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2023年12月30日15:36

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(読書)『キリストの誕生』(遠藤周作著:新潮文庫)

少し前に読んだ『イエスの生涯』(遠藤周作著:新潮文庫)と、いわば姉妹版のような位置づけになる著作である。この『キリストの誕生』を読むのであれば、その前に『イエスの生涯』を読んでおくことが望ましい。また、『イエスの生涯』を読んだのであれば、続けてこの『キリストの誕生』を読んでおくことが望ましい、そんな印象を与える。本書は、遠藤周作が、日本人でかつ作家(小説家)という立場から、主として聖書の中の福音書や使徒行伝、書簡集及びその他の宗教学の研究書などを読み込み、イエスの死後約70年間あまりのタイムスパンでのキリスト教の形成史を、最初の12の章の中で小説家らしい想像力をふんだんに導入して展開している。

そして最後の第13章において、キリスト教形成の謎、特に、イエスの弟子たちの信仰の変容や信徒としての行動変容に関する謎を4点ほど提起している。この遠藤周作が提起している謎(あるいは問題)を、原文の引用を交えて紹介してみよう。

(第1の謎)
『疑問の第1は、おのが釈放(弟子の釈放:引用者注)と引きかえに師イエスを見はなし、その処刑までの2日間、息をひそめ、かくれていた弱い弟子たちがなぜ、それ以降信仰に生き続けられたかという問題である』(P267)。

(第2の謎)
『…しかも驚くべきことには彼はこれらの弟子、これらの信徒たちから理想の人間(たとえば釈迦のように)、理想の信仰者(たとえば他の宗教の教祖のように)ではなく、信仰の対象そのものとなってしまったのだ。これは世界の宗教のなかで他に例を見ないことである。
 キリスト教の問題の核心はここにある。キリスト教の問題の一つは、イエスが信徒たちに神格化されたからキリストになったのか、それともポーロ(パウロのこと。引用者注)の考えるように、人間が彼を神格化したのではなく、彼自身がこの地上にイエスという仮の名で生まれる前から、より高い存在だったのか、いずれかを問うことである』(P278〜279)。

(第3の謎)
 上の「神格化」という言葉に関連して、当時のユダヤという風土に関し、次のような注意喚起をしている。
『…我々は当時のユダヤという風土ではある人間を神格化することがいかに困難だったかという状況も第3に認識しておかねばならない。私が幾度もふれたようにユダヤ人はそのほとんどがユダヤ教の信徒であり、その唯一神ヤハウェを信仰した。砂漠的宗教であるこのユダヤ教は汎神的なギリシャや日本とちがい、多くの神々を礼拝することを絶対に許さなかった。神はモーゼを通して、自分以外のいかなるものも信仰することをきびしく禁じたからである』(P281〜282)

(第4の謎)
『けれども原始キリスト教団史のもうひとつの問題はこうして弟子や信徒たちの信仰の対象になったキリストが必ずしも彼等の願い、要望に応えなかった点にある。
(中略)
 こうして「キリストの不再臨」と共に、「神の沈黙」という宿題も未解決のまま原始キリスト教団に残された。
(中略)
 解かねばならなかった宿題に答えとみえたものは答えではなかった。弟子たちはふたたび考えなおさねばならない。神はなぜ沈黙していたのか、と』(P283~285)

そして遠藤自身は、こういった謎(特に最初の3つ)を説明する糸口として、「イエスは弟子たちの心に決定的なXを残していると考えざるを得ない」としている。この「X」とは、「簡単に言葉には言い表せないもの」であるが、本書で解説文を提供している高橋たか子さんの言葉を借りて言うと、「イエスの人性に入り込んでいた神性」である(P295)。

 本書は、遠藤周作が、日本人の作家(小説家)という立場から、日本人がイエスやキリスト教とはじめて向き合う時、イエスやキリスト教のどういう側面と向き合えばいいのか、それを考えるヒントを豊富に、かつ的確に提供してくれている。現在、この地球上には約73億人の人口があるが、その約1/3弱にあたる23億人がキリスト教徒である。仏教徒は5億人程度に過ぎない。人口減少が進む日本は、これからどんどん外国人を受け入れて一緒に働いていかねばならない。であるなら、世界最大の宗教であるキリスト教に対して無知無教養でいることは許されないと言っていいだろう。『イエスの生涯』とこの『キリストの誕生』は、キリスト教に向き合いたいという人たちのための深みのある入門書として非常に好適なのではないだろうか。

【関連項目】

(読書)『イエスの生涯』(遠藤周作著:新潮文庫)

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