このところ安房直子 (あわなおこ; 1943-1993) さんの童話を読み漁っています。
どれも幻想的なお話なので、童話というよりはファンタジー短編という呼び方が合っているでしょうか。とにかく文章が上手くて、美しい。子供にも読めるよう言葉はいたって平易なのに、いつの間にか惹きつけられ、物語世界に魅入ってしまいます。
さり気ない表現の中にも、おそらく細かな工夫がたくさんあるのでしょうね。一方で「腕を奮って練り上げました」というのが一見して分かるような一節も、所々に散りばめられています。たとえばこんな。
『みずえは、そのながいしっぽに、そっとさわってみました。おうむの毛は、まるで、ベルベットの布地のように、すべすべしていて、それは、みずえのだいじなねこのミーの手ざわりとおなじです。
ミーも、まっ白いねこなのです。
生まれたての、まだ目もあかないときから、みずえが、ミルクをやって育てた、かわいいかわいい妹分なのです。
みずえもミーも、この近くのマンションの十階育ちでした。』
(「白いおうむの森」より)
安房さんの作風は、上記「白いおうむの森」を含む初期 (1970年代前半〜中頃) 作品ははっきりと寒色系です。どの物語もとにかく切ない、寂しい、悲しい。そしてときに怖いです。そんな風でありながら重苦しい話というのは決して無く、冷たい中にもほんのり温もりを入れることを決して忘れていません。おそらく寒暖のバランスについては、作者自身かなり意識していたのではないかな。いずれにしても一作一作、丁寧に書かれているという印象があります。
もっとも、1980年代の作品は冷涼感がかなり薄まり、だいぶ明るさ楽しさが増しました。特に連作童話「風のローラースケート 」(1985年) ではその傾向が強く出ていますね。
私は初期の童話のほうが好みです。「ここまで寂しい場面ばかりだったから、少しまろやかにして...」といったバランス調整の結果こうなったのかどうか分かりませんが、お話の方向がはっきりとは分からないまま進行していくことが、ままあります。ともかく風合いが独得で、いっそう幻想的になっていると思えるのです。
安房さんの童話に、どれだけ酔いしれたか分かりません。名作揃いです。著者ご本人は1993年に50歳の若さで他界されてしまいましたが、ずっとこの先も読み継がれていって欲しいなあ、と願って止みません。
読んだ本:
童話集 風と木の歌
童話集 白いおうむの森
童話集 銀のくじゃく
童話集 遠い野ばらの村
北風のわすれたハンカチ
-- 以上 偕成社文庫
山の童話 風のローラースケート
-- 以上 福音館文庫
いま読んでる本:
春の窓 安房直子ファンタジー
-- 以上 講談社文庫
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