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2023年06月08日13:04

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瀬々敬久の大河ミステリーの傑作「護られなかった者たちへ」を観て、山田洋次の衝撃作「霧の旗」を思い出す。

 6月1日(木)に一昨年2021年8月公開の外国映画「ドント・ブリーズ2」を観る。

「ドント・ブリーズ2」(ロト・サヤゲス)
盲目で年寄りの一人暮らしと侮って、コソ泥に入った若者が、実は彼はイラク戦線帰りの猛者で散々な目に会うユニークなスリラーの、一部では「ドンブリ」の通称で親しまれた「ドント・ブリーズ」の主役老人が、8年後に戻ってきた。前作の凶暴さは取り敢えず影を潜め、火事場から救出した少女に親しまれて、ひっそりと二人で暮らしているが、そこに何故か彼女を必死に取り戻さんとする凶暴集団が、襲ってくる。良い人に変身しつつあること、それなりに工夫はあるとしても、盲目にもかかわらず発揮する超人ぶりがありえネェー域に至ってくるあたりは、まるで座頭市シリーズそのままだ。事件の背後の真相は、サム・ライミ製作らしきスプラッタアクションで個性的展開である。最後は戦争犠牲者の悲しさとして「ランボー」風にまとめつつ、続篇をキッパリ拒否して(エンドクレジットにインサーとされた思わせぶりなカットが気になるが…)ヘンなヒーロー化に行かなかったのは、ライミの賢明さだろう。(まあまあ)

 同日1日(木)に一昨年の令和3年12月公開の日本映画「逆光」を観る。

「逆光」(須藤蓮)
「よこがお」出演の須藤蓮が再び渡辺あや脚本とタッグを組んで、自らメガホンを取った意欲作との振れ込みだ。ゲイがテーマで背景が1970年代と、それなりに凝っていて、淡々とした描写に味が無いでも無い62分の小品だが、それ以上でも以下でもなかった。(まあまあ)

 3日(土)に一昨年2021年1月公開の外国映画「43年後のアイ・ラブ・ユー」を観る。

「43年後のアイ・ラブ・ユー」(マーティン・ロセテ)
70歳で元演劇評論家のブルース・ダーンが主人公。43年前に別れた恋人の元女優が、アルツハイマー病で近くの施設に入所していることを報道で知り、自分なら彼女の記憶を蘇らせられると思い込んで、評論家だけにお手の物の芝居でアルツハイマーを演じ、医師の診断書を偽造し、家族には親友と長期スペイン旅行に行くと偽って、親友を後見人にして入所し彼女の身近に接近する。ところが、ダーンが親友に彼女を未亡人と偽っていたことが判明し、親友はそんな犯罪行為に協力できないと引き気味になり、一方、娘婿の政治家が買春スキンャンダルを起こし、学校に居づらくなった孫娘が家出し訪ねて来て、家族に偽りの老人ホーム入所が発覚する等、ややこしい展開になってくる。でも、最後は全てを丸くハッピーに納めた展開はお見事の限りで、ブルース・ダーンの名演があってのことでもあるが、ヘンに生臭くならかったのは、老人映画ならではの強味だろう。(よかった)

 6(火)に一昨年の令和3年10月公開の日本映画「護られなかった者たちへ」を観る。

「護られなかった者たちへ」(瀬々敬久)
東日本大震災で妻子をすべて喪った刑事がいた。身寄りの無い(あるいは薄い)孤独な老女と青年に加えて、震災で家族の全て失った少女とが、疑似家族のように身を寄せ合って暮らしていた。そして10年後、人に恨みを買うことのない善良な二人の市民が、相次いで監禁拘束され餓死させられる残忍な事件が連続する。この2つのラインが様々な綾を営んで一つに収束していくが、ミステリーなだけに、これ以上は観ていただくのが最良で、内容にはあまり触れない方がいいだろうが、10年間を通貫する134分の壮大なドラマである。捜査の過程で浮き上がるのは、この空白の10年に被災者同士が「護り」あってきた現実があり、とりわけ生活保護申請の急増だ。そして、餓死させられた被害者の二人は、生活保護申請審査に関わってきた者であることが判明する。審査によってできるだけ申請者を「護ろう」とするが、多忙さの中に紛れて「護れなかった者たち」も多く、また上部の方針で生活保護の窓口をあえて厳しくした者もいたが、すべては常識の範疇で悪意は無い。しかし、一個人の視点からは、理不尽で不条理としか思えず、闇の怨みつらみは、激しく燃え上がっていく。何ともやりきれない結末なのだが、救いは「やっぱりみんな生きてるんだ!」という生への讃歌と、赤の他人同士のささやかな「護り合い」に光を見るあたり、いつもどおりの瀬々敬久らしさで清々しかった。(よかった。ベストテン級)

 常識(あるいは良識と言ってもよい)人の誠実な対応に、下層の人間が理不尽・不条理の闇の怨念を叩きつけた大傑作に山田洋次「霧の旗」がある。この映画の柳田桐子(倍賞千恵子)の怨念は、もはや逆恨みと言ってもよい。理不尽な復讐を受ける高名弁護士の滝沢修の、堂々たる良識人ぶりがそれを際立たせる。この映画の真に凄いのは、復讐後の柳田桐子に何の反省も罪の意識も無く、贖罪で自殺するのかと思いきや、堂々と自分の行為を正当化してみせる衝撃のラストシーンだった。

 この映画には、瀬々節にみられるような救いも後味の良さも無い。私が山田洋次に注目した最初の作品であり、ホノボノ喜劇の中にも時にこの毒がチラリと顔を覗かせ、私が「これがあるから山田洋次は侮れない」と、今でも感じている所以である。

 ついでにリメイクの山口百恵版にも触れておこう。まず絶対的孤独に身を置いた背筋も凍る心の倍賞版の桐子に対し、本人の意識外にせよ百恵版の桐子は、新聞記者の役を膨らませて三浦友和に演じさせ、彼に想いを寄せられる設定があり、それだけで甘くなってしまっている。弁護士を一癖ある三国連太郎に演じさせたのも誤算で、まぁ復讐されても仕方ないなと感じられてしまうのだ。

 山田洋次には、もう一本の注目作「みな殺しの霊歌」がある。構成を加藤泰と共同で山田が携わっているが、これは純な少年を有閑マダム5人が面白半分に輪姦し、少年が自殺に至ったのを、少年の奇麗な心を弄んだのが許せず、佐藤允が連続殺人を犯していくとの、これも理不尽極まりない復讐劇だった。

 ただ、断っておくが完成した映画作品は、加藤泰演出が少年の純粋さに焦点が絞られ過ぎており、私は採らない。5人目の有閑マダムが殺される時の「あの子だってきっとヨカったはず」と重みのあるセリフがあるが、そこにある思春期の男の子の微妙な生理と心理がスルーされてしまっていたからだ。

 6月に入り7日(水)までに観た映画は次の11本。

「ドント・ブリーズ2」「逆光」「影なき声」「密航0ライン」
「43年後のアイ・ラブ・ユー」「アレックス・ライダー」「薔薇の貴婦人」
「ベスト・フレンズ・ウェディング」「ブレイド・マスター」
「護られなかった者たちへ」「ラブ・アゲイン 2度目のプロポーズ」

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