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2023年10月11日18:51

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香港の新たな美術館の取組,日本でも大いに参考になるのではないでしょうか

 日本でも,こうした取組は大いに参考になるのではないかなと思います。

 東京に住んで何が一番嬉しいかというと,とにかく世界中の素晴らしい美術作品に触れる機会が多いことです。数多くの美術館や画廊が並び,そうした場所に行けば多種多様な優れた作品に触れることが出来る。これがどれほど恵まれたことか,地方出身の僕は骨身に染みて感じます。僕の故郷の都市にも勿論美術館は存在し,常設展や企画展では実に優れた展示が行われています。しかしそうした場所の数が少ないので,たとえば「今日はこのようなジャンルの美術作品を観たい」とか「あの美術館には先日行ったので,今日はまた違った作品を鑑賞しに行きたい」などと願っても,それを実現するのは極めて困難と言わざるを得ません。
 もっとも海外に頻繁に出掛けている方に言わせると,東京でもまだまだ満足出来ない状況なのだとか。パリやローマのような古くから栄えた都市には莫大な美術作品が存在し,東京などの比ではないということを伺いました。考えてみると東京においても「○○美術館展」といった企画展は珍しくなく,それはつまり「世界の主要都市の美術館に常設展示されているような傑作を観られるのは特定の機会のみ」ということなのは間違いありません。僕はパリには行ったことがありますが当時は美術に興味が無くルーヴルを少し観た程度,オルセーやポンピドゥーなどの大美術館の名前だけは当時から知っていましたがまだお邪魔したことがありません。一方のローマにはそもそも足を踏み入れたこと自体が無いので,いずれ機会を見つけてパリやローマで美術鑑賞をしてみたいものです。

 さて,それでも個人の好みに応じてかなりバラエティに富んだ美術鑑賞の出来る東京のような大都会はともかく,地方ではなかなか幅広い美術鑑賞が難しいというのは厳然たる事実です。地方都市に住んでいた頃の僕は美術には関心がありませんでしたが美術館を訪ねたことはあり,かなりの賑わいを見せていたのを実際に体験していますから「地方にも美術愛好家は大勢存在する」ということは自信を持って断言出来ます。そうした地方の美術愛好家たちが各人の好みや興味に応じて様々な美術作品に触れられるようになったらこれは大変素晴らしいことですが,何か良い方法は無いものでしょうか。
 その一つの答えというべき方法が,こちらの新聞記事で紹介されていました。香港の南部・黄竹坑に"Metropolis Museum"という西洋の古典絵画を展示する美術館がオープンしたというニュースですが,こちらの美術館で展示されているのは実は本物ではありません。模写や3Dプリントなどで制作された複製画と,絵画を映像化されたもののみで構成されています。香港では現代美術の展覧会などが近年積極的に行われている一方で西洋の古典絵画に触れる機会があまり無いことを嘆いたバネッサ・ロビン氏が「パリジャンがルーブルに行くように、香港でも西洋の古典的な名画を気軽に鑑賞できる場所を」と志して設立した美術館だというお話です。

 このように申し上げると「複製画と映像かぁ(。•́︿•̀。)」とお感じになる方もいらっしゃるのではないでしょうか。本物ではない作品を観てもねぇ・・・という発想,僕も必ずしも突飛とは思いません。しかし僕は敢えて問いたい。「複製や映像を観ることは,美術体験にはならないのですか」と。
 たとえば僕を含めた美術愛好家は手元に画集を持っていることが多く,それはそうした画集に掲載された写真を観ながら「この作品は素敵だったな」「機会があったら,この作品を是非観てみたい」などと感じながら幸せな思いに耽るために他なりません。いや,手元に画集を置くほどの愛好家ではなくても,テレビの美術番組で紹介された名画の映像を観て「素敵だな」と感じたり美術展のポスターや広告に掲載された名画の写真を観て「この展覧会に行ってみよう」と感じたりすのは少しも珍しいことではありませんね。更に言えば美術展開催時のミュージアムショップや街の画廊などでは複製画が販売されていることも多く,それらを買い求める人は少なからず存在する。購入者はそれらを家やオフィスなどに飾って目を楽しませるのでしょう。そうした「幸せな思いに耽る」「素敵だと感じる」「更に詳しく観てみたいと思う」「楽しい」等々,これらは写真や複製を通じて鑑賞した美術作品によって引き起こされた心の変化,つまりは美術体験に他なりません。
 更に言えば,世の中には複製品や写真でしか観ることの叶わない美術作品も珍しくありません。戦争などで失われて複製品や写真のみが現存している場合などがそうですね。その典型例が古代ギリシャの彫刻作品です。実はそれらの殆どは「ローマンコピー」,つまり原作が制作されてかなり時代を経た古代ローマ時代になってから制作された複製品です。しかしそれらの「ローマンコピー」によってルネサンス以来多くの美術家がインスパイアされ,我々も感動を与えられていることを否定する人は居ないでしょう。
 そのように考えてみると「複製画や映像を通じてでも美術体験は可能である」ということは間違いの無い事実です。この点について僕は「複製品や映像の質を高めることによって得られる美術体験の質も限りなく高めることが出来,時には原作を観た時と等しい体験を得ることも出来る」と付け加えたいところですが,仮にそれが言い過ぎであるとしても「かなりの程度の美術体験ならば得られる」というお話であれば誰からも賛同して頂けるのではないかと思います。

 ではそうした複製品や映像ならば,あまり美術館の無いような地方都市においても購入・所蔵することが可能なのか。これは「可能である」と断定して問題ありません。品質にもよりますが.複製品というのは原作に比べて非常に安価です。原作がオークションに出品されれば数億円もするような作品でも,模写ならば僅か数十万円程度で購入が可能ということも珍しくない。映像については僕は詳しい所を知りませんが,数億円を掛けて制作された映画であっても地方都市のシネコンやレンタルショップでリーズナブルに提供されていることを考えれば話は同様でしょう。
 既存の美術館のある地方都市であれば,こういった複製品や映像をコレクションに加えて常設展のバラエティを増やしたり,或いは企画展の開催されていないときに展示したりすることが考えられるでしょう。またそうした美術館も無いような地方の小都市でも複製品を活用して公民館や廃校などを活用した展覧会を開くことで人々に美術鑑賞の場を提供することは非常に意義深いことだと思われます。そうした小規模な自治体ですと複製品であっても大量購入は難しいかもしれませんが,近隣自治体と協力して様々なジャンルの作品を大量に購入して相互に融通し合い分担して展示することで地域の人々がバラエティに富んだ美術体験を行えるようにすることも出来る。無論これは大人ばかりではなく,小中高生などに向けた教育の場としても大いに活用出来るでしょう。

 バネッサ・ロビン氏による香港の"Metropolis Museum"の取組,我々も学ぶべきところが非常に大きいように感じております。



香港に「新しい」美術館誕生 西洋絵画の巨匠の作品を3Dプリントや複製画で
https://hongkong.keizai.biz/headline/1319/
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