mixiユーザー(id:20452152)

2024年01月11日13:10

13 view

「立体名画」に,今後の美術の進むべき方向性を感じさせられました

 こちらの「立体名画」に,僕は美術の今後進むべき新しい可能性を強く感じているところです。

 美術には色々なジャンルが存在しますね。絵画・彫刻・映像などの他に陶芸やテキスタイルなどの工芸,建築やプロダクトデザインといった工学に近い分野などなど。それぞれに面白さがあり,そうした色々なジャンルの美術作品を観るのも美術の楽しみと言えるでしょう。
 これはクラシック音楽の楽しみとも大きく共通する。中学生時代からクラシックに親しんできた僕はそのように感じます。クラシックと一言で言っても交響曲や協奏曲があり,弦楽四重奏曲があり,ピアノ独奏曲やオペラがあって,それぞれに独自の良さがあります。折々に様々なジャンルの楽曲を聴いては各ジャンルの作品の持つ独自の良さを楽しむという点においては,美術も音楽も全く同じです。

 とはいえ音楽のほうに長く慣れ親しんでいる僕は以前から「音楽ではしばしば行われるのに,美術では滅多に行われない取組がある」ということを感じておりました。それは「ある作品を,構造をそのまま残して別ジャンルの作品として作り直し,原作とは異なった作品の魅力を引き出す」という行為です。音楽においては「編曲」といって,たとえばピアノ独奏曲を管弦楽曲に作り直すなどというのは少しも珍しいことではありません。有名な所では「展覧会の絵」という楽曲がありますね。元はムソルグスキーのピアノ曲ですが,現在ではラヴェルによる管弦楽曲編曲版のほうが頻繁に演奏されています。しかし美術においてそうした試みを観ることは非常に稀です。
 このように申し上げると「そんなことは無い」という反論が予想されるところです。たとえば絵画を忠実に版画化する「エスタンプ」というものがあり,たしかにこれは「作品の構造をそのまま残して別ジャンルの作品として作り直した」といえるでしょう。しかしこれは単に複製を意図したものであり,作品から原作とは異なった魅力を引き出すために行われている訳ではありません。音楽においても録音技術の無かった時代「自宅でも演奏・鑑賞が可能なように」ということのみを目的に,ピアノ曲としての魅力を引き出すことを何も考慮せずにピアノ独奏曲に編曲することが頻繁に行われましたが,それと全く同じようなものです。
 もっとも,より正確に申し上げると,そうした「或る美術作品の構造をそのまま別ジャンルに移し替えて原作とは異なった新たな魅力を引き出す」取組が絶無というわけではありません。たとえばテキスタイルやピクセルアートの技法による名画の複製を見掛けたことはあります。しかしそれらは大学の文化祭の看板であったり「デザインフェスタ」のようなアートイベントで販売されるお土産品であったり,本格的な美術品の制作ではなく肩の力を抜いた楽しいお遊びとして行われているもののように見受けられます。最近では絵画を3Dで再現して鑑賞者が絵画の世界を疑似体験出来るような魅力的な映像作品も現れ始めましたが,これも興味深いスペクタクルとして注目されてはいても,作品の魅力を引き出すことが目的なのかと問えば少なからず疑問です。

 そんな中,今回「竹田工房」による「立体名画」という面白い取組に出会いました。具体的にはレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」やフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」,ポール・シャバの「9月の朝」などの名画を一部背景込みで彫刻で再現したものです。具体的な製法についてもホームページ上で紹介されていますが,通常の彫刻作品と全く同じ技法が用いられているようです。
 この立体絵画の取組を知り,僕はこれこそ「絵画という作品をそのままの形で彫刻という別ジャンルに移し替え,作品の新たな魅力を引き出す」取組ではないか,そのようなことを思いました。モナ・リザも真珠の耳飾りの少女も我々にとって非常に見慣れた存在ではありますが,当然ながら画面の中でポーズを取った姿以外は目にしたことはありませんし,幾ら遠近法を用いて描かれているとはいっても平面的な存在でしかありません。しかしながらこちらの彫刻「立体絵画」においては,今まで平面の中にしか存在しなかった人物が我々と同じ立体的な三次元上の存在として現れている。その生々しさは,絵画として見慣れた作品にこれまで感じることの出来なかった現実感とそれに伴う感動を与えてくれるものだ。僕はそのように感じます。それは同じ「展覧会の絵」という楽曲でありながら,ムソルグスキーの原曲からは感じられない色彩感や力強さがラヴェルによるオーケストラ編曲からは生き生きと伝わってくるさまに非常によく似ています。竹田工房は立体絵画という技法によって既存の絵画作品に新たな命を吹き込むことに成功したと言えるのではないでしょうか。

 これからの美術の世界において,この「立体絵画」は進むべき一つの方向性を指し示す新たな道標と言えるのではないか。全く新規の作品を制作することは大変素晴らしい。しかしそれと同時に既存の美術作品についてその構造を生かしながら別ジャンルの作品として再制作し人々の新たな感動を誘う「編曲」の取組もまた同様に素晴らしく有意義なことなのではないでしょうか。「それはオリジナリティに欠ける二番煎じに過ぎない行為ではないか」といった懸念は無用です。ピアノ曲「展覧会の絵」をオーケストラ曲として編曲し当該楽曲の新たな魅力を引き出したラヴェルも,人々はその才能を讃えこそすれ「ムソルグスキーの二番煎じ」などと愚かな悪口を言う者は誰も居ないではありませんか。
 無論,美術における「編曲」の取組は「絵画を彫刻に作り直す」というものに限られる訳ではありません。上述のとおり絵画をピクセルアート作品や映像作品に作り替えるのも,或いは逆に彫刻・映像などを絵画に作り直すのも,更にはテキスタイル作品を彫刻に作り替えるのもそれ以外も,それによって作品の新たな魅力を引き出す取組は全て同じ価値を持ちます。美術家諸氏には是非そのような取組を積極的に進めて頂きたいし,鑑賞する我々の側もそうした「編曲」作品について正当な評価を下していけたら素晴らしいことだ。僕はそのように考えました。



立体名画シリーズ
https://www.eonet.ne.jp/~passa/shop.html
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年01月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031