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2020年10月24日09:59

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短気連載ブログ小説 淋しい生き物たち−ねぇおじーちゃん 第13話

「それで、そのお手紙はどういうことだったの? ふられたの?」
「あは、クーちゃんはおませだね」

 次の日、ぼくは学校で、圭子さんにメモの意図を問い質すチャンスを窺っていた。でも、学校の中で、ふたりがひそひそと他人の耳を気にするような会話を交わす機会などそうそうあるものじゃない。もどかしい思いで最後の授業を終え、教科書やノートをカバンに詰め込もうとしたときだった。机の中に可愛い柄の封筒を見つけたのだ。ぼくは咄嗟に圭子さんからの追伸なのだと思い込んでしまったんだけど、それはメモではなく封書だったものだから、またもぼくの心は大きく跳ねた。けれども、圭子さんからの手紙ではなかった。そもそもそんな手紙を渡すくらいなら映画の予告編でもあるまいし、前振りのようなメモなんか渡しはしないだろう。圭子さんとは別の女子からの封書。それはぼくが生まれて初めて受け取ったラブレターだったのだ。
 葉子さんからだった。
 あなたのことがずっと好きでしたという真正面からの告白だった。「あなたが圭子に心を寄せていることは知っています。だから私は自分をずっとおさえてきました。圭子にも隠してきました。でも、一度でいいからあなたに思いを伝えたかったんです。その気持ちがおさえられなくなりました。そのことは圭子にも伝えました。もしもあなたが私に振り向いてくれるのなら・・・・」
 そんなようなことが書いてあったと思う。葉子さんは葉子さんでずいぶん思い悩んだのだろう。そのことはわかった。
               フォト
 でも、初めてもらったラブレターはうれしくなんかなかった。ぼくはぼくのことしか考えていなかったのだ。足の下にポカっと穴が空いて緩慢に落ちていくような気分だった。葉子さんのことは嫌いじゃなかったけれど、そんな目で見たことはない。無二の親友の葉子さんがぼくを好きだと知った圭子さんは、その性格から推して、彼女のために身を引くだろう。多分、圭子さんは、たとえぼくへのほのかな思いがあったとしても、それよりもずっと、親友への思いの方が強かったと思うから。

 恐らく圭子さんは葉子さんの思いを知り、あるいは告白の決意を知って、知らぬ振りもできず、ぼくへの義理立てもあってあのメモを渡したのに違いない。圭子さんも複雑な心境だったかもしれない。そう思えばあの極めて中途半端とも言えるメモの意味もわかるような気がした。
 さして、いや、全くもてるような男子じゃなかったのに、学年トップクラスの秀才がなんでぼくのことなんか・・・・。しかもそれが、初めてぼくが本当に好きになった人の親友だったなんて、そんな皮肉なことってあるんだろうか・・・・。

(挿絵 匿名画伯)

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