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2021年11月30日14:25

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『教皇様だって苦労してるんです その2』

 2021年のロス誕作品です。
 『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定。ロスサガ前提。
 反サガ派の陰謀で、ある朝アイオロスが目を覚ましたら隣に裸の美女が寝ていて、それを見たサガが誤解して海界のカノンのもとに家出しちゃう話です。
 アイオロスの浮気現場にアケローオス河神がいると『ある秋の日に』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16452273になりますが、いないとこうなります、という話です。神様パワーは偉大なり。 
 反サガ派が色々と企ててる話は『教皇様だって苦労してるんです』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8919554を参照
 昨年の作品はこちら。『教皇様のデート大作戦』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14175430

『教皇様だって苦労してるんです その2』

 聖域の教皇である射手座のアイオロスの誕生日、聖域では教皇の生誕を聖域全体を上げて祝う祝賀行事が予定されていた。
 そんなわけで教皇アイオロス様の誕生日である11月30日は、女神アテナに感謝を捧げる儀式だの、教皇アイオロスの皆への演説だの、聖域の住民や近隣の住民の代表者たちとの懇親会だの、黄金聖闘士たちとの晩餐会だの、様々な行事が朝から晩まで目白押しになっている。その合間に通常の執務もあるため、毎年のことながらアイオロス本人にとっては自分の誕生日をゆっくり祝うどころではなかった。
 そんなアイオロスにとっての心の支えは、前の晩に教皇の首席補佐官であり彼の恋人でもある双子座の黄金聖闘士サガが「アイオロスの誕生日を誰より先に祝う」ために教皇の寝室に泊まってくれ、誕生祝いを口実に思いっきりサガとイチャコラできるということであった。
 ところが今年は、
「すまん!アイオロス!明日の準備が思いのほか長引いて…。今晩は泊まれそうにない」
 と、夕方遅くになってサガがアイオロスに言ってきたのであった。
 アイオロスは落胆した。これ以上はないくらい落胆した。サガとの甘い夜が多忙な誕生日当日を我慢して過ごすための心の支えだったのに、それがなくなってしまったのである。
 しかしその後、「明日の夜に埋め合わせをするから…」とサガが言ってくれたため、アイオロスはそれをご褒美と思って誕生日当日の忙しさを乗り切ることにした。
『あ〜あ、本当ならサガと熱い一夜を過ごすはずだったのに…』
 そう思いながら、アイオロスは侍従が運んできた寝酒をやけ気味に煽って、就寝した。
 そして11月30日の朝。
「う、う〜ん…」
 朝になってアイオロスは覚醒したが、なぜかいつもよりも頭や体が重かった。
『おかしいなぁ…。そんなに深酒したわけでもないのに…』
 短い茶褐色の髪の毛をかき回しながら、アイオロスは体を起こした。
 そして。
 隣に見覚えのない女性が寝ているのを発見した。
「…誰?」
 呆然とアイオロスが呟いた。彼の言葉と動きで女性も起きたようだった。
「教皇様…」
 そう言いながら、女性が身を起こした。布団の下の彼女の体は、真っ裸だった。
「昨夜は素晴らしい夜でしたわ…」
 頬を染めた女性が恥ずかしそうに視線を伏せる。豪華で明るい金髪巻き毛に豊満な胸を持った、一般の男性にとってはすこぶる魅力的と思える女性だった。が、サガしか目に入ってないアイオロスにとってはジャガイモかカボチャも同様である。
「え?え?え?」
 朝起きたら、隣に裸の女性が寝ていた。普通なら、一夜を共にして彼女と性交渉を持ったとみるべき状況である。
 だがもちろん、アイオロスにはそんな記憶は全くない。記憶を失うほど泥酔したわけでもない。なのに隣に知らない女性が裸で寝ている。
 この身に覚えのない事態に、いったい何が起きたのかアイオロスは首をかしげるばかりだった。
 その時、教皇の寝室の扉がノックされた。
「アイオロス、そろそろ起きてくれ。朝の礼拝に遅れてしまう」
 扉の外から声をかけてきたのはサガだった。首席補佐官として寝坊しているアイオロスを起こしに来たのだ。
「サ、サガ…っ」
 一瞬、アイオロスの声が裏返った。隣にいる女性と夜を過ごした覚えなどまったくないのだが、この現状を見たらサガに確実に誤解される。
「アイオロス、どうした?」
 アイオロスの声音に異変を感じ、サガは扉のノブに手をかけた。
「わー!サガ、待って!」
「入るぞ」
 アイオロスの制止は間に合わなかった。サガが寝室の扉を開ける。その瞬間に合わせて、アイオロスの隣にいた女性が彼に抱きついてきた。その抱きつく勢いがあまりによかったので、思わずよろけたアイオロスは彼女を抱いて受け止めた。
 そしてサガはばっちり見てしまった。愛しいアイオロスが裸の女性と乳繰り合っている(とサガは思った)場面を。
「い、いや、違う!サガ、これは…!」
 慌てて女性から腕を離したアイオロスが弁解しようとする。サガは立ったままふるふると震えた。
「ア、アイオロス…、お前は…」
「あ、あの、サガ…」
 言いつくろうアイオロスの台詞よりも、サガの脳内でばばばばーっと妄想が繰り広げられる方が早かった。
「お前は…私が昨夜と共にできなかったので、他の女性に夜伽をさせるとは…!なんだ!?私が昨夜、断ったことへの当てつけか!?」
「ち、違うって!」
「黙れ、アイオロス!弁解など不要だ!」
「い、いや、おれの話を聞いて…」
「聞く耳持たぬ!ああ、そうだ!教皇であるお前が誰を侍らそうと、私に意見する権利などないからな!好きにすればいい!」
「だから、サガ…違うって…」
「何が違う!?」
 握った拳を振り上げて怒りを表していたサガだったが、やがて瞳からぼろぼろと涙をこぼし始めた。
「ア、アイオロスの…」
「…おれの?」
「ロスの浮気者ーっ!」
 そしてサガは号泣して、泣きながら光速で十二宮の階段を駆け下りると、そのまま海界にいる双子の弟カノンのもとへ家出してしまったのであった。

「そうか!成功したか!」
 「教皇アイオロス様が女性と一夜を共にして、それを知ったサガ様が海界に家出した」ことを知り、大喜びする一団がいた。言ってみれば彼らは「反サガ派」と呼べる者たちである。肩書きとしては侍従次長とか神官長とか色々いるが、サガが教皇を僭称していたころに身内や同僚を彼に殺されてサガに恨みを持つ者たちであったり、逆賊であるサガがアテナの許しを得たとはいえ聖域で大きな顔をしているのが気に入らないと反感を持つ者たちであったり、教皇アイオロスがサガという特定の人物の影響下にあることを危険視する者たちだったり…と、聖域内では結構な人数が彼らの仲間に加わっており、聖域内でそれなりに地位や役職に就いている者たちも多かった。
 そんな「反サガ派」の面々が今、最も熱意を注いで企んでいるのは、「教皇アイオロス様とサガ様を仲違いさせること」であった。無論、二人をただ仲違いさせるだけではなく、それを機にサガを聖域から追放とか黄金聖闘士の称号を剥奪とか公職から罷免とか出来たらよい…と考えている。
 今回のアイオロスの浮気騒動も、彼らの企みの一つであった。わざと教皇誕生日の祝賀行事の準備作業を長引かせてサガを引き留め、一方で息のかかった侍従に命じてアイオロスの寝酒に睡眠薬を混ぜさせておき、アイオロスが他の人間の気配に気づかないほど深く眠った隙に、こちらの意図を言い含めた女性を寝室に忍び込ませて裸で添い寝させたのである。無論、アイオロスと女性との間に性交渉などなかったが、ともあれ「アイオロスが他の女性と同衾している」現場をサガに見させることでアイオロスの浮気沙汰を捏造し、二人の仲を裂こうという策略であった。
 そしてサガはまんまと彼らの策略に乗って、聖域を出ていってしまった。反サガ派の面々は思い描いていた通りの展開に上機嫌であった。
「いやいや、思っていた以上の効果でしたな!」
「うむ。アイオロス様の浮気を見たサガ様も不快だろうが、一方的に浮気を疑われたアイオロス様もサガ様に苛立っておられるに違いない!」
「その通り!おそらく内心ではアイオロス様もサガ様にお怒りのはずだ!」
「よーし!このままサガ様へのアイオロス様の不興を一気に煽り立て、サガ様を更迭させるように仕向けるぞ!」
「おー!」
 反サガ派は一斉に拳を突き上げて気勢を上げた。
 彼らに向かって「他にすることはないのですか」と突っ込んでくれる者は、残念ながらいなかった。

 そしてサガが家出してから一週間。双子座の黄金聖闘士と同時に海将軍筆頭を兼任して海界でその地の統治に当たっているカノンの下には、聖域から黄金聖闘士たちが入れ代わり立ち代わりやって来て、サガに聖域に戻るようにと説得を行っていた。しかしサガは彼らに会おうともせず、いつもカノンに対応を任せて、仲間たちを門前払いさせていた。
 黄金聖闘士たちは一様に「何で自分がアイオロスとサガの痴話喧嘩に巻き込まれにゃならんのだ…」という表情をしていたが、それでも同僚の義務として、くじ引きで決めた順番に従って、海界への訪問とサガへの説得を続けたのだった。
 そしてその日、サガへの説得の当番に当たったのは、蟹座のデスマスクだった。
「つーか、カノン、お前からもサガを説得しろよ!さっさと聖域に戻って来いって!」
 やけ気味に叫んだデスマスクに、今回もサガに対応を任されたカノンはやる気のなさそうな態度で答えた。
「え〜?でも〜?サガは帰りたくないって言ってるし〜?おれとしても嫌がってる奴を無理やり帰すのはどうかと思うし〜?っていうか、まずアイオロス本人が来て、サガに弁明なり説得なりをするのが、順序ってもんじゃね?」
 カノンの態度は極めてよろしくないが、言っていることはそれなりに道理にかなっていた。
 不真面目なカノンの態度に苛立ったデスマスクが声を荒げる。
「カノン、お前は大好きな兄(サガ)と二人きりで海界でイチャコラ過ごせて楽しいんだろうけどな!こっちはもう大変なんだよ!『サガに浮気を誤解された…サガに嫌われた…』ってアイオロスは真っ白に燃え尽きて灰になっちゃってるし!そのせいで、教皇誕生日の祝賀行事とか全部キャンセルされたし!」
「うん、まー、それでキャンセルされるような行事なら、来年からは全面的に廃止してもいいんじゃね?」
 これまた不誠実な態度でカノンが受け応える。
「おれも儀式とか面倒だから、正直そう思わないでもないけど!問題は、アイオロスがあれから放心して仕事どころじゃなくなっちゃってるんだよ!無論、首席補佐官のサガもいないから、聖域の事務作業が完全にストップしてるんだ!このままだと…!」
「このままだと?」
「…おれの先月の出張が経費で落ちなくて、自腹を切る羽目になる」
 真剣な表情で言ったデスマスクに対し、カノンは右耳を小指でほじりながら抑揚のない声で答えた。
「わー、それはたいへんだー」
 実に誠意のない返答であった。デスマスクの懐具合など、カノンの知ったことではない。
「『たいへんだー』じゃねえよ!聖域の経費で落ちなかったら、グラード財団の方に請求書を回してやるからな!アテナにご迷惑をおかけしたくなかったら、さっさとサガを説得して聖域に戻させろよ、カノン!」
「うーん、それは困った…」
 さすがにアテナ沙織の名前を出されると、カノンも考えを改めざるを得なかった。兄とアイオロスの痴話喧嘩で敬愛するアテナに迷惑が行くとか、弟としてあまりに情けなさすぎる。
「こっちは本当、シャレにならない事態になりつつあるんだよ!アイオロスに至っては、真っ白に燃え尽きてたのが、最近は反転して白から黒くなりかかってるし!『今回の件に関係した連中の首をまとめて飛ばしてやる…物理的に…』とかぶつぶつ言い出してるんだけど!?このままだと、黒髪のサガの執政も真っ青な大粛清と大量虐殺が始まりそうなんですけど!?」
 何とも剣呑な話であった。サガ不在の間に、教皇アイオロス様の精神状態はどんどんやばい方向に荒廃しているらしい。それとも素の暗黒面が表に現れてきたというべきか。
「まー、それもいいんじゃね?この際、反サガ派の連中をまとめて一掃すれば、さっぱりするだろ?」
 「大好きな兄(サガ)の足を引っ張る連中とか、全員、異次元送りでいいよな」というのが、カノンの本音であった。もちろん、海界の統治に関しては、自分の反対派をまとめて虐殺とか、そんな無茶な真似をしようとは思っていない。その編のバランス感覚は意外にあるカノンだった。だが聖域の統治に関しては、所詮カノンにとっては他人事なので、要するに教皇であるアイオロスがどれだけ苦労しようがどうでもいいのだった。というか、自分の半身である大事な双子の兄、愛しい愛しいサガを自分から奪った(とカノンは認識している)大嫌いなアイオロスの苦労が増えれば増えるだけ、「ざまぁwww」と指差して嘲笑してやりたい気分である。だが、大切な兄(サガ)が傷つけられるとすれば、話は別だ。
「よくねえよ!そんな真似をしたら、どんだけ聖域が混乱すると思ってんだよ!反サガ派の一層が出来るなら、アイオロスもサガもとっくにやっとるわ!それなのに、『それで連中の生首をサガに贈ったら、サガもおれの誠意を信じてくれるかな…?』とか言い出してるんだよ、あのアイオロスの奴が!このままだと、ある日、大量の塩漬けの生首がお前のところに届けられても知らねぇからな!」
「それも困るなぁ…」
 カノンがサガの聖域への帰還に少し前向きになる理由がまた出来た。大量の塩漬けの生首とかもらっても、カノンも始末に困る。生臭そうだし、埋めるにしても場所がないし、海にポイ捨てするわけにもいかない。
「そういうわけだから、早くサガをなんとかしろよ、カノン!生首の山が積み上がる前に!」
 デスマスクは命令口調でそう言い置いて、聖域に帰っていったのだった。

「聞いてただろ、サガ。出て来いよ」
 デスマスクが帰った後、カノンが執務室と隣室を繋ぐ扉に声をかける。その扉が開き、カノンとデスマスクの会話を密かに聞いていたサガが姿を見せた。
「お前も、とっくに分かってるだろ、サガ。お前に反感を持つ連中が裏でこそこそ企てたことで、アイオロスは本当は浮気なんかしてないって」
 カノンが兄にそう尋ねる。
 反射的にアイオロスの「浮気」に怒って海界に家出してしまったサガであったが、少し時間が経てばすぐに冷静になり、事態の不自然さに気付いた。聖域内にサガに反感を持つ者たちが多いことも、サガ本人もアイオロスも知っている。そのために彼らが教皇の間に仕える女官や侍従たちに美男美女を集めて、アイオロスがサガから彼らに目移りしてくれないかと画策していることも、分かっている。アイオロスが色仕掛けをされたことも、一度や二度ではなかった。
 そんな状況を表面的には冷静に流していたサガだったが、実は内心ではかなりやきもきしていたのである。過去の罪への贖罪意識もあり、サガは自己評価がとても低かった。黄金聖闘士としての誇りの高さから動揺を周囲に見せることはなかったが、アイオロスがいつかは自分に飽きて、目新しい愛人に心移りしてしまうのでは…という疑いをずっと心の中に抱いていたのだ。今回、アイオロスの傍らに裸の女性がいたところを目撃して、反射的に彼が浮気したと決めつけてしまったのも、その不安と焦慮の表れだった。
「でも…私はアイオロスの弁解も聞かずに、彼が浮気したと決めつけて、こんな感じで聖域を出てきてしまって、あちこちに迷惑をかけて、今さらアイオロスや皆に会わせる顔が…」
 視線を床に落としたサガがぐちぐちと言い出した。今まで聖域の仲間たちにも会わなかったのは、アイオロスに腹を立てていたからではなく、単に自分の誤解からここまで大騒ぎになったのが気まずいからであった。
「まー、お前がここにいたいというなら、気が済むまでいたらいいけど?でもお前が家出してる間に、今回の黒幕連中が勢いづくだけだぜ?」
「それは、そうかもしれないが…」
 まだうじうじとためらっている兄に、カノンがため息をついた。
「あのなぁ。お前がそんな感じで弱気だから、黒幕連中に付け入られる隙ができるんだよ!そんなにアイオロスを他の奴に盗られたくないなら、毎晩でも一緒に奴と寝てやればいいだろ!?そうしたら他の奴が忍び込んでくる隙もないだろ!?」
「そ…!」
 カノンの提案に、サガは裏返った声を上げた。
「毎晩アイオロスと一緒など…っ、わ、私の体がもたないではないか…!?」
 兄の反応にカノンはあきれた。
「…いや、なんで毎晩ヤる前提なんだよ。普通に添い寝するだけでいいだろ?」
「う…」
 弟の指摘にサガが言葉に詰まる。
 アイオロスも見た目は爽やかな好青年風でいながら実は頭の中は助兵衛な男であったが、サガの方も外見は清純そうでなかなか…と思ったカノンであった。そういう意味ではどっこいどっこいなカップルである。
 その時、カノンは改めて自分の今の立ち位置を自覚した。
「…つーか、何でおれがアイオロスの奴とサガの仲を取り持たにゃならんのだ…おかしいだろ…」
 不本意な状況にカノンは舌打ちした。
「う…でも…でも…」
 まだうじうじと聖域への帰還をためらっている兄に、カノンがさらに言う。
「そんな感じでお前が聖域を開けてる間に、黒幕連中は今度はアイオロスのための後宮制度とか作っちまうかもしれないぞ!?お前が聖域に帰ってみたら、アイオロスが美男美女を毎晩とっかえひっかえして楽しんでた…なんて状況になっててもいいのかよ!?」
「そ、それは嫌だ!」
 カノンの描いた予想図に、生来の嫉妬深い性格をあらわにしたサガが焦る。
「じゃあ、さっさと聖域に帰れよ。それでアイオロスと相談して、今回の件に関わった連中の始末をつけろ。お前は過去のことがあるから連中に下出に出てるし、アイオロスも奴らに甘い顔をして厳しい態度を取らないから、二人とも連中に舐められてんだよ!ここらでガツンとやっとけ、ガツンと!」
「う、うむ。ガツンと、な…」
「そうそう、ガツンと」
 カノンが犬でも追い立てるようにしっしっと手を振る。しばらく考えていたサガは、やがて意を決した。
「…今後のことはともかく、とりあえず聖域に帰ることにする。デスマスクの話では仕事もだいぶ滞ってしまっているようだし…。うう…でもこんなに皆に迷惑をかけてしまって、やっぱり皆に会わせる顔が…うう…」
 とりあえず帰る気にはなったものの、まだぐちぐち言っている兄に、カノンは止めをさした。
「あのなぁ、聖域の連中に会わせる顔とか、おれもお前もとっくになくなってるんだよ!聖域の歴史に真っ黒に名前が残る大罪人なの、おれたちは!いいから、お前、もう帰れ!」
 弟の言葉に過去の罪をぐさりとえぐられて、サガはまたもや悔恨モードに入った。
「うう…、皆、すまない、私などのせいで…うう…」
 嘆きながら、それでもサガは聖域に帰る準備をすることにした。その兄の背を見ながら、カノンは小さく吐き捨てた。
「何でおれがアイオロスのためにこんな苦労を…。あの野郎、今度、高い酒でもおごらせてやる…」
 ともあれ、こうして家出を終えたサガは聖域に帰還して、アイオロスとサガの痴話喧嘩はひとまず終了したのだった。
 
 その後、アイオロスの寝酒に睡眠薬を混ぜた侍従や、アイオロスの寝台に忍び込んだ女性や(教皇の間付きの女官だった)、彼らに直接指示した神官は、配置転換となり教皇庁からは追放されたが、聖域から「反サガ派」の面々を一層とはなかなかいかなかった。何しろ数が多くて、全員を一掃すると聖域の人材が不足するからである。
 そんなわけで、教皇アイオロス様の苦労はまだまだ続くのだった。

<FIN>

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