腕をすれ違い間際に切り落とした。


「くっ! 抜かったか……」


 隆弘は悔しさを紛らわせるために歯を食いしばるが、心に満ちる感情は収まりそうになかった。

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