2024年のラダ誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定、ラダカノ前提。
X(旧Twitter)で金木犀のシロップ漬けの写真を見て、そのあまりの美しさに、秋の月とこの金木犀の話でラダ誕の話を書けないか…と思うも、今年の10月30日の月齢を調べてみると新月に近くて、月が出てねーじゃん!でこんな話になりました(笑)。
タイトルは14世紀の中国・明の政治家である劉基の詩から。月は出てないけどな!
中国や日本では「月には桂の巨樹がある」という伝説がありますが、日本の「カツラ」が同名の落葉樹なのに対して、中国の「桂」は常緑樹のモクセイ類を意味します。学名だと「オスマンサス」(ラテン語)で、化粧品会社のロクシタンが同名の香水やハンドクリームを出してますが、西洋だとものすごくオリエンタルな感じの花や香りなんじゃないかなぁ。
全く別の話ですが、小デュマの小説『椿姫』で高級娼婦のヒロインが客への合図に椿の花を付ける…という設定がありますが、実は「ツバキ」も日本原産の花なので、当時のヨーロッパではオリエンタルな感じの花だったのかもと想像したり。ジャポニズム(日本趣味)の時代だしな〜。
サガがカノンとラダマンティスにした「お叱り」は、二人を並んで正座させてお説教1時間コースとか、多分そんな感じw
去年の作品はこちら。『危険な火遊び』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20935405
『秋夜の月 黄金の波』
聖域で、いやこの地上で、最も天という神々が住まう世界に近い場所。それが教皇以外は立ち入り禁止とされるスターヒルである。
だが十月三十日のその夜、満点の星々を頂いたスターヒルの一角に、突然、異次元の裂け目が出現した。そして次元の裂け目から姿を現して着地したのは、双子座の聖闘士にして海将軍筆頭・海龍を兼任するカノンと、聖闘士の仇敵である冥闘士で最強の一角を占める天猛星ワイバーンのラダマンティスであった。
十月三十日は、冥界三巨頭の一人、「天猛星ワイバーンのラダマンティス」の今生での肉体が生を受けた日であった。なので彼の同僚や部下たちもこの日を「ラダマンティス」の誕生日として祝うのが通例である。
だがラダマンティス本人にとっては、その日は恋人であるカノンと二人きりでデートを楽しみ、熱い一夜を過ごせると楽しみにしている日でもあった。
しかしその当日、ラダマンティスを訪ねてきたカノンは、彼の腕を取ると、こう言った。
「ラダマンティス、今年のお前の誕生日はとっておきの場所で過ごすぞ!」
恋人であるカノンにこのように一方的に宣言されたラダマンティスは、カノンに腕を取られたまま、彼が開いた異次元の中に連れ込まれた。そして行先も告げられぬままカノンに連れられて異次元の中を移動したラダマンティスが出現した先が、なんとこのスターヒルだったという次第である。
「おい、カノン、ここは…?」
カノンに連れてこられた場所が最初はどこか分からず、ラダマンティスは周囲を見渡した。
周辺と隔絶された鋭い山のような場所の頂上で、何やら古めかしい建物がある、としか、当初はラダマンティスには理解できなかった。
「スターヒルだ」
あっさりとカノンに返答され、少し首をかしげて考えたあと
「…ぶっ!」
思わずラダマンティスが噴き出した。
「ちょ…お前…!スターヒルと言えば…教皇以外は立ち入れぬという、聖域の禁区ではないのか!?」
驚きとともに確認するラダマンティスに、カノンはあっさりと
「そうだよ」
と返した。
「え、カノン…お前、何でこんな所に…」
聖域に住まう者たちですら容易には立ち入れないという、教皇が大地の吉兆を星見で占うとされる聖なる禁区に入っていいのかとか、講和を結んだとはいえ本来は敵の冥闘士を連れて来ていい場所なのかとか、色々な疑問がラダマンティスの頭の中を巡るが、当のカノンはというと、そういう事情は全く気にしていないようだった。さらにあらかじめ用意しておいたらしい地面に置かれたクーラーボックスを開けて、何やらごそごそと中身を取り出していた。
「いや、冥界も海界もそれぞれ特色があって面白い世界だが、どちらも星が眺められないのが残念だと、いつも思っていてな」
自分たちの頭上を覆って夜空で輝く星々を見上げ、カノンが言う。彼はクーラーボックスの中から冷やしていたワインボトルを一本取り出し、コルク抜きを使ってコルク栓を開け始めた。
「で、地上で最も星が美しい場所はどこだろうと考えたのだが、それはここではないかと思ったのだ。それでお前をスターヒルに連れていって、星を見せたいと思ったんだ。何しろ地上で最も天に近い場所だからな。あ、物理的にはないぞ?神話学的とか、そういう意味合いで」
「だが…しかしそれにしても…」
ラダマンティスは戸惑っていた。しれっと自分の思いを説明しているカノンだが、「ラダマンティスと星見デートがしたいから、スターヒルへの立ち入り許可をくれ」などという要望に、さすがにあの鷹揚な教皇アイオロスでも許可を出すとは思えず、付け加えるなら謹厳さで知られる教皇の首席補佐官である双子座のサガが双子の弟に絶対にそんな真似を許すはずもなく、となると、カノンは無許可でスターヒルに無断侵入しているに違いない。だが当のカノンはそういう掟破りを悪いとも何とも思っていないようで、平然と話を続けていた。
「それにこの前、アテナが来られた時に聞いたのだ。東アジアでは秋には『中秋節』と言って、月を愛でる季節のイベントがあるのだそうだ。まあ、今夜はほとんど新月に近くて月は出てないが、お前と一緒に月や星を鑑賞するのも悪くはないと思ったのだ」
カノンが敬愛してやまない女神アテナは、現代では「グラード財団会長・城戸沙織」としての人間の役割を担っており、ほとんどの時間を日本で過ごしている。だが折に触れては本来の根拠地たる聖域に帰還して、様々な案件の報告を受けたり決済を行ったり、黄金聖闘士をはじめ他の聖闘士たちや聖域の住民たちと交流をするのだ。
カノンは熱心な「アテナ信者」であり、城戸沙織が聖域に来ると聞くと、いそいそと海界から参上して彼女に謁見を求めてくる。そして沙織もまたカノンが「お気に入り」のようであり、カノンを側近くに呼んで様々な土産物を渡したり、午後の茶を飲みながら雑談の相手にしたりするのだった。
そういう聖域の内情を聞かされると、「…まあ、ギリシャ神話でも女神アテナは、知将オデュッセウスのように顔と頭の良い男がお気に入りだからな…」とラダマンティスは納得するのであった。カノン本人は、自分が女神アテナにとって「お気に入り」であるらしい、と周りから見られていることをどう評価しているかというと、実は「アテナのお気に入り」であること自体に本人が気付いてないような節があった。妙なところで鈍感な部分がある男である。
そんな「鈍感男」なカノンはラダマンティスの視線の先でクーラーボックスの中を漁り続け、保冷剤とビニール袋に詰めた氷の中で冷やしておいたワイングラスを二つ取り出した。カノンはその二つに開栓したばかりの豊饒な赤ワインを注いだ。さらにクーラーボックスの中からチーズを取り出して紙皿に並べて、赤ワインの入ったグラスの一つをラダマンティスに差し出した。
「だから、今夜はおれと二人で星を眺めて過ごそう、ラダマンティス」
「………」
カノンが差し出したワイングラスを眺めて黙っていたラダマンティスだが、やがて微笑むと、カノンからグラスを受け取った。
「…悪くないな」
微笑してグラスを受け取ったラダマンティスにカノンも微笑み返し、二人は地面の上にそのまま座り込んだ。カノンがクーラーボックスの中からチーズの他にナッツ類、サラミなどを取り出し、地面に置いた紙皿に並べていく。カノンとラダマンティスは思い思いにそれらをつまみつつ、酒を酌み交わした。
「カノン、お前は星が好きなのか?」
「ああ。聖域は正直、今でも好きにはなれないが、星を見るのは好きだな」
秋の星座を眺めつつ、カノンがラダマンティスに答えた。
やはりカノンも双子座の聖闘士なのだ、と秋の星座を見上げる恋人の横顔を見てラダマンティスは思った。正規の聖闘士なのは兄のサガの方でカノンはスペア扱いだとか、海将軍筆頭・海龍も兼任しているとか、色々とイレギュラーな存在ではあるが。
ペガサス座やアンドロメダ座、わし座の一等星アルタイルに今ひときわ明るい木星など、秋の夜空を飾る星々を指でなぞるようにして、楽しそうにカノンは星座を探している。好奇心に満ちた子供のような笑顔になっているカノンの横顔を、ラダマンティスはうっとりとした眼差しで眺めていた。他人が見たら、例えばラダマンティスの同僚である天貴星グリフォンのミーノスからなら、「鼻の下を伸ばしまくって、なんとも間の抜けた顔」などと評される表情かもしれなかった。普段の、「眉毛が太く力強く繋がった、いかついが凛々しくも頼もしく、惚れ惚れするほど男らしい」(by彼の副官のバレンタイン評)と表現される、厳格な冥府の裁判官の一人としてのラダマンティスの顔からは想像できない、他の人々の前で見せる表情とはかけ離れた表情であることには違いない。
「…子供のころ、サガと一緒にこうやって夜空の星座を探したことがある。もらった星座早見表をランプで照らしながら星座を探して、お互いに聞かせてもらった星座の神話を話し合って…」
楽しそうに星座を探していたカノンだが、ふと、過去の記憶を呼び覚まされたのか、一転して寂しそうな顔になって呟いた。
「カノン…」
「サガとは…もう長らくそんなことはしてないな…」
カノンの双子の兄への執着というか偏愛というか、とにかく超絶なブラコンぶりをラダマンティスもよくよく承知しているので、「最近、お兄ちゃんが構ってくれないの!」的なカノンの不満を聞かされても、ラダマンティスは今さら呆れる気にも嫉妬する気にもなれなかった。だいたい、あの双子はいい年をしてお互いの距離感がおかしい。
ただ彼はカノンの手を握って、こう告げたのだった。
「今はおれがいる、カノン」
「ああ、そうだな」
寂しげに、だが気を取り直して、カノンがラダマンティスに微笑んだ。
「あ、そうそう」
と言い、再びカノンはクーラーボックスを開けた。彼が取り出したのは、ある透明なガラス瓶だった。ワインボトルか何かを再利用したものらしい。瓶の中身は薄黄色の液体で、液体の中では同色の小さな花びらが無数に舞っている。
「アテナからいただいたのだ。キンモクセイ、という東洋の花を漬けたシロップらしい」
「ほう…」
カノンが出した透明の瓶の中身は、黄金色の液体の中で黄金色の小さな花々が舞っている。キンモクセイは、日本では馴染みのある庭木だが、中国原産なのでヨーロッパでは珍しい樹木だ。
「美しいな。まるで月光を瓶の中に閉じ込めたかのようだ」
黄金の花々を漂わせた黄金色のシロップを見て、ラダマンティスがそう表現した。
「ははは、お前らしからぬ風雅な物言いだな、ラダマンティス。だがアテナは、中国の古い神話では、月にはこのような桂花の巨樹があると信じられていた、とも語られていた」
カノンが笑ってシロップ入りのガラス瓶を揺らす。その動きに合わせて、黄金色のシロップの中では黄金色の花びらが踊った。
「まあ、月が見えない今夜は、これが月の代わりというわけだ。このシロップをウォッカと炭酸で割るとまた美味くてな。しかも香りもいい」
「ほう」
「ちょっと待ってろ」
そしてカノンが再びクーラーボックスの中から、カットグラスを二つと、ウォッカの瓶、炭酸水のペットボトルを取り出す。
カノンがその場で即席のカクテルを作ると、桂花の甘い香りが二人の周囲に漂った。
「ああ、いい香りだな」
「だろ?」
カットグラスの一つをラダマンティスに渡すと、カノンは自分のカットグラスを軽くぶつけて、カチン、と乾杯の音をさせた。
「誕生日おめでとう、ラダマンティス」
「ありがとう、カノン」
そして二人は秋の星座の下でそっと甘い口づけを交わした。
その後、カノンとラダマンティスは禁区のスターヒルで勝手に酒盛りをしていたことがしっかりとサガにばれて、二人そろってみっちりとサガに叱られました☆
<FIN>
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