12月22日(木)。
椎名町から京橋の映画アーカイブへ。
「東宝の90年 モダンと革新の映画史(2)」で15時から小ホールで本多猪四郎監督作
『こだまは呼んでいる』を上映。
ほぼ満席。ぎりぎりの到着で慌ただしく席に着く。
『こだまは呼んでいる』
1959年、86分、35mm、白黒。監督=本多猪四郎、脚本=棚田吾郎、音楽=斎藤一郎。
同館プログラムには「山あいを走るバスの運転手(池部良)と車掌(雪村いづみ)のドラマを主軸として、地方の町村部の人間模様を描いた好編」とある。
「本多猪四郎は特撮映画で知られるが、文芸作品や女性ドラマにも携わり、ウェルメイドな娯楽映画の路線を支えた」とも。
プログラムには「車掌」と書かれているが編中では「バスガール」と呼ばれており、バスガールといえば初代コロムビア・ローズの歌う『東京のバスガール』が有名で一世を風靡、1958年に日活の歌謡映画(監督=春原政久)にもなっている。
それを意識したかは不明だが、本作では歌手でもある雪村いづみをヒロインに、バスの走行に合わせて彼女の歌も披露される。当然ながらとても上手い。
彼女の演じるバスガールのタマ子が魅力的。生き生きと明朗で働き者。
映画は、池部良演じる気難しい運転手の鍋山と車掌の彼女のコンビを中心に進む。
仕事は充実しているが物足りなさを覚えるタマ子は、町の素封家の一人息子に見初められ、母の勧めもあって求婚に応じる。
行儀見習いに彼の家に住み込むが、バスガールだったタマ子に冷たくあたる義母(沢村貞子)と母親のいいなりの婚約者(藤木悠)に嫌気がさしたタマ子は二人の留守に衝動的に婚家を飛び出し、来合わせたバスに乗って山奥の実家に向かう。
タマ子が履きつぶした靴を巡る二人の男、池部良と藤木悠の対比など脚本が上手いが、町の駅と急な山道の奥の村を結ぶバス路線で、道の安否確認、運転手への指示、乗客の案内はもとより、地元の人の買い物代行や荷物の受け渡しまで担うバスガールの溌剌とした働きぶりと、ガードレールもなく眼下は谷底の山道にバスを走らせる運転手の熟練の技をしっかりと見せ、そこへ伝統神事など集落の人々の暮らしぶり、都会に憧れる若い女性たちなどを絡め、当時の生活を実感を持って描き出している。
画面に映るだけで可笑しい左卜全や個性的な風貌の大村千吉、世話焼きの飯田蝶子など、お馴染みの顔が脇を固め、ユーモアもたっぷり。
山場の、雪の中で産気づいた妊婦を町まで運ぶバスで、鍋山に車掌の代役を頼まれたタマ子は、抜群の連携で危険な山道を走り切る。
緊迫した場面の中に職業への誇りと真摯さがあふれ、本多演出らしい極めて誠実な働く者たちの映画になっている。
どこへカメラを置いたのかと思わせる芦田勇の撮影も臨場感があっていい。
山麓のパンから始まる導入部、バスの背景にスクリーンプロセスを使った移動描写など、つい先日観た『空の大怪獣 ラドン』との共通性も見て取れる。
いわゆる特撮怪獣映画でない本多猪四郎監督の作品がもっと観たい。
何かの機会に特集などしていただけないだろうか。
終映後にmassandoさんと合流、G君と3人で近くのカフェに移動して歓談。
アーカイブ館内は乾燥しており、真冬にも関わらず全員アイスドリンクを飲み干すほど。
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