mixiユーザー(id:11464139)

2020年10月13日10:52

22 view

短期連載ブログ小説 淋しい生き物たち−ねぇおじーちゃん 第2話

 孫娘のクーちゃんと旅に出るのは昨年に続いて2回目だった。もうひとりの娘が先にふたりの男の子を産んでいたので、ぼくにとっては3人目の孫だったのだけれど、初めての女の子だったし、男親は女の子が可愛いと言うけれど、それはぼくのようなじいさんでも同じことなのかもしれない。しかもクーちゃんにはひとしお思い入れをするだけの理由があった。
 彼女が生まれたのは5月5日、こどもの日。そしてそれは彼女のお母さんとお父さんの結婚記念日だった。ぼくはその年の3月に定年退職したばかりで、おばあちゃん、つまりぼくの連れ合いはまだ働いていたものだから、お金はとにかく時間だけはたっぷり手にしているぼくが、クーちゃんの育児に色濃く関わることになったのだ。
 初出産の新人母さんにはよくあることだそうだけど、数キロの「ダンベル」を相手に慣れない「筋トレ」を続け、腱鞘炎を起こした娘に代わって、沐浴もさせた。おむつも替えた。ミルクも飲ませ、夜泣きをすればひと晩じゅう抱いていたこともしばしば。授乳以外のことはたいてい何でもやったと思う。ちょっと笑ってしまうほどちっぽけなクーちゃんの洗濯物を干したり、他のものはいいかげんに取り込んで畳むのに、クーちゃんのだけはいつくしむように畳む、そんなことがぼくの楽しみにもなっていた。
           フォト
 娘たちが生まれたころは、まだ元気だったぼくの母が前線に立って面倒を見てくれていたし、自分では時代を先取りするような先進的夫を気取っていてもその時代が文字通り前時代的な時代だったし、ぼくは娘たちにだってこんなにどっぷりと関わってはいなかった。だから初期のクーちゃんとの生活は、数十年ぶりの育児と言うよりも初めての経験と言った方が正確だったと思う。
 数か月間のそんな「育爺」生活のあと、クーちゃんが我が家から遠く離れた関東のおうちに帰るときにはぼくも付き添って、数日間あちらで育爺を続けた。ひとり我が家に帰るとき、明日からクーちゃんのいない生活が待っているのだと思うと、どれほど後ろ髪を引かれたことか。ぼくは隙間風が吹き込む心を埋めるために長い旅に出たくらいだった。
 それからも娘の体調が悪くなったり、クーちゃんのお父さんが海外に長期出張したりしたときにはレスキューじじいの名のもとに長い時間をかけてクーちゃんのおうちまで何度も通い、数日間、長いときには半月ほども滞在しておさんどんをしたりした。保育園への送り迎えも度重なれば、先生や園児たちにも顔を憶えられ歓迎されるほどだったし、クーちゃんをベビーカーに乗せていっつもふたりでお散歩をした。ぼくが寝かしつけることも多かった。
 そんなこともあって、クーちゃんはおじいちゃん子になり、まぁ、僕(しもべ)のように扱われることもよくあったのだけれど、ぼくはクーちゃんが可愛くて可愛くてたまらなくなったのだった。

(挿絵 匿名画伯)

【作中に登場する人物、施設等にモデルはあります、実在のものとは一切関係がありません】

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する