今回のNIAFFの長編コンペは全12本。
前回と同じ本数だが内容的に手ごわそうな印象。今回の星取表担当でなくて良かった(笑)。
コンペ作品は以下(順不同)。
『バレンティス』イタリア、ジョバンニ・コロンブ、2024年、72分
『クラリスの夢』ブラジル、グート・ビカーリョ&フェルナンド・グティエレス、2023年、83分
『化け猫あんずちゃん』日本&フランス、久野瑤子&山下敦弘、2024年、92分
『リビング・ラージ』チェコ、クリスティーナ・ドゥフコバ、2024年、79分
『ルックバック』日本、押山清隆、2024年、58分
『かたつむりのメモワール』オーストラリア、アダム・エリオット、2024年、94分
『オリビアと雲』ドミニカ、トマス・ピシャルド・エスパイヤット、2024年、81分
『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』アメリカ、エリック・パワー、2024年、87分
『ペリカン・ブルー』ハンガリー、ラースロ・チャキ、2023年、80分
『口蹄疫から生きのびた豚』韓国、ホ・ポムウク、2024年、105分
『ワールズ・ディバイド』アメリカ、デンバー・ジャクソン、2024年、116分
『ボサノヴァ〜撃たれたピアニスト』スペイン&フランス&オランダ&ポルトガル、フェルナンド・トルエバ&ハビエル・マリスカル、2023年、103分
12本でも先行する国内のアニメーション映画祭とかぶっていたり、国内公開が決まっていたりして、今ここでしか観られないだろう作品は案外と少ない。
東京国際映画祭で上映済みが『かたつむりのメモワール』(『メモワール・オブ・ザ・スネイル』の題)『オリビアと雲』、
TAAFで上映が『クラリスの夢』『ペリカン・ブルー』(『ペリカンブルー』の題)、
公開決定済みが『バレンティス』『ボサノヴァ〜』『リビング・ラージ』、『口蹄疫から生きのびた豚』はNIAFF会期直後に公開が決定、
劇場公開済みが『化け猫あんずちゃん』『ルックバック』、
この3月時点でNIAFFのみは『ペーパーカット』『ワールズ・ディバイド』の2本。
この辺は朝日新聞の小原記者も連載コラム『アニマゲ丼』で苦言を呈していたりする。
観る方としても複雑で、再見が叶ったり、地元での上映よりも良い条件で観られたり、その時間で他のプログラムに行けたりと良い面も多いが、わざわざ新潟まで来た(行く)のにという気持ちも否めない。折角ならかぶりを減らして新しい作品に出会いたいというのは誰しも思うことだろう。
今回は前回よりも増えて28の国と地域から69作品の応募があったそうなので、落ちた中にはいったい何がと気になる。
作品の国籍も、イタリア、ブラジル、日本、チェコ、オーストラリア、ドミニカ、アメリカ、ハンガリー、韓国、スペイン・フランス・オランダ・ポルトガル(合作)と多彩で、長編制作は珍しい国も入っている。12本と本数の多さも含め、新潟だけで世界の制作事情を体感出来る。
長編アニメのセレクトには映画祭ごとの特徴が表れるもので、TAAFは一般受けする感動的な作品がよく選ばれ、広島はドキュメンタリーが強く、新千歳は尖って、東京国際は多彩さが見られる。新潟は本数の多さから万遍ないセレクトが可能で、その中でもトリッキーな仕掛けが好まれる印象もある。
映画祭では国籍に加え手法のバランスが図られることも多い。今回の新潟では、デジタル、カットアウト、ロトスコープ、ストップモーション(人形)、手描き、等々と多彩だ。短編プログラムならいざ知らず、長編でこれほど手法の見本市的に作品が揃うのは大変なこと。長編アニメが変革の時代を迎えていることが伝わる。独力で制作した作品も見られ、デジタル機器の導入が大きく貢献していることが改めて分かる。
東京から新幹線で2時間と近い地でこのような多彩な作品が観られるのはありがたいことで、もう少し観客が増えてもいいのにと思う。
さて、今回、私は12本中の6本を既に鑑賞済み。
他の作品で、『ボサノヴァ』は一般公開が確定、『バレンティス』は悲惨な予感がして、『口蹄疫…』はビジュアルなどから鑑賞を避けた方が良い気がしてパス。スケジュール的にも他のトーク付きプログラムを優先することにした。その結果、とても観たかったチェコの人形アニメ『リビング・ラージ』は鑑賞が叶わなかったが、これも一般公開は決定している。
ということで、今回観たのは『ペーパーカット』と『ワールズ・ディバイド』の2本。
『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』は、2022年の広島アニシズと2023年のNIAFFで上映された『森での出来事』の作者エリック・パワーの新作カットアウト作品。

『森での出来事』
『ペーパーカット』
監督自身の半生をカットアウト(切り紙)で綴るものだが、テキサス生まれで、自らを「サタデー・モーニング・カートゥーン・ジェネレーション」(土曜日の朝に放送されるアニメを観て育った世代)と語る監督が強く影響を受けてきたカルチャーの数々が興味深い。同世代ではないし国も違うが、部屋に飾られたポスターやDVDのジャケットなど、ほぼ分かる親和性。ホラー映画と日本のチャンバラ映画、特に『座頭市』に強い影響を受けて映像作家の道へ進み、短編や大量のMV等々を手がける。
生い立ち、失恋、結婚、子供の誕生などプライベートもユーモアに包んで赤裸々に描かれ、インディー作家として生きる様が素直に面白い。
前作にはジブリ作品の影響が見られ、今回のパンフレット等でのビジュアルも『魔女宅』風カットが使われているが、本作の中では特に影響のほどは描かれていないが、デイリーニュース05でのインタビューで、宮崎駿監督の本を読んで学んだと語っている。
様々な手法に手を染め、現在は好みの質感の紙と出会い、自宅に撮影用のマルチプレーン台を自作、小さな作業机で制作を続けている。インディー作家にとって映画祭に出品する出品料の負担の大きさ、落選した時の落胆なども正直に語られ、とても興味深い。
2023年の新潟でコンペインし、映画祭に招待され人生初のパスポートを取得して来日。今回が2度目の来日になるそうだ。
作品はその紙の質感が感じられ、色彩感覚も良く、カットアウトならではのちょっとぎこちない手作り感、監督自身の持ち味だろう全体的な明るさが好ましい。自主作家の現状と訴えなど学びもある。次回作があるなら是非観たいと思う。
星取表では☆3〜4。自主作家の苦悩と努力が伝わると好評。
『ワールズ・ディバイド』は、アメリカのデンバー・ジャクソン監督がほぼ一人で制作したという長編。
116分と独力とは信じられない長さと複雑な構成、多くのキャラクターが登場する。
新潟の公式サイトの紹介によると「終末後の戦争に荒れた世界で恐怖に怯えて暮らしていたナトミは、⽗テリックによって魔法の世界「エスルナ」へと導かれる。そこで彼⼥は、ナトミが⾃分の地位を脅かす存在になることを恐れる⼥王イデナと出会う。幼い頃からの相棒であるクマのぬいぐるみミートと、謎の⽼戦⼠バタールに助けられながら、ナトミはイデナに⽴ち向かい、この世界の神であり彼⼥の⽗であるテリックを⾒つけ出さなければならない。」とある。webシリーズの長編化であるらしい。
『スター・ウォーズ』的な物語。2Dアメコミ調のルックのSFアクション・アニメ。
重要な人物の一人が日本髪風の髪型をしているなど日本カルチャーの影響も見える。仮想世界の通貨単位が「ジブーリ」だったり、クマのキャラクターの胸の模様がトトロのそれだったりと宮崎アニメの影響が明らか。もうそういう時代なのだなあ。日本髪風の女性戦士がクシャナ的に見えもする。
実は星取表の「宮崎愛がダダ洩れ」との評を読んでから観たのだが、ちょっと期待し過ぎた感も。☆は3から4.5。壮大なスケールと、ほぼ一人で作った点を評価されている。
余談だが、今回の星取表で☆1つを付けた方がおり(『口蹄疫…』に対して)個人的に胸を撫で下ろしたのだった(笑)。前回、『深海からの奇妙な魚』に迷った末に☆1つを付けたことで、いやもう会う人会う人にあれこれ言われて大変だったのだから。
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