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2007年04月06日04:12

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「檸檬のころ」感想【ネタバレ注意】


 舞台は栃木県の豊な緑に囲まれた高校、主人公たちは大学受験を控えた
3年生たち。
 映画は2つの物語から構成される。榮倉奈々演じる秋元が中心の
ストーリーと、谷村美月演じる白田が中心のストーリー。
 秋元と白田は全く正反対の女子高生として描かれている。
秋元は同性の友達も多く、男子生徒の人気の的。一方の白田は
いつもクラスで一人ぼっち、寡黙に音楽を聴いている。秋元と
白田は全く接点がない。ところが、映画の最後になり、
2人がちょっとしたきっかけから固い絆で結ばれる。
大人になり実感した事はちょっとやそっとの事では大人同士は
固く結ばれないという事。些細なきっかけで心が通じ合えるというのは
若い、いや青春の特権かもしれない。
 僕が心を強く引かれたのは、地味な白田の方。
 白田は、授業中でも先生に見付かってでも頑固なまでに音楽を
聴いていた。夢は大学の文学部に進学し、音楽ライターになる事。
その為には、高校の授業など時間の無駄とばかりに、音楽を聴きまくり、
一人、文章を書く練習をしていた。数少ない同性の友達がいるにせよ、
彼女は孤独だった。
 ところが、である。ふとしたきっかけで、
軽音楽部の男子生徒、辻本(平川地一丁目の林直次郎)と、
音楽の話題で意気投合する。僕もメジャーどころのアーティストは
押さえているつもりだが、生き生きと語らう彼らの口から
発せられるアーティスト名は、「誰やそれ?」と突っ込んでしまう
名前ばかり。観客が???の名前を聞くたびに、それまで
生気が感じられなかった白田の身体から、迸る熱いエネルギーが
発せられるようになった。まるで、限りが見えない砂漠をさ迷い歩いた
果てに、ほんの僅かながら水が湧き出るオアシスを目の当たりにしたか
のように。
 心を閉ざしていた白田の本当の性格がここから表れ始める。
クラスの中のポジションから周囲と上手くやっていく協調性がないの
ではと思っていたが、逆。人一倍相手の事を気遣い、相手の為なら、
自分の感情や意見をグッと飲み込んで明るく振舞おうとする良い奴
だった。辻本がギターでオリジナル曲を作った。まだ完成には
程遠いが、率直な感想を聞かせてくれと辻本に言われた白田。
決して心の底から誉められるものではなかった。でも、白田は
辻本を傷つけまいと、精一杯の言葉を発する。「ダイヤモンドに
なる前の石炭だね」と。「同じ炭素で出来てるとしても、
石炭からダイヤモンドになるまで、どのくらい手間隙かかるねん」と
突っ込みそうになったが、白田の相手を思いやる姿に、胸が痛くなり、
あまりの不器用さに抱き締めたくなり、頑張れとこぶしを
握り締めたくなった。
 しかし、自分が一番音楽を愛し、その愛を表現できるものだと
信じていた白田の自信を打ち砕く事態が起こる。音楽の為なら
どんな努力だって厭わない白田が、ぼう然となってしまう事態。
生まれて初めて味わう挫折。
 そんな時、辻本から、自分が作っている曲の歌詞を書いてくれと
頼まれる。その曲を文化祭で披露するという。
歌詞なんて書いた事ないのに、自分には音楽を愛する
才能が無いかもしれないというのに。それでも彼女は引き受ける。
辻本の為に。
 直ぐに、歌詞作りに息詰まる。
 やがて、白田に対する辻本の気持ちが分かってしまう時を迎える。
そして、辻本の楽器ケースに付いていた
いた人形と同じ人形を持っている人間を目撃する。
 泣くのをこらえ、約束の歌詞を必死に考え、口ずさむ白田。
その姿がたまらなく切ない。観る者の胸を激しく突き刺す。
まさに、これが青春そのものの姿だと思った。
 「青春」とは何?大人になってビジネスで、お得意さんに
「御社の為です」と言っておきながら、心の底では、自分の会社の為、
強いては自分自身の為!と思っている。白田のひたむきで痛々しく
純粋な姿に、自分の為!なんて気持ちはサラサラ感じられない。
 「青春」とは、「他の何かの為、他の誰かの為に、真直ぐに
何の疑いもなく、何かをする事」じゃないのか。白田の
不器用なまでの純心な姿に、その問いの答えの一つが分かったような
気がした。
 白田は、ノートを破いた紙に自分が作った歌詞を書き、
そっと辻本の机の中に締まった。
 文化祭当日、学園は生徒達の歓喜や笑い声、明るい雰囲気に
包まれていた。ただ一人、白田は、何かに怯えているように
うずくまっていた。自分の書いた歌詞が採用されなかったら、
という不安に。そして、辻本と同じ人形を持つ者が辻本と
同じ空間にいるという激しく厳しい目を背けたくなるほどの現実に。
 果たして、白田が書いた歌詞は採用されるのか?
 白田はこのまま、ずっとうずくまったままなのか?
 白田にとって、青春とは、檸檬のように、実際に味わうと
ちょっぴり酸っぱいが、時が経つと、鮮やかで爽やかな香りを
もたらしてくれるものだと思う。
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