ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの第三章 第五話 それぞれの戦いの地へ

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
東京 皇居


 ファントムギアスは一人皇居を歩いている。普段は民間人の立ち入りは禁止されているが、事実上この国を治める男にはフリーパスである。皇居を警備しているのもリジェネレイト軍である。どの兵もファントムギアスに最敬礼をする。やがて天皇の執務室の扉まで辿り着く。ファントムギアスはその扉を開いた。

「天皇陛下。突然の訪問を申し入れていただき、感謝いたします」

 ファントムギアスが恭しく頭を下げる。玉座には十二、三歳ほどの少女が座っている。その姿は異様に見える。史上二人目の女性天皇、篠原蓮子(しのはられんこ)は油断ない表情でファントムギアスをにらむ。

「ふん。所詮お飾りの、しかも囚われの身である朕に、そなたを拒むことなどできぬ」

 ファントムギアスはその言葉に苦笑を浮かべた。確かにそのことは否定しきれない。皇居の周りには<シュターディオン>とドロイド部隊が二十四時間で常時警戒している。だがそれは監視の意味もかねている。ファントムギアスとしては笑うしかなかった。

「手厳しいですな。ですが陛下……天皇というものは、この国の象徴となる存在です。囚われていることは、古来より変わらないのではありませんか?」

「確かにそうじゃ。それ故に、天皇という存在は民の支えなのじゃ。そなたのような侵略者に断じて屈することはない」

 蓮子は断固として言う。その言葉が、目の前にいる齢十四歳から出て来ているとはとても思えなかった。ファントムギアスの脳裏に、今は敵対する道を歩む大切な妹の姿が映った。まったく似ていない二人の面影が重なって見える。

 ――全く。何故敵方にばかり僕の惹かれる女性がいるのか……これも彼女が僕の意見に賛同していないということの表れなのか――

 内心でそうつぶやくファントムギアスに、蓮子は訝しげに見つめている。ファントムギアスは気持ちを切り替えた。

「まさに名君と呼ぶに相応しい回答です。ですが、僕はそのような気持ちを無碍にするつもりはありませんよ」

 その言葉に、蓮子は怒りをあらわにした。

「突如この国に侵攻し、長きに渡る平穏を崩壊させた者が何を言い出す!? 貴様の軍がやっていることを、人の気持ちを無碍にするというのではないのか!」

「陛下。戦争とはそういうものです。互いに譲れない思いがあるゆえに戦い、その雌雄が決することで、人は自身の存在価値を計ってきたのです」

 ファントムギアスはいつもの柔和な雰囲気を殺し、諭す様に話す。その様子は蓮子にとっては不気味以外の何者でもなかった。

「世界は知らなければならない。己の存在価値を……自身の生きる目的を。僕はその選択肢を与えるだけです。」

 蓮子は何も口出しすることができない。むしろ、彼の言葉にひきつけられてさえいる。

「これから多くの国が滅ぶでしょう。そして多くの人命が失われるでしょう……それでも、僕は戦いを煽動し続けなければならない。自身の心に課した誓約の元に」

「?」

 蓮子には、彼のいう言葉の意味が理解できなかったらしい。おそらく世界中のどの人間も同じ気持ちであろう。だが、その謎こそがファントムギアスという男の投げかける命題(テーゼ)なのだ。答えを見出すまでは、まだまだ時を要するだろう。だが、きっと彼女ならばその答えに辿り着くことができるとファントムギアスは信じていた。

「今は判らずとも、あなたにならきっと僕の真意を見出すことが出来るでしょう……その日が来るまで、戦いなさい。貴女が大切に思う人々のために」

 そう言って一礼すると、ファントムギアスは踵を返して歩き出した。蓮子はただ、彼に言い返せないことに悔しさを覚えるだけだった。

「言われずとも戦い抜いてみせる。それが朕の果たすべき責任なのだから」

 まるで自分に言い聞かせるようにつぶやく蓮子は、寂しげに見えた。

「……今は迷われるが良い。それが必ず、貴女自身の想いを遂げるために要となるのです」

 扉の前で振り返りざまにファントムギアスが言った。蓮子は唖然と彼を見つめた。

「貴女にはきっと、何か足りないものがあるのでしょう……皇室の英才教育では得られないことがね」

 そう言うファントムギアスの口元は楽しそうだった。





青森市 市街地


 三機の<ヴェスターナッハ>と、指揮官機である<シュターディオン>で構成された一個小隊が、青森市内へと突入した。リジェネレイト軍の先陣を切ったのは正子の部隊である榊原小隊だった。隊長である榊原将也(さかきばらしょうや)は、旧自衛軍で戦車小隊を十五年間率いていたベテランである。彼は元北陸方面軍に所属しており、方面軍司令部が旧日本からの離反を決意したときに、いち早く賛同した男である。

「小隊各機、周辺を警戒しろ」

 将也が命令すると直ぐに「了解」という声が返ってくる。それぞれが忠実に指示に従って行動している。この小隊のパイロット全員が、元々同じ戦車小隊に所属していた者達だ。古い馴染みゆえに戦いやすかった。

「隊長、様子が変ですぜ……敵が一人もいねぇ」

「兵が一人もいないのか? ……まさか」

 不意に戦車砲の砲撃音が轟いた。一番市内に食い込んでいた<ヴェスターナッハ>の左肩が吹き飛ばされた。

「別所! クソ、何処から……」

 そう毒づくパイロットの機体が、砲弾の直撃を受け吹き飛んだ。コックピットを貫かれ、パイロットは即死だったろう。だが、彼の死は無駄ではなかった。将也は<ヴェスターナッハ>が吹き飛ばされる瞬間、巧妙に隠された地下への入り口に、戦車がバックで入っていくのを見た。
「敵は地下だ! 各機、市街地から出るんだ!」
 それを聞いた<ヴェスターナッハ>のパイロット達は、意味も無く地下に向けてライフルやサブマシンガンを乱射する。それを別の出入り口から出てきた戦車が狙い撃つ。その戦車は戦果を確認することはなく地下へと退避する。敵の指揮官、草壁圭馬の指示だろう。

「全機、直ちに後退しろ! 早く下がるんだ!」

 将也の渇に反射的に機を翻していった。


「戦果報告! 市街地B地点において敵ウォーリアフレーム二機撃破!」

 <深下>のブリッジで小さな歓声が上がった。B地点に展開する戦車は五両である。これまでの戦いでは、一機のフレームに対し戦車十両以上の損害を覚悟しなければならない。それが一両の損害も無く、二機を撃破できたことには将兵も誰もが驚きだった。だが、それを指示した圭馬の顔は険しかった。

「敵にこちらの戦法を知られたか……B地点を放棄。戦車隊はC地点に後退しろ」

 圭馬が構築した新たな防衛ラインは、秋田基地のように地上に陣地を並べたものではなく、地下に築いた大要塞だった。日本の都市では、地上のライフラインが途絶えたときに備え、大規模かつ複雑な地下連絡網が敷かれている。二、三箇所の通路が閉ざされても、他のルートを通れるようにしたのだ。圭馬はその通路を利用し、避難の手段を逆に軍の移動手段へと変貌させた。

 元々消防車などの大型車両を移動させるために、通路は広く造られている。少ない戦力を各地に転戦させ、かつ敵に発見されにくい拠点を彼は構築したのだ。その地下防衛戦は二箇所に別れ市街地の外側を第一防衛ライン、市の中心部が第二防衛ラインとなっている。これが本州に残る、東北同盟軍最後の戦線だった。

「ですが敵を撃退したのですよ? そこから何故部隊を撤収させる必要があるのですか?」

 <深下>の艦長である神崎真澄(かんざきますみ)少佐が質問してきた。彼女は第二次日本海防衛戦で圭馬と同じ戦域を担当した時からの腐れ縁みたいなものであった。

「敵は馬鹿じゃない。こちらの強みは、出現位置を特定されないことにある。そのおかげでイニシアチブ(主導権)を握ることができているのだ。こちらの戦力に限りがある以上、火力を無駄にはできない」

 余りにも戦力が少なすぎた。今後のことを考えれば、国土の四分の一もある北海道を守るために、少しでも多くの兵と戦車が必要となる。だが、リジェネレイトが万単位の軍の撤退を見逃す筈も無い。少しでも多くの戦力をここで削ろうとするだろう。それだけはなんとしても阻止せねばならない。

 この戦いの肝は友軍の損害を最小限に抑え、北海道に逃がすことにある。この青森港地域に築いた地下要塞が、東北同盟軍の今後を左右する。その意志がこの防衛ラインを築き上げたのだ。戦うと決めた以上、三時間持ち堪えてみせると圭馬は覚悟を決めいていた。

「B地点に敵フレーム新たに五機侵入! A、C各地点にいる部隊の射程に入ります」

 通信担当のオペレーターが報告した。それを聞いた圭馬がオペレーターに顔を向けて頷く。

「よし……射程ぎりぎりでもかまわん。各隊は砲撃を開始しろ」

 ――やはりこうやって軍を動かす方が性に合っているな――。そう思いながら不敵な笑みを浮かべていた。


 防衛ラインは順調に機能している。戦力はこれまでより十分の一ほどしかなかったが、敵にはこれまで以上の出血を強いていた。敵フレームを四機撃破し、十機以上戦闘不能に陥れていた。

 ――流石兄貴だな……戦いやすい戦場を作ってる――相馬はコックピットの戦
術画面を見つめながら心ながらに思っていた。圭馬には護りにおいて他の追随を許さない男だ。少なくとも日本の中では彼以上の軍師はいないだろう。旧自衛軍では幕僚たちにその存在を疎まれていた。彼ら自身も、圭馬がいれば自分たちなど要らないという現実を否定しきれずにいた。

 故に特殊作戦軍という新設部隊をつくり、その責任者に圭馬を選んだのだ。実質上日本を支配し、畏怖の目で見られていた草壁一族で、唯一英雄として人心を掌握していたのは圭馬だけであったろう。一族の中で相馬が尊敬できたのは、父良馬と兄だけであった。

「シェルナー。リジェネレイトが今後どう動いてくるか分かるか?」

 相馬は自分の愛機となる機体――ブラッディ・イーグルに問いかけた。

「航空戦力による索敵、または現状のように出現地点を地上戦力で捜索するものと推察します」

 相馬は無表情に聞いている。確かにそうなのだが、回答がアバウトすぎる。戦術AIといっても、性能はまちまちだった。戦闘兵器に搭載されているAIに、全体の戦略シミュレーションは必要ない。パイロットというものの本懐は前線に立って戦うことにある。机上の戦いは後方で行われるべきだが、相馬は状況を逐一把握しその情報を元に戦うタイプの軍人だった。

「フレーム各機に告げる。青森防衛線は現在、リジェネレイト軍の進撃を食い止めることに成功している。出撃予定時刻を三分縮める。各機出撃スタンバイ」

 アンジールからの放送が流れていた。戦線が十分に機能しているのに何故こちらの出撃を早める必要があるのか。格納庫内の作業員たちは目を点にしていたが、パイロット達には分かっていた。

「了解」

「あいよ!」

「分かった」

 口々に確認の意志を示す。

「相馬。敵はかなりの精鋭だぞ」

 正太が通信を送ってきた。その表情はいつものおちゃらけたものではなく、真剣なものだった。正太は相馬と二人のときだけこの表情を見せる。士官学校の頃から相馬と紗香に正太の三人は学校にあった記録をことごとく打ち破ってきた。

 ユーラシア連邦分裂紛争の際、新国連軍の精鋭部隊群「ブルー・クルセイダーズ」に所属したことのある戦闘機乗りだった。お互いの癖・スタイル・マニューバの全てを理解していた。配属先が別々になってから、正太はかなり特異な戦闘スタイルに変更したようだが、今は昔のスタイルに変更したようだ。遠距離射撃型の機体を選んだことがその証拠だろう。

「ああ、ゾティアックは隆弘を含めて二人だな。一方の部隊は新型で編成されている。新人さんだろう」

 正太ば淡々と自分の見解を述べた。自分の考えと一致したのか相馬は深く頷いた。

「俺は空を引き受ける。水瀬は地上部隊を引き付け、正太は俺たちの支援を頼む」

 相馬主体の作戦会議に抗議しようとする早江だったが、正太の「あいよ」と返事をしてしまったので反論することができなくなってしまった。

「よし。各機リニアカタパルトへ移動。俺、水瀬、そして正太の順に出撃する」

 その言葉を聴いた整備スタッフやドロイドたちが、大わらわで準備を始める。「ブルーシンフォニア」の左右に備えられた二基のリニアカタパルトに、「シュナイゼル」と「ブラッディ・イーグル」が接続される。発信の準備を黙々と行う
二人に正太から通信が入った。

「紅き焔の護りがあらんこと……なんて言うのが航空自衛軍流なんだがね。今は関係無いわな……背中はしっかり守ってやるから、お前さんたちは馬鹿になって戦いたまえ」

 冗談交じりで言う正太なりのエールに、早江はつい笑顔になってしまう。単機ではないことが、これほどまでに心安らぐものなのかと内心驚いていた。早江は一瞬とびっきりの笑顔を見せて、直ぐに表情を引き締めた。

「草壁相馬……青森防衛ラインに向かう」

「水瀬早江、発進します!」

 レールに電流が流れ、二機のフレームは駆け出した。「ブラッディ・イーグル」はそのまま上昇して行き、「シュナイゼル」は雪がまだ残る道路を猛スピードで駆けていった。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

テンペストワルツ愛読者集合☆ 更新情報

テンペストワルツ愛読者集合☆のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。