mixiユーザー(id:126140)

2024年04月01日00:00

137 view

●●出版の逆襲

 四日ほど前のこと。
 午前中に家の電話が鳴って、出ると「●●出版社」だと相手は名乗った。
 ぜんぜん知らない会社だし、仕事でお世話になっている角川や小学館でもいきなり家電話にかけては来ない。
 こりゃ「あれ」だな……と、だいたい事情は察したので、多少からかってやろうという気持ちで話を聞くふりをしたら、やっぱり胡散臭い電話だった。
 それにしても、よりによって、物を書いて金をもらう仕事をしている者のところに、こういう詐欺電話かけるんか〜って感じ。
 あまりに面白かったので、Twitter(現X)につぶやいておいた。
https://x.com/IzunoHiranari/status/1773214707320496318?s=20

 リンクは上に貼ったけれど、引用もしておこう。

【午前中に電話で起こされて出たら「●●出版といいます。自伝や回顧録などを出版してみませんか?」的なことを言われたので、「おお、いいですよ。書いたらいくらもらえるんですか?」って聞いてしまった。】
【「職業作家をしているので、執筆のご依頼ならお受けします」と言ったら、「ああいや、そうでしたか。そういうわけではなくてその……」みたいなゴニョゴニョで電話は切れました。】

 ……とまあ、こんな感じ。

 で、相手がすごすごと撤退したので、この件はこれで終わりと思っていたのだが。
 今日、また午前中に電話がかかってきたのだ。
 まあ、そうとは知らずに電話に出てしまったわけだけど……。

「●●出版といいますが」
 うわ、またかよ〜と思ったが、前回とは人が違う。
 この間は年配の女性だったけれど、今回はわりと若い男性だ。
 もう、うちには騙される年寄りはいないとわかったんじゃなかったのか……?
「あーはいはい。この間、電話してきた出版社さんですよね。私は『職業作家なので、仕事としての執筆なら考えなくもない』とお答えしたはずです。そちらは『その気はない』というおっしゃっていたと思いますけど?」
「はい。先日は部下が失礼しました。私は編集長のTといいます」
 部下? バイトのおばさんだろ。
 とか思って聞き流していると、Tは流暢に話し続ける。
「部下の話では、先生は職業作家をされているとのことでしたが、差し支えなければ、これまでにどちらの出版社からどのような本を執筆されているのか、お教え願えますか?」
 は?
 なんで?
「えーと……でしたらまず、●●出版さんがどんな会社で、これまでどのような本を出版されているのかをお教え願いますか」
 と聞いてやると、言葉に詰まるどころか、Tはべらべらとまくし立てた。

・これまでに大勢の自伝を出版していること

・執筆者の中には大会社の社長さんなどがいること

・書店にもできた本を置いて売ることができること

 はいはいはい。思いっきり自費出版詐欺ってやつだね。
「ははあ。なるほど。私は、児童向けの読み物や、ファンタジー小説なんかを得意としている物書きなので、やっぱり御社とは関係ないんじゃないですかね」
「すごい! いいですねえ。そういうの書いていただければ、必ず本にしますよ」
 はいはい。「本にする」とは言っても、「本屋で売る」とは一言も言わないわけね。
 っていうか、すげえなあ。
 私がどこの誰かもわからないのに、そんな話する?
 頭おかしいよね。あるいは、お金をドブに捨てても平気な人?
「そりゃ、本になるなら、温めているプロットはいくらもありますよ。何部ぐらい出すつもりで、印税率とかはどうなります?」
「え? あああ……えー。そのへんは、もう少しお話が進んでからで……」
「本当にそのへんの話をする気、あります? 正直に言いますけどね。私は、いきあたりばったりにこんな電話をしてくるあなたが、まともな出版社の人間かどうか疑ってますからね」
「うん。そーだよねー」
 Tの口調が急に変わった。
「たしかにそーだよ。これ、インチキだもん。法には触れてないけど、だまして書かせて作者に本を買わせてっからね」
 なんだなんだ? 開き直りやがったぞ。
 だったら、もう電話を切れよ。
「でもさー、最近やんなちゃっててさあ」
 ため息交じりにTは話し続ける。
「バカを騙してきたから金はあんのよ、で、原稿を本にするノウハウも積んできたわけ。たださー、いいかげん、つまんない本ばっか作ってんのがやんなっちゃてさー。クソみたいな自慢話とか、退屈な内容の回顧録ばっかりでさあ……」
「ははあ。で、本気でまともな本を作りたくなってしまった、と?」
「そーなんだよねー。そんなときにさ、バイトのばあさんが『今日、作家さんちに電話しちゃってさ〜』とか言うから、ついね……」
「んまあ、たしかに私も書かせてもらえないで抱えてるオリジナル作品とかあるし、本になるなら嬉しいけど……。ごめん、さすがにそんなルートで本は出せません」
「そうかー。だめかー。いや〜そう言わずにさー。例えばさ、何百部出せば書いてくれる?」
 いやいや、そういう問題ではない。
 ていうか、さすがに何百部では心動かないだろ。
 乗っかって本を出せば、ある意味「善意に目覚めた詐欺師を更生へと導く」ことになるのか? いやしかし、渡るには危なすぎる橋だろう。
 というわけで、丁重にお断りした。
「どこか、編集者を募集しているところに就職して、真面目に本を作ってみるのがいいと思いますよ。そうしたら、いつかまた出会えるかもしれないし」
 最後にそういうと、Tは「そっか。考えてみるわ」とは言っていた。

 もちろん、この一連の電話が、自費出版詐欺はできないと判断した詐欺師が、手を変えて私になにかの詐欺を仕掛けてきただけだったのかもしれないけどね〜。

14 3

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年04月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    

最近の日記

もっと見る