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2020年06月29日08:25

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ストレスフロ 後篇

[あらまし] 同居母87歳パーキンソン病ヤール4要介護5認知症状少々、
もうすぐ特別養護老人ホームに入居の予定という日、銭湯に行った。
飼い犬ジーロくんはさみしがりやなので、今後、一匹置いて外出も難しくなるからだ。

ゆっくりと東京の黒湯に浸かろうと思って、体を流して、
湯舟に入った途端、隣の湯舟に入ってきたおばちゃんに言われた。
「そこさっき、うんこが浮いてたのよ。」

以下、「」はおばちゃんの言葉、〈〉は私の言葉、()は私の心の声である。



「いっつもおしっこしちゃう人もいるんだよ。
トイレ入ってから入れって言ってやるとさ、そっぽ向いて聞こえないフリすんだよ。
湯舟に入ろうとしてまたいだ時なんかに出ちゃうんだよ。」
と、立ち上がって実演する。
〈あー、お腹に圧力が掛かっちゃうんでしょうね。〉
(うちにもそういう婆さんがいるよ。
やらないでも分かるから。目の前で立たないでくれよ。)

自分の家の中のできごとだとしんどいが、
他人から他人の話を聞く分には、まあまあ面白いと思って聞いていられる。
そう思って、私は話を聞き続けてみた。



「こんなのもいたよ。同じ湯舟に入ってる人たちに向かって言うんだよ、
あんたたち、これから役に立つことを言うからしっかり聞けって、
うちの息子は東京大学を出てどこそこ病院の何科の医者でこれこれの難しい手術をできる、
分かったか、分かったら復唱してみろ、って言うんだよ。
俺は頭いいからさ、復唱してやったんだよ。」
おばちゃんの一人称は「俺」である。
「馬鹿々々しい、風呂で裸になったら横一列、学歴だ医者だなんて関係無いのに!」
それはもっともだ。



「洗い場でさ、立って体洗うヤツがいるんだよ。
立ち上がって泡立ててゴシゴシ洗うから石鹸の泡がこっちまで飛んできて迷惑なんだ。」
(ゆっくり浸かりたいのに大声でしゃべり続ける人も迷惑だがな。)
「立って自分のおまんこをずっとゴシゴシやってんだよ、石鹸付けて、中まで洗ってるんだ、
そんなにおまんこばっかり洗ったらガッサガサになっちゃう、自分のムスメばっかり洗ってんだ、
おまんこはそんなふうに洗っちゃいけない、
ぬめりが出てそれで男の人を受け入れるんだからさ、
現役なのか?って俺は見てやったよ。」
もちろん、湯舟の中で立ち上がって実演する。



「俺の息子は〇〇大学を出てさ。
〇〇電力なんかも、不祥事だ責任を取るだって言って上の東大出の人たちがみんな辞めさせられて、
そんで早稲田だの慶応だの私立のあっぱらぱーが上に立つからダメなんだ。」
(風呂では学歴は関係無いが、そういうところでは学歴が大いに物を言うわけね。)

「孫が受験だから、俺はポンと百万出してやったわけ。
親が金が無いって言ったら子どもは我慢しなきゃなんないだろ?」



「肩が痛くって医者に行ったんだけど、ダメでさ。
いろんなとこ行ったけど、やっと、年配の男の先生が
『僕が毎日、愛情もって注射してあげましょう』って言ってくれて。
先生それじゃ注射のほうが痛いですって言ったんだよ。」
(先生の言い草、なんかエロいな。)



おばちゃんは時折立って実演しながら話すから良いけれど、
私はじっと浸かっていたので、熱くなってきた。
湯舟の縁に腰掛けたが、話はまだ止まらない。



「白内障の手術、両目したんだけどさ、
最初に近いからって〇〇病院へ行ったんだけど、
じゃあ先生が手術してくれるんですか、って聞いたら、違うんだよ、
△△から来るって言うから、そんな話したことも無い初対面の先生に切られるのはヤだよ、
って断ったんだよ。
それから5ヶ所病院を回ったね。
□□病院は女の先生でさ、子育てしている年齢で、
自分じゃ経験が無いから手術したがらないんだよ、ヤだね。
それで▼▼病院でやっと、年配の男の先生がやってくれるって言って、
ほら、最中じゃないけどさ、病院の診察室って緑のカーテンが掛かってるだろ、
病院はどこも同じ、俺は××病院でも◆◆病院でも◇◇病院でも働いたことが有るから分かるんだ、
その下から、隣に先生がいて、ゴミ箱が置いてある、そこに、
カーテンの下から二万包んでポイッと入れたんだよ。
そしたら先生がパッと拾って、ズボンのポケットに慌てて入れて、
白衣のポケットじゃ洗濯にいっちゃうからね。」

(こういう患者がいて、こういう医師がいるわけだなあ。
このおばちゃんが白内障の手術を受けたと言うのは、いつの話だろう。
でも何年前ですかとか聞きたくないしなあ。)



のぼせてしまいそうだ。
私は湯舟から出て、すぐ横のかけ湯の槽へ行って、
水を足元にかけた。
しかし、これくらいでは収まらない。

おばちゃんの話も収まらず、ついて来て何かしゃべり続ける。
私は〈へえーへえーふーんふーん〉と適当に相槌を打つ。
見渡すと、奥がサウナだから、その横の暗い所に有る浴槽が水風呂だろう。



いつもなら、私は水風呂には入れない。
せいぜい脚だけ浸かって出てしまう。
しかしこの日は充分にのぼせかけているので、
すぐに顎まで水に浸かった。

おばちゃんはすぐ横まで来てまたしゃべる。
「今度の選挙もさ、ホリエモンホリエモンていうけど推してるだけじゃないか、
本人なら入れるけどさ。」
とかなんとかしゃべっていたが、
私も冷たいのに耐えているふりをして相槌も打たなかったら、そのうち、
「冷たいのによく浸かれるねえ」
と言って、去って行った。
あんたのおかげで水風呂にも浸かれるのだわい。



なんだろう。
のびのびと過ごすために来たのに、
疲労感が増している気がする。
手の痛みも取れていない。
なんなんだ。
私の風呂銭を返してくれー

(大いに迷惑だが、ちょっと楽しかった。)
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