2025年の双子誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定。ロスサガとミロカミュ前提みたいなサガカミュっぽい話。
サガとカミュが二人で一緒に任務に就く話ですが、肉食系なカミュに襲われそうになる感じのサガカミュ話です。
ネタを思い付いたのは今年の2月ごろなのですが、家庭の事情でドタバタして、ついでに無駄に広い我が家の庭の花木の剪定作業もやらないといけなくなったりで、執筆を放置してたものを、双子誕用に再利用しました。誕生日のお祝いっぽくない話ですが、まあ今年のノルマは果たしたということでw
昨年の双子誕作品はこちら。『初夏の花冠』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22264258
『極北の初夏』第1話
ロシアとフィンランドの国境地帯にはヒビヌイ山脈という山地が広がっている。「山脈」と言っても千メートル級の丘陵が連なる緩やかな山地だ。暖流であるメキシコ湾流の影響で、この地域は北極圏にしては温暖な気候である。とはいえ極地なので、基本的には気候は凍土で覆われたツンドラ地帯に属している。
だが極北にも春、そして夏と季節が巡っていくと、分厚い積雪や凍土も溶けてぬかるんだ地面が広がり、短い春と夏を満喫する植物と動物の楽園と化すのだ。
初夏、所々にまだ雪が残ってはいるが、砂礫で覆われた地面としけった部分に生える地衣類、そして冬を越した低木や春を待って芽吹いた花々が茂るヒビヌイ山脈の山の中を、双子座のサガと水瓶座のカミュが歩いていた。カミュが持つスマートフォンのGPS機能で位置を確認しながら、二人は見る者もいないままに美しく咲いている色とりどりの花々や鮮やかな新緑に覆われている山間部を進んだ。
人家も人影もない僻地を歩む黄金聖闘士二人がたどりついたのは、ある氷河の先端部だった。深い岩山を削って峡谷を形成しながら、人の目では確認できぬほどの遅い速度で流れている氷河が絶壁から断面となっているその個所から、ある氷塊が覗いていた。青白く凍って固まった周囲の氷河よりも透明度が高く透き通ったその氷塊の中には、ある「モノ」が閉じ込められていた。
「これ…か」
サガが氷河からむき出しになった巨大な氷塊を見上げた。氷塊の中には、身長が十メートル近くある巨人が閉じ込められていた。皮膚は青黒く、深いしわが刻まれ、分厚さを感じるその皮膚は象の皮のようだ。口からは左右の犬歯がむき出しになり、頭部には緩やかに孤を描く一本角が天に向けて生えている。左右と額にもある三つの目は、自分を凍らせた相手を憎々しくにらみつけるように開かれたままだった。
「北欧で言う『トロール』…、フィンランドでも『シェートロール』と呼ばれている巨人ですね」
カミュがサガに並んで氷塊を見上げながら説明する。
「どうも数世代前の水瓶座の聖闘士が封じた怪物のようです。氷塊はフリージングコフィンで作られているので、破壊することはほぼ不可能です。しかし最近の温暖化によって氷河が融解して、この氷塊がむき出しになって人目につくようになってしまったようです」
「発見者は?」
「この辺りを行き来しているサーミ人の牧畜民です。彼らの話を聖域の現地協力者が聞き、現場を確かめて聖域に報告が来ました。話が広がらないように、協力者たちが目撃者に口止めをして手を打ってはくれましたが…」
サーミ人、とは、スカンジナビア半島北部に住む先住民族で、トナカイの放牧や漁業を生業としている。放牧という生活スタイルから、知らず知らずロシアとフィンランドの国境を越えて移動することも珍しくはない。国境に沿って壁や鉄条網や監視塔があるわけでもなく、そもそも人もまばらな過疎地帯だ。以前よりは国境管理が厳しくなり、道路や鉄道を行きかう旅行者などは減少したが、監視の目が行き届いていない場所は広かった。
「この氷塊自体を何とかしないと、目立ち過ぎて巨人がいるという秘密が保てない…というわけか」
サガがため息をつく。
溶けかけた氷河の先端に巨大な氷塊が飛び出しているだけでも人目を引くが、さらにその氷の中にはこの世には存在しないはずの「巨人」が入っている。「広告用に制作したオモチャですから」で世間にごまかすにしても、大きすぎて不自然すぎる。
「そういうことです。私が改めて氷の技で固めて中が見えないような厚さにしても、氷河が消失した後にここに氷塊がぽつんとあるだけでは、目立って異様な状態になってしまいますし…」
「了解した。確かに、私の出番だな」
ため息交じりにだが、サガは現状を納得した。
数代前の水瓶座の黄金聖闘士がトロールを中に封じたらしい氷塊がロシアとフィンランドの国境地帯で発見され、このまま放置しているといずれ「巨人が実在する」という話が世界にと広がってしまって騒ぎになる恐れがある。
この問題が現地から聖域に伝えられて解決策を皆で協議した結果、巨人ごと氷塊を当代の水瓶座であるカミュの監視が可能な東シベリアに移動してしまおう、という結論になった。東シベリアにはカミュの他に白鳥座の氷河も住んでおり、今後も氷の聖闘士の修行場として存続していく可能性が高い。その東シベリアならば聖域の監視の目が効いて世間から隔絶できるために安心だ、ということだ。
だが今度は「ではこの巨大な氷塊をどう東シベリアまで移動させるか」という技術上の問題が出た。重機で氷を切り出して、鉄道なり船舶なりで移動させるのは、それこそ人目につきすぎる。第一、聖域にはそんな輸送が可能にできるほどの金がない。ないったらない!
そういうわけで「人目につかず、かつ金もかからない輸送方法」を聖域の上層部は改めて話し合うことになった。まずは「牡羊座のムウの念動力でテレポートさせては?」という実に大雑把な案が出た。しかし当のムウから「さすがに質量と距離がありすぎて、可能かどうか自信がない。これだけ巨大な物質を移動させた例もないため、テレポートの際の通常空間への影響も予測できない」と断りがきた。そして次に出た案が、「ならば双子座のサガが異次元経由で移動させたら、人目にもつかなくて良いのでは?」という、これまた大雑把な案だった。
「輸送装置」として指名されたサガは、「それはつまり、まず私がロシア西部の現地に行き、巨人を異次元に入れた後、今度はロシアの東端にまで移動して、巨人を異次元から出す、ということか?手間がかかりすぎる…」と最初は躊躇した。
だがなにしろ聖闘士とは、物事を解決する際には話し合いより腕力を選択し、しかも往々にして腕力で解決してしまうという脳筋の集団なのであった。他に方法がないならやるしかないだろ!なんとかやれ!根性でやり遂げろ!というわけである。
さらに「ほら、サガの誕生日が近いだろ?この任務が終わったら休暇を長めに出すからさ!カノンと二人きり、兄弟水入らずでゆっくり休暇を楽しんでよ!」と教皇アイオロスからご褒美も提示され、サガは
「…まあ、とりあえず現地に行って、その案が可能かどうか、モノを見てくる」
と、サガは水瓶座のカミュを案内人に、巨人を封じた氷塊があるという現場に飛ぶことにしたのだった。
こうしてサガはギリシャから国際便でロシアのサンクトペテルブルクに飛び、そこでカミュと合流した後は鉄道で地元の都市まで行き、そこからさらに現地の協力者が運転してくれる自動車に乗せてもらって車で行けそうな所まで行き、そこから先は徒歩で山地を踏破して、この場所まではるばるやって来た、という次第である。
「さて…と。では、まずはこの氷塊を完全に氷河から切り出すか」
「はい」
巨人を封じ込めたフリージングコフィンの氷塊は、氷河の先端からむき出しになっていはいるが、まだ本体である氷河と接着している状態だ。この氷河との接着部分を破壊して氷塊を完全に分離しないと、異次元に送ることが出来ない。
そしてそこは「問題はたいてい筋肉で解決する」聖闘士たちである。サガとカミュの黄金聖闘士二人は小宇宙を高めると、巨人が封じられた氷塊の周りを自分たちの拳で破壊し始めた。フリージングコフィンで固められた氷塊自体は、黄金聖闘士である彼らであっても砕くことはほぼ不可能なので、二人にとっては周囲の氷河をざくざくと適当に力技で破壊していくだけである。
上から、右から、左から、と、サガとカミュが黄金聖闘士の拳で氷河を砕いていった。「何事も腕力で解決する」男たちの面目躍如な光景であった。黄金聖闘士二人が固い氷を拳で爆砕していくたびに、ダイナマイトで発破をかけたような轟音が周囲に響く。大きな土木工事でもしているかと思われるような爆音が続いたが、何しろ他に人間がいないのでやりたい放題である。
やがて氷河との接点が小さくなった氷塊は自重によって傾き、地響きとともに氷の破片をまき散らしながら地面へと落下した。
「よーし、切り離しは成功したな」
一時間近く続いた破壊作業に、さすがに疲れたサガが膝に手をついて息を整えながら言う。カミュもさすがに疲労し、背伸びをしたり屈伸をしながら呼吸を整えていた。
「どうです、サガ?いけますか?」
「まあ、何とかなるだろう」
二人とも呼吸が整ったところで、サガは両腕を氷塊に向けて伸ばすと改めて小宇宙を高めた。
「アナザーディメンション!」
小宇宙を高めたサガが異次元への入り口を開く。巨大な重量を持つ氷塊が、異次元への入り口にと吸い寄せられて、じりじりと動き出した。やがて無重力である異次元の中に包まれると、氷塊は地面から浮き、異次元の奥へ、さらに奥へと流れていき、そこでサガは異次元の入り口を閉じた。
「これでよし」
巨大な氷塊を異次元に送って一仕事を終えたサガがうなずく。
「氷河から氷塊を切り出して、目的地まで輸送します」というだけの任務だったが、人力で氷塊を切り出すにせよ、異次元を利用しての輸送にせよ、やはり黄金聖闘士でないと不可能な話なので、サガとカミュが現地に足を運ぶだけの理由はあるのだった。
こうして一仕事終えた二人は、再び初夏の花々が咲くツンドラの丘陵地帯を歩いて戻り始めた。山間部に入ると道路もなく、泥濘や沼地が点在し、夏の間だけ流れる川やむき出しの岩石地帯などが広がっており、氷塊の近くまで自動車で行くのは無理があった。それでも行ける所までは現地の協力者が自動車に二人を同乗させてくれたので、二人は今は彼らの帰りを待ってくれているその自動車の場所まで徒歩で山中を歩き続けた。
「しかし、こうしてゆっくりと見ると、美しい場所だな」
晴れやかな初夏の陽光の中、色とりどりの花々が咲き乱れる高原を歩きながら、サガが隣のカミュに言った。赤、白、黄、と、いかにも春や夏にふさわしい明るい色をした小さな花々が咲きそろい、短い生の季節を謳歌するように蝶や羽虫が飛んでいる。厳しい冬を地面の中で耐え忍んだ低木や針葉樹も新しい芽や葉をつけ、みずみずしい新緑で山の斜面を覆って、夏を迎えた極北の山々を飾っていた。岩肌がむき出しになった川床では、氷河から溶け出した清流が流れている。
「極地の夏は短いですから。だから一層美しく、華やかなんです」
自分のホームグラウンドではないが、似たような気候の場所を褒められて嬉しかったのか、カミュがにこやかに返す。
「来るのが大変な場所でなければ、良い観光地になるのだろうがな」
サガが少し苦笑しながら続けた。
何なら敷物を広げて、サンドイッチや焼き菓子を詰めた弁当を取り出し、水筒からコーヒーを汲み、風景を眺めながらピクニックを楽しめそうな清々しい場所である。空気は肌寒くて冷涼だが、それがかえって澄みきった感じがしてよい。
問題は、この場所に来るまでの労力の大変さにあった。
一番近くて今回の任務の拠点になった都市は、極北の軍港都市として有名なムルマンスクだ。だがまずそこに行くまでのルートとして、サンクトペテルブルクから国内での航空便か鉄道を経由することになる。普通なら航空便を使えば早いのだが
「最近は航空機が経済制裁による部品不足や整備不良で故障することが増えているので、鉄道の方が安全だと思いますよ。まあ、鉄道も整備不良で故障や停止が増えてますけど…」
というカミュの助言で、まずギリシャからサンクトペテルブルクまで国際便で行き、そこから鉄道で二十六時間をかけてムルマンスクまで行かねばならなかった。そしてムルマンスクから現地まではろくな道路もないので、現地の協力者が運転してくれた自動車に乗って泥と水たまりと穴ぼこだらけの悪路を揺らされながら行けそうなところまで行き、そこからは道なき道を徒歩で、という行程だった。
帰る際はこれを逆に行き、「ロシア国内の航空便は安全が担保できないし、鉄道は時間がかかりすぎる」ということで、今度は国際便でサンクトペテルブルクから中国に飛び、そこから再びロシア国内に入って東シベリアまで行き、カミュと弟子の氷河が目星をつけた監視可能で人気のない保管場所まで移動して、そこでサガが異次元から巨人入りの氷塊を取り出す、という路程をたどることになったのだった。
聖闘士や聖域は世俗の政治には関与しないのが原則なのだが、どこかの独裁者が戦争をおっぱじめたりすると影響を受けずにはいられないので、大変に迷惑なのであった。全部あのハゲが悪い。
(続く)
次話
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