mixiユーザー(id:1506494)

2023年10月24日20:29

45 view

新国立劇場公演 終わりよければすべてよし

鵜山さん演出によるシェイクスピア問題劇2題を二日間連続で拝観する、本日がその
初日です(1日で2本という強者もおられるようですが、ワタシにはとてもとても)

本日の演目についてはすでにLSDで2010年と2015年の2度にわたって体験済み、
その都度小田島訳を読んでおりますが、今回はそれに加えてwowowで放映された
彩の国シェイクスピアシリーズ、芸術監督の蜷川幸雄氏は全37作上演の志半ばに
して鬼籍に入られたので、その衣鉢を継ぐ俳優の吉田鋼太郎氏が演出をしながら
フランス国王を演じる公演のヴィデオを拝観しました

御曹司バートラムを藤原竜也さん、それに思いを寄せ、結婚にこぎ着けるしたたか
なヘレナを石原さとみさん、狂言回しではありますが過去蒼々たる役者(あのサー・
ローレンス・オリヴィエも)が演じたペイローレスを文学座の横田栄司さん(ソニ
ー損保のcmで「ピーちゃんに何をした」を怪演している)で、まずまずまっとうな
作り方でした
当公演に使用した翻訳は松岡和子さんによるもので、松岡さん曰く「この吉田演出
はバートラムとヘレナの成長物語と捉えていますね」

ヘレナはバートラムの見た目だけを愛していたのに(そういう台詞しかありません)
戦争で夫が顔に傷を負った後もその愛に変わることはなくルッキズムを脱し、また
バートラムを演じた藤原さんは終幕最後に妻ヘレナを見つめた後暗転になりますが、
再びスポットが当たると妻の足下に跪いて、愛おしそうにそのお腹(自分の子供が
そこに宿っているのです)に頬を寄せます

まことに「終わりよければすべてよし」で、この公演が彩の国シリーズの最後の作
品(最近沙翁作と位置づけられた3作品を除く)となるのですね

さて、本日の鵜山さん演出ですが、一言で言うと「ありのままに」
元々が問題劇ですから、そこにことさら何かを盛り込もうとせず、また教訓めいた
ものを引き出そうとせず、シェイクスピアが「これが喜劇だ」と言ったのだったら
その通り、喜劇的部分は喜劇的に、また沙翁作品ではたとえ史劇であっても喜劇的
部分と悲劇的部分を交互に配置する、本日もそんな感じでした

三枚目役のペイローレスもドッキリにあってしょぼんとする、そんな後の独白は
結構シリアスに聞き取れます
また真面目な伯爵夫人でも道化とのやりとりは軽みがありますし、ヘレナとペイロー
レスの処女性を巡ってのやりとりはかなりきわどい感じです

シェイクスピアがそう書いたのだから、そのまま提示しようということでしょうか

つじつまが合わないのは、それはその通り、そもそも人生ってそんなもんじゃない
かな、以前も書いたと思いますが、非の打ち所のないヘレナを何故にバートラムは
頑なに拒むのか(一応身分が違うからと言っていますが、その一方で民宿を営む
未亡人の娘ダイアナに言い寄ったりしている)、またイケメンであるほかにさして
取り柄もない(どころか、かなりC調で女たらし)バートラムに惚れ込むのか
それはシェイクスピアがそう書いたから

だから観客もあまり身構えずに、ペイローレスを巡る場面では大笑いし、最後に
フランス王を演じた岡本健一さんが王冠を取って、王としてではなく役者として
エピローグの台詞を言うとそれに拍手で応えるのですね(スタンディングで)

幕が開き伯爵夫人が語り出すと(女性によって幕開きの台詞が始まるのは異例のこ
となんだそうです)そのテンポの遅さにビックリしますが、全編このゆったりさで
はなく、浦井健治さん演じるバートラムは機関銃のような早口です
ここらへんは演出家と演者の間で議論を重ねたところなのでしょう

ということで、突っ込み処満載のこの作品ですが、それは17世紀初頭に発表されて
以来数多くの演劇関係者がさんざん語ってきたことなので、いまさらシロートの
ワタシが言うのも野暮、ただシェイクスピアって役者に台詞を言わせるのが上手い
よなぁ(上手いこと言わせるよなぁ)とだけ言っておきましょう
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年10月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031