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2020年03月02日16:48

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「ディリリとパリの時間旅行」

2019年9月4日、恵比寿ガーデンシネマにて鑑賞。
『キリクと魔女』などで知られるミッシェル・オスロ監督(仏)の新作。
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エレガント、かつオスロ監督らしいメッセージ性の強い作品。3DCGだが何とも言えず典雅な動きにも魅せられる。
主人公ディリリは仏領ニューカレドニアのカナック人の血を引く少女。舞台は19世紀末、ベルエポック時代のパリ。
ミュシャのポスターで飾られたパリの街を、利発で勇敢な少女ディリリがフランス人青年オレルやオペラ座の歌手エマ・カルヴェらの協力を得て、この時代のパリに集った著名人たちを訪ね回りながら、連続誘拐事件の謎を解いていく。
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「時間旅行」といってもタイムトラベルではないのだが、オスロ監督自らが撮影したというパリの風景写真を元にしたリアルな背景画や、キュリー夫人にロートレックなど次々と画面に登場する著名人たちの顔ぶれが実に豪華かつ良く特徴が捉えられ似ているので、観客自身が時を越えてディリリと共に当時のパリを訪れているかのような感興がある。
ちょっと挙げるだけでも他に、ピカソ、モネ、ルソー、パスツール、サラ・ベルナール、映画の始祖であるリュミエールなど、100名を超す著名人が惜し気もなく登場、ほんの一瞬で名も呼ばれないので気づかない人物もいる豪華さだ。

ディリリは最初、パリ万博の出し物「原住民の村」で、未開の暮らしを再現して見せる半裸の原住民の子どもとして登場する。
展示の時間が終わり、館外に出て来たディリリは綺麗なドレスに着替えて髪を結い、流暢なフランス語を話す小さな淑女として現われるので、観客としては大いに驚く。先ほどの姿は彼女の仕事だったのだ。
同時に人間の持つ先入観の愚かさや無意識にも原住民を見下す視線に気づかされて戸惑う。ここで自分を振り返り、視点をニュートラルなものに改めさせられて、映画は始まる。
フラットな絵柄から会話中心の大人しい仕上がりの映画かという先入観も覆される。
宮崎アニメばりに宙を跳ねる三輪車や、パリの空を飛ぶ飛行船、ジュール・ベルヌか横山光輝かという武骨で怪しい謎のレトロメカがパリの下水道を往くなど、活劇風な見どころも十分。
しかも、それでいて、少しも奇をてらわない描き方の妙。
勇敢で賢く、好奇心いっぱいなディリリは、小さな淑女としてどんな時でもお洒落を忘れず振る舞いは優雅。その動きはバレエのようにしなやかに美しい。『やぶにらみの暴君』の羊飼いの娘を思い出させもする。さすがはフランスアニメ。フランス語の響きが当然ながら良く似合う。
パリに起こる連続少女誘拐事件を企てる犯人が女性蔑視集団「男性支配団」という名称なのが何とも直接的。さすがにそれでいいのかと思うが、実際、彼らのやっていることが、誘拐した少女たちを四つん這いにして男性のスツールに使うというえげつなさ。
しかも、一時はディリリも敵の手に落ちてしまい、非道な扱いを受けるのだから、観客としてもこれは許せないと我がことのように感情移入する。巧みな運びだ。
悪党の手先として動く男が、途中で自分の行いを恥じて悔い改め、ディリリたちの仲間に転じるのもいい。人は単純に一面だけでは計れない。
対話によって情報を集め、頭を働かせて事態を推し量るディリリたちの働きで男性支配団は逮捕され、パリに平穏が戻る。

オスロ監督は今も根強く残るジェンダーの問題に鮮やかなメスを入れている。ディリリの衣装が黄色と白なのも、混血である彼女の二つの故郷と、一般的に女の子の色とされるピンクではなく太陽の色である黄色を好む主人公にという意図があるという。
解放され、ディリリと一緒に色とりどりのドレスで踊る少女たちの優美さ。3DCGだが、良く工夫された動きで、見ていて飽きない。
オスロ監督の作品の中でも、魅力的なヒロイン・ディリリと、絢爛豪華な手工芸のような画面とで、ひときわ満足度が高い作品に仕上がっている。影色を使わないフラットなキャラクターや落ち着いた色彩設計も絵画的な味わいを高めて美しい。
オスロ監督を信奉していた高畑監督にもお見せしたかった。
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