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2022年05月31日06:08

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『薔薇と求愛』

 2022年の双子誕作品です。
 『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定。
 今年は何だか時間が無くて、すごい小品になってしまいました…。
 誕生日にカノンを訪ねたサガがアフロディーテからもらった薔薇の花束を持ってプロポーズっぽい言葉を言っちゃう話。
 冒頭の詩は呉茂一『ギリシャ・ローマ抒情詩選』より。
 海界の都市ポセイドニアについては『ポセイドニア・コモーディア』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689を参照。
 昨年の話はこちら。『魅惑の香り』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15321108


薔薇を持つ人、薔薇にも見まごう美しき人
売り物はどれ?御身自身か、それとも花か
それとももしや皆一緒か

紀元前三世紀の詩人ディオニュシオス・ソピステスの恋愛詩

『薔薇と求愛』

 女神アテナと冥王ハーデスの聖戦が終わった後。
 冥界の崩壊によって、地獄に閉じ込められていた魔物や幽鬼たちが地上に出現するようになってしまった。この事態を収拾するため、冥王ハーデスは死した黄金聖闘士たちに再び生を与えて、魔物や幽鬼たちの捕縛を女神アテナと聖域に委託するという盟約が両神の間に結ばれた。
 こういう次第で再び十二宮に集った黄金聖闘士たちのうち、双子座のサガは新たな教皇となった射手座のアイオロスの首席補佐官を務めることになった。一方、サガの双子の弟であるカノンは、聖戦で唯一生き残った黄金聖闘士として双子座の称号を保持すると同時に、統治者不在で混乱をきたしていた海界をまとめるため、海将軍筆頭・海龍を兼任して海界に戻っていった。
 こうして地上と海界で別れて生活することになった双子座の双子たちだが、没交渉というわけではなく、何かの折には互いを訪ねて、共に時間を過ごしている。特に5月30日の誕生日には、カノンは兄のサガを海界に招いて、観劇をしたり、郊外の山荘で狩猟をしたり、あるいは海界の中心都市ポセイドニアを流れる運河で舟遊びをしたり、と、兄を楽しませることに腐心していた。
 そして今年も、カノンは兄のサガを海界にある自分の公邸に招いた。約束の時間が来て、本の整理をしていたカノンは書斎の扉を執事がノックするのを聞いた。
「シードラゴン様、兄君のサガ様が来られました」
「分かった。入れ」
 扉が開き、サガが書斎に入って来た。振り向いたカノンは兄の姿を見て、そして目を大きく開くことになった。
 なぜならサガは、両腕に大きな薔薇の花束を二つ、抱えていたからである。
 一方の花束は、花びらの先が尖った現代的な高芯剣弁咲きで、青みの強い藤色をしていた。もう片方の花束は、花びらの先が丸い古典的なロゼッタ咲きで、こちらは青みがかった藤色に白い斑が混じった色合いだった。
「おはよう、カノン」
 顔が見えなくなるくらい大きな花束に埋もれたサガが、弟に挨拶した。
「………」
 カノンはしばし固まって兄を凝視し、そして問うた。
「…サガ、どうした、それ?」
「いや、実は聖域の家を出る前にアフロディーテが来てな…」
 サガが説明した。
 弟を訪問するために出かけようとしたサガを魚座のアフロディーテが訪ねてきて、誕生日の贈り物としてこの大きな薔薇の花束を二つサガにくれたというのである。
「ああ、なるほど…」
 カノンは納得した。偽教皇を務めた十三年間をサガに付き合った魚座のアフロディーテは、サガの信奉者でもあった。子供のころから彼はサガになついており、今でも何かとサガを気遣ってくれる。
 サガは大きな花束をやや持て余し気味にしながら語った。
「私とお前をイメージして作った新種の薔薇だと言っていた。こちらの藤色の薔薇がお前、こちらの白と藤色の混ざった薔薇は私をイメージしたそうだ」
「ふーん…」
 カノンが改めてサガの抱えている薔薇を見る。カノンをイメージしたという薔薇は、海を連想させる青系の色合い一色で、剣弁咲きの花の形は「孤高」や「つんとした近づきがたさ」を連想させた。一方、サガをイメージしたという薔薇は丸い花弁が「優美さ」や「親しみやすさ」を連想させ、そして白と藤色が混じり合った色になっている。二種類の色が混じり合うその色合いに、カノンはアフロディーテが善と悪の人格がマーブルに混ざった二重人格の兄のことをどう捉えているか、理解したような気がした。
「しかし…お前が大きな薔薇の花束を抱えている姿を見た時は驚いたぞ、サガ。てっきりお前にプロポーズでもされるのかと思った」
 薔薇の花束を抱えている兄の姿を一通り眺めたところでカノンが冗談めかした感想を述べる。
「馬鹿を言え。弟相手にプロポーズをしてどうなる」
 と言いながらも、サガは抱えていた花束のうちの一つ、カノンをイメージして作られたという藤色の花束のほうをカノンに差し出した。
「だがカノン。お前は私の双子の弟、大切な私の半身だ。これからもお前と一緒に生きて、お前と共に人生の時間を過ごしていきたい。死が二人を分かつまで一緒に…」
「なんだ、やはりプロポーズではないか」
 サガから薔薇の花束を受け取りながら、カノンは兄に言われた台詞を評した。
「だから違うというのに」
「そうだな。だが…」
 カノンはサガから薔薇の花束を受け取って言った。
「サガ、おれもお前と共に生きていきたい。喜びも、悲しみも、楽しさも、寂しさも、全てをお前と共にして、これからの人生をお前と共にしたい」
 言いながら、やっぱりこれはプロポーズだよなぁ…と思うカノンだった。
 そんなことは露ほども思わないサガの方は、薔薇を抱えてにこにこと上機嫌にしていた。
「さあ、サガ、出かけよう。今日は『いるか座』で新作喜劇の上演を予約しているんだ。それから舟遊びをして、食事をしよう。今日一日、一緒に楽しむぞ」
「ああ」
 そうして双子たちは薔薇の花束を執事に預けると、手を繋いで仲良くポセイドニアの街中にと出かけていったのだった。

<FIN>

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