10/29(火)ヒューマントラストシネマ有楽町と11/3(日)TOHOシネマズシャンテで鑑賞。11/3はアン・ジェフン監督とTIFFアニメーション部門プログラミング・ディレクター藤津亮太氏のトーク付き。
2024、韓国、アン・ジェフン監督、94分
誤って川に転落した女性を助けたのはエラを持つ青年だった。青年の正体を追う女性は彼の数奇な運命を知ることになる。
タイトルの「ギル」は英語で「鰓(エラ)」。
近年ではデル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』があるが、本作の青年は半魚人の見た目ではなく、首のエラと背に輝くウロコを持つ以外はいたって普通の華奢な外見。首のエラを髪で隠して生きている。
彼の出自は判然としない。幼い日に父親の入水心中から生き延びたらしいことが描かれるが、それ以前からエラを持っていたとも取れる。原作ではどうなのだろう。
幼い彼を救った少年カンハは記憶を失った彼を伝説の大魚にちなみコン(鯤)と名づけ、兄弟のように過ごすが、成長に連れ複雑な愛憎を抱くようになり、やがて袂を分かつ。
SNSの投稿でカンハと知り合った女性は彼を訪ね、コンとの日々を聞く。
カンハはベネチアで老父と暮らすが、ある日、川の氾濫に巻き込まれて消息不明になる。細々と彼との繋がりを保っていたコンは彼の亡きがらを求めて海を彷徨う。
成就しなかった人魚姫の変奏譚ともいえる。
舞台と時制は意図的にか複雑に飛び、物語にコンの背で煌めくウロコのように幻惑的な彩りを添える。
華奢で美形なコンは監督によるとBTSのメンバーや韓国の人気俳優のイメージで描かれているという。
コンとカンハはウェブトゥーン的なキャラクターだそうだが、その関係はBLにも近く、複雑な韓流ドラマも思わせる。
耽美な韓国版ポスターはその反映とも見え、ウロコの煌きが見る者の心を惑わすような描写もある。
『Green Days〜大切な日の夢〜』(2010)等で知られるアン・ジェフン監督だが、周囲はデジタル環境に移行していて、本作が自分にとって最後のアナログ作業になるだろうと言い、今も紙と鉛筆での制作を貫いている宮崎駿監督への敬意を語った。
本作はセルルックのCGで作られているが、ロングショットの歩きのぎこちなさなど技術的に上手くいっていない箇所も見られ、まだ開発途上にあるようだ。
一方、緻密な背景は非常に美しく、中間色を用いた画面は好感度が高い。
トークで、監督は精神的に非常に傷ついた時期があり、その経験から人の傷はエラのようなものではないかと思うという謎めいた言葉を口にした。
私にその真意はまだ掴めないが、誠実で清新な作風で好きな監督なので、そのつらい経験に思いを馳せながら、安息と更なる創作活動の充実を願った。
監督のトークは映画祭公式で観ることが出来る。
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