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2024年11月30日02:57

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『病欠の理由』

 2024年のロス誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定、ロスサガ前提。
 誕生日の早朝にアイオロスが腰痛になってしまう話です。どう転んでも悪女扱いされちゃうサガさんですw
 昨年の作品はこちら。『初めてのプレゼント』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21114529

『病欠の理由』

 十一月三十日。それは当代の聖域の教皇である射手座のアイオロスの誕生日である。
 聖域では、その日は「教皇様の生誕日」ということで、一連の祝賀行事が行われるのが通例であり、朝から女神アテナへの感謝の礼拝だの、住民代表からの教皇様への祝辞だの、それへの教皇からの答礼の演説だの、近隣の住民も参加してのお祝いの昼食会だの、記念競技会だの、黄金聖闘士たちとの晩餐会だの、まあ、とにかく教皇アイオロスは朝から働きづめになるのだった。
 「そんなお祝い行事とか面倒だから、一日のんびり休ませてくれ〜」というのがアイオロスの本音だったのだが、周囲の祝賀ムードに本音をぶっちゃけて実行できるわけもなく、彼の恋人であり教皇の首席補佐官を務める双子座のサガが、前夜から熱〜く祝いの一夜を共にしてくれるのを心の支えとして、面倒な誕生行事の数々に臨むのであった。
 そして十一月三十日の早朝、広い教皇用の寝台の上で朝のうたた寝を楽しんでいたアイオロスは、一足先に起き出してシャワーを浴び終えたサガに起こされた。
「ほら、アイオロス、そろそろ起きないと」
「う〜ん…」
 布団の中でアイオロスが眠そうに寝返りを打つ。
「湯が熱いうちにシャワーを浴びて来い。もう起きないと、朝の礼拝に間に合わなくなるぞ」
 古代からの生活様式を堅持している聖域では、ボタン一つで湯が沸くガス給湯器などはない。なのでお湯は台所で使うかまどだの部屋の暖炉だので薪や石炭を燃やす火力をついでに利用する形で沸かしており、アイオロスたちが使うお湯も、侍従たちが彼が必要とする時間を想定して用意しておいてくれるものだった。なのでこちらの都合でせっかく彼らが用意してくれた湯を放置していると、浴槽やシャワーのお湯の温度は下がってしまうのだった。
 サガに繰り返し起床を促されたアイオロスは面倒そうにもう一回寝返りを打ち、それからサガの手をつかんで言った。
「ああ〜…面倒だな。今日はこのままサガと寝ていたいな〜」
「アイオロス、何を…」
「いいだろう?おれは急に熱が出たとか言ってさ…。それでサガが付ききりで看病してくれよ」
「馬鹿なことを…」
 睦言とともに甘えてくるアイオロスにサガが苦笑する。だがアイオロスはサガの腕を引っ張り、バランスを崩したサガはアイオロスの上に倒れる形になった。アイオロスはサガの胴体に腕を回して彼を抱きしめ、ゴロゴロと寝台の上を転がるようにしてサガに顔を寄せて甘えた。
「こら、アイオロス…」
「う〜ん、もうちょっとこのまま…。何なら、もう一回戦する?」
「馬鹿、やめろ、ロスったら…」
 甘えてくるアイオロスを軽くいなしていたサガだが、サガの軽い対応にアイオロスはどんどんと図に乗った。
「ねえ、サガ、もっと…」
「だから、やめろと…、アイオロス」
「いいだろう、ほら、キスくらい…」
「ああ、もう!やめろと言っている!」
 サガはアイオロスを自分から引きはがそうと、思わず強めに手足を伸ばして突っ張った。そしてその結果、教皇アイオロス様はサガに蹴り出されて、寝台から床に落下した。
「…いってーっ!」
 床に腰を強打したアイオロスの悲鳴が寝室内に響いた。

「…というわけで、アイオロスがぎっくり腰になって、痛くて立てないと言っていてな…」
 教皇の間に一番近い双魚宮に詰めていた魚座のアフロディーテは、朝早くサガに呼び出され、状況の説明を受けた。
「…それで?」
 アフロディーテがサガに説明の続きを促す。
「それで、今日の祝賀行事には出られそうにないと…」
 暗い顔で説明を続けるサガに、アフロディーテは呆れながらも言った。
「それならそれで仕方がないのでは?アイオロスは急病ということで、代わりにあなたが祝賀行事の取り仕切りを…」
 教皇の誕生日を祝う行事なのだから、主役は当然、教皇アイオロスなのだが、当人が急病で出られないというならどうしようもない。他の参加者の予定や食事会の材料調達などの問題もあるから、当日になっていきなり「延期します」というわけにもいかない。その場合、教皇の首席補佐官であり、黄金聖闘士たちの年長者でもあるサガが、教皇の代理として行事を取り仕切るのは至極もっともな話であった。
 だがアフロディーテの勧めに、サガは暗い顔でため息をついた。
「そうなのだが…。アイオロス不在で私が教皇代理として行事を取り仕切るとなると、その…私が教皇を僭称していたころのトラウマを色々と思い出して…。こう…私の精神が耐えられないというか…」
 この世の苦悩を全て背負ったような青ざめた顔で、サガが落ち込んだ。「相変わらず、面倒くさい人だなぁ…」と内心で思うアフロディーテであった。だからといってサガを見放す気は、彼にはさらさないのだが。幼少期からアフロディーテに取ってサガは憧れの先輩で、色々と世話にもなり、十三年間の偽教皇時代を下で支えた縁もあった。サガが困っているなら助けたいし、力になりたいとアフロディーテは思うのである。
「それと、アイオロスが腰痛で動けないことは侍従たちには知られてて、説明はしたのだが、私が昨夜、夜の営みでアイオロスにあまりに無理をさせたせいで彼が腰を痛めたのだろうという噂話に変わってしまっていて…」
 さらに暗い顔になり、サガはどん底まで落ち込んだ。
「あー…」
 雀の集団のようにかまびすしい、教皇に仕える侍従や女官たちの顔ぶれを思い出してアフロディーテが嘆息した。教皇を僭称しながら、今では罪を許されて教皇の首席補佐官、そして情人に「ぬけぬけと」なっているサガに反感を持つ者も多く、アイオロス関連で何か不手際があると、だいたいそれは「サガのせい」ということにされてしまうという事情もあった。
「こんな噂が聖域中に広まったら、私も皆に合わせる顔がないというか…いっそ恥をさらす前に死にたい…」
 ううう…と死人のような顔でサガがうめく。過去のトラウマと同時に羞恥心をもど真ん中でえぐられて、希死念慮まで発しているサガに、冷静にアフロディーテは尋ねた。
「それで、私にどうしろと?」
「いや、本当にどうしたらいいのか、私も分からなくて…。とりあえずお前に相談をと思って…。一番、近くにいるのはお前だし、あまり話を広げるのも…」
 ぐちぐちとサガがごちる。放っておくと自責の念からひっそりと部屋で首を吊りかねないサガの様子に、アフロディーテは打開策はないものかと何とか思考を巡らした。
「うーん。とにかく、アイオロスを今日一日だけ『教皇』として動かせれば、いいわけですね?」
「…まあ、それはそうなのだが…。しかし本人が痛くて立てないと言っているのに、無理をさせるのも…」
「でも無理をさせるしかないのでしょう?」
「それは、まあ…」
「では無理をさせましょう」
 きっぱりとアフロディーテが押し通した。敬愛するサガ以外には、わりと厳しいアフロディーテであった。

 一度、双魚宮に帰ってある物を用意したアフロディーテは、再び教皇の間に上がって、自室の寝台の上で痛みに唸っているアイオロスに対面した。
「アイオロス、これを飲んでください」
 アフロディーテがアイオロスに示したのは、小箱に入った丸薬だった。
「なんだ、これ?」
「私が弱毒性のデモンローズから作った鎮痛剤です。一粒飲めば、痛みが全部消えますよ」
 アフロディーテの隣で説明を聞いていたサガが手を打つ。
「そうか、それを飲めば、今日一日は腰の痛みが取れて動ける!」
 だがアフロディーテは追加でこう付け加えた。
「そういうわけです。ただし故障した箇所自体が治癒するわけではないので、その反動で後で痛みが倍くらいで来ますけどね」
「ええー…」
 アフロディテ―の追加説明に、一瞬だけ薬の内服に前向きになっていたアイオロスはドン引いた。
「いや…おれはそこまで無理をして動きたくはないというか…。やっぱり今日は一日休むから、サガがおれの代理を…」
 言いかけたアイオロスの顔にアフロディーテが顔を接近させ、真顔で、かつ据わった目でアイオロスに迫った。
「そうするとサガの精神がもたないんですよ。この薬を飲んで今日を乗り切るか、あるいはサガの拳で今日一日、神経を麻痺させた上で操り人形をさせられるか、どちらかを選んでください」
「いや、そんな二択、嫌すぎるんだが…」
「いいから、選べ」
 表情の消えたアフロディーテにアイオロスは間近でガン詰めされた。教皇の威厳も権威も何もあったものではない。だがなまじアフロディーテの顔立ちが人形のように美しく整っているだけに、無表情で迫られると静かに怖いのであった。
「…お薬を飲みます」
 アイオロスはアフロディーテの迫力に負けた。
 こうしてアイオロスはアフロディーテ特製の丸薬で痛みを麻痺させ、教皇生誕日の祝賀行事に臨み、無事に一日の日程をこなしたのだった。

 と、こうしてぎっくり腰にも負けずに誕生日の祝賀行事をこなしたアイオロスであったが、アフロディーテの言う「反動」で、その後、三日間は腰の痛みで寝込むことになった。そしてその結果、結局は「サガ様がアイオロス様を腹上死寸前まで励ませたせいで、教皇様が腰を痛めて…」という噂が聖域中に広がったのだった。
 その噂を知ったサガは羞恥のあまり双児宮を迷宮状態にして引き籠もってしまい(なお他の黄金聖闘士たちは「迷宮化してる間はサガが生きてる証拠だから大丈夫だろ」と静観した)、教皇もその首席補佐官も業務停止ということで聖域の事務仕事が滞り、結局はあちこちに迷惑をかけるはめになったのだった…。

<FIN>

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