妻が一枚の紙を見せて、「おかしくない?」と聞いてきた。見ると、ジブラルタ生命の文書だった。
内容は、同社の元社員が退職後、在職中に知った顧客の契約内容をもとに、他社の生命保険を勧める事例が実際に報告されているため、心当たりがあれば連絡してほしい、というものだった。
妻は、「元社員はもちろんだけど、会社の社員教育の問題かな」と言う。たしかに、在職中に知った顧客情報を、退職後に別会社の営業に使うのは問題である。ただ、元社員が別の同業他社に転職して営業すること自体は、珍しいことではないようにも思う。
しかし、生命保険の場合は事情が違う。
顧客は契約のために、家族構成や収入、資産、加入中の保険、健康状態など、かなり個人的な情報を伝える。その情報を使って、退職後に別会社の商品を勧めるなら、単なる転職後の営業とは言えない。顧客からすれば、ジブラルタ生命に預けた情報が、他社の営業に利用されたことになるからだ。
「今の保険では保障が足りませんね」と言われても、その説得力は、元社員が努力して新たに得たものではない。在職中に会社の業務として知った情報を使っているからこそ生まれている。
そうなると、問題は元社員個人のモラルだけではない。会社の情報管理も問われる。退職時に顧客情報を持ち出せないようにしていたのか。アクセス権限を停止していたのか。退職後に元担当者が以前の顧客へ営業できない仕組みはあったのか。
「元社員が勝手にやったこと」で終わらせることはできないだろう。
すでに事例が報告されている以上、会社として調査し、必要なら元社員に対して法的手段を取ることも必要になるだろう。守秘義務に関する問題だけでなく、会社に損害を与えたのであれば、その責任を問うことも考えられる。
もし問題を把握しながら、社内処分だけで曖昧に終わらせれば、今度は会社そのものへの不信につながる。顧客からすれば、「自分の情報を勝手に使われても、会社はその程度の対応しかしないのか」ということになるからである。
さらに大手マスコミがこれを記事にすれば、顧客離れが起きて大きなダメージになる可能性もある。生命保険は、商品そのものだけでなく、「この会社なら自分の情報を預けても大丈夫だ」という信用で成り立っている部分が大きいからだ。
問題は元社員の営業方法だけではない。顧客情報を不正に利用した者に対して、会社がどこまで毅然と対応するのか。そして、その情報を預けている顧客に対して、会社がどれだけ責任を持つのか。
そこなのだろう。
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