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2020年10月15日06:26

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短期連載ブログ小説 淋しい生き物たち−ねぇおじーちゃん 第4話

 そんな記憶も鮮烈に残っていたので、そしてもうひとつ、ぼくはある理由を抱えてしまっていたので、今年も是非クーちゃんとのふたり旅をしたいと願っていた。そしてうれしいことにクーちゃんも同じ思いを抱いてくれていたのだった。
「おじーちゃんとりょこうにいきたい」
「行こう行こう。今年はふたつ泊まろうか?」
「ほんと? ふたりでふたつお泊まりするの?」
「大丈夫? この子2泊ももつかしら?」
 お母さんやおばあちゃんの懸念をガッツポーズで押し切り、ぼくたちは2泊の旅に出ることになった。小さなころから恐竜が大好きだったクーちゃんを喜ばせたくて、行く先は福井県にした。もちろん、そこには日本一の恐竜博物館があるからだ。広大な施設らしい。とっても怖がりのクーちゃんはきっと、迫力満点の恐竜たちに恐れをなすに違いなかったんだけれど。
 そんな予想通り、まずは博物館近くの道路脇に居座った実物大の恐竜たちを目にしてクーちゃんの足がすくみ、幾分ひるみながらも館内に入ったのはいいけれど、大きなエスカレーターを降りてティラノサウルスが辺りを威嚇している展示室の入り口ではクーちゃんの足が完全に止まった。それに気づかず先に展示室に入ったぼくを「おじーちゃん!」と呼び戻し、クーちゃんは小さな手を差し出してきた。ぼくたちは手をつないで展示室に入る。クーちゃんはぽってりしたふかふかの手でぼくの手を強く握りしめながら目を輝かせてはいたけれど、T-レックスのそばに近づこうとはしなかった。
           フォト
 それでも、骨格標本の一角になると少しだけ安堵した表情になり、「あっ、ブラキオサウルス! エラスモサウルスもいるよ!」と、やや腰は引けながらもずっと興奮気味だった。クーちゃんは博物館を楽しんだようだ。
「ねぇ、おじーちゃん、あしたもここにきたいよぉ」
「いいよ。別のところに行くことも考えてたけど、クーちゃんが気に入ったんなら、明日もここに来よう」
「うん! クーちゃん、このはくぶつかんだいすき!」

 というような半日を過ごしたあと、宿に入ってから、何の前ぶれもなく初恋の質問が飛び出してきたのだった。

(挿絵 匿名画伯)

【作中に登場する人物、施設等にモデルはあります、実在のものとは一切関係がありません】
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