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2020年10月29日08:54

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短期連載ブログ小説 淋しい生き物たち−ねぇおじーちゃん 第18話

 1週間が過ぎても、圭子さんの姿を見ることはできなかった。まだ少し時間がかかりそうなので、みんなで千羽鶴と寄せ書きをという提案を担任の先生はした。ぼくは千羽鶴とか寄せ書きと言えば重病というイメージを抱いていたので、心に溶けた鉛が注がれたような気分になった。大丈夫なんだろうか? 
 それでも多分、まだぼくは圭子さんの身体のことより、圭子さんに会えない自分の寂しさの方に身を寄せていたのだろうし、そのことに気づいてはいなかったのだと思う。
 休み時間になると先生の用意した折り紙でみんなが鶴を折った。女子たちは家でも折ってきたようで千羽はあっという間だった。葉子さんが中心になって女子たちが鶴を束ね、リボンをかけた。
           フォト
 色紙が回されて寄せ書きも完成した。女子たちはそれぞれに思いを込めたメッセージを書いていたけれど、男子たちは「深井、早く元気になれよ」といったような、それが心根のそのままなのか、照れなのか敢えてなのか、簡素な短い文章しか書いていなかった。色紙の4分の3のスペースを占めて女子のメッセージがかたまり、残りのスペースに男子の粗雑な文字がかたまっていた。色彩豊かな女子たちのメッセージに比べ、色目も乏しい男子の単文の群れの中に、明らかに温度差の違う女子たちのような重文を紛れ込ませる勇気などぼくにはなかった。見ようと思えば誰もが簡単に閲覧することのできる色紙なのだ。けれどもせめて少しは思いを届けたくて、ひとしきり思考をめぐらせてから、「元気な深井さんの姿が早く見られますように」というメッセージを綴った。あのときぼくは何に思考をめぐらせていたのだろう。今ならそれが、決して圭子さんだけに向かっていたのではなかったことをかすかな疼きとともに認めないわけにはいかない。
 千羽鶴と寄せ書きは担任の先生と女子数人が病院まで届けに行った。もちろん葉子さんも含まれていた。一応先生は全員から希望者を募ったのだけど、ぼくは圭子さんに会いたかったけど、男子が手を挙げることなどあり得なかった。

(挿絵 匿名画伯)

【作中に登場する人物、施設等にモデルはありますが、実在のものとは一切関係がありません】




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