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2023年05月28日15:23

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『海龍様の隠し子疑惑』

 2023年の双子誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定。
 サガとカノンが一緒に過ごした誕生日の翌日、カノンに隠し子疑惑が持ち上がる話です。
 普段の素行がアレなので、兄にも部下にも全然信頼されてないカノンですwこの状況で「カノンがそんな真似をするはずがありません」と最初から言ってくれるのは沙織さんだけだと思う…w
 海界の都市ポセイドニアやオリジナル設定のカノンの部下たちについてはこちらを参照。『ポセイドニア・コモーディア』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689『双子の喧嘩』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10835398
 昨年の作品はこちら。『薔薇と求愛』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17691899
 表紙は湯弐(yuni)様https://www.pixiv.net/users/3989101のものを利用しました。

『海龍様の隠し子疑惑』

 神話の時代から続いた女神アテナと冥王ハーデスとの聖戦はアテナの勝利で終わった。しかしそれにより新たな問題が出現した。冥界の崩壊により地獄に封じられていた魔物たちや死霊たちが現世に舞い戻り、様々な事件が起きたのだ。
 この事態に対処するため、アテナとハーデスは講和を結び、冥王ハーデスは聖戦で死した黄金聖闘士たちを蘇らせて魔物や死霊の討伐に当たらせることとなった。
 十二宮には再び黄金聖闘士たちが集い、そして聖戦で唯一生き残った双子座のカノンは、海将軍筆頭・海龍として海界の統治を任され、海に戻った。
 こうして双子座の双子たちは聖域と海界に別れて住まうこととなったが、もちろん二人が没交渉というわけではなかった。サガとカノンは互いの住まいを行き来し、折に触れて交流した。
 特に二人の誕生日には、双子たちは兄弟二人きりで過ごすのが常となり、今年もカノンは兄のサガを誕生日に海界の中心都市ポセイドニアに招いた。そして観劇だ、舟遊びだ、街の散策だ、夕食だ、と二人で仲睦まじく過ごし、夜は同じ寝床で語り合って眠った。
 そして翌朝になっても、双子たちはいちゃいちゃとしながら朝食をともにしていた。
「はい、カノン。あーん」
「あーん」
 と、サガは弟の口にオレンジを運び、カノンはカノンで嬉しそうに兄に手ずからオレンジを食べさせてもらうのだった。
 三十歳近い男兄弟のいちゃつきぶりじゃないよなぁ…と目のやり場に困る周囲の困惑はまるきり無視で、仲睦まじく朝食を食べていたサガとカノンだったが、突如、廊下の方からバタバタと人の走る音と怒鳴り声が響いた。
「えーい!何としてもシードラゴン様に会わせてもらうぞ!そこをどけ!」
「お待ちください!今お取次ぎを…」
 そんな男の怒鳴り声と召使いたちの狼狽が扉越しに聞こえてきた後、食堂の扉が勢いよく開かれた。
「シードラゴン様!」
 扉を開けたのは、深い緑色の厚地の毛織物に金糸で豪奢な縫い取りをした長衣を着た、堂々たる体格の男性であった。短く刈った髪はブルネットに白髪が混じっており、年は四十代後半というところか。はあはあと息を荒げ、しかし彫りの深い顔は真っ赤にして憤怒の表情をたたえていた。
「…誰だ?」
 カノンと一緒にいたサガが問う。カノンが兄に答えた。
「えーと…。アイガイ市出身の元老院議員で、ソロン・アンゲロス議員…だったと思う」
 あやふやな記憶を頼りに、カノンが来訪した人物の名前を脳から引き出した。三百人からいるポセイドニアの元老院議員の顔と名前全てをカノンも覚えてはいない。誰か分かっただけましであった。
 元老院議員だというその中年男性は、肩で息をしながら、開口一番こう言った。
「シードラゴン様!うちの娘の腹を大きくさせた責任を取ってもらいますぞ!」
 カノンは口に含んでいたオレンジを噴き出し、サガの手からは摘まんでいたオレンジが落下した。
 朝から二人して「目玉ドコー!?」状態になった双子たちであった。

「えーと…、つまりアンゲロス議員の話はこうですね?彼の令嬢で、まだ未婚のアグネス嬢が妊娠していることが分かり、腹の子の父親は誰だとアンゲロス議員が令嬢を問い詰めたところ、シードラゴン様の名前が出てきた、と」
 カノンの秘書官で「水馬(ケルピー)」の海闘士であるクリストファーが状況をまとめた。彼は聖闘士ならば白銀聖闘士の階級に位置する海闘士である。二十代の金髪碧眼の美青年であるが、何かと破天荒な上司に振り回されることが多い苦労人でもあった。執務室に移動したカノンは重厚な執務机の前で苦い顔で座っていた。
「シードラゴン様、これはちょっと…ねぇ…」
「………」
 クリストファーが渋い顔になり、サガもまた双子の弟の傍らで顔をしかめていた。
「濡れ衣だー!」
 兄と部下にそろって自分をとがめる視線を送られ、カノンは机の前で絶叫した。
「おれはアンゲロス議員の娘の名前も顔も、そもそも奴に娘がいることさえ知らなかったんだぞ!それでどうやって子供を作るんだ!?」
 カノンはだんだんと執務机を両拳で叩いて抗議して、自分の秘書官を糾弾した。
「だいたいクリス!お前はおれの秘書官として、おれの行動を把握してるだろうが!おれがアグネス嬢とやらと子供を作る機会がなかったことは、お前が一番よく知ってるだろ!?」
「そうは言われますが、時々シードラゴン様は執務を抜け出して、こちらが知らないうちにどこかに出かておられることがよくありますからねぇ…。行動を証明しろと言われても…」
 あごに手を当てて深刻そうに首をかしげるクリストファーにカノンが迫る。
「いや!そこはおれの潔白を証言しろよ!お前はおれの部下だろうが!」
「いやー、でも噓の証言は出来ませんしねぇ…」
 白々と言いながら、クリストファーは自分のスケジュール帳を取り出して過去のページを確認した。
「えー…アグネス嬢は妊娠四カ月目くらい、と言ってましたね?あー…ちょうど懐妊の時期、シードラゴン様は西方地域一帯の視察に出られてて、ポセイドニアには長い期間、不在でしたね」
 我が意を得たりとばかりにカノンが手を叩いて胸を張る。
「ほら見ろ!おれは無実だ!」
 だがクリストファーはまだ首をひねった。
「でもシードラゴン様、異次元経由でほいほい遠距離を移動できちゃいますしねぇ…」
「クリストファー!」
 首をひねりながら呟き、一向に上司の無実を信じてなさそうな部下をカノンが一喝した。弟の傍らにいたサガはため息をつき、いっそ憐れむような視線をカノンに向けた。
「カノン、こうなったら仕方がない。男らしく堂々と認めて、きちんと責任を取りなさい」
「サガーッ!」
 これまた双子の片割れの無実をこれっぽちも信じてなさそうな兄の言葉に、カノンが絶叫する。
「サガ…てめ…っ!お前までおれを疑ってるのか!?」
「カノン。過去には色々と悪行を働いたお前だが、今は悔い改めて正義に生きると誓ったはずだ。潔く己の非を認めて…」
「お、おのれー!この偽善者め!サガよ、お前のような奴こそ真の悪というのだー!」
 聖職者のように澄んだキラキラとした眼差しで弟を諭しにかかる兄に、カノンが定型句のような罵声を浴びせた。
「で、いかがなさいます、シードラゴン様?アンゲロス議員は客間でイライラしながら、シードラゴン様の返事を待ってますよ?」
「う、う、う…」
 クリストファーの確認にカノンは唸った。地上なら「ならば胎児のDNA検査をする!」ですむ話だが、科学技術のレベルが産業革命以前の水準で留まっている海界ではDNA検査は不可能だった。「サンプルを取って地上で検査しますから…」とアンゲロス議員に説明しても、そもそも「DNA検査」という概念を理解してもらえるかも不明である。
 カノンはとうとう叫んだ。
「ええーい!このままではらちがあかん!そのアグネス嬢とやらをここに呼べ!おれ自ら、その女を尋問してやる!」
 という次第で、急遽アンゲロス議員の邸宅に令嬢を迎えにいくため、クリストファーが使者として派遣されたのだった。

 人目を避け、厚い垂れ幕で内部が外から見えぬようにしっかり隠された輿に乗って、アグネス嬢がカノンのいる元首公邸に到着した。カノンの執務室に通された彼女は父親と並んでカノンと対面し、厳しい顔で執務机に座るカノンによって尋問されることになった。
 十七歳だというアグネス嬢は、金髪を後ろに長く垂らした形に結った、楚々とした美しい令嬢だった。純白の下衣の上に綺麗な薄桃色に染めた厚地の毛で織られた上衣を身に纏っている。青ざめて怯えた顔でカノンに一礼した令嬢の姿に、カノンの隣にいる兄サガは「未成年に手を出して…」とでも言いたげに、弟を非難がましい目で見るのだった。
「アグネス嬢、私の子を妊娠しておられるとの話だが…」
「………」
 カノンの質問にアグネス嬢は身を縮ませた。
「私は何も身に覚えがないのだが、腹の子の父親が私だという何か証拠になるようなものはあるだろうか。私からの手紙とか、贈り物とか…」
「………」
 カノンの言葉にアグネス嬢は無言で青ざめてうつむくだけだった。
「こちらとしても一方的に名誉を汚されて、放置はしておけない。妄言に対してはそれ相応の措置をとらねばならないが…」
「………」
 世間の評判では「冷徹で非情、女子供にも容赦はない」ということになっている海将軍筆頭様に厳しい表情で問い詰められ、年若いアグネス嬢の心はあっという間に折れた。このまま黙っていると拷問にでもかけられると思ったのかもしれない。
「すみません!違うんです!」
 わっと泣き出したアグネス嬢は、そのまま床に崩れ落ちた。
 床にうずくまっておいおいと号泣を続ける令嬢を何とかなだめて、一同は事の真相を聞くのに成功したのだった。

 去年の末から今年の初めにかけて、アンゲロス家では邸宅に引き籠もって暮らすことの多い冬季の慰みとして、ある芸人一座を邸宅に招き、彼らに色々と芸を披露させたり芝居を上演させていた。その中にいた若手の俳優の一人と、アグネス嬢は親密な仲になった。一座が市街に戻ってからも、アグネス嬢は両親の目を盗んでその俳優と逢瀬を重ねていたが、令嬢が「子供が出来たかも…」と告げた途端、相手の男は行方をくらまし、連絡も取れなくなってしまった。
 どこかの馬の骨な俳優の子を妊娠してしまったアグネス嬢は、腹の子をどうしようか一人で毎日考えあぐねた。しかし良家の令嬢だった彼女には「密かに医者に依頼して堕胎してもらう」という手段をとるだけの伝手もなかった。何の対処も出来ぬまま、自身の異変を何とか隠していたアグネス嬢だったが、周囲の召使いたちに月のものの停止や体調の変化を気付かれ、結局は父親にご注進されて、妊娠が発覚した。そして腹の子の父親を問い詰められた彼女は、「お父様に叱られずにすむ相手」として、とっさにカノンの名を出したのだった。そして娘を傷物にされた怒りで頭に血が上ったアンゲロス議員は、事の真偽を確かめもせずにカノンのもとに押し掛けた…という次第である。
「女が妊娠した途端に男がケツをまくって逃げるとか…吐いて捨てるほど世の中にある話じゃないか!そんなくだらない事件におれを巻き込むなー!」
 アンゲロス議員が平身低頭してカノンに謝罪して娘を連れ帰った後、カノンは執務室の中で大声で吠えた。アグネス嬢の腹の中の子をどう処置するのか、堕胎させるのか、密かに出産させた後で養子に出すのか、まあそれはアンゲロス家の面々が決める話であって、カノンが介入する話でもない。
「良かったですね、シードラゴン様。早々に無実が証明されて」
 上司の無実を全く信じていなかったクリストファーが、ぬけぬけと喜びの辞を口にする。カノンは、ふん、と胸を張ってみせた。
「当然だ。おれが素人娘をはらませるようなへまをするか!」
 「玄人女には相手をさせているのか?」と言いたげにサガが弟を睨んだ。そこは胸を張るところではないだろう…とクリストファーも思った。
「あー、とにかくこれで一件落着だ。良かった、良かった」
 せいせいしたという晴れやかな顔でカノンが椅子の上で伸びをする。
「カノン…」
 サガはまたもや聖職者のようなキラキラした清らかな瞳を双子の弟に向けた。
「カノン、やはりお前は無実だったな。私はお前を信じていたぞ?」
 掌をくるりんと見事に一回転させた兄の言い様に、カノンが反射的に叫んだ。
「嘘つけー!お前が一番、おれを信じてなかっただろうが!」
「そんなはずはない。あれはちょっとお前をからかっただけだ!」
「んなわけがあるかー!」
「兄を信じないのか!?」
「お前も弟を信じてないだろうが!」
 部下の目の前であるにも関わらず、やいやいと酷い罵り合いを始めた双子たちを、クリストファーは「ああ、またか…」と呆れた目で眺めた。いちゃいちゃして、子供じみた喧嘩して、すぐに仲直りしてまたいちゃいちゃする…というよくある双子の一連の流れには、すっかり慣れてきたカノンの部下たちであった。
 カノンが兄に叫ぶ。
「サガ、お前だってな!ある日、お前の前に小さな子供を連れた女が現れて、『この子は教皇時代のサガ様との間に出来た子供です。認知してください』とか言われる日が来るかもしれんのだからな!?その時はお前こそ潔く認めてみせろよ!」
 弟にそう言われた途端、サガの視線は怪しく泳ぎ始めた。
「…ソ、ソンナコトハアリエナイトオモウヨ…?」
「身に覚えがあるのかよ!?」
 兄の怪しすぎる狼狽ぶりに思わずカノンが突っ込む。
「いや、私にはない。だがもう一人の私が肉体を乗っ取っている間に何をしたのか、私も全ては覚えていないから…」
 せわしなく視線を泳がせながらサガが弁明する。
「まあ、悪の私も、ストイックで仕事熱心で、酒池肉林とかそういう事には興味はなかったタイプらしいから…。その可能性はないのではないか?ないと思う。多分、ない。うむ、ない」
「………」
 カノンは黙った。自分で言っておいてなんであるが、サガの隠し子が現れた日には、カノン本人も兄の醜聞に相当な精神的ダメージを食らいそうである。想像して、何やらどっと両肩に疲れを感じたカノンであった。
「まあ、カノン。とにかくお前の無実が分かったのだ。厄落としに、街に何か美味しいものでも食べに行こう?な、な?」
 不機嫌になったカノンをサガがなだめにかかる。街で「美味しいもの」を食べに行くとしても、この場合は金はカノンが払うことになるのだが、何とも都合の良い双子の兄であった。とはいえカノンも、せっかくの誕生日の翌日にこんなくさくさした気分でサガと別れるのは、どうにも気分が悪い。
「まあ、それもそうだ。評判の美味い菓子でも食って気分転換するか」
「うむ。そうしよう」
 にこにこと機嫌よくサガが微笑む。
 こうして双子は仲良く手を繋いで外出していった。すっかり見慣れた双子のドタバタ劇場が一段落したのを見届けて、クリストファーは諦観の眼で「行ってらっしゃいませ〜」と手を振って双子たちを見送ったのだった。

<FIN>

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