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2021年10月29日13:56

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『ようこそ、不思議の国へ』

 2021年のラダ誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定、ラダカノ前提。
 ミーノスの口車に乗せられて「ハロウィンの仮装」と称してバニーガールの格好をさせられたカノンの姿にラダマンティスが壊れる話です。カノンにバニーちゃんの格好をさせることを承諾させたミーノスの舌先三寸、マジすげー。
 ありがとう、ミーノス、君の存在には毎年助けられているよ(ネタ的な意味で)。
 昨年の作品はこちら。『たまにはペアルックを』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13982697

『ようこそ、不思議の国へ』

 10月30日は冥界三巨頭の一人、天猛星ワイバーンのラダマンティスの今生での肉体が生を受けた日であった。というわけで、現在のラダマンティスはこの日を彼の誕生日として周囲の人たちに祝われていた。
 冥界にいる同僚や部下たちも誕生祝いをしてくれるのではあるが、ラダマンティスが誰から最も祝ってもらいたいかと言えば、それは双子座の黄金聖闘士であり海将軍筆頭・海龍を兼任しているカノンであった。そうそうたる肩書を持つカノンだが、ラダマンティスにとって一番重要な彼の肩書は「自分の恋人」である。
 そんなわけで、ラダマンティスは10月30日を毎年、カノンとラブラブして過ごすことにしていた。ぶっちゃけ、同僚とか部下たちからの祝いとかどうでもいいので、カノンと二人きりで朝から晩まで…いや、当日の朝から翌日の朝までイチャコラして過ごしたいというのが、彼の本音であった。
 だがその「本音」は、なかなか現実のものとなってくれなかった。彼が愛し、信用もする部下たちは気を利かせてくれるのだが、同僚…特に天貴星グリフォンのミーノスが、必ず何らかの茶々を入れてくるのである。
 別にミーノスも悪気でやっているわけではない…と思いたいのだが、
「私は神話時代のあなたの兄ですからねぇ。兄として弟の生誕を祝ってあげたいんですよぉ」
 と、にんまりと笑いながら告げるミーノスがする「祝い」は、だいたいラダマンティス本人にとってははた迷惑なものとなるのだった。
 そして今年の10月30日である。
 ラダマンティスはこの日に、カイーナの執務室で残務処理をしていた。重厚な紫檀の執務机の前で、冥府の判官として黒い威厳ある法衣を身に着けたラダマンティスが書類を片付けていく。
 そこへ来訪者があることを部下のバレンタインが告げに来た。執務室に報告に来たバレンタインは、少し困ったような顔をしていた。
「ラダマンティス様、そのぉ…。ミーノス様とアイアコス様がおいでですが…」
 バレンタインの表情で、ラダマンティスは事情を察した。どうやらミーノスがまたぞろ「祝い」と称して、ろくでもないことをしに来たに違いない、と。
「お通ししてもよろしいでしょうか?」
「仕方ないな。通せ」
 ため息交じりにラダマンティスが言った。ここで面会を断ったとしても、ミーノスのことだ、後で押しかけてくるに違いない。夜になってカノンとしっぽりしているところに乱入でもされたら、迷惑極まりない。だったら嫌なことはさっさと片付けるに限る。
 ラダマンティスの許可が下りて、二人の客人が近づいてくる足音がした。
 そして。
「ハッピーバースデイ!アンド、ハッピーハロウィーン、ラダマンティス!」
 騒々しい掛け声とともに、ミーノスとアイアコスがラダマンティスの執務室に入ってきた。同僚二人のその姿に、部屋の主の目は点になった。
 アイアコスのほうは、まだ良かった。やたらと大きいシルクハットに、水玉模様のこれまたやたらと大きい蝶ネクタイ。そして厚地で時代かかった形のフロックコート。ご丁寧にシルクハットには「10シリング6ペンス」との値札までついている。奇妙ではあるが、まあ、一応は「人間」の格好をしている。
 問題はミーノスだった。彼は頭に灰色の猫耳のついたカチューシャをつけ、両頬には三本ずつ猫のひげを描いていた。そして全身を灰色のタイツのようなぴっちりとした服で包み、尻には猫の尻尾までつけている。そして両手を握って折り曲げてみせると、「にゃん♪」と猫の鳴き真似をしてみせたのだった。
 猫耳のミーノスなど、どこからどう見ても、ラダマンティスは萌えなかった。
「………」
 同僚二人の姿に反応に困ったラダマンティスが沈黙していると、猫耳姿のミーノスのほうが根負けしたかのようにため息をついて見せた。
「嫌ですねぇ。もっとこう、何か反応してくださいよ。笑うとか、突っ込むとか」
「…それは何の真似だ、ミーノス?」
 ミーノスに促されて、改めてラダマンティスが突っ込んだ。
「何って、ハロウィンの仮装ですよ」
「ハロウィンは明日だが…」
「まあ、一日の違いくらい、いいじゃないですか。あなたの誕生祝いも兼ねてるんですから」
 そしてまた「にゃん♪」とミーノスが鳴いて見せる。
 ラダマンティスは軽い頭痛を覚えながら、話を続けた。
「…で、何の仮装なんだ?」
「今生ではイギリス出身だったあなたに合わせて、『不思議の国のアリス』のテーマで攻めてみました。私は『チェシャ猫』、アイアコスは『いかれ帽子屋』です」
「ああ、なるほど…」
 ラダマンティスは納得はした。確かに、アイアコスが着る値札のついた大きなシルクハットや水玉模様の蝶ネクタイは、『不思議の国のアリス』に登場する「いかれ帽子屋」のファッションだった。ミーノスの猫耳装束も、正直言ってラダマンティスには「キモい」のだが、「にやにや笑う」というチェシャ猫は、同じように不気味な微笑みを常に絶やさないという点でミーノスと似てはいた。
 ネタ晴らしをしたミーノスが上機嫌で話を続ける。
「いや、ねえ、最初はアイアコスには『ウミガメモドキ』の仮装を勧めたんですよ。そしたら、『カメなんか嫌だ』って断られましてね。で、次は、私が『ハートの女王』で、アイアコスは『ハートの王様』ではどうか、と提案したんです。そしたら今度は『王様の衣装がダサいから却下』って…。で、ようやく『いかれ帽子屋』のコスチュームならやってもいい、と納得してくれたんです。本当、わがままなんだから!」
 やれやれ、とミーノスが肩をすくめて見せた。
「当たり前だ。あんな縞々模様のかぼちゃパンツなど履いてたまるか」
 腕を組んだアイアコスが、ふん!と鼻息を荒くする。
 ラダマンティスは「お前も大変だな…」という目でアイアコスを眺めた。
 だいたい、三巨頭の中で最もわがままし放題なのは、ミーノスである。その彼に「あなたはわがままだ」などと、アイアコスだって言われたくないだろう。ミーノスのふざけた提案に付き合ってくれるだけ、アイアコスはまだ優しい。本人に言わせると「神話の時代からの腐れ縁の仲だから仕方ない」というところだろうが。
 「にゃん♪にゃん♪」と体をくねらせて鳴き続ける猫耳ミーノスの姿に、せっかくの誕生日だというのにラダマンティスのテンションはダダ下がりしていった。
「正直、『ハートの女王』の仮装のほうが、ましだったかもしれんな。女装ではあるが…」
 それに「首をお切り!」という女王のお決まりのセリフは、ミーノスによく似合いそうだった。
「どうせなら、あなたも『アリス』の仮装でもしてみますか?やってみると結構、楽しいものですよ」
「断る!」
 ミーノスの勧めを即座にラダマンティスが拒否する。
「まあ、冗談はここまでにして。とっておきのプレゼントも用意してあるんですよ」
 そして一度、ミーノスとアイアコスは執務室を出ていった。そして再び戻ってきた時には、二人はえっちらおっちらと巨大な箱を抱えていた。一辺が一メートルを超える特大サイズの立方体の箱を、二人が協力して室内に運び込む。
 赤いリボンをかけたその箱を、ミーノスとアイアコスはラダマンティスの執務室の床に置いた。
「では改めて、ハッピーバースデイ、ラダマンティス!」
 ミーノスの掛け声に合わせて、「パーン!」と高い音が鳴った。火薬の炸裂音とともに、立方体の箱のふたが吹き飛んだ。色紙とリボンが舞い、箱の側面が展開して平たくなる。そして箱の中から、ある人物が立ち上がった。
 それは、ラダマンティスの愛しい恋人、カノンだった。
 そのカノンも、この日は仮装していた。頭にはウサギ耳のついたカチューシャをつけ、首には白い小さな蝶ネクタイを巻いている。胴体は体にぴったりした白い装束で、可愛らしくもふわふわの白い毛皮がついていた。長い脚は白い網タイツで、足は白いハイヒール、そして尻には丸い白いウサギのほわほわの尻尾がついていた。
 どこからどう見てもそれは、「白いバニーガール」の姿だった。
 箱から立ち上がったカノンウサギが、ラダマンティスに向けてしなを作って見せた。
「ご、ご主人様を不思議の国に案内する…ぴょん♪」
 ラダマンティスは執務机の前で固まり、沈黙していた。
 しばらく室内に沈黙が続いた後、展開された箱の上で立っていたカノンは隣のミーノスに猛然と食ってかかった。
「ほら見ろ!やっぱり呆れてるじゃねえか!だからおれはこんな格好は嫌だって言ったんだよ!」
「おかしいですねぇ…。大喜びすると思ったんですけど」
 カノンの猛抗議にミーノスが首をかしげる。
「どーしてくれんだよ!お前が『一年に一回のお遊びですよ。ラダマンティスが喜びますよ』って言うから、おれは恥を忍んでこんな格好をしたんだぞ!それを…!」
 「ラダマンティスが生まれ育ったイギリスにちなんだ仮装をすれば、彼もあなたが自分のことをそこまで考えてくれたのかと感激しますよ」とか、ミーノスは舌先三寸を様々に駆使して、カノンに「三月ウサギ」の仮装させることを同意させたのだった。そしてこの日、冥界に来て、ミーノスが用意したどう見ても白いバニーガールな「三月ウサギ」の衣装を見たカノンは「ふざけるなー!こんなもん、着てたまるかー!」と当然怒ったのだが、「私も猫の仮装をしますから!」と「ラダマンティスが喜びますよ!」の二点で、ミーノスは何とかカノンに仮装を承諾させて、この場に引っ張りだしたのである。
 しかし「ラダマンティスが喜ぶ」という当てが外れて、「自分が恥ずかしい格好をした」という事実だけが残り、カノンは己の恥の感情をごまかすためにもミーノスに怒りをまくしたてた。
「えーい、見苦しいぞ、カノン!ミーノスの口車に乗ったとはいえ、仮装を決めたのは、お前自身だろうが!自分の決断の責任は、男らしく自分で取れ!」
「アイアコス、てめー!他人事だと思って勝手なことを言いやがって…!」
 カノンは怒りの矛先を、怒鳴る自身を偉そうな態度でたしなめたアイアコスに向けた。
 ぎゃーぎゃーと、「三月ウサギ」の仮装と称してバニーガールの姿をさせられたカノンが、「チェシャ猫」姿のミーノスと「いかれ帽子屋」のアイアコスに食ってかかっている間、ラダマンティスは黙って執務机の前で座っていた。
 そして。
「カノーン!」
 突如としてラダマンティスの凍結状態が解除した。彼は執務机に飛び乗って、分厚い木材で作られたその机を真正面から一気に乗り越えると、カノンにタックルした。
「…qFG*@みsdなゴ&ふOIN!」
 英語ともギリシャ語ともつかない言語を喚き散らしながら、ラダマンティスはバニーガール姿のカノンに抱きつき、その場で床に押し倒した。
「ぎゃー!ラダマンティス、いきなりなんだ!?」
「UIDぼギPBF@#*Pをビにゃ…!」
「え!?なに!?なに言ってるの、お前…!?」
「りゅピMIW@+%Q+ギびゃV%ぼ!」
 興奮のあまり、ラダマンティスの言語機能は崩壊していた。
「…ってー!?お前、なに、前をガチンガチンに固くしてるの!?」
 ラダマンティスが着ていた法衣の布地越しに感じた感触に、カノンが身をよじる。
「AをさBPC$ヴサ*#だえKI@ゴ!」
「…あっ!こら!そこ…!触っちゃ…だめん…!いやん…!」
 やがてラダマンティスと床の上で揉み合っているカノンの言葉に、嬌声が混じるようになった。
「…効果は抜群だ」
 欲情するあまりに、自分たちの目の前で恋人を押し倒して事に及び始めた同僚の姿に、アイアコスはゲームに登場するコメントのような感想を述べた。くそ真面目を擬人化したようなラダマンティスの変貌に、発案者のミーノスもかえって気勢をそがれた様だった。
「あー…。アイアコス、我々はお邪魔のようですね。帰りますか」
「そうだな。では、ラダマンティス、カノン、良い夜を」
「あとはお二人でごゆっくり〜」
 シルクハットを少し上げて、アイアコスが別れの挨拶をする。ミーノスも身をかがめて、わざとらしくも優雅に一礼してみせた。
「ミーノス、アイアコス、てめーら…助けろぉぉぉーっ!」
 ラダマンティスの体の下から発せられるカノンの抗議の声を無視して、ミーノスとアイアコスはそそくさとカイーナを後にした。
 ともあれ、「ラダマンティスを喜ばせる」という点では、彼ら二人の贈り物は功を奏したようであった。

 その後、カノンは週が明けて11月1日の月曜日の昼過ぎになるまで、ラダマンティスの寝室から出ることが出来なかったそうな。

<FIN>

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