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2021年12月29日16:36

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ゴリ押しでは,きっと上手くいきません・・・西九州新幹線のお話

 ただ「出来ない」と繰り返すだけでは佐賀県の納得を得られる筈が無い。僕にはそのように思えます。

 西九州新幹線の建設が進んでいます。2022(令和4)年秋の開業が予定されているということです。但し工事が進んでいるのは武雄温泉駅〜長崎駅間のみで,九州新幹線との分岐駅になることが想定されていた新鳥栖駅と武雄温泉駅との間は全く工事が行われていません。既設路線とつながらない形で工事を行うということ自体は珍しい話ではなく,たとえば相互乗入を行う予定で建設された都内の地下鉄でも最初は孤立路線として営業を開始するということもありました。また他ならぬ新幹線においても九州新幹線はまず2004(平成16)年に新八代〜鹿児島中央間が先行開業し,全線開業して山陽新幹線との直通運転が開始されたのは2011(平成23)年のことです。
 しかし西九州新幹線はそれらの先行事例と一緒にすることは出来ません。同線においては長崎県内が開通を控えた今になっても,佐賀県内のうち武雄温泉駅以東について整備方針すら全く決まっていないのですから。

 何故そんなことになってしまったのか。もともと佐賀県は福岡県の県庁所在地で九州最大の都市である福岡市にほど近く,しかも博多駅と佐賀県内とを結ぶ鹿児島本線や長崎本線が既に改良済みで高速運転する特急列車も頻発しているので,新幹線が出来ても大したメリットはありませんでした。それでいて整備新幹線の一般的な原則に則れば並行在来線はJRから切り離されて第三セクター鉄道として地元負担で維持しなければならないのですから,消極的になるのは当然の話です。そこで「新鳥栖〜武雄温泉間については在来線をそのまま活用して新幹線(軌間は標準軌1435mm)と在来線(軌間は狭軌1067mm)との両方を走れるフリーゲージトレイン(軌間可変電車)を導入し,九州新幹線の博多〜新鳥栖間や西九州新幹線の武雄温泉〜長崎間と直通運転する」「それ以外の区間についても佐賀・長崎両県が施設を保有するが,運営についてはJR九州が継続して行う」という方針が一度は決定し,それに従って新幹線整備が勧められてきました。
 ところがフリーゲージトレインについては研究が進められてきたものの,国が「少なくとも高速運転する新幹線には導入不可能」という結論を出したことで話がおかしくなってしまいました。ならばやはり全線をフル規格の新幹線として新規建設しようという国や長崎県に対し,新たな負担を求められる佐賀県が反対意見を抱くのは道理というものでしょう。

 では佐賀県はどうしたいのかというと,今もなお「フリーゲージトレインを導入せよ」と主張しています。不可能と言われているのに,それに固執しているのは何故でしょうか。それは同県が「本当に不可能なのか」という強い疑念を抱いているからでしょう。その疑念は故無きものではありません。日本政府は不可能と言っていますが,中国においては「開発に成功した」と発表されているからです。
 中国の鉄道車両メーカーである中車長春軌道客車股份有限公司は既に2020(令和2)年10月「軌間600mm〜1886mmに対応し,営業速度400km/h(設計速度は440km/h)のフリーゲージ電車を開発した」とプレスリリースを行っています。また,これ以外に別方式のフリーゲージトレインについても開発に成功したということが言われています。その情報を耳にすれば「話が違う」と考えるのは佐賀県の関係者に限られたことではないでしょう。実際,早くも2020(令和2)年11月2日には佐賀県議会の新幹線問題対策等特別委員会で原田寿雄同県議から「日本はFGT(註:フリーゲージトレイン)の高速走行を断念し。中国は完成した。所感や知り得た情報があれば聞きたい」という,参考人招致されていたJR九州の古宮洋二専務に対する質問が行われています。これに対し同専務は「詳細は分からないが、日本で開発していたFGTとは車輪の幅を動かす動力の方式が大きく異なる」「日本のFGTも通常走る分には問題ないが、長期走行性、耐久性、安全性、経済性(の問題)もある。総合的に判断して中国がどうなのかは分からない」と回答したということです(「佐賀新聞」2020年11月3日)。

 無論,この質問が行われたのは中国でのプレスリリースから1か月も経たぬうちであり,その段階で確実な情報が得られていないことについては責められません。ましてJR九州はフリーゲージトレインの開発主体ではないのですから。しかし佐賀県としては「そんな曖昧な情報しか判らないのでは,全線フル規格新幹線への方針替えなど出来る筈が無い」と考えるのが道理というものでしょう。原田寿雄県議の質問も,その当然の道理を踏まえたものといえると思います。
 今,国やJR九州に求められるのは何か。専門家としての知見を基に「中国で開発されたフリーゲージトレインを西九州新幹線に導入することは可能か否か」を徹底的に検証し,それに基づいた方針を佐賀県に提示することでしょう。当然のことながら,その検証のうちには「中車長春軌道客車股份有限公司への照会」といった事柄も含まれます。そしてその回答が「今すぐ出来る」「少々の改良を行えば出来る」というものであれば,当初の予定どおり「新鳥栖〜武雄温泉間については在来線を活用する」という方針に復帰すべきなのは当然ですし,また「現段階では不可能」という回答であったとしても「近い将来においては導入可能と思われる」ということであれば,同公司から技術供与を受けるなりスタッフを招聘して指導を受けるなりといった方法で全速力での開発を行うべきなのもまた当然です。
 逆にもっとも避けるべきなのは,そういった詳細な検証を怠り「日本には導入出来ません」という根拠不明の決め付けで全線フル規格の建設をゴリ押しするということです。全線フル規格での整備は「中国製のフリーゲージトレインは日本には導入出来ない」ということが確実になって初めて正当化されることですし,それを怠ってフル規格での整備をしようというのでは佐賀県は絶対納得しないでしょう。現に「無理だ」と国が明言してもなお,同県は「フリーゲージトレインを導入せよ。少なくとも最高速度を落とせば出来る筈だ」と主張し続けているのですから。

 新幹線に限らず,大規模プロジェクトの実行にはそうした誠実な取組が必要に違い無い。僕はそのように考えるところです。



西九州新幹線 佐賀区間「3つの宿題」どう進展? ルートや在来線問題議論も国県溝深く
https://trafficnews.jp/post/113065
https://news.yahoo.co.jp/articles/9802c8aa9b472707111bcda149ae920f60d6f6e0

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