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日記一覧

 それでも都合よく雨が上がったので商店街までは買い出しに出かけた。もう数えきれないほど歩いている商店街では、島のおじいへの酒、おばあへの甘いもの、自分のツマミの内容まで、買うものは決まっている。 ハリは賑やかな国際通りよりこの幾分しおれかけ

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 那覇空港には11時に着いた。雰囲気の好きな空港だったのでいつもなら歩き回るが、今日の彼は搭乗ロビーへ直行した。まだ幾分ふらついていたし、頭は浜辺に打ち上げられたクラゲのように溶解していた。 発券は自分で済ませることもできたが、機械と対面す

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 彼は泥酔した。ママのアシストやオーナーの気遣いもあり、「普通の親子」でいられたことも大きかったのだろう。オーナーとハリに支えられて何とか彼は歩いていた。「もうお父さん、しっかりしてよ。娘に一番嫌われるパターンだよ!」「こんなこと言いながら

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 外に出てみるとありがたいことに雨は上がり、南国らしく早くも路面は乾き始めていた。 この映画館のすぐ近くに、彼が那覇では必ず足を運んだおでん屋があった。ノックをすると中から女将がガラス戸越しに覗き、「あらぁ、玉城さんご無沙汰じゃないですかぁ

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 雨が細かく降り続いている。ふたりは相合傘で国際通り裏の公園を歩いていた。那覇に来れば彼が必ず立ち寄るお気に入りの場所でもあった。坂を上がって行くと大きなガジュマルの木が立っている。いや、太い腕を大きく広げ、無数の長い髭を垂らしながら、座っ

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時が止まれば
2020年07月26日13:59

連休もおしまい。長い線路をつくったり、恐竜たちとピクニックしたり、電車をつくったり、4年前を思い出して(?)てんちゃんのベッドで遊んだり、残念ながら雨続きで大好きなプールには入れなかったけど、いっぱい遊んだね。帰る間際には、「もっとこのおう

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 次の日、ふたりは高速バスで博多に向かった。彼が見つけた驚くほど早く、驚くほど安いバスだ。ふたりでのバス旅は初めてだったが快適で、えびの高原はじめ車窓の景色も楽しむことができた。 博多に着いたふたりは昼食にラーメンを食べ、駅ビルの屋上にある

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 引き込まれて聞いていたハリにも思うところがあるようで、情緒的な表情になっていた。「ありがとうございます。私、何かしみじみしちゃいました。自分でもペーパームーンと自分たちとを重ねて聞いてました。ありがとう!」「いえ、そんな。旅の暇つぶしに話

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「ぼくも昔は映画青年でしたよ」「私も昔は、って、昔の映画もちょっとだけ観てます」「じゃ、『ペーパームーン』っていう映画知ってますか?」 ハリは残念そうに首を振り、彼は顔を輝かせた。「いい映画だったよね、モノクロで」「ぼくも大好きだったんです

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てんちゃん1歳!
2020年07月23日23:13

GoTo実家。プリンちゃんたち来ました!お母さんに叱られ、おばーちゃんに叱られ、最後の砦、おじーちゃんの気を惹くためにウソ泣き。大体、ぼくに聞こえるように、ぼくの部屋のそばで泣いてます。さて、昨日はてんちゃん1歳の誕生日。今日、1日遅れで盛大に

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 バスで宮之浦港まで戻った。もうすぐ港に着くというとき、窓の外を眺めていたハリが声を挙げた。「お父さん、ほら、あそこ!」 見るとあの口永良部の好青年が歩道を歩いている。青年は口永良部に3泊したあと鹿児島1泊で名古屋に帰ると言っていたので、同

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 荷物を背負って9時に宿を出た。そんな必要はなかったのだが、ふたりは釣具店まで足を運び、民宿担当の女性に「気持ちよく泊らせてもらった」と礼を言った。そんなことをする客はいないのか、女性は大いに喜んで、「きれいなお嬢さん、よかったらこれどうぞ

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 彼は慌てて部屋の中を探し始めた。焦っている分、物音を立ててしまったのだろう。「お父さん、どうしたの?」「ごめん、起こしたね。あの石がないんだ」「え? おばあが届けてくれた石?」「そう」「大変。まさか昨日尻もちをついたときに? でも、お尻が

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 ハリは四つ葉から目を離して彼を見た。きょとんとした表情だった。その表情も幼女のようだ。「旅が終わったら・・・・終わっても、私はお父さんと一緒にいたいけど」 張り詰めていた彼の心がふやけた。対照的にハリは目を伏せる。「でも、帰って日常に戻っ

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 かなり欲張って奥まで登ってしまったので昨日同様下りも楽ではなかったが、バス停に戻るとまだ時間にゆとりはあった。少し離れたところに喫煙所があったので、彼が「吸ってくる」と言うとハリもついてきた。彼がハリから離れて火をつけようとしたら、ハリは

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 1時間以上かかって、一旦ヤクスギランド−繰り返すがこのネーミングは酷すぎる−を通り過ぎてから紀元杉に着いた。霧に包まれた道路に降りると季節を間違ったかと思うほど寒かった。標高1320メートルの地に立つ紀元杉はバス停のすぐそばにあった。「思

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懐かしさにまみれて
2020年07月17日14:55

昨日、無事にメダカを届けてきた。今日は子どもたち、喜んでくれたかな?久しぶりに懐かしい校内を歩いたけど、これは2012年のヒロシマ修学旅行から持ち帰った木。被爆して焼け焦げても次の春に芽を出し、市民に勇気を与えたアオギリの2世だよ。20センチ

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「私そろそろ寝るね。お父さんは?」「ぼくもそうするよ。明日はハードだからね。若くないオヤジにはきついかもだ」 ハリが布団を並べて敷き、ふたりは横になって灯りを消す。ハリは彼の懐に入る。「ねぇ、ハリ」 彼の方が声をかけた。「何?」 硫黄島の夜

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「これからはどちらへ?」と彼女が訊いてから「当てましょうか? 鳩間でしょ?」と続ける。「正解は保留しておきます。可能性は高いしさっきも鳩間に電話したとこなんですけど、まだ迷ってます。行き当たりばったりの旅なんで」「いいなぁ、私も父親とそんな

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絶好の里親登場
2020年07月15日15:51

うちのメダカたちを放流する予定の、長居公園の池が復活しない。水槽はこんなだよ。右側の熱帯魚水槽も浸食されている。庭の甕にまで。「ししおどし」の手水鉢(ちょうずばち)にも入ってる。殖やさなければいいんだけど、せっかく卵を抱いてるのに無駄にする

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 ふたりはそれから町の散策がてら夕食を食べに出かけた。港から宿の少し先までが短いメインストリートになっている。元々飲食店は疎らなのに、「準備中」の店もいくつかあった。土曜日のこの時間に、と彼は思う。 通りに沿った大きな海鮮料理の店に入る。彼

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「映画とかは経験値の中に含まれてるの?」「うん、『もののけ姫』も観てるよ」と先回りしてハリが答える。「ぼくも観たけどずいぶん前のことだからね、巨人が出てくるシーンが頭に残ってるんだけど湖があったよね。ここに湖があると思ってたわけじゃないけど

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 屋久島には昼過ぎに着いた。今日は暑い。 まずは3日間乗り放題のバスチケットを入手したが、「お待ちしています」と笑顔を浮かべた美女は待っていてくれず、案内所のカウンターにいなかったので観光センターまで足を延ばさなければならなかった。それから

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長居公園を歩いてたら、プールの方から音楽が。え? やってるの?やってた。いつも満員なのにちょうどいいくらいに空いてる。入り口に回ってみると、やっぱりこういうことだった。これじゃ、赤字だよね。ん?競技場のサブトラックからはアナウンスの声が。あ

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 部屋で荷物を片づけていると窓の外から青年の声が聞こえた。「島を歩きたいんで、お見送りは失礼します。ハリちゃんもどうかお元気で。飲んだくれ父さんを連れて大変だと思いますがお気をつけて」 青年は窓から腕を差し込んで彼の手を力強く握り、ハリの手

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 食事を終えた3人はおばあに礼を言い、母屋と宿泊棟との間に置かれたテーブルに氷や焼酎を持って移動し、二次会に移る。「この島を見た瞬間、八重山の島と同じで、何かが起こる島だって感じたんですよ。ちょっと喜べない話もあったけど、あなたとの出会いも

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 そのとき島内放送が入った。各戸にスピーカーが設置されていて、屋久島町の放送なので−口永良部は屋久島町の大字だ−、屋久島でも全戸に流れるのだと言う。内容にはみんなが驚いた。それは口永良部島のW商店に不審者が侵入した形跡があるのでと、注意を促

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雨が憎い
2020年07月09日12:54

雨マークがずらーっと並んでいる。九州から関東まで、あちこちで被害が出てるけど、日本中を旅して歩いてるものだから、思い出の地が濁流に飲まれているのを見ると胸が痛む。連載中の小説の話になるが、ハリとタマが初めて言葉を交わした桜滝のある、大分の天

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 宿に戻って、別れてからの愉快な偶然をハリに報告し、ハリは何をしていたのかと訊いたら、テレビを見ていたと言った。テレビは自分にとって学習機なのだと笑う。それはそうかもしれないと彼は思った。 すぐに夕食の支度ができたとおばあの声が聞こえた。夕

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由緒ある公園
2020年07月08日12:55

高野山に三鈷(さんこ)の松というのがある。唐で修業を終えた弘法大師が三鈷という法具を投げたら、天空を飛んで高野山の松の木にひっかかったと言う。そこで弘法大師は高野山に入るんだけど、この松には四つ葉のクローバーみたいに、まれに三本の松葉が生え

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