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2022年03月13日16:14

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小説を作成しました!「大好きなみんなとひとり」

※ 金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※


※ こちらは小説作品ですが、朗読用の台本としてもご利用いただけます。その際の想定時間は25分程度です。※




※ こちらは二方美人シリーズの一つです。単独でも楽しんでいただけるように作っていますが、最初の声劇台本「二方美人。」 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653 や他のシリーズ作もご欄いただきますと、私は大変喜びます。



※ シリーズ内で特に今作と関連性が深いのがこちら「珠玉に古瑕(たまにふるきず)。」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969313458&owner_id=24167653 

および「大嫌いな妹と私」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1981448558&owner_id=24167653

この二つです。良かったら併せて読んでくださると嬉しいです!




※「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみをまとめたリンク。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653










「大好きなみんなとひとり」



 今日はひどい夢を見てしまった。こんな朝は、余計に部屋が広く感じてしまう。重たいまぶたを擦りながら恐る恐る立ってみる。立てる。最初はすり足で、徐々に足を上げて、徐々に歩幅を広げて、数歩また数歩と歩いてみる。歩ける。そうしていると少しずつ目が覚めてくる。同時に体が震える。私は今歩いている。こっちが現実だ。

 良かった、私、歩けてる。杖も突かないで、苦も無く歩けてる。普通に、当たり前のように歩ける。良かった。夢じゃない。お医者さんからも「若いしこの程度ならちゃんと以前と同じように歩けるまで回復する」って言ってもらえていたけど、やっぱりずっと怖かった。入院中も、退院した今でもずっと夢に出てくる私はいつも杖を突いていたり、壁に寄り掛かっていたり。リハビリ中みたいな生活を一生暮らしていくような夢を見た後は、こうして一歩二歩、三歩四歩と歩くと次第に安心して、心が緊張から解放されて、目が潤んでくる。歩けるようになってから数か月経つのにまだ慣れない。とっくに完治して、サークルやお仕事にだって復帰してるのに。それでもずっとリハビリ中に抱えていた、これ以上回復しないんじゃないかって気持ちが今でもずっと心の奥底に残って消えない。歩けていた世界の方が夢で、まともに歩けない夢の世界が本当で、私は一生常に痛みを抱えて、きしむ体を無理に動かさないと歩けない生活を送り続けるんじゃないか。夢の中での私は、何度も何度もそんな思い込みをしてしまう。それでこうして、起きてすぐ、歩ける事の再確認。この作業を今まで何度したか分からない。

 でも良かった。間違いない。こっちが現実。歩けるよ私。歩けるよ、私。緋鳥(ひとり)君に「私歩ける」って大げさに報告するのも流石にやめようと思うけど、やりたくても朝起きた時緋鳥君は居ないから。もし偶然、今日みたいに泣きたい気持ちで目が覚めた日、緋鳥君がそこに居た時があったなら、その時は良いよね。滅多にない事なんだから。

 私が一人で起きてリビングに行くと、テーブルに必ず小さなメモ用紙が置かれている。細かい言い回しは違っても書いてある内容は決まって「先に行ってくるよ。雪那も気を付けて行ってらっしゃい」

 その毎日の小さなメモ用紙一枚一枚が私にとってはいつも大事で、かけがえのないもの。たとえそれが偶然数日前と全く同じ文面だったとしても、その一枚は数日前の一枚とは違う、たった一つの一枚。入院中に色々思うところがあって、退院してからは実は全部取っておいてある。その紙の右上に年月日を書いて、左側に穴を開けて紐を通して。元々私になんでも取っておきたいというようなところは無かったと思うけど、きっと燦花(さんか)さんの影響かな。燦花さんと友達になって、燦花さんの影響で私は多分、こういうの取っておきたいと思うようになっていったんだと思う。燦花さんは本当に、お手紙書くのとかもらったそういうのずっと取っておくのとか、好きな人だから。

 でもなんだかんだ、仲良く一緒に居るうちに、私も燦花さんの気持ちがわかるようになっていったよ。燦花さんが言い出した事だけど、みんなでご飯食べた時書き合ったお手紙も入院中何度も読んで元気貰ったし。そうえばあの時の鎖鳥(さとり)さんは面倒そうにしてたなあ。鎖鳥さんは何か提案すると大体、一回面倒そうな反応してから「はいはい」って感じでそれに付き合ってくれる。そしてそんな反応しておきながら、鎖鳥さんも本当は乗り気だったりする事も多いんだ。あの時もなんだかんだ言いながら書いた文字数が一番多いのは鎖鳥さんだった。反対に月夜(つくよ)さんは分かりやすく乗り気だったのにいざ書こうとすると苦労してて、最終的に一言二言くらいしか書けてなかった。実際難しいよね。私もそんな感じだったから。

 そういえば今頃月夜さんはどうしてるかな。浦風(うらかぜ)君と一緒にお見舞いに来てくれた時があったけど、あの二人はやっぱりあいかわらずで。あの二人……この時間だから、子供達と一緒に四人で朝ご飯食べてるところかな。月夜さん、昔は結構寝坊しそうになって浦風君に起こしてもらってたけど、子供を産んでしばらくしてからは早起きできるようになったって言ってたっけ。良いなあ。少なくとも、今の私みたいに一人で食パンにジャム塗ってなんてないんだろうな。同年代でももう結婚してる人は何人も居るけど、やっぱり私の中で「夫婦」とか「結婚」とかって考えた時、最初に出てくるのはあの二人。

 うん、やっぱり羨ましい。緋鳥君は今ではすっかり、多忙な人気アナウンサーだから。朝がすごく早くて、それに合わせて寝るのもすごく早い。平日で二人一緒の時間を過ごせるのは、私がお仕事終わって帰ってすぐご飯を一緒に食べて少しゆっくりする、その二時間に満たないくらいの間だけ。残業になっちゃったらもっと短くなるし、緋鳥君の帰りが遅くなると更に短くなる。燦花さんは燦花さんで水限(みぎり)さんと同じ職場だし、良いなあ。鎖鳥さんと岩埜(げんや)さんは……鎖鳥さん自身が忙しいから、多分私達以上に一緒の時間を作るの大変なんだろうな。羨ましいばっかり思ってたらいけない。それに燦花さんも月夜さんも子供達の事も色々あるから、そんな私が勝手に羨ましがってるような呑気な感じでは居られてないと思う。それどころか、私には想像もできない大変な事が沢山あるんだと思う。みんなそれぞれに大変で、その中でみんな小さな幸せを頑張って見つけているんだ。羨ましいばかり思うのは良くない。……でもやっぱり、ちょっとは羨ましい。一緒の時間。……そんなに忙しいのに、入院中はよくお見舞いに来てくれてた。私が大丈夫なのって聞くと、いつも決まって「今の雪那は人の心配しなくて良いんだよ、大丈夫だから」って。忙しいのだって頑張ってて周りからも認められてる証拠だし、凄い人だよね。お姉ちゃんも言ってた。しっかりした人見つけたみたいで良かったって。

 お姉ちゃん……。お姉ちゃんはどうしてるかな。萌木(もえぎ)さんとは仲良く居られてるかな。萌木さんも忙しい人みたいだから、もしかしたらもう出て行ってるかな。そしたらお姉ちゃんも私みたいに、今頃一人で歯でも磨いてるのかな。

 お姉ちゃんから結婚相手の……萌木さんの話を聞けるなんて思ってなかった。ずっと仲直りしたかったけど、きっと無理なんだろうなってずっと思ってた。お姉ちゃんはとっても優しくて、私の憧れだった。私は小さい頃から何をやらせても人よりできなくて、親も「お前には無理だからやめろ」って言って、全然お手伝いもできなかった。でもお姉ちゃんはそんな私に、いつもお手本を見せてくれた。こうやるんだよって言って、私が自分でできるように見せてくれた。それで少しずつでも家事を手伝わせてもらえるようになっていって。手芸教室に通うようになってからも、お姉ちゃんは周りから遅れてまで私の面倒を見てくれた。ほら、そこが間違ってる。こうやれば上手く行くんだ、やってみろって。お姉ちゃんは私に沢山の事を教えてくれたし、沢山の物もくれた。要らなくなったからっていつも言ってたけど、お姉ちゃんがそれをずっと大事にしてたのを見てきてたから。要らなくなったなんて嘘だって分かってる。

 それに、お姉ちゃんは……私とは全然違った。お姉ちゃんはいつも臆病で逃げてばかりの私と違って、いつも誰かのために戦ってた。私は、友達が意地悪されて泣いてても、一緒に泣いてるしかできなかった。でもお姉ちゃんは相手が男の子でも年上でも大人でも、いつも周りの誰かのために怒って立ち向かってた。私はいつも自分が情けなくって、悔しくて泣いてばかりだった。でも結局泣いてるだけで、いざという時何もできなくて、私はお姉ちゃんみたいにはなれなかった。

 お姉ちゃんが怒るのはいつも誰かのためで、自分の事で怒るところなんてずっと見てなかった。だから私が中学生の頃、初めてお姉ちゃんが自分の事で怒ったのは、本当に本当に、きっと一番傷ついたからなんだと思う。当時高校生だったお姉ちゃんが付き合っていた男の人……まことさん。まことさんが家に来た時、お姉ちゃんが席を外している間に……お手洗いに行こうと廊下に出た私に、あいつとは別れるから良いだろって言って無理やり手を掴んできて、壁に押し付けられて……。なんとか逃げ出して、部屋に戻って鍵をかけて布団の中にうずくまった。布団の中でそのままずっと震えながら、ただただずっと物音立てないようにしながらまことさんが帰るのを待ってた。まことさんが帰った後、お姉ちゃんにその事を伝えた。あの時私はどんな気持ちで、なんて言ってもらえると思っていたんだろう。ちゃんとは分からない。ただ一つ確実に言えるのは、あの時はとにかく怖くて怖くて、言わずには居られなかった。あの出来事を自分一人で抱えるのが耐えられなかった。でも、それを聞いたお姉ちゃんは、私の事を怒った。姉の彼氏を取ろうとするなんて何考えてるんだって。違うのに。信じてほしかったのに。私は何もしてないって。

 だけど、そうだよね。私は自分の事ばかりで、お姉ちゃんがどれだけ傷ついてるかなんて考えすらしなかった。ただ自分が怖かった事を分かってほしくて、ただ自分が傷ついたのを慰めてほしくて。いつも何かを貰ってばかりで、きっといつの間にかそれに感謝する気持ちが薄れていってしまっていたんだ。だからあんな、お姉ちゃんの気持ちなんて全然頭になくって、守ってもらう事しか考えられないでいたんだ。

 その後もずっとずっと仲直りしたくて、一緒に食べようってお菓子を買ったり、一人で通うようになった手芸教室で作った物をあげようとしたり。普通に考えれば分かるはずなのに。そんな時は何をされても苦しいだけだから、もう放っておいてほしいんだって。結局私は仲直りしたい仲直りしたいって、自分の気持ちばっかりで、お姉ちゃんの気持ちなんて想像すらできていなくって、いつまでも一方的に仲直りしたいっていう自分本位な気持ちで接し続けて、その傷をえぐり続けた。だから仲直りできないまま何年も経って、最後まで仲直りできないままお姉ちゃんは家を出ていったんだ。

 そんなお姉ちゃんが、入院中、10年以上ぶりに会いに来てくれた。それも本当は病院まで来たのは良いけどやっぱり帰ろうとしてたみたい。それを緋鳥君が見つけて、私が見せていた昔の写真からお姉ちゃんだって気づいて声かけてくれて。帰ろうとするお姉ちゃんに、私と会ってあげてほしいって言ってくれて。

 ごめんなさい、緋鳥君。中々時間が合わなくってつらいのは二人ともで、それでも少しでも一緒に居られる時間作ろうって頑張ってるのも二人ともで。つらいのは当たり前だけど、受け止めて強くなるんだよ。だって緋鳥君はこの世に一人しか居なくて、その緋鳥君が私達のためにもお仕事頑張ってて、その結果みんなから求められて忙しくなってるんだから。鎖鳥さんと宇鏡(うきょう)さんが緋鳥君を紹介してくれて、緋鳥君のお陰でお姉ちゃんと仲直りできて。それだけじゃない。入院中、周りのみんな、それぞれ事情があるのに。みんなわざわざ時間を作ってお見舞いに来てくれた。サークルだって、復帰した時みんな喜んでくれた。職場でも葉ノ下(はのもと)君は率先して、私がなるべく歩かなくて良いようにってしてくれた。みんないつも、沢山気を遣ってくれてる。こんなに嬉しい事に囲まれているのに私はいつまで経ってもあれが無いこれが無い。子供じゃないんだから。もう少しでお化粧終わるよ、そしたら私も出るね。

 私は生まれてこの方、ずっと当たり前に歩けてきた。転んで骨を折って、最初は深く考えてなかったけど、色々自分で調べてみて同じような怪我で一生杖なしで歩けなくなった人の話を見て急に怖くなって。そうして、生まれて初めて自分が当たり前に歩ける事に強く感謝する時が訪れたように。私はなんで自分がもらっている恵みを忘れてしまうのだろう。私は好きな人が忙しくて中々一緒に居られない、かわいそうな人じゃない。私は、どんなに忙しくても少しでも一緒に居る時間を作ってくれようとする、とっても素敵な人とお互い好きになれた、幸せな人なんだよ。緋鳥君が私にしてくれているように、私が緋鳥君にとっての恵みになるんだ。だから自分の気持ちばっかりじゃなくって、強く、広く、それで、大きく。

 うん、大丈夫。お化粧終わり。鍵も持ったし、打ち合わせで使う資料も持った。準備万端。普段はテレビの中の緋鳥君の事は見たくないけど、今日はちょっとだけ。

「緋鳥君。」

 数秒だけ点けたテレビに映った緋鳥君の、私にじゃない、みんなに向けた姿を焼き付けて。ただいまを言うその時を楽しみに。それじゃあ、行ってきます。




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