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2020年10月27日08:18

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短気連載ブログ小説 淋しい生き物たち−ねぇおじーちゃん 第16話

 ともあれそんな愚かな苦闘に神様がようやく微笑んでくれたのか、それとも逆にそこまで焦らされたのか、2月になってついにぼくは念願の座にたどりついたのだった。圭子さんの隣席という。そのときの喜びと言ったらなかったな。
 
「よかったねぇ、おじーちゃん。幸せだった?」
「もちろんさぁ。圭子さんが左側だったけど、隣同士だとね、何かの拍子に腕と腕が触れ合ったりするじゃない。それだけで胸がときめくんだよ」
「ときめくってうれしいってこと?」
「ま、そうだね。胸がどきどきするくらい。もう毎日学校へいくのが待ち遠しくてさ。休み時間なんかいらない。ずっと授業が続いててほしかったよ」
「クーちゃんそんなのいやだ」
「それはそうだろうけどさ、授業中にちょっとだけお喋りしたり、わざと消しゴムを忘れていって圭子さんに貸してもらったりね。あ、クーちゃんは忘れ物なんかしたらダメだよ。 
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 でも、そんな幸せも長くは続かなかったんだ」
「え? どうしたの?」
「隣同士になって1週間くらいたったころかな、授業のチャイムがなっても圭子さんは来なかった」
「お休みだったの? インフルエンザ?」
「そうお休みだったけど、インフルエンザとかじゃなかったんだ。担任の先生から、深井さんは病気で暫く入院することになったって」
「急に病気?」
「詳しいことはわからない。もしかしたら少し前から圭子さんは体調が悪かったのかもしれない。でも頑張り屋さんだったから笑顔は絶やさなかったし、何よりぼくは自分が幸せだったもんだから、圭子さんのことが好きなのに圭子さんの変化に気がつかなかったのかもしれない。自分のことばっかり考えてたんだろうな。ぼくは駄目なヤツだったんだよ」
 ぼくが少し目を伏せたものだから、クーちゃんは心配げに言った。
「おじーちゃんのせいでびょうきになったんじゃないでしょ」
「ありがとう。そうなんだけどね、好きな人が苦しんでたかもしれないのに、それに気がつかなかった自分がイヤだったんだよ。
 おっと、もうこんな時間になっちゃったね。もし続きが聞きたかったら明日にしよう。もう急いで食べて歯磨きして寝ないと、明日恐竜に会いに行けないよ」

(挿絵 匿名画伯)

【作中に登場する人物、施設等にモデルはありますが、実在のものとは一切関係がありません】

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