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2024年03月31日16:21

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【ブックレビュー】世界哲学のすすめ

世界哲学のすすめ
納富信留著
ちくま新書

 本書の著者らにより編まれた「世界哲学史」シリーズは、大変な労作で、多くの人に読んで欲しいと思います。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1975325137&owner_id=29675278

 ただ、著者本人としては、西洋哲学に偏ってしまった(P211〜、P231〜)、そしてコロナ禍とその後の世界における人類の危機に対する哲学の無力さ(P339〜)といった反省があり、改めて世界哲学を興したい、仲間を増やしたい、という強い意思があるようです。


・・・・・
 私は、世界哲学の試みとは、まずこの西洋哲学中心主義、あるいは西洋哲学独占主義をきちんと批判し、その外の豊かで多様な可能性に目を向け、多元的な真理探究の現実化に賭けることだと考えています。
(中略)
 では、「哲学」と呼ぶべき普遍的な知的営為はどのように可能なのでしょうか。私たち人間が世界の各地で、歴史や文化や宗教のさまざまな伝統を背負って行っている哲学のローカルな営みは、それぞれが異なった形式や主題や方法や特徴を持っています。それらがすべて哲学であるといったん認めたうえで、そこから共に哲学を進める場を作っていく意識的な試みが「世界哲学」です。
(中略)
(前略)刊行から三年以上たった今、『世界哲学史』の成果を踏まえて、より広い視野で次の一歩を踏み出すべきだと考えています。
・・・・・(P28〜)


 という宣言を行ったうえで、本書では、世界哲学がいかに面白くて有意義かについて力説して、世界哲学に参加する仲間を増やすのを目指しているようです。

 とはいえ、困難も多く、第2章の時間(暦)と空間(地理)の問題、第3章の翻訳の問題、といった例を具体的に挙げています。ただ、この考察そのものが哲学的でもあります。アフリカ中心で見た世界地図は、他の惑星の地図みたいでびっくりです。第4章の普遍性、第5章のアフリカ哲学、ともに興味深く重要なテーマです。ですが、アフリカ哲学の「ウブントゥ」は、排他的な価値観という印象を受けました。「ウブントゥ」で民族紛争がなくなるでしょうか。第6章における分析哲学の考察と批判も興味深いです。もしかしたらAIの利用によって、哲学界も著者が危惧する科学的な方向へ行きかねませんね。

 個人的に最もエキサイティングに感じたのは、第7章の東アジア哲学と、第8章におけるインド哲学とギリシャ哲学の出会い・対決でした。この対話(論争)に、世界哲学の醍醐味があると同時に、共通の前提を持てず、対話がすれ違ってしまう危険性もあるかもしれないと感じます。一緒に踊ったり、文言を唱えたり、薬物を摂取したり、といった方法によらず、対話としての世界哲学(P338)を目指す以上、現時点では、著者が批判する「ロゴスの相続人」(P233)が中心とならざるを得ないとなると道は困難ですね。

 第9章は著者の専門分野のギリシャ哲学で、さすがの考察です。

・・・・・
 ここで重要なのは、自然科学の場合とは違って、多様性と他者性を尊重し、その間で対話を進める態度でしょう。多様な視点をとり、別のパースペクティブから考える思考、それに向けた訓練と忍耐と勇気、そして想像力がカギとなります。その末に、哲学の普遍性が、私たちの思索と対話の基盤として浮かび上がってくることが期待されます。それらが相俟って成り立つのが「世界哲学」なのです。
・・・・・(P327)

 本当に、心の底から賛同します。ただ、ここで困るのは、私たちが対峙しているのが、対話が成立する相手なのかどうかです。現在、世界の問題を起こしているのは、ロシア・イスラエル・中国・イスラム諸国、ウイルス等の病原体、資本市場やAI、といった、対話を成立させるのが困難な相手です。これら相手に対して、哲学が直接アプローチするのは不可能かもしれません。『世界哲学史』の書評でも書いた記憶がありますが、西洋哲学の生み出した自由や人権といった価値観が中国やロシアにも伝わったはずなのに、何の役にも立っていないのが現状です。まずは対話を成立させる事が、世界哲学が越えなければならない高いハードルです。インド哲学とギリシャ哲学のように、接点があったのに継続しなかった、という未来になりませんように。私自身は著者の呼びかけに応える能力はありませんので、せめて著書を購入して宣伝するくらいしかできませんが、強く応援したいと思います。


蛇足
 翻訳については、私の抱える「ダンスで人間性を伝える事が可能かどうか問題」と関係するので、もう少し深く考えなきゃいかんなあと反省中。

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